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卒業パーティーで真実の愛に目覚めた婚約者に婚約破棄されました。悲しくて泣くだけでざまぁなんてする余裕はありませんでした。なのに本当のお父様が

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「ユリーナ・オルガンっ! おまえとの婚約をこの場で破棄するっ!」

 カミーリヤ王国の貴族学校の卒業パーティーで、私ことユリーナ・オルガンに大声でそう叫ばれたのは私の婚約者で公爵令息のゼロト・コンパルトス様でした。

 婚約者のゼロト様にエスコートもされず友達と一緒に卒業パーティーにやってきたばかりの私は突然の事に、何を言われてるのか理解に苦しみ、

「えっ? どういう事ですか、ゼロト様っ?」

 そう尋ねると、ゼロト様が、

「未練がましくオレの名を軽々しく呼ぶなっ! 男爵令嬢ごときがっ!」

「いえ、ですが名前で呼ぶよう言われたのはゼロト様で・・・」

「あれは父上の命令だったから仕方なくおまえに呼ばせていただけだっ! そもそもおまえとはたった今、婚約破棄したんだよっ!」

 またもや婚約破棄を口にされたゼロト様が兼ねてより仲の良かった御学友のインバーナ公爵令嬢のコーギー様を抱き寄せて、

「オレの真実の愛の相手はこのコーギーだっ! おまえのような下位貴族の娘なのではないっ!」

「キャア、嬉しい。ようやく言ってくれましたのね、ゼロト」

 とコーギー様が喜ばれて馴れ馴れしくゼロト様と抱き合われる中、私は、

「で、ですが、私達の婚約は親同士が決めた・・・」

「その婚約を破棄すると言ってるんだっ!」

「り、理由は何なんですか? 私に何か落ち度でもっ?」

「おまえの落ち度はーー下位貴族の男爵家生まれだという事だっ! コンパルトス公爵家の後継のこのオレと下位貴族の男爵令嬢が婚約してた事自体が間違いだったんだよっ!」

「・・・えっ? 私が男爵令嬢だから? そんな理由で?」

「そんな理由ではないっ! 大事な事だっ! おまえと婚約した子供の頃からずっと思っていたっ! どうしてコンパルトス公爵家の後継者であるこのオレが男爵の娘なんかと婚約しなければならないのかとっ? 分かるか、男爵令嬢が婚約者だと陰で言われてさげすまれていたオレのみじめな気持ちがっ! それもこれもユリーナ、おまえごときがオレの婚約者だったからだっ! もうオレの前から失せろっ! 目障りだっ! オレの有責という事で貧乏人の男爵には慰謝料をタンマリとくれてやるっ! ありがたく思えっ!」

