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第三章~筆頭家老としての行動 関東編~
関東遠征3
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「まだだ、まだ引き付けよ。皆焦るなよ私を信じろ。」
左近が緊張をしていたのはその指揮下にいた兵たちにも伝わっていた。ふだんなら私を信じろなどとわざと口にしない左近がそれを言ったことがその証拠であった。
しかし、兵たちからしたらそんなことは言われなくてもと言うことであった。兵たちは皆「左近様の指示を信じて戦うのみ。」そう思っていたからである。
上杉軍の先頭が空堀に入ろうか
「今だっ。放てっっ。」
そんなタイミングで左近は砲撃の指示を出した。
神威軍の鉄砲が一斉に火を吹いた。
その轟音から1秒とかからずに上杉軍の先頭を走っていた騎馬隊が次々と倒れていった。
生き残った先頭の者も目の前にある深い空堀に足を止めた。
だが、それはもう格好の的でしかなく次々と打ち倒されていく。
後ろのほうで前が進まなくなったのを気にした景家が
「次の斉射が来る前に馬防柵など壊してしまうのだっ。」
そう声をかけた。
しかし、前の兵たちは鉄砲に恐れているわけではなく空堀のために進めないのでそう声をかけられても無闇に進むことは出来なかった。
中には空堀を下り馬防柵まで来ようとする者もいたが、左近は率先してその者から倒して行ったためなかなか後には続けなかった。
「上杉の兵さん達、そんなところで立ち止まってたら鉄砲の餌食になるだけだぞ。早いとこ撤退をしたらどうだ。」
左近がそう上杉軍を挑発した。
するとそれに怒りを覚えた上杉軍が空堀に次々と侵入してきた。
それを見た左近はニヤリとすると鉄砲玉の雨を更にお見舞いするのであった。
「このままではまずい。皆、一時撤退だ。」
これ以上の被害を避けるべきと考えた景家は撤退命令を出し、本陣へと戻って行った。
それを確認した左近は兵達を労い、見張りの兵以外に休むように命を出した。
「左近殿、うまくいきましたね。」
「ええ、昌幸殿もこのような策を出せるようにならなければなりませんよ。」
「はいっ。」
一方、謙信は景家から報告を聞いていた。
「お館様、申し訳ございません。おめおめとやられてしまいました。」
「いえ、被害を最小限に抑えたのは景家の手柄でしょう。良い判断でした。して、詳細を伝えてください。」
それから謙信は馬防柵の下に空堀があること、止まることのなかった銃撃、統率の取れた動き、そして武田の兵ではなく、徳川の兵であったことなどを知った。
「今回、徳川と武田が組んで北条を攻めているのは知っていましたが、まさか武田の守りに徳川の兵が使われていようとは。」
「いかがなさいましょう。」
「騎馬隊を中心とした編成である我らに鉄砲を中心とする編成である軍を相手にするのは不利でしかない。」
「お館様、ここは様子を見るのが上策かと思います。徳川の兵であると言うことはこちらが攻めなければあちらから攻撃をしかけてくることはないでしょう。殿だけを残し迂回して沼田あたりを攻めるのがよろしいのではないでしょうか。」
沼田への迂回を提案したのは上杉の知恵袋である家老、直江景綱であった。
「そうですね。景家、お主にここの殿を任せます。」
謙信は沼田への迂回を決めるとその夜には海津城付近から姿を消した。
翌朝、それを確認した左近は全軍に撤退を命じた。
「左近殿、撤退してよろしいのですか?いつまた上杉が来るとも限らぬのでは。」
「いや、上杉がいなくなったと言うことは沼田あたりにでも兵を迂回させた証拠でしょう。それならばまたこちらに向かってくることはありませんな。」
「沼田に向かったのであればそちらに向かわなくてよろしいのでしょうか。」
「沼田は先日、武田が落としたばかりの城、武田の兵が守りを固めているでしょう。我らが向かう必要はありません。それに殿からは海津城付近に現れた上杉軍を撤退させた後はそこを離れるようにと指示されています。」
「なぜに殿はそのような指示を?」
「同盟を組んでるとは言え縁組を交わしているわけではないのでその軍が長々と領地深くにいることで波風を立てないためでしょうな。」
左近の意見を聞いてなるほどと頷くばかりの昌幸であった。
後に神威家にとってなくてはならない人物になる昌幸もこの時はまだ様々なことを学ぶ若人であった。
玉縄城攻めを担当していた刹那は玉縄城を完璧に包囲すると降伏勧告を促すことにした。
「北条方は乗ってくるだろうか。」
「義父上、ここは間違いなく乗ってこないでしょう。しかし、この降伏勧告で揺らぐ者も城兵の中には少なからず現れます。その者達と連絡を取り城内で内乱を起こさせます。そうすれば我らが攻めるだけにございます。」
「しかし、玉縄の城主は北条家一門の北条綱成だ。そんなに易々と策に引っかかるとは思えぬが。」
「それを見極めるためでもあります。殿のためにも北条家の有能な人材は生かして配下にしたいですから。もし、この策が成功するようであれば北条綱成はそこまでの男です。」
