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<第一巻:冷酷無慈悲の奴隷商人>
第十三話:奴隷商の息子は奴隷商店を訪れる
しおりを挟む王都ダバオは大きな街だった。
俺たちが住む屋敷は、ダバオから三十分ほど馬車で揺られた場所にある。馬車の中で、アルノルトに一通りのこの世界のことを聞いたが、見ると聞くとでは大違いだった。
俺は、今まで屋敷から出たことがなかったから知らなかったが、ダバオは人口が多く活気に満ち溢れている。
通りに面して両脇には、テントが立ち並び、果物や食物だけでなく工芸品も売られていた。
見た限りでは観光地の様相で、他の街からも多くの人が訪れているのがわかる。
この街の雰囲気が、異国情緒に溢れていて心が躍った。
街を行き交う人たちは、南国にしては薄着が多い。陽射しが強くても、日本の夏のジリジリと肌を焼くような暑さではないからだろうか。
そのため、女たちは腰に布を巻き、腹や背中が出ている衣装を来ている者が多く見られた。
肌露出多めの女が多い街がこんなに近くにあったなんて……
パオリーアの格好が扇情的ではないかと心配して損したと思うほど、女たちの格好は開放的だった。
まるでギャルファッションのようなホットパンツにキャミソール姿に似た格好の娘もいる。
うはっ、いいんじゃない。この世界、なかなかいいんじゃない?
あまりにキョロキョロとしているものだから、アルノルトが俺の腕を引っ張る。
「よそ見をしていますと、人にぶつかってしまいます。お気をつけください」
「す、すまない。こんな光景を見るのは初めてだからな」
「わかります。ニート様は初めて屋敷を出られたのですから当然です。ですので、私から離れないようにしっかりとついて来てください」
アルノルトと俺は肩を並べるようにして通りを歩く。その後ろをパオリーアがついてくる。
奴隷を乗せた馬車は、人通りの多いこの通りではなく外郭の道路から奴隷商店への道を行くため、今は別行動だ。
俺が、街の中を見たいと言ったもんだから、馬車ではなく三人で歩いていた。
「アルノルト。奴隷商店はまだか?」
「もう少し先です。奴隷商店は町外れにあります。奴隷を扱っているため旅人や他国の商人の多い場所での商売は禁じられていまして」
「なるほどな。風俗店がどこにでも出店できるわけじゃないのと同じようなものか。ある意味アンダーグランドな店だもんな」
俺はそう独り言ちると、パオリーアの方を振り返った。彼女も、物珍しいのかキョロキョロとしている。
「パオリーア!」
俺が声をかけると、はいと返事をして小走りに駆け寄って来た。
「パオリーアも街は初めてか?」
「はい、私が育った村は大森林の近くでしたから、こんなに人が多いのも、物がたくさん売られているのも初めて見ました」
「俺も同じだ。やはり、初めて見る街っておもしろいな!」
お上りさんのように、二人でキョロキョロしながら歩いた。
◆
奴隷商の店にたどり着いた俺は、想像していた以上に怪しい雰囲気に驚いた。
煤けた石造りの店は、窓が一つもない建物で、細い通路の奥に入口があるようだが、真っ暗で何も見えない。
「これは、いかにも裏稼業って感じだな」
一体どんな奴らが奴隷を買っていくのだろうか。店主に会ったら聞いてみたい。
パオリーアを見ると、身をすくめて震えているようだった。いずれ自分もここに連れて来られるのだと思うと、恐ろしくなったのだろう。もう少し配慮してやればよかったと後悔した。
「大丈夫か、パオリーア」
「……えっ? あっ、はい……」
「こっちに来い。大丈夫だ、今日は店の視察に来ただけだ」
俺はそう言うと、近づいた彼女の手を握った。人と手を繋いでいたら緊張もほぐれるだろう。
ふと、視線を感じて彼女を見ると、目を潤ませて見上げている。やはり、奴隷の店は怖いのだろうか。
頭をポンポンと叩き、大丈夫だと声をかけた。
アルノルトがご案内しますと、先に進み、俺たちは店に入った。
「これはこれは、おぼっちゃま! ようこそおいでくださいました」
人の良さそうな笑みを浮かべた小太りの男が、腹を揺らしながら店の奥から歩いてきた。この人が店主か。
「私はこの店を任されております、ジュンテと申します。以後お見知り置きを」
「ニートだ。仕事の邪魔をして悪いが、奴隷たちが気になってな。それに知りたいこともあってな」
「そうでございましたか。どうぞ、なんなりとお申し付けください」
ジュンテは笑顔でそう言うと、頭を下げた。
「ところで、先ほど屋敷から連れて来た奴隷はどこにいる」
「はい。ただいま点検をしています。近頃の奴隷は肌が綺麗ですし、とても健康的な者をご主人様が送ってくださるので、早く売れるのでありがたいことです」
清潔な部屋を与え、風呂にも入らせるようになってから奴隷の体調や状態が良くなっていた。それで、早く売れるのなら儲けになる。奴隷は在庫を抱えるほど出費がかさむからな。
「お会いしますか?」
「ああ会っておこう。どういう形で奴隷を売っているのかも知っておきたい。店の中を全て見せてくれ」
「かしこまりました」
案内されたのは、大きめの檻が六つほど置かれた倉庫のような場所だった。中を覗き込むと、獣人族の女の子がちょこんと座っている。
暗い倉庫には、明かりが乏しく奴隷の娘の表情まではわからない。
「奴隷たちは、いつもこの状態か?」
「はい? と申しますと?」
「なぜ、檻に閉じ込めているのかと聞いているだ!」
俺の剣幕に驚いた店主は慌てるが、怒られた意味がわからないのだろう。オロオロとアルノルトの方を見た。
「檻に閉じ込める意味はあるか? 逃げ出そうとした者がいるのか?」
「いえ、近頃の奴隷はそのような者はいなくて、従順なものばかりです」
「奴隷環だけでいいだろう。なぜ檻に入れている? 逃亡の恐れがないのなら、檻に入れる必要はないと言っているのだ」
目を白黒させた店主から、檻のほうへ視線を移すと、俺は檻の中の獣人族の娘に話しかけた。
「屋敷で会ったことがあるか?」
「はい、ニート様。おひさしぶりです」
「そうか。ここでの生活は苦しいか? 嫌な目に遭っていないか?」
「……屋敷での生活が懐かしく、あの頃が幸せだったと今は思えます……すみません」
「いいんだ」
俺たちのやりとりを見ていたパオリーアが、スッと前に出て檻の中の少女に話しかける。
「リア……だいじょうぶ?」
「パオ姉様……はい、大丈夫です」
二人は何やら会話をしていたが、俺は店主を呼びつけると奴隷たちを檻から出すように言いつけた。
渋るような素振りを見せた店主も、俺がすねを蹴って跪かせると素直に従うことを誓った。
檻の中から出て来たのは、獣人族三名、エルフ二名だった。だが今日、屋敷から連れてこられた奴隷の姿は見えない。
「今日入った奴隷はどこにいるのだ?」
「こ、こちらです……こちらで、点検を……」
点検ってなんのことだろう。
倉庫の奥にある扉を入る。そこには、鎖に両手をつながれて裸にされた奴隷がいた。
「ああぁああ! ニート様! お助けくださいっ!……お許しください、お許しを!」
俺の姿を見た奴隷が、涙を流して悲鳴をあげて助けを求めた。
俺は思わずカッとなって奴隷の足元で何やらしゃがんで覗き込んでいた下男を蹴り飛ばし怒鳴り付けた。
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