マリーハルケン王朝建国物語 〜婚約破棄されたのでお祖父様の悲願が達成されそうです〜

魚夢ゴールド

文字の大きさ
17 / 50
卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜

15、謹慎中の王太子によるマリーハルケン公爵邸のお茶会乱入事件

しおりを挟む
嘘のような話だが。

アンゼル宮殿のハミルが謹慎してた自室に残ったイーグルによる逃亡に使ったカーテンの回収。

騎士団長の令息チャックによるアンゼル宮殿を巡回する騎士との雑談という名の引き止め。

宰相サンドス伯爵家の貴族車。

謹慎中の(過去に一度もアンゼル宮殿を抜け出した事のない)王太子ハミルが部屋を抜け出すと思っていなかった警備担当の騎士達の油断。

この4つの要因に、

「アンゼル宮殿の秘密の隠し通路」。

これが加わった事で、脱走がバレる前に王太子ハミルはアンゼル宮殿の外門の外に脱出する事が可能だった。





本当にアンゼル宮殿から抜け出す事に王太子ハミルは成功したのである。





そして、先触れがなくても王太子のハミルはエルゼーシアの婚約者なのでマリーハルケン公爵邸の内部に入る事が出来た。

何せ、王太子ハミルの御本人なのだから。

例え、マリーハルケン公爵邸の門番が一番に馬車の紋章を確認するように訓練されていて、今回乗ってきた馬車の紋章が王家でなくてサンドス伯爵家の紋章だと気付き、どれだけいぶかしがろうと、御本人様だ。

市井では王太子の姿絵も売られており、王太子ハミルの顔は意外に有名で、門番達も知っていたのだから。

なので、貴族車の中から顔を出して、

「中に入れよ」

とハミル本人が言えば、門番は慌てた様子で、

「えっ、殿下、本物? どうして?」

「本日はこちらに来られる予定はありましたっけ?」

「いや、急遽だ」

「少々お待ちを。殿下を迎え入れる準備が出来ているか屋敷に確認して参りますので」

本邸に確認し、多少の時間が掛かろうがマリーハルケン公爵邸の門は開き、中に入れたのだった。





但し、王太子ハミルの行動が上手く行ったのはここまでだったのだが。





 ◇





何せ、本日は昼間にアンゼル宮殿の謹慎中のハミルの許に生徒会メンバーが出向けた事からも分かるように休日だ。

休日は当然、貴族学校も休み。

そして昼間。

とくれば、次期王妃のエルゼーシア・マリーハルケンが結婚してアンゼル宮殿に入る前から縁を作ろうと貴族達は必死な訳で、

未来の王妃に「男は近付けない」となれば貴婦人達が詣でをする事となり、

エルゼーシアの方でもアンドレーヌ王国の運営の為に貴婦人達とはよしみを結んでおかなければならず、時間を見付ければお茶会をしていた。

アンドレーヌ王国で権勢を誇るマリーハルケン公爵家のお茶会で、次期王妃のエルゼーシア嬢と誼を通じれるのだ。招待状など貰おうものなら貴婦人達は最優先でお茶会に出席だ。

なので、本日のマリーハルケン公爵邸の自慢の中庭のガゼボでのお茶会も欠席者なく、貴婦人達が集まっていた。

次期王妃エルゼーシア嬢を目当てに集まった出席者達はアンドレーヌ王国切っての貴婦人達で、それも今回のお茶会の出席者は完全にマリーハルケン公爵派閥の人選だったので、

キーラ・ベーレ公爵夫人。出身家はサランド公爵家。王太后ムーラの姪でマリーハルケン公爵のエドックの従妹。

ケイミー・サランド次期公爵夫人。出身家はロート侯爵家。夫のイーラはマリーハルケン公爵の従弟。

アンジー・ヨルムバーク侯爵夫人。出身家はアッパーズ侯爵家。娘のパリスは次期マリーハルケン公爵であるフイトミーの婚約者。

メリッサ・クインベル侯爵夫人。出身家はオーエスト伯爵家。フイトミーの実母の妹。

この4人を筆頭に錚々たる顔ぶれの高位貴族の貴婦人達が集まっていた訳だが。





そのガゼボで開かれたお茶会に出席中のエルゼーシアにもメイドより報告があり、

「殿下が先触れもなしに我が家へ?」

「あら、殿下は確か謹慎中でしょう? 何かの間違いではなくって?」

と答えたのは母親のナシシー・マリーハルケンだった。

長い銀髪を高く盛った髪型の貴婦人である。カフス海の南沿岸諸国のアラプト王国のカカス公爵家出身だが、もうマリーハルケン公爵家に嫁いで20年近く経つ。アンドレーヌ王国にも馴染んでいた。

