16 / 50
卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜
14、謹慎中の抜け出し
しおりを挟む
アンゼル宮殿で謹慎中の王太子ハミルの耳に貴族学校のアンヌが落ちた噴水事件が伝わったのは謹慎6日目の事である。
つまりは噴水事件の翌日。
その日は休日でアンゼル宮殿に、昼間から謹慎中の王太子ハミルの様子窺いと共に学校の書類を届けに生徒会のお馴染みのメンバー(とは言っても、アンヌはアンゼル宮殿に気軽に出向ける身分ではなく、フイトミーは婚約者との交流日なので2人は居らず)ジョン、チャック、イーグルの3人がきていた訳だが。
その3人中2人は「謹慎が明けるまでは」と話題にもしなかったのだが、残る1人が口を滑らせて貴族学校であったアンヌが被害者となった噴水事件の事をハミルに教えてしまっていた。
いや「口は滑らせた」は正確ではない。王太子のハミルに「忠誠心を示せ、なおかつ使える奴だ」とアピールする絶好の機会だったので「故意に伝えた」のだから。
素知らぬ顔で噴水事件の事を伝えたのはイーグルだった。
祖父である宰相ブラックスの血だろうか。「商人ながら政治にも精通している私って凄いな」と思っているのは本人だけである。
何故ならばこの伝達は完全な悪手なのだから。
本当に「最低なくらい」は喋らなかった残る2人も分かっており「教えるか、普通」「拙いな、殿下の性格を考えると」一瞬だけだがイーグルが喋った事に不快感を表したのだが。
「な、アンヌがそんな事に?」
「はい」
他者を出し抜いた、と思って鼻高々のイーグルが「役立つでしょ、私めは? 国王になられた際は引き続きサバルス商会のお引き立ての方よろしくお願いしますね」との知的なドヤ顔で頷いている訳だが。
伝えられて一番にハミルが思った事は、
「エルゼか? アイツが私が誕生日パーティーに行かなかった腹いせに取り巻きにやらしたのか?」
「切れ者」を自称するイーグルに抜かりはない。
ちゃんと総ての情報を精査してからハミルに伝えていたので、
「いえ、退学になった女生徒は王家直轄のロリエ・モカ男爵令嬢です。領地は北部、パルプス山脈近くだったかと」
そうなのだ。
噴水にアンヌを落とした女生徒は当日の夕方には貴族学校を本当に退学になっていた。
「噴水に突き飛ばした」ごときで。
さすがはお貴族様が通う貴族学校だ。
平民が通う学校とは規律が違う。
つまりは「今回は被害者が子爵令嬢だったから良かったものの、噴水に突き飛ばすなどという野蛮な事をする令嬢は王太子殿下や未来の王妃のマリーハルケン公爵令嬢にも同じ事をするぞ、さっさと退学だ」と実家の爵位が男爵だった事もあり一発退学となった訳だ。
これが王太子ハミルが通学する代の貴族学校側の対応である。
「どうせ、エルゼがその男爵令嬢にやらせたのであろう」
顔見知りのアンヌが被害に遭い、その義憤で視野を狭くしたハミルはそう決め付けた。
決め付けただけならば良かったが、「とんでもない事」を言い始めた。
「今からエルゼに会いに行くぞ、おまえ達、手伝え」
「はい? 今からとは? 殿下は謹慎中ですけど?」
分かり切った事を指摘したのはチャックである。
そう質問したチャックは別に脳筋だからでも頭が悪いからでもない。
確かにチャックの家のアリストン伯爵家は武門だが、騎士団の幹部には兵の指揮や兵糧の計算も必要なので、身体だけではなくちゃんと頭の方も幼少期から鍛えられている。
では「どうしてそんな質問をしたのか」と言うと、騎士団長の父親に厳しく育てられていた為「謹慎中に抜け出す」などという違反行為が一切、頭の中になかったのだ。
「だから抜け出すのだ」
「なりません、殿下。そうでなくてもマリーハルケン公爵令嬢の誕生日パーティーを欠席した事で両陛下からお叱りを受けておりますのに」
正論を口にしたのは1歳年下のジョンである。
だが、1歳の年齢差以前に王子と臣下だ。例え言ってる事が「正しかろう」と上が言えば正論など簡単に吹き飛ぶ。
「そんな事はいいからともかく手伝え」
それが王太子ハミルの決定だった。
チャックとジョンが困惑しながら顔を見合わせる中、乗り気のイーグルが、
「どのようになされますので?」
「窓から出る」
ハミルは視線を窓に向けた。この部屋は2階だ。
「カーテンを結び、ロープのようにし、巡回の途切れた隙に抜け出すのだ」
「妙案だろ?」とドヤ顔をする王太子ハミルに対して、
「さすがは殿下、見事な策です」
追従したのはイーグルだけである。
チャックとジョンは互いに視線だけで、
(謹慎中に抜け出すなんて駄目だよな?)