 とゼロト様に一方的に見捨てられた私は余りに悲しくてその場で大粒の涙をポロポロと流してしまいした。

「酷い。そんな自分勝手な理由で・・・私はゼロト様の為に、これまで・・・」

 そんな泣いてる私に向かって、

「ヤダわ、泣いてるわ。この子?」

 コーギー様が笑うと、取り巻きの上位貴族の皆さんも、

「まあ、コンパルトス公爵家という玉の輿に乗り損ねたんだ。そりゃ泣くだろ」

「そもそも誕生日にプレゼントはもちろんメッセージカードの1つも送られなかったんだ。分別のある貴族の令嬢ならば男爵であっても普通は悟って自ら身を引くものだがな」

「穢らわしいわ。男爵令嬢の分際でっ!」

「慰謝料の増額を狙って泣いてるんじゃない?」

 と泣いてる私をからかわれる中、

「おい、婚約破棄をするにしても卒業パーティーのこの場で宣言するのはやり過ぎだろうがっ!」

 と誰かがゼロト様に言われてましたが、私は溢れてくる涙で何も見えませんでした。

「ここにも身の程をわきまえない下位貴族が1人。この貴族学校も問題だな。上位貴族と下位貴族で完全に分ければいいものをっ!」

「黙れっ! このアホボンがっ!」

 怒声と共にバキッと音が聞こえ、

「――グア」 

「大丈夫か?」

「貴様、自分が何をしたのか・・・」
 
「おまえ達がこちらの令嬢にした事に比べたら軽いものさっ!」

「何だとーー」

「やっちまえっ!」

「お上品な上位貴族様に喧嘩が出来るのかよっ?」

 その後は騒動となり、私はと言えば、

「ほら、ユリーナ、今の内に――」

 学友のマリーに腕を引っ張られて、何やら喧嘩が始まる中、私はそのまま卒業パーティーを後にしたのでした。


 ◇


 馬車でマリーに小さいながらも貴族屋敷のオルガン男爵家の屋敷まで送って貰い、玄関を潜ると、お母様が居て、

「あら、卒業パーティーに出席してた割には早かったのね? ーーちょ、どうしたの、ユリーナ? マリーちゃん、何があったの?」

「それが、あの馬鹿婚約者が卒業パーティーで・・・・・・」

 マリーからの説明を聞いたお母様が、

「そう。ユリーナの事を嫌ってたとは思ってたけど、そんな事が」

 と理解されて、私を優しく抱き締めて頭を撫でてくれて、

「辛かったわね。うんとお泣き、ユリーナ」

 と言われたので、私は、

「うえぇぇぇぇぇん、お母様ぁ~」

 とお母様の胸の中で泣いたのでした。


 ◇◆◇


 一方、貴族学校の卒業パーティーは乱闘騒ぎを聞き付けて、遂には教官達が雪崩なだれ込み、

「何だ、この騒ぎはっ! おまえ達は自分が栄えあるカミーリヤ王国の貴族の仲間入りを本日からしたという事が分かっていないのか? 卒業パーティーでこんな騒動を起こすなんて前代未聞だぞっ!」

「本年度の卒業パーティーは中止とするっ! 解散だっ!」

 と宣言されて卒業パーティーは中止となったのだった。


 ◆


 卒業パーティーが中止となり、コンパルトス公爵家の大邸宅に戻って玄関を潜ったゼロトは、

「イチチチ、あの男・・・3発も殴りやがってっ!」

 殴られた頬を撫でていた。

「確か、アイツ、子爵の令息だったよな?」

 横に居たコーギーに尋ねると、

「ええ、ハンビーン子爵家のジョン様ですわ」

「西のトイレラ辺境伯の寄り子か。辺境伯ごと潰してくれるぅ」

 と呟く中、使用人達が集まってきて、

「ゼロト様、どうされましたので、その御顔は?」

「すぐに濡らしたタオルを持ってきますね」

「それよりも父上と母上は?」

「御両人ともリビングに居られます」

「そっちが先だ。コーギー、行くぞ」

「はい」

 こうしてコンパルトス公爵夫妻の居るリビングへと出向き、寛いでいた父親のコンパルトス公爵が、

「うん、ゼロトか? 卒業パーティーはどうしたんだ? と言うか、何だ、その顔は?」

「それよりも先に父上と母上にご報告があります。オレはユリーナ・オルガンとの婚約を破棄し、新たに公爵令嬢のコーギー・インバーナと婚約しました」

「はあ?」

 コンパルトス公爵が嫌な予感を覚えながら、

「待て・・・まさか、向こうからゼロトに婚約破棄を切り出してきたのか?」

「そんな訳ないじゃないですか。こっちから卒業パーティーでバッチリと皆の見てる前で大々的に婚約を破棄してやりましたよっ! ユリーナは泣いてましたがねっ!」

 とゼロトが得意げに言うと、コンパルトス公爵が席から立ち、

「この、バカモンがっ!」

 激怒と共に鉄拳をゼロトの顔面に叩き込んだのだった。

「ーーグアア、父上、何を・・・」

 吹き飛ぶゼロトが父親に殴られたのが初めてだったので驚く中、夫人が、

「アナタ、実の息子に手を挙げるだなんてっ! それにこの際だから言わせていただきますが、ゼロトとあの娘との結婚にはわたくしも反対でしたわっ! そもそもどうして公爵家が男爵家の娘を嫁になんか迎えねばなりませんの?」

