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大鳥颯太、窮地に立たされる

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 その日は深夜から大鳥颯太は大変だった。

 手塚大也を犯罪忍者対策室にレンタルに出して平穏な日々が戻ってきたと思ったのに突然、深夜に風牙一族の幹部の風牙小次郎から苦情の電話が入ったのだから。

 何の事かと思えば、

「おまえさんのところの手塚大也が何故か風牙一族と敵対してる幹部を攫って屋敷の門前に放置してな。お陰で風牙一族は総理退陣の慣例破りを扱いだわ。どうしてくれる?」

「今の手塚大也の所属は犯罪忍者対策室預かりなので苦情ならそちらにお願いします」

「そんな言い訳が通ると思ってるのか、この責任は取って貰うからな」

 それで電話は切れたのだが、





 朝10時。

 大鳥颯太はとんでもない事態に巻き込まれる破目になった。

 小森総領家の令嬢、奈子の暗殺幇助疑惑である。

 既に主犯の猿飛聖は犯罪忍者対策室の室長を罷免され、佐渡送りとなっており、颯太までが聖とつるんでいた為に幇助疑惑で調べられる結果となった。

 よって現在居る場所は犯罪忍者対策室の本部ビルの取調室ではなく、伊賀の上忍三家、藤林家の継承家、陽炎かげろう家の屋敷である。

 はっきり言って、犯罪忍者対策室の本部ビルなんぞよりもヤバイ場所だった。

 伊賀忍者の最高裁判所と同意語なのだから。

「で? どういう取引を猿飛聖としたのかね?」

 上座で陽炎家の当主、78歳の陽炎銀治が尋ねたが、最高決定権を持つのは一段下がった横側に座る陽炎家に仕える50代のキレ者の浜屋三船である。

「手塚大也を貸して欲しいと。その為、『百瀬喜多郎が佐渡から脱獄した』という事にしました」

「はあ? それを信じたのか、手塚は?」

「そう聞いています」

「嘘臭過ぎるな。浜屋、確認を取れ」

 その場で三船がスマホにて電話を掛けた。

 数人の取り次ぎの後、スピーカーフォンにされたスマホから、

『ーー誰、おまえ? こっちは立て込んでるんだけど?』

 不機嫌な大也の声が流れてきた。

「陽炎家に仕える浜屋です。いくつか質問があるのですが?」

『陽炎の浜屋? 三船と三坂、どっち?』

「三船の方です」

『ほう、陽炎の懐刀の浜屋三船ね~。そんな暇、本当はないけどその名に免じて答えてあげるよ』

「では質問なのですが、どうして犯罪忍者対策室に宿泊されてるんです?」

『何か大鳥と猿飛の間で妙な盟約が交わされたっぽくてさ。『佐渡から百瀬喜多郎が逃げたから捕縛に協力しろ』って子供でも分かるような嘘をつかれて派遣されたんだよ』

 それには聞いてる颯太も苦笑した。

「その際、大鳥から何か指示を受けましたか?」

『大鳥からは何も』

「――では他からは受けたので?」

『うん。龍園の軽トラが玄関に突っ込んできた時、受付係のお姉さんに『倒したらデートしてくれる』って。で、その夜デートに出掛けたら、その隙に本部ビルで脱獄騒ぎ。笑ちゃうでしょ、露骨過ぎて。これってオレもいいように動かされたって事なのかな?』

「ずばり聞きますが、新沼が小森の令嬢を狙った件に大鳥も噛んでると思いますか?」

『それはないでしょ。草薙部隊から聞いた話じゃあ、大鳥忍軍は4人の逃亡者を確保してたらしいから。4人のメンツの名前を聞いたら浜屋さんも違うとすぐに分かると思うよ』

「4人の名前を教えていただいても?」

『オレが見付けた風牙夜鶴の他は、紅月こうづきまこと

「待った逃げた中に紅月真が居たと主張するつもりですか? そんな報告、陽炎には上がってきていませんよ?」

『上がる訳ないでしょ、そんな大失態。必死で犯罪忍者対策室が隠してるってさ』

 大也は笑いながら答えた。

 紅月真とは一匹狼の暗殺が専門の忍者である。

 そして犯罪忍者対策室に逮捕されたのは上座に座る陽炎銀治の命を狙ったからだった。

 なので、場の空気が急激に張り詰める中、雰囲気を変えた三船が、

「本当に大鳥忍軍が紅月真を匿っていたんですね?」

『草薙が言うにはね』

 三船の変化に気付いた様子もない電話の向こう側の大也がさらっと答えた。

「本当ならーー大分話が変わってきますね」

『でしょ? 残る2人は鷹山寛吉、野々宮リンダで、オレも名前を知らないくらいだから大した事ないと思うけどーー紅月真の名前は田舎者のオレでも知ってるから。絶対にヤバイ事も。大鳥忍軍も何を考えてるのかね? トップとトップの弟は喋った感じまともだったけど、トップの息子は少し変な感じだったし。トップの息子が噛んでたらかなり拙いかもね。そんな訳で小森のお嬢様の件には大鳥は噛んでないと思うよ。ってか、陽炎そっちの警備、厳重にした方がいいと思うよ』

「それは御丁寧に」

『ではオレはこれで』

「情報が本当だった場合、必ずやお礼をさせていただきます」

『じゃあ、お礼、期待してるね』

 それでスマホは切れた訳だが、

「『紅月真を大鳥が匿っていた』ね~」

 上座の銀治が嫌味ったらしく颯太を見た。

「お待ちを。私の知らない情報です。逃げた事すら知りませんでした。草薙が誤認して手塚に伝えた可能性もあります」

「そうだな。確認すれば分かる事だな。浜屋、どう裁く?」

「紅月が逃亡した事を知っていながら陽炎の尋問に虚偽をついた件は有罪」

 三船が言い放った。

 颯太は背後の広間の末席に控える連中の中に『さとり』の妖怪憑きが居た事を遅蒔きに知ったが後の祭りで、

「大鳥が匿っていた話が本当なら、小森の件は無罪。『陽炎への反逆』で有罪でしょうか」

 更に三船が続け、上座の銀治が、

「では、少し大鳥忍軍に探りを入れるか。どこを調べればいいと思う?」

「降格した幹部氏族などがよろしいかと」

 そんなやり取りがされるのを黙って聞いていた颯太は、

(まさかな、そこまで馬鹿じゃないだろう)

 と楽観視したが、幹部氏族達がそこまで馬鹿だった為に先程の虚偽が祟り、引責引退まで追い込まれるのだった。
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