(当然です)
(おまえの従兄ってバカなのか?)
(あんなのが従兄なんてボクは認めてませんが)
(なら、さっさと排除しないと拙いぞ)
(祖父に言っておきます)
そんな会話をした訳だが。
信じられない事にその後、謹慎中の王太子ハミルによるアンゼル宮殿の抜け出し計画は本当に実行されたのだった。
つまりは噴水事件の翌日。
その日は休日でアンゼル宮殿に、昼間から謹慎中の王太子ハミルの様子窺いと共に学校の書類を届けに生徒会のお馴染みのメンバー(とは言っても、アンヌはアンゼル宮殿に気軽に出向ける身分ではなく、フイトミーは婚約者との交流日なので2人は居らず)ジョン、チャック、イーグルの3人がきていた訳だが。
その3人中2人は「謹慎が明けるまでは」と話題にもしなかったのだが、残る1人が口を滑らせて貴族学校であったアンヌが被害者となった噴水事件の事をハミルに教えてしまっていた。
いや「口は滑らせた」は正確ではない。王太子のハミルに「忠誠心を示せ、なおかつ使える奴だ」とアピールする絶好の機会だったので「故意に伝えた」のだから。
素知らぬ顔で噴水事件の事を伝えたのはイーグルだった。
祖父である宰相ブラックスの血だろうか。「商人ながら政治にも精通している私って凄いな」と思っているのは本人だけである。
何故ならばこの伝達は完全な悪手なのだから。
本当に「最低なくらい」は喋らなかった残る2人も分かっており「教えるか、普通」「拙いな、殿下の性格を考えると」一瞬だけだがイーグルが喋った事に不快感を表したのだが。
「な、アンヌがそんな事に?」
「はい」
他者を出し抜いた、と思って鼻高々のイーグルが「役立つでしょ、私めは? 国王になられた際は引き続きサバルス商会のお引き立ての方よろしくお願いしますね」との知的なドヤ顔で頷いている訳だが。
伝えられて一番にハミルが思った事は、
「エルゼか? アイツが私が誕生日パーティーに行かなかった腹いせに取り巻きにやらしたのか?」
「切れ者」を自称するイーグルに抜かりはない。
ちゃんと総ての情報を精査してからハミルに伝えていたので、
「いえ、退学になった女生徒は王家直轄のロリエ・モカ男爵令嬢です。領地は北部、パルプス山脈近くだったかと」
そうなのだ。
噴水にアンヌを落とした女生徒は当日の夕方には貴族学校を本当に退学になっていた。
「噴水に突き飛ばした」ごときで。
さすがはお貴族様が通う貴族学校だ。
平民が通う学校とは規律が違う。
つまりは「今回は被害者が子爵令嬢だったから良かったものの、噴水に突き飛ばすなどという野蛮な事をする令嬢は王太子殿下や未来の王妃のマリーハルケン公爵令嬢にも同じ事をするぞ、さっさと退学だ」と実家の爵位が男爵だった事もあり一発退学となった訳だ。
これが王太子ハミルが通学する代の貴族学校側の対応である。
「どうせ、エルゼがその男爵令嬢にやらせたのであろう」
顔見知りのアンヌが被害に遭い、その義憤で視野を狭くしたハミルはそう決め付けた。
決め付けただけならば良かったが、「とんでもない事」を言い始めた。
「今からエルゼに会いに行くぞ、おまえ達、手伝え」
「はい? 今からとは? 殿下は謹慎中ですけど?」
分かり切った事を指摘したのはチャックである。
そう質問したチャックは別に脳筋だからでも頭が悪いからでもない。
確かにチャックの家のアリストン伯爵家は武門だが、騎士団の幹部には兵の指揮や兵糧の計算も必要なので、身体だけではなくちゃんと頭の方も幼少期から鍛えられている。
では「どうしてそんな質問をしたのか」と言うと、騎士団長の父親に厳しく育てられていた為「謹慎中に抜け出す」などという違反行為が一切、頭の中になかったのだ。
「だから抜け出すのだ」
「なりません、殿下。そうでなくてもマリーハルケン公爵令嬢の誕生日パーティーを欠席した事で両陛下からお叱りを受けておりますのに」
正論を口にしたのは1歳年下のジョンである。
だが、1歳の年齢差以前に王子と臣下だ。例え言ってる事が「正しかろう」と上が言えば正論など簡単に吹き飛ぶ。
「そんな事はいいからともかく手伝え」
それが王太子ハミルの決定だった。
チャックとジョンが困惑しながら顔を見合わせる中、乗り気のイーグルが、
「どのようになされますので?」
「窓から出る」
ハミルは視線を窓に向けた。この部屋は2階だ。
「カーテンを結び、ロープのようにし、巡回の途切れた隙に抜け出すのだ」
「妙案だろ?」とドヤ顔をする王太子ハミルに対して、