 意見を言い、夫人の本心を知ったコンパルトス公爵が、

「揃いも揃ってっ!」

 と吐き捨て、

「男爵家の令嬢と公爵家のゼロトの婚約が成立した時点でおまえ達は、何か変だ、とは思わなかったのかっ?」

「どういう意味ですの?」

「公爵の子供と男爵の子供の婚約なんて普通に考えたらあり得ん事だろうがっ!」

 と改めて指摘されて、確かに言われてみれば、と遅蒔きに変だと気付いた夫人にコンパルトス公爵が、

「あの娘は国王陛下が火遊びした御子なんだよっ! 王妃と側妃が王室に入れるのを嫌がって男爵家に預けられたが、ゼロトとの結婚後に王族扱いとなる約束で、ワシが引き受けたんだっ!」

「ユ、ユリーナが陛下の娘?」

 ゼロトが驚き、公爵夫人も、

「どうして、そんな重要な事を教えて下さらなかったのですか?」

「言える訳がないだろうがっ! 陛下の醜聞なんだぞ、一応っ! そもそも噂が流れた時点で、婚約は取りやめだと言われてるのにっ! ゼロト、すぐにユリーナに謝罪して来いっ! さもないと大変な事に――」

 とコンパルトス公爵が息子に命令をし終わる前に、ノックなしでドアを開けた筆頭執事が、

「だ、旦那様、騎士団の方々が・・・うわ、無礼な」

 報告しようとしたが、押し退けられて騎士が5人以上部屋に乱入してきた。

 普通の騎士でない事は鎧の装飾を見れば一目瞭然で、

「陛下の親衛隊だと? 速過ぎるっ!」

 とコンパルトス公爵が呻く中、

「コンパルトス公爵、それに夫人と令息。陛下がお呼びです。おお、インバーナ公爵家の令嬢もこちらに居られましたか。ではアナタ様もご一緒に」

「待てっ! 違うんだ、貴族学校の卒業パーティーでの事は何かの間違いでーー」

 コンパルトス公爵が親衛隊に言い訳をする中、

「陛下が話し合いをお望みです。4名とも王宮に来ていただきますよ。ああ、抵抗はされない方がいいです。我々は絶対に連れてくるよう厳命されていますので」

 と親衛隊の騎士の代表者が凄み、4人は親衛隊に連れられて王宮に出向いたのだった。


 ◆


「これのどこが話し合いだぁぁぁっ!」

 とコンパルトス公爵が絶叫したのは、王宮の玄関を潜って、国王陛下に弁明の謁見をする事も許されず、真っ直ぐに王宮の処刑場に連行されて断頭台の首枷に固定されたからだった。

「陛下っ! 聞いて下さいっ! 悪いのは息子のゼロトだけで、けっしてカミーリヤ王家に弓を引くとか、そんな事はーー」

 と観覧席でブチキレて睨んでる国王陛下に言い訳したが、無慈悲に刃が落ち、

「ギャアアアアア」

 と絶命したのだった。

 次は公爵夫人の番だ。

「陛下っ! 違うのですっ! まさか、ユリーナが陛下の御子だとは知らず、けして公爵夫人教育と称して嫌がらせをしてた訳ではーーギャアアアアア」

 と公爵夫人も首を落とされたのだった。

 次はゼロトの番だ。

 両親の処刑を見て、既に失禁して股間を濡らしていたが、断頭台に固定され、

「陛下っ! 知らなかったのです。ですから、ですから、命だけはーーグギャアアアアア」

 言い訳もむなしくゼロトも首が落ちたのだった。

 最後はコーギー・インバーナの番だ。

 断頭台の台座に首を固定される中、

「陛下、わたくしは関係ありません。本当はゼロトなんかに言い寄られて嫌だったのですっ! それにわたくしはインバーナ公爵家ですっ! こんな事をすれば父も母も黙ってはいませんっ! お考え直し下さいませっ!」