そう言う刹那の顔を見た直盛は息子がこのような冷めた目をするのを初めてだった。
左近が緊張をしていたのはその指揮下にいた兵たちにも伝わっていた。ふだんなら私を信じろなどとわざと口にしない左近がそれを言ったことがその証拠であった。
しかし、兵たちからしたらそんなことは言われなくてもと言うことであった。兵たちは皆「左近様の指示を信じて戦うのみ。」そう思っていたからである。
上杉軍の先頭が空堀に入ろうか
「今だっ。放てっっ。」
そんなタイミングで左近は砲撃の指示を出した。
神威軍の鉄砲が一斉に火を吹いた。
その轟音から1秒とかからずに上杉軍の先頭を走っていた騎馬隊が次々と倒れていった。
生き残った先頭の者も目の前にある深い空堀に足を止めた。
だが、それはもう格好の的でしかなく次々と打ち倒されていく。
後ろのほうで前が進まなくなったのを気にした景家が
「次の斉射が来る前に馬防柵など壊してしまうのだっ。」
そう声をかけた。
しかし、前の兵たちは鉄砲に恐れているわけではなく空堀のために進めないのでそう声をかけられても無闇に進むことは出来なかった。
中には空堀を下り馬防柵まで来ようとする者もいたが、左近は率先してその者から倒して行ったためなかなか後には続けなかった。
「上杉の兵さん達、そんなところで立ち止まってたら鉄砲の餌食になるだけだぞ。早いとこ撤退をしたらどうだ。」
左近がそう上杉軍を挑発した。
するとそれに怒りを覚えた上杉軍が空堀に次々と侵入してきた。
それを見た左近はニヤリとすると鉄砲玉の雨を更にお見舞いするのであった。
「このままではまずい。皆、一時撤退だ。」
これ以上の被害を避けるべきと考えた景家は撤退命令を出し、本陣へと戻って行った。
それを確認した左近は兵達を労い、見張りの兵以外に休むように命を出した。
「左近殿、うまくいきましたね。」
「ええ、昌幸殿もこのような策を出せるようにならなければなりませんよ。」
「はいっ。」
一方、謙信は景家から報告を聞いていた。
「お館様、申し訳ございません。おめおめとやられてしまいました。」
「いえ、被害を最小限に抑えたのは景家の手柄でしょう。良い判断でした。して、詳細を伝えてください。」
それから謙信は馬防柵の下に空堀があること、止まることのなかった銃撃、統率の取れた動き、そして武田の兵ではなく、徳川の兵であったことなどを知った。
「今回、徳川と武田が組んで北条を攻めているのは知っていましたが、まさか武田の守りに徳川の兵が使われていようとは。」
「いかがなさいましょう。」
「騎馬隊を中心とした編成である我らに鉄砲を中心とする編成である軍を相手にするのは不利でしかない。」
「お館様、ここは様子を見るのが上策かと思います。徳川の兵であると言うことはこちらが攻めなければあちらから攻撃をしかけてくることはないでしょう。殿だけを残し迂回して沼田あたりを攻めるのがよろしいのではないでしょうか。」
沼田への迂回を提案したのは上杉の知恵袋である家老、直江景綱であった。
「そうですね。景家、お主にここの殿を任せます。」
謙信は沼田への迂回を決めるとその夜には海津城付近から姿を消した。
翌朝、それを確認した左近は全軍に撤退を命じた。
「左近殿、撤退してよろしいのですか?いつまた上杉が来るとも限らぬのでは。」
「いや、上杉がいなくなったと言うことは沼田あたりにでも兵を迂回させた証拠でしょう。それならばまたこちらに向かってくることはありませんな。」
「沼田に向かったのであればそちらに向かわなくてよろしいのでしょうか。」
「沼田は先日、武田が落としたばかりの城、武田の兵が守りを固めているでしょう。我らが向かう必要はありません。それに殿からは海津城付近に現れた上杉軍を撤退させた後はそこを離れるようにと指示されています。」
「なぜに殿はそのような指示を?」
「同盟を組んでるとは言え縁組を交わしているわけではないのでその軍が長々と領地深くにいることで波風を立てないためでしょうな。」
左近の意見を聞いてなるほどと頷くばかりの昌幸であった。
後に神威家にとってなくてはならない人物になる昌幸もこの時はまだ様々なことを学ぶ若人であった。
玉縄城攻めを担当していた刹那は玉縄城を完璧に包囲すると降伏勧告を促すことにした。
「北条方は乗ってくるだろうか。」
「義父上、ここは間違いなく乗ってこないでしょう。しかし、この降伏勧告で揺らぐ者も城兵の中には少なからず現れます。その者達と連絡を取り城内で内乱を起こさせます。そうすれば我らが攻めるだけにございます。」
「しかし、玉縄の城主は北条家一門の北条綱成だ。そんなに易々と策に引っかかるとは思えぬが。」
「それを見極めるためでもあります。殿のためにも北条家の有能な人材は生かして配下にしたいですから。もし、この策が成功するようであれば北条綱成はそこまでの男です。」
そう言う刹那の顔を見た直盛は息子がこのような冷めた目をするのを初めてだった。
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