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<第一巻:冷酷無慈悲の奴隷商人>
第十二話:奴隷商の息子は奴隷の身の上話を聞く
しおりを挟むこの世界に来て二週間。その間に、親父やアルノルト、屋敷へ出入りする商人などに、それとなくこの世界のことを聞いていた。いったい、俺はどういう世界に来てしまったのか、今後俺が生きていく世界がどういう所なのか知りたかったのだ。
のほほんと奴隷の女の子とスローライフを楽しみたいところだが、せっかく異世界に来たのだから今までできなかったことをやりたいと思っていた。
日本にいるときは、何も目的なく過ごしていた。俺は、やる時はやる男だと思っているだけで、やる時がやってこなかった。だから、この世界では、自分からやる時を作っていこうと思っている。
このスティーンハン国は、大陸の南部に位置するという。大陸には四つの国があり、北にカールトン国。その東隣がオーフィン国で、その両方の国の上に雪に覆われたルーセン国があるという。
地図がないのでイメージがつかないが、まぁ四国みたいなものかな。四つの国だし。
国家間は、小競り合いは起きても大規模な戦争は何十年となかったらしい。そのため、国土は比較的豊かで農作物も豊富にあるという。特にこのスティーンハン国は果物が豊富で野菜などの農作物は文字通り売るほどあるという。
そういえば、必ず食事にサラダとフルーツが出てくるが、そういうことだったのか。
「なぁ、アルノルト。奴隷制度があるのはこの国だけか?」
「いいえ。どの国にも奴隷制度はございます。戦争がないため、昔のような戦争遺児が奴隷商人に売られることは滅多にありません。ただ、獣人族など森人は盗賊に襲われ、攫われてきますが」
ケモミミの少女奴隷が多いとは思っていたが、盗賊が村を襲ってめぼしい女を拐って売り飛ばしてるというわけか。というか、そんなかわいそうな少女を親父は買って、転売してるわけ?
ある程度、悪どい商売をしているとは感じていたが……奴隷商人だもんな。
「盗賊が、襲った村の女を拐って、俺たちに売るってわけか……かわいそうだな」
「ニート様、奴隷に同情していては立派な奴隷商人にはなれません。奴隷も生きていくために奴隷になることを選んだのです。中には、奴隷になりたくなくて自害する者もいます。ですが、身寄りのない女が一人で生きていけるほど、甘くはないのです」
力説してるけど、アルノルトも奴隷だったはず。
「女一人で生きていけないのは、理解できる。では、アルノルトのような男の奴隷は?」
「私は……ご存知の通りです……」
いえ、俺は何も知りませんし、聞いていません。昔の俺に話ししたんだろうけど、それ俺じゃないから。
「一度言ったから二度も聞くなということか……」
俺は、不満げに一言呟いた。
ハッと顔を上げたアルノルトの表情は、みるみると青ざめ、唇まで紫色になっていくように見える。
「も、申し訳ありません……決して、そんな意味では……」
狭い馬車で、土下座するスペースもないため、座席に正座するアルノルト。座席では靴は脱ぎましょう。
パオリーアも、怯えて震えている。
「パオリーア、うるさくて悪かった。恨むなら、アルノルトを恨め」
「ひぃ、ニート様! そんなこと言わずに、私の話をお聞きください」
「いや、もういい。もうキミの身の上話は二度と聞いてやらん!」
「そんなぁ~。前は聞いてくださったじゃないですか」
「知らん、知らん!」
俺の腕にすがりつくと、アルノルトがしつこく聞いてくれというので聞くことにした。
アルノルトの粘り勝ちだ。
「聞いてやるから、簡単にまとめて言え。はい、どうぞ!」
俺は、三、二、一と指を折りながらカウントダウンを始めると、アルノルトは慌てて言った。
「親に売られたのです! お金がなかったから、兄弟の多い私たちは、兄を残して全員売られました」
思ったより重い話に、聞くんじゃなかったと後悔する。
簡単にいうと、人身売買ってことか。
「家族の元に戻りたいのなら、戻っていいぞ」
「いやいやいや……そんな、めっそうもない。私をおそばに置いてください!」
「帰っていいから。どうぞ、どうぞ」
「そんなこと言わずに、ニート様っ!」
俺たちが、掛け合いしていると横に大人しく座っていたパオリーアが、クスリと笑った。
「パオリーア、面白いか?」
「はい……あっ、いいえ。でも、二人は仲がよろしいんですね」
パオリーアが、ニコリと微笑むと俺とアルノルトの顔を交互に見て、もう一度クスリと笑った。
「ち、違います。ニート様と仲が良いなんてことはありません!」
テンパってるのか、アルノルトはパオリーアに敬語で答えている。落ち着け、落ち着け。
「今、聞き捨てならんことを言ったな、お前。俺と仲が良いなんてことはない?」
「違います、違います。お許しください。そんな意味で言ったのではなく……」
「本音だな、あれは。今後はお前との付き合い方も考えないといけないな」
「ああああっ、堪忍してください」
その後、アルノルトは口は災いの元と反省したのか、しばらく静かにしていた。
「パオリーアの村も、やはり盗賊に襲われたのか?」
「はい……大森林の麓の小さな村でした。さっきアルノルトさんが説明していた通り、盗賊に家を焼かれ家財を奪われ、お金も衣服も持って行かれました」
「そうか……嫌なことを思い出させて悪かった」
「いいえ、全くそんなことはないです。たしかに自分の運命を嘆きましたが、今は現状を受け入れていますので平気です」
パオリーアは、服の裾を強く握ってそう答えた。平気ではないのだろう。しかし握られた手に過去を乗り越えようという意志を感じる。
俺は、アルノルトにもう一つ気になることを聞いた。
「エルフは? あの子たちはどうして奴隷として売られているんだ?」
「エルフですか。よっぽどニート様はエルフがお好きなのですね。エルフは……」
俺は、鋭い視線を感じてパオリーアを見る。エルフが好きとアルノルトが言った時に、すごい目つきでアルノルトを睨んでたね。
「そういえば、普段の奴隷たちを見て思ったのだが、エルフと獣人族との間に深い溝があるように感じるのだが。仲が良くないのか?」
「はい……」
アルノルトよりも先にパオリーアが俺の問いに答える。
「エルフは森の妖精の末裔、私たち獣人族は森人だから、森に居候させてやっているというのがエルフの主張です。だから、私たちを見下しているのです。あんな長い耳なのに、えらそうなんです……」
長い耳は関係ないね、しかも、キミが言える立場でもないよ。ケモミミちゃん。
「なるほどな。エルフと獣人族との間に距離があることは気づいていたが、そういう理由だったのか。しかし、仲良くなるエルフがいるんじゃないか?」
「エルフは長くて七日、早ければ二日で売り手がつきます。だから仲良くなる前にいなくなってしまうのです」
たしかに、エルフはエルフ同士で固まっていた。獣人族と仲良くする気がなかったってわけか。エルフと獣人族の距離感は根深い問題みたいだな。
「ニート様、話をもとに戻しますがエルフは……」
アルノルトが空気を読まずに、話を蒸し返すもんだからパオリーアがプイッと窓の外を向いてしまった。
「アルノルト、もうエルフの話はいい」
「はい、失礼しました。ところで、ニート様は、なぜ急に街に買い物に行きたいなどと」
「え?」
「いえ、街に出て買い物がしたいとおっしゃっていたもので。どのようなものをお探しですか?」
あ、あの……パンツです……って言えるわけないじゃん!
その後、不機嫌そうなパオリーアと、ちょっぴり恥ずかしそうな俺。そして、そんな二人を交互に見てはオロオロするアルノルトたちを乗せた馬車は、ダバオの街に着いた。
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