 と喚き立てると、横に居た死刑執行人が刃を吊るす縄から離れたので、助かった、とコーギーは一瞬思ったが、そのコーギーの前に首が二つ並べられた。

 その2人の首は既に処刑されていたコーギーの両親だったので、

「えっ? お父様とお母様? どうして? イヤアアアアアア」

 と絶望して泣き喚く中、刃は落ち、

「イギャアアアアアアア」

 と絶命したのだった。


 ◆


 カミーリヤ王国の貴族学校の卒業パーティーで起こった婚約破棄騒動は首謀者のコンパルトス、インバーナ両公爵家の首だけでは国王陛下の怒りが収まらず、卒業パーティーで泣いてるユリーナを笑った公爵令息と公爵令嬢の悪友や取り巻き達も1人残らず制裁を受けた。

 ある者は過去の犯罪を追及されて処刑によるお家断絶。

 ある者は家族揃っての馬車事故。

 ある者は不審火による屋敷全焼。

 ある者は毒キノコによる食中毒で全滅。

 卒業パーティーから僅か3日の間に8つの高位貴族の家が刑罰や不幸な事故で断絶した。


 ◇◇◇


 卒業パーティーで婚約破棄された私はと言えば5日間も自宅の部屋に引きこもっていた。

 ずっと泣いていたのだけど、もう厭きましたわ。

 それにお腹も空いたのでリビングに向かうと、お母様が、

「ユリーナ、もう大丈夫なの?」

「ええ、お母様。あれ、マリーも来てたの?」

「来てたのって・・・それは少し酷いんじゃない、ユリーナ?」

 とマリーが笑いながら怒って、可愛く口を尖らす中、お母様が、

「アナタが心配で毎日来てくれていたのよ、マリーちゃんは。卒業後に領地に帰るはずだったのにそれを延期にして」

 そう言われて、私は、

「ごめんなさい。マリーにまで心配をかけて」

「私だけじゃないわよ、心配してたのは」

「? どういう事?」

「ほら」

 マリーがリビングの窓の外に視線を向けた。

 オルガン男爵邸の庭は正直小さくて、塀も低いので、外の通りに馬車が停まってるのが見えた。

「何、あの馬車?」

「ハンビーン子爵家のジョン様の馬車よ」

「ジョン様? あの乱暴者の?」

 と私が尋ねると、お母様が呆れながら、

「乱暴者って・・・その令息、ユリーナ、アナタのナイト様じゃなかったの? 卒業パーティーで泣いてるアナタの代わりにおバカな婚約者を殴ってくれたってマリーちゃんから聞いたけど」

「そうなの、マリー?」

「ええ。それに、卒業パーティーの日から毎日、1時間くらいはあの場所で停車して屋敷を窺っているわよ。お礼を言ってきたら?」

 とマリーに言われたので、私は屋敷を出て馬車に近付くと、馬車の窓が開き、中から乱暴者のジョン様が顔を出されました。

 喧嘩でもしたのか頬に白い湿布を貼られてましたが。

「眼が真っ赤だな。5日間も泣いてたのか?」

「・・・はい」

 恥ずかしがりながら私が答える中、

「まあ、もう大丈夫そうだからいいか。じゃあな。オレはもう領地に帰るから」

「あの、卒業パーティーでは助けていただきありがとうございました」

 私がお礼を言うと、

「ふん、別におまえを助けた訳じゃない。アイツを殴りたかっただけさ」

 と乱暴者のジョン様は視線を逸らしてそうおっしゃいましたが、照れてるのか耳は真っ赤でした。

 あれ、意外と可愛いかも。

「おい、馬車を出せ」

 と馭者ぎょしゃに声を掛けられ、馬車が動き出す中、ジョン様が私に向かって、

「今回の事が原因で結婚出来なかったらオレがおまえを貰ってやる」

 と言って、

「えっ?」

 私が確認しようとした時には馬車は去っていったのでした。


 ◇


 その事を屋敷に戻って2人に話すと、

「あらあら」

 とお母様は上機嫌で微笑まれて、

「それって求婚じゃないの? 嘘、ジョン様ってユリーナの事が好きだったの?」

 と驚いたマリーも微笑んだのだった。


 ◇


 ジョン様の方からすぐに約書が届き、私がジョン様と結婚して幸せになるのはそれから間もなくの事でした。





 おわり
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