元々、素質があったのだろう。

「それとも王家が言う謹慎とは言葉だけで本当は殿下は自由に行動しているのかしら?」

サラッとこれくらいの事は言えた。

何の当てこすりかと言えば、王太子ハミルの謹慎は「婚約者エルゼーシアの18歳の誕生日パーティーを他の令嬢を優先して欠席した」事による罰なのだ。

その謹慎がなされていないのであれば、エルゼーシアと実家のマリーハルケン公爵家の事を「王家が軽く見てる」という事になり、それを大っぴらに指摘していたのだ。

「それが本当に来られておりまして。それも大層御立腹されているようで」

メイドが困った顔で答える中、屋敷の中で待ていられなかったのか、それとも早くアンゼル宮殿に帰らねばならなかったので時間が惜しかったのか、その王太子ハミルがエルゼーシアが居るという中庭のガゼボまで突撃してきた。

そしてガゼボでのお茶会に着飾った貴婦人達が20人近く居るのを目撃して「うっ」と気後れしたが、後には引けず、

「ようこそ、ハミル殿下」

席を立ち、美しいカテーシーで出迎えたエルゼーシアに、

「エルゼ、アンヌが貴族学校で噴水に突き落とされたと聞いたぞ。おまえがやらせたのか?」

「いいえ。あれは王太后陛下の意思が働いたと聞いておりますが」

「ならば王太后陛下に泣き付いたエルゼがやらせたのであろうが。二度とそのような事はするな。気分が悪いのでな」

「・・・」

ハミルが一方的に怒る中、エルゼーシアは別の事に関心があったので殆ど聞いていなかった。不思議そうな顔でハミルの顔を終始見ており、

「では邪魔したな」

「お待ちを、殿下。わたくしに何か他に言う事はないのですか?」

「用はそれだけだ」

「わたくしに謝罪等々はありませんので?」

誕生日パーティーに来なかった件に水を向けたのだが。

ハミルからすれば完全に思考の外だったので、きっぱりと、

「そんなものはない」

「あら、そうですの」

内心で幻滅するエルゼーシアに王太子のハミルは、

「玄関までの見送りは必要ない。茶を楽しむがいい」

そう言い残して、さっさとガゼボから去っていったのだった。





一連の若い2人のやり取りを見ていたナシシーが呆れ半分で娘を見て、

「エルゼ、どういう事なの? 謝罪の手紙はなかったのよね? 直接会って言われると思っていたのだけど謝罪がないなんて」

エルゼーシアが席に戻りながら、

「殿下は本心から『悪い』とは思っておられないのでしょう。何やら側妃候補の事で頭が一杯の御様子ですから」

「例の噴水に落ちた子爵令嬢の? 結婚前から側妃漁りなんて王家にも困ったものね~、そう思わない、皆さん?」

ナシシーが忠誠心を試すかのようにお茶会に出席したマリーハルケン公爵派閥の貴婦人達に水を向けると、

「王太子殿下にどのような教育をされてるのかしらね」

「今回の件は王家に抗議文を送る必要があるかと」

「結婚前から側妃漁りなんて前代未聞ですわ」

「それよりも殿下の側近は何をしていますの?」

「『次期マリーハルケン公爵のフイトミー様以外は使えぬ』という事ですわよね、当然」

「そう言えば次代様は居られませんでしたわね、どちらに?」

「本日は我がヨルムパーク侯爵邸で交流会でしてよ」

「それにしても、誕生日パーティーを欠席しておいて謝罪もないなんて。夫にされたら、わたくし離縁いたしますわ」

ロ々に貴婦人達は喋り出したのだった。





そして当然のように、アンゼル宮殿で謹慎中の王太子ハミルがマリーハルケン公爵邸のお茶会に乱入しての「エルゼーシアをそっちのけで側妃候補の子爵令嬢の心配をした」事は、あっという間に、それでいてマリーハルケン公爵陣営に都合良い形で、王都アンゼル中の貴族達にその日の内に面白おかしく伝わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

その掃除依頼、受けてやろう

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者パーティー「明るい未来」のリックとブラジス。この2人のコンビはアリオス王国の上層部では別の通り名で知られていた。通称「必要悪の掃除屋」。 王国に巣食った悪の組織を掃除(=始末)するからだが。 お陰で王国はその2人をかなり優遇していた。 但し、知られているのは王都での上層部だけでのこと。 2人が若い事もあり、その名は王都の上層部以外ではまだ知られていない。 なので、2人の事を知らない地方の悪の組織の下のその2人が派遣されたりすると・・・

公爵令嬢クラリスの矜持

福嶋莉佳
恋愛
王太子に「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄された公爵令嬢クラリス。 だがその瞬間、第二王子ルシアンが彼女の手を取る。 嘲笑渦巻く宮廷で、クラリスは“自分に相応しい未来”を選び抜いていく物語。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」 婚約者であるクラウディオ王太子に、王妃の生誕祝いの夜会で言い渡された私。愛しているわけでもない男に婚約破棄され、断罪されるが……残念ですけど、私と結婚しない王太子殿下に価値はありませんのよ? 何を勘違いしたのか、淫らな恰好の女を伴った元婚約者の暴挙は彼自身へ跳ね返った。 ざまぁ要素あり。溺愛される主人公が無事婚約破棄を乗り越えて幸せを掴むお話。 表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723) 【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19 【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+ 2021/12  異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過 2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...