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<第二巻:温厚無慈悲な奴隷商人>
第十七話:奴隷商人は辺境領主と対峙する②
しおりを挟む「ソレ殿。この奴隷たちを売ってくれないか」
領主は、改めて俺にこの奴隷たちを売ってくれと頭を下げた。よほど気に入ったのか。
「こいつらは、出荷前の奴隷だ。値がついていないんだ」
「一人、白金貨二枚でどうだ。破格な値段だと思うが」
一人が白金貨二枚ということは、五人で十枚か。元いた世界の価値で一千万円。いい値段だ。
「それはかまわないが、騙された金も相当な額ではないのか?」
騙された金額はわからないが、おそらく相当高額だろう領主とはいえ、奴隷にそんなに金を使っていいのだろうか。
そもそも、白金貨二枚は、店で買う値段の倍以上になる。
「それほど価値があると見込まれているのですか?」
「ああ、そうとも。この娘たちは奴隷ではあるが、どの娘も可愛くて礼儀正しい。こんな奴隷は見たことがない。お願いだ、大切にするから売ってくれ」
えらい気に入られているな。そういえば、ジュンテから買い主は奴隷を愛玩用に大切にしていると聞いているから、それだけの価値を持っていると言うことか。しかも、夜の奉仕にも対応している者たちだ。
「お前たち、領主様がこう言ってくださっているが、どうする?」
奴隷たちが同意しないと売らないのが、俺の店の流儀だ。
領主は固唾を飲んで奴隷たちの返事を待った、
「旦那様のお見立てなって下さったなら、きっと私たちの事を考えてくださっての判断と思います。だから、旦那様が決めてくださってかまいません」
「それはダメだ。お前たちの意思が先だ」
やりとりを見ていた領主が口を開く。
「お前たちがこの屋敷に来た時から、大切にしたいと思っていた。これは本心だ。できればここにいてくれないか?」
領主の言葉に、奴隷たちは頷き返した。意外と領主様はいい人だわ。奴隷を目を細めて見ている姿が、孫を見て微笑んでいる爺さんみたいだし。
「わかりました。いいでしょう。ただし、条件があります」
「まずは、犯人を見つけてください。捕らえたら連絡を必ずください。私の方も拉致した者を探し出します。領主様は売りに来た奴らのことを調べて下さい」
奴隷を売った奴らの顔を知っているのは、この領主と召使いたちだけだ。領主なら、自警団も自由に動かせるだろうし協力してもらうほうがいいと俺は思ったのだ。
それに、俺がわざわざ危険な目をする必要はない。俺はもともと、争い事は苦手だしな。
「ソレ殿、もちろんだ。私も金を取り戻したいからな」
「それから、もう五つ条件があります」
「いっ! 五つ……そんなにも条件があるのか?」
俺は、奴隷たちを大切にすると言った領主の言葉を文章にして、約束を守ってくれるように伝えた。
「奴隷商人の俺との契約とは別に、奴隷との契約もしていただきたい。一人一人、証文を作り契約書を交わしていただきたい」
「そんなこと聞いたことがないぞ」
禿げの親分も目をパチクリさせて俺の方を見ている。奴隷は物や家畜と同じで、契約書など要らないのがこの世界の通例だ。
だが、俺は奴隷の権利も整備してやりたい。せっかくの機会だから、この領主で実験することにする。
「まず、奴隷には朝晩の食事を十分に与えること。次に、風呂には二日に一度は必ず入らせること。次に奴隷に暴力を使って服従させないこと。次に奴隷が不当な扱いをされないよう買主として管理すること。最後に、奴隷を一年に一度俺の屋敷へ帰省させること」
領主は、ウンウンと頷いていたが、最後の条件でパッと顔を上げた。
「奴隷を返すのか?」
「そうです。一年に一度、俺の元に戻してほしい。約束が守られているか確認する。大切にされていないと思ったら取り上げる。それと、俺の屋敷はこの奴隷たちの実家でもあるんだ」
「買った奴隷は、私のもので所有権も私のものだろう? それでも取り上げられるのか?」
言いたいことはわかる。まだ法制化されていない奴隷の権利を、今から主張しても法的根拠はない。
しかし、抑止力にはなるはずだ。
「奴隷は物や家畜と同じだと思っているでしょう。しかし、彼女たちも人間として扱ってやってほしい。みんな、奴隷になりたくてなったわけじゃない。村を焼き払われ人さらいに連れ去られた、元は普通の村人だった者たちばかりだ」
領主は、神妙な顔で聞いている。奴隷たちの境遇には、気づいていたのだろう。
「わかった。ソレ殿の言う通りだな。あなたが奴隷を大切にしているからこそ、このように美しく上品な奴隷たちが育ったのだろう。わかった、その条件を全て呑もう」
「ありがとうございます。もちろん、奴隷たちは決して領主様を裏切らないと契約書に記載します」
おそらく、領主は女性絡みで何か失敗でもしたのだろう。この屋敷に女っ気が感じられない。奥さんもいないようだし、もしかしたら自分を裏切らない女がそばにいて欲しいのだろう。
「では、さっそく契約書を作成します。明日の朝には奴隷たちと契約を交わし、一部は公証人へ提出します」
奴隷たちも、いずれは売られる運命だ。それなら、少しでも金持ちの家に貰われる方がいいに決まっている。
辺境伯という立場の領主なら、問題ない。
翌日、無事に奴隷と領主との間で契約書が交わされた。奴隷ギルドの主である俺が見届け人だ。
奴隷たちは、きっと幸せになってくれるだろう。
俺たちは、犯人探しを領主に任せ、屋敷へと戻ることにした。白金貨十枚は大きい。
情報をくれた禿げた親分には、金貨十枚を渡した。
「ニート様。私は思い違いをしていました。ニート様が奴隷を大切にしろ、綺麗な服を着て、清潔にしろと言っておられたのを、何を馬鹿なことをと鼻で笑っていました。しかし、領主が大金をはたいてでも買いたいと思う奴隷たちにしたニート様の考え方は正しかった。本当に、勉強になりました」
頭を下げる親分。思わず、ペシッと頭を叩いてみたくなったが思いとどまった。
「儲けたければ、自分の商品を自信を持って売れるようにするほうが、得だと俺は思う」
「はい、肝に命じます。ところで、ずっと気になっていたのですが、その破廉恥な格好の奴隷は何なのですか?」
禿げた親分が指差す方向に、ライラが立っていた。ああ、やはり破廉恥に見えるか。
「なっ! はぁ? 私を破廉恥と申すか! そ、そんな目で私を見ていたのかっ……どうりで、私のおっぱいに視線を感じると思ってぞ」
「あいつは放っておいていい。ああ見えて、仕事はできるんだ」
「そうですか……娼婦を連れて歩かれているのかと思って、さすがニート様は違うなと」
パオリーアに腕を引っ張られて遠ざけられているライラ。誰が娼婦だ! と息巻いている。
「わ、私は娼婦ではないっ! 生娘を馬鹿にするなっ!……あっ、私はなにを言ってるんだ?」
俺と親分は顔を見合わせた。ライラが生娘……見えんな。
俺たちは、辺境の村を後にした。
さて、帰ったらハイルを泳がせるか。一度味をしめた奴は必ずまた同じことをする。ハイルに接触してきた奴が現れたら捕らえてやろう。
この後、犯人は、意外な形で捕まるのだが、それは後の話。
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