「さすがは殿下、見事な策です」
追従したのはイーグルだけである。
チャックとジョンは互いに視線だけで、
(謹慎中に抜け出すなんて駄目だよな?)
(当然です)
(おまえの従兄ってバカなのか?)
(あんなのが従兄なんてボクは認めてませんが)
(なら、さっさと排除しないと拙いぞ)
(祖父に言っておきます)
そんな会話をした訳だが。
信じられない事にその後、謹慎中の王太子ハミルによるアンゼル宮殿の抜け出し計画は本当に実行されたのだった。
26
あなたにおすすめの小説
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした
ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
その掃除依頼、受けてやろう
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者パーティー「明るい未来」のリックとブラジス。この2人のコンビはアリオス王国の上層部では別の通り名で知られていた。通称「必要悪の掃除屋」。
王国に巣食った悪の組織を掃除(=始末)するからだが。
お陰で王国はその2人をかなり優遇していた。
但し、知られているのは王都での上層部だけでのこと。
2人が若い事もあり、その名は王都の上層部以外ではまだ知られていない。
なので、2人の事を知らない地方の悪の組織の下のその2人が派遣されたりすると・・・
公爵令嬢クラリスの矜持
福嶋莉佳
恋愛
王太子に「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄された公爵令嬢クラリス。
だがその瞬間、第二王子ルシアンが彼女の手を取る。
嘲笑渦巻く宮廷で、クラリスは“自分に相応しい未来”を選び抜いていく物語。
魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす
三谷朱花
恋愛
ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。
ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。
伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。
そして、告げられた両親の死の真相。
家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。
絶望しかなかった。
涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。
雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。
そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。
ルーナは死を待つしか他になかった。
途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。
そして、ルーナがその温もりを感じた日。
ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」
婚約者であるクラウディオ王太子に、王妃の生誕祝いの夜会で言い渡された私。愛しているわけでもない男に婚約破棄され、断罪されるが……残念ですけど、私と結婚しない王太子殿下に価値はありませんのよ? 何を勘違いしたのか、淫らな恰好の女を伴った元婚約者の暴挙は彼自身へ跳ね返った。
ざまぁ要素あり。溺愛される主人公が無事婚約破棄を乗り越えて幸せを掴むお話。
表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723)
【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19
【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+
2021/12 異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過
2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる