3 / 97
<第一巻:冷酷無慈悲の奴隷商人>
第一話:奴隷商人の息子は異世界で狼狽える①
しおりを挟む俺は、眠ってしまったのだろうか。それにしても、変な夢だった。
階段から落ちて、気がついたら何もない空間に身動きできない状態になっていた。
女神という色っぽい女性の声が聞こえ、別人の体に入って残りの人生を生きろという。
それにしても、妙にリアルな夢だったな。
俺は目を開き、しばらく天井を見つめていると人の気配を感じた。
ハッとして、横を向く。
「お目覚めですか……かなりお疲れだったようですね。何度もお声をかけましたがお返事がなかったもので、入らせていただきました」
は? 誰……というか……誰?
ベッド脇に跪いている男が、真顔で俺の顔を覗き込んでいる。
「おぼっちゃま。どうされましたか?」
「えっと…… あなたは?」
聞かれた男は、怪訝な顔をしたが、すぐ笑顔となった。
スルー? まさかのスルーかよ? あんた誰だよと声を大にして言いたかったが、言えない。
知らない人を目の前にすると、何を話ししていいのかわからないのだ。
俺は、ガバッと身を起こす。ベッドに寝ていたのか……っていったい、これ誰のベッド?
室内を見渡すが、さっぱり記憶のない部屋。殺風景な石がむき出しになった壁。これって、石に見える壁紙ってことないよね。
さらに、机や椅子、書棚があった。どれも調度品は良い物であると一目でわかる。おかしい、昨夜は酔っていないはず。
扉の横に一人女の子が立っているが、もしかしてその子のベッド?
「あの……、ここは?」
「ここと申しますと? この部屋のことでしょうか?」
執事服に身を包んだオールバックの優男が、膝をつき俺に丁寧に話ししてくれる。
見覚えのない男性だ。神経質そうな細面で、どこか目の奥に怯えのようなものを感じる。
「そうです。俺、いつの間にこの部屋に来たのでしょうか?」
「ご冗談が過ぎます。さぁ、まずは起きてお食事を!」
俺は、無理やり布団を剥がされたかと思うと、急かされるようにしてベッドから降りた。
すると、先ほど扉の横に立っていた布を体に巻いただけのような女が一人駆け寄ってくる。
「わっ、何をする!」
女は、飛び上がるほど驚くと慌てて跪いて、頭を床にこすり付けるようにしてした。まさかの、土下座。
「も、申し訳ございません。お許しください!」
執事の男性は、俺と女たちの間に立つとこちらを向いて頭を下げた。
「驚かしてしまったようで申し訳ございません。お着替えは後がよろしいでしょうか?」
「い、いえ……その子は?」
俺は、床に土下座し顔を上げない女の子たちを見た。よーく見た、穴があくほど見た。
あれ、猫耳? 狐耳かな? よく見るとお尻にフサフサした尻尾がある。
「そこの……狐の耳の子……」
女は、ハッと身を固くしたかと思うと、土下座のまま後ろに後ずさる。
「お許しください、お許しください」
そんなに謝れるようなことしたっけ? 俺は意味もわからずに女の子を見下ろしていた。どうも泣いている様子だ。もしかして耳のことは触れてはいけないタブーだったのかな?
「そんな土下座しないで、立って」
「おぼっちゃま。勘弁して上げてください。お着替えの手伝いをしようとしただけで、折檻しては身の回りの世話をするものがいなくなります」
何言ってるの? 折檻って、土下座させているのって俺のせい?
「着替えを手伝い? それはいいです。自分で着替えますから」
俺は、ただそう答えただけなのに、執事服の男と土下座の女の子は、申し訳ございませんと頭を下げ続けた。
俺は、そんな二人を無視し、着替えを探す。ベッド脇のテーブルに服が並べられている。
見たところワイシャツとズボン。ワイシャツにしては生地が厚い。綿のシャツだった。
執事がさっと服を取り上げると、シャツを差し出してくれた。
「この部屋に鏡ってあります?」
「はい、いつものところにございます。お持ちした方がよろしいでしょうか?」
いつものって言われても、俺にはそもそもここがどこだか分からないのですが……
鏡を持って来てくれとも頼みにくいので、自分で見にいくと言ったもののキョロキョロと室内を探した。
俺のそんな挙動に察したのか、あちらですと手の差し示す。
執事が手で差し示したクロゼットのような小部屋の中に全身鏡があった。
鏡を見て俺は愕然とした。誰なん? この鏡に映っている人って誰。これって本当に鏡か、モニターか何かで俺の動きに合わせてグラフィックが動いているのだろうか。
俺は、しばらく右手を上げたり、首を振ってみたが俺の動きに合わせて鏡の中の男も同じ動きをする。
「これって俺ですか?」
「はい? 鏡ですから……おぼっちゃんですが、それがどうかされましたか?」
いやいや、マジで知らん人だし。あれ、もしかして夢の中の出来事て現実なわけ?
俺は、しばらく自分の姿を鏡で見ていたが、元の俺は純日本人でイケメンでもなく、ブ男でもない普通の男だった。
だが、目の前の男は金髪に軽いウェーブがかかり、青い目をしている。どこから見ても外国人って感じだ。
夢だと思っていたが、本当に別人の肉体に魂が入ったのか。元の自分は死んだってことなんだな。
ってことは、ここは日本ではない……
俺は、部屋をもう一度よく確認してみる。たしかに、文明レベルが日本と違っている。壁にはコンセント一つなく、天井にも照明器具がない。
お札が一枚貼られていたが、あれはなんの御呪いなんだろう。
「えっと、そこで土下座している女の子。もういいから……」
俺は、土下座したまま微動だにしない女の子に声をかける。執事服の男は、下げてもよろしいかと尋ねたので肯首すると女の子に下がるように指示してくれた。
まったくこちらを見ないため、どんな顔の人かわからなかったが、確かに女の子だ。だって、おっぱいが片方出てましたもん。
あれ、見えてるの本人は気づいてないのかな? 言った方がよかったのかな。
いや、なんて言うわけ? おっぱい見えてますよって、それ言われた方も恥ずかしいだろう。
そもそも、おっぱいが出ていることを言えば隠してしまうじゃないか!言わなければ見放題。
だから俺は見て見ぬ振りをした。
「さっきの女の子は、ここの娘さんですか?」
俺は、執事服の男に声をかけると、ギョッとされてしまった。
「おぼっちゃま。まだ寝ぼけていらっしゃるんですか? あれは、奴隷です」
「えっ……どれぇ?」
思わず素っ頓狂な声で、思わず聞き返してしまった。
そういえば、別人の人生を俺が引き続き続けなければならないのだ。
一体、俺っていう男はどういうやつなのだろう。さっぱりわからない。
たしか、女神様が『クズでゲスで鬼畜の人でなし』って言っていた気がする。
俺は、寿命の残りをこの異世界で過ごすことになった、しがないニート。
この先どんな人生になるのかわからないが、せっかくだから満喫しよう。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる