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第二章:勇者ベルと三姉妹
第五話:駆け出しの冒険者
しおりを挟む「冒険者になりたいんです。僕とパーティー組んでくれませんか?」
ギルドの入り口で少年が大きな声を出すと、開いたドアの奥でざわつきが起きた。
俺にパーティに入れという少年を、みんな好奇な目で見ているのがわかる。
「悪いな、俺は冒険者じゃないんだ。他を当たってくれ」
キッドと名乗った少年の肩をそっと押し、道を開けさせる。
しかし、少年は動かされまいと足を踏ん張って俺の正面からどかなかった。
「おい、何の真似だ」
まだ十四、五歳くらいか。まだ、おぼっちゃん顔をしていて弱々しく見える。
背中には両手剣を担いで入るが、この少年に振り回せそうにないほど大きい。
「僕、どうしても冒険者になりたいんです」
まっすぐな目をしている。覚悟は認める、本気の目だ。
だが、俺はもう冒険者ではない。それに駆け出しの少年とパーティ組んでも儲けにならない。
「そうか、それは頑張ってくれ」
俺は、少年の横を通り抜けようとするが、少年が横に移動して立ちふさがる。
一発ぶっ叩いてもいいかな、と思ったが大人気ないので堪えた。
「邪魔をするな、キッド。俺は冒険者ではない。だからお前の頼みは断る」
「いえ、あなたは冒険者です。絶対に、絶対に冒険者です!」
何を根拠に言っているのかわからないが、当たらずも遠からずだ。
元冒険者には間違いない。言い切るくらいだから根拠があるのだろうか。
「絶対か。そうか、本当にそう思うのか」
「はい!」
目に力がある。まっすぐ見る瞳は澄んでいて信念すら感じた。
俺の前で両手を広げて、俺を行かせまいとする姿に興味を持った。何か事情があるようだ。
「なぜ、俺が冒険者だと思ったのだ?」
「それは、あなたが……」
その瞬間、突然、後ろから誰かが俺の首根っこに飛びついてきた。
「セイヤ、もう帰っちゃうの~~」
ティルシーは、セイヤの後ろから首に抱きつき、そして横に回って腕を組んできた。
「ティルシーか、驚かせるな」
「ごめんねー。でも、何も言わずに帰るなんて冷たいんだからあ!」
甘ったるい声を出て、男を誑かす術を知ってるかのようだ。
どこで覚えたんだ。
俺の右腕を抱くようにしがみつくと、年齢のわりに豊かに実った胸を押し付けてくる。
悪い気はしないが、マーガレットの妹だ、そんな気分にはなれない。
「ところで、セイヤ。このボロきれみたいな男の子だれ?」
ティルシーは、キッドの方を指さして言った。
初対面なのに容赦がない。
「んな! なんだと! 僕がボロきれだと!」
キッドは、顔を真っ赤にして怒った。
《おいおい、子供の喧嘩はゆっくりあとでしてくれ》
この隙にティルシーの腕を剥がして、この場を立ち去ろうとしたが、思いのほかティルシーが腕から離れなかった。
流石に毎日、元勇者パーティのメンバーに鍛えられているだけのことはある。
筋力はそれなりにあるようだな。
「僕がボロきれなら、お前は牛だよ! うっしっ!」
「ぬぉ~! なんですって! この私が牛だと~!どこがよー!」
俺の腕を振りほどいて、ティルシーがキッドに掴みかかる。
今にも取っ組み合いを始めてしまいそうだ。
「そんな大きなおっぱいしてるの、牛以外に見たことねえや」
「ちょぉーーー、なんなの! この男、なんなの!」
ティルシーは頬を赤くして地団駄を踏み、両手で胸を隠した。
キッドもティルシーも、すでに俺の存在なんか忘れているのだろう。顔を突き合わせ、鼻息荒くしている。
そのとき、ギルドの入り口から受付の老人の一人が出てきた。
「やめないか、ティルシーよ!」
真っ白なあごひげを生やしたご老人は、勇者ベルの元パーティ仲間でドワーフ族だ。
「アスガー、止めないで! このポンコツ冒険者が私を牛だって言うのよ!」
「誰が、ポンコツだ! おまえこそそんな皮のパンツ一枚にブラジャーだけでエロ女じゃねーか!」
キッドは、負けじとティルシーを罵った。
確かに、ティルシーの格好は下着のように見えるがこれはモンスターの皮で作った防具だ。
「ムキィ!!!! もういいわ、アスガー、この男を殺してもいいよね」
「おい、そろそろ痴話喧嘩はやめてくれないか。俺は帰らなければならないんだ」
「「誰が、痴話喧嘩よ(だよ)」」
二人の息がぴったりと合っていた。
「これこれ、ティルシーも少年もよさないか。仲が良いのはいいことだが、静かにしてくれないか」
「はぁ!仲がいいわけないじゃないのよ。こんなチンチクリン!」
「何だと~!僕がチンチクリンだったら、お前は……(ゴツン)痛ぇ!」
「いたーい……」
二人にゲンコツを入れたのは、アスガーだった。
白ひげをたくわえた屈強な老人の一撃は、キッドもティルシーにもかなりきたようだ。
二人とも、目に涙を浮かべて頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「セイヤさん、お見苦しいところをお見せしてすみません」
ドワーフの元冒険者は、深々と頭を下げた。両手をピンと伸ばし体の側面に付けて丁寧に頭を下げてた姿は、勇者ベルの執事と言われても納得するだろう。身のこなしが見た目に反して洗練されている。
「いいんだ。それより、この少年は?」
俺は、キッドが何度かギルドに来ているのだと思っていたが、どうやら違ったらしい。
アスガーは初めて見る子だと言った。
「はじめまして。僕はキッド。 キッド・ベインです」
家名があるということは、名家ということか。ベイン家というのは聞いたことはないが、俺もこの国に来て2年半ほどだ。知らなくても当然だ。
「大変失礼しました、ベインさん」
「キッドでいいです」
キッドは、立ち上がって身を整えるとアスガーに一礼した。
ティルシーは、俺の後ろに隠れて頭をさすっている。チラッと見たが涙目になっていた。
ゴツい拳で殴られたのだ、ゴーレムに殴られるくらい痛いだろう。
「して、キッドさん。こちらには何の用事かな?」
「冒険者になりたくて、街の人に聞いたらこちらが冒険者ギルドだって聞いたものですから」
はっきりとした口調だ。発する言葉に力があるということは、意志が強いということだ。
キッドは、俺たちの方を見て深々と頭を下げて、ごめなさいと謝った。
「確かにここはギルドだが、セイヤさんに何か用事があるんじゃろうか?」
「そうだ、俺にパーティに入れと言っていたが、何故だ」
俺は、放火の一件が気になってはいたがナミからの報告が上がるまでは動くつもりはない。
だから急いではいない。話だけでも聞いてやろうかとキッドに理由を聞くことにした。
「冒険者がソロだとダンジョンは危ないからって聞いて、パーティを組んだほうがいいって街の人に言われたんだ」
「だが、俺は冒険者ではないが、何故冒険者だと思った」
先ほど、キッドは俺が冒険者と思った理由を言いかけたがティルシーに邪魔された。
何故冒険者になりたいのか、何故俺に話しかけたのか興味が湧いた。
「だって、冒険者ギルドから出て来たからです」
聞くんではなかった。こいつは底抜けのバカかもしれない。
俺は、大きなため息をついていたようで、後ろにいたティルシーが俺が落胆したのを見て出て来た。
「あんた、バカなの!? ギルドから出て来たら冒険者だって!? クルクルパー?」
ティルシーは、指で頭に円を描き、くるくると回して手を広げた。
何だ、このクルクルパーというのは。頭が悪いという意味には違いないのだが……最近の若者言葉にはついていけん。
「セイヤさんもキッドさんも、ここで立ち話は何ですから中でお話しされてはどうです」
俺は、ティルシーの腕を取るとお前はおとなしく待っていろ、と耳元で囁いた。
この娘は、耳元で囁くと腑抜けになっておとなしくなることはすでに知っている。耳が弱点なのだ。
俺とキッドは、ギルドの待合室のテーブルに移動した。
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