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<第二巻:温厚無慈悲な奴隷商人>
第十六話:奴隷商人は辺境領主と対峙する①
しおりを挟む辺境町にたどり着いたのは、当日の夜になった。
町の奴隷商人の屋敷に案内された俺たちは、その場で作戦を練っていた。
「領主ってことは、やっぱり一番偉い人だよな」
ライラに聞くと、辺境伯という立派な爵位だという。奪い返すにしても、やり方には慎重を期する。
こちらは戦力らしいものはない。俺の交渉力だけが頼りだ。あまり自信がないが、ライラもいるし、なんとかなるかな。
この世界に来て、俺は今のところトントン拍子で事が進んでいる。女神のご加護でもあるのではないかと密かに思っている。もちろん根拠のない話だが、そうでも思わないと重圧に潰されてしまいそうだ。
そもそも、奴隷商人ギルドのマスターとか、ガラじゃないよ、マジで。
ここまで奴隷たちを奪い返すことだけを考えて来てみたが、いきなり返せと言っても無理だろう。何か妙案でもないだろうか……。
禿げた頭を撫でながら、奴隷商人の親分がお茶を持ってやってきた。といっても、持ってきたのは奴隷だが。
「世話になって申し訳ない。迷惑をかけるな。許してくれ」
俺は、禿げた親分に頭を下げると、恐縮して親分も頭を下げている。いい人そうだ。
「ニート様の頼みなら断れないさ。それに、恩を売っておけば今後も儲け話にありつけそうだしな」
「ずいぶん素直だな。そういうの嫌いじゃないぞ」
俺たちは笑い合ったが、こんな時に心から笑えない。
みんなに茶を運び終わり、奴隷が下がったところで、俺は切り出した。
「さて、五人の奴隷が連れ込まれているのを見たというが、うちの奴隷に間違いないか?」
「間違いないかと。貫頭衣がニート様の物だった。見れば一目でわかるさ。白さが違うからな」
俺の奴隷には、綿の貫頭衣だ。街で見かける奴隷たちはベージュの貫頭衣で、俺の奴隷たちは真っ白の貫頭衣を着ていた。
しかも、丈は膝上十五センチほどで、ミニスカートっぽい。これは、俺の個人的な趣味だ。
ラッキースケベ狙いだが、俺の本心など誰も知らないだろう。
いい服を着せてもらっていると奴隷たちが思ってくれているのだ、ミニスカ状態でも嫌がられなかったらオッケーだ。
「間違いなさそうだな。さて、真正面から行くとして話し合いに応じてくれる領主様か?」
「どうだろう。ここの領主は表向きは優しい人で、領民思いと言われている。裏の顔があるかもしれないが、そんな噂は聞いたことがないですわあ」
そんな領主が、奴隷を五人も盗むだろうか。奴隷商人と契約して初めて、奴隷の所有権が決定される。たとえ、領主でもそこのルールは守らなければならない。
ということは、今日あたり、奴隷の登録にここへ来るのではないだろうかと禿げた親分は言った。
「そうだな。だが、お前がギルドのメンバーなのは領主も知っているんだろ?」
「はい、もちろん知っています。だから、ノコノコと来るとは思えません。闇登録するとしても、リスクが高い上に、何の法的拘束力もないので領主様ならそんなことはしないでしょう」
「では、五人は何のために拉致されたのだろう?」
みんなで首をかしげる……うーん、わからん。
あまりにリスクが高すぎる。俺が領主なら金を出して普通に買うだろう。
「あの、私の考えを言ってもよろしいでしょうか?」
「なんだ、ライラ。言ってみろ」
ライラは、今日も魅惑のボンテージ衣装に身を包んでいる。実に官能的だ。この村の男たちもライラを目で追っていて、俺も誇らしかった。
「領主は、奴隷たちが拉致されたものと知らないのではないでしょうか? 誰かに騙されて買わされた可能性があります」
「うん、その可能性もあるな。盗んだ奴隷を領主に売りつけたってわけか」
それならば、すでに売りつけた奴はこの街からトンズラしているだろう。
「さすがライラだ。頭のいい女は好きだぞ」
「す、好きだと……好きと言ったのか? わ、わたくしも好きです……」
「そういう意味ではない。では、その可能性があるということは、領主に会うのを急いだ方がいい、これから出るぞ」
こんな夜にですか? と禿げた親分が言うが、夜だからいいのだ。人の目につきにくい。
護衛について来た冒険者の面々も連れて、俺たちは領主の屋敷へと向かう。
◆
「こんな夜更けに、ぞろぞろと何事ですかな?」
領主はそう言いながらも、俺たちを屋敷の客間に案内してくれた。禿げた親父も一緒にいてくれたので、顔が効いたようだ。この禿げた親父は人付き合いが良いのだろう。
きっと、領主にお中元とお歳暮を欠かさないような律儀な性格なのかもしれない。
この世界に、お中元やお歳暮なんてないと思うけど、贈り物の習慣はあったはず。
「……というわけで、俺の奴隷たちがここに運び込まれるのを見た者がいるので、夜分に申し訳ないが話を聞きにした次第」
「そうか……。たしかに、奴隷たちはこの屋敷にいる。だが、これは正式に買ったものだ。売買押書もここにある」
押書というのはこの世界の契約書と同じ意味を持つ。ただし、公証人を通さないので法的拘束力は低い。
「これは正式な契約書ではありません。おそらく領主様は騙されたのでしょう。念のために奴隷たちを連れて来てもらっていいですか?」
領主は控えた召使いに指示して、奴隷たちを連れてこさせた。うつむいたまま元気のない奴隷たちは、とぼとぼと部屋に入る。
たしかに俺の屋敷で着せていた貫頭衣だ。
「お前たち、大丈夫か?」
俺の声に、ハッとして顔を上げた奴隷たちは、パッと花が咲いたように明るい笑顔になった。そして、みるみると涙を流して行く。
「旦那さま~!」
奴隷たちは俺に走り寄ると、抱きついて来る。うんうん、可愛いのぉー。
人目をはばからずに、抱きしめてやった。女の子の体ってふわふわして気持ちいいな。
――――ゴホンっ!
ライラが咳払いをする。
ハッとして、ライラを見た奴隷たちがパッと俺から離れた。奴隷たちにとっては鬼教官だもんな。
「旦那様。喜ぶのはまだ早いです」
ぴしゃりと言われてしまった。その冷たい目が怖い……初めて会った時もこんな目をしていた。
「ソレ殿。この者たちがあなたの奴隷というのは今の様子を見て理解した。奴隷たちに慕われているようで驚きだ」
領主は、頭をポリポリと掻くと、困ったと言う表情をして言った。
「返せと申されても、すでに金を払っている。盗まれた奴隷とはいえ、この者たちを、はいどうぞと返すわけにはいきませんな」
「そうでしょうね。だが、返してもらいますよ。おっしゃる通り奴隷たちは盗まれた物だ。国法でも盗品は元の所有者が所有権を持っていると書かれていますからね」
「……うむ、参りましたな。確かにそうなのだが……」
力が抜けたようにソファの背にもたれると腕組みして考え込む領主。
しばらく見ていたが、一向に動かないので電池が切れたのかと心配したが、フッと息を吹き返したように目を開けて俺に言った。
「ソレ殿。この奴隷たちを売ってくれないか」
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