マリーハルケン王朝建国物語 〜婚約破棄されたのでお祖父様の悲願が達成されそうです〜

魚夢ゴールド

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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜

21、王家の策略

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貴族学校の食堂で毒騒ぎがあった事はその日の内に王都アンゼル中の貴族達に伝わった。

その事を事前に知らなかった者達も王太后ムーラと大公ニヒル・アフスと前公爵エドモンド・マリーハルケンの王都を出発する日時が重なった意味を遅蒔きに知った。

今回の貴族学校の食堂の毒騒ぎは「王家主導だ」と。





 ◇





貴族学校を欠席したついでに婚約者のパリス・ヨルムバークとの交流を深めていたフイトミー・マリーハルケンはその毒騒ぎをヨルムバーク侯爵邸で聞いた。

「本当なの、それ?」

と尋ねたパリスは貴族学校の1年生。

長い銀髪と青眼で可愛い印象の令嬢だ。まあ、可愛いだけでは高位貴族の令嬢は務まらない。それなりのズルさも兼ね備えていたが。

それでも婚約者のフイトミーの前なので「キャハハ、何それ~?」と素の残忍な笑みを浮かべる事などはしない。

物騒な事を咎めるように嫌そうな顔の演技をしてパリスはメイドに問うていた。

「はい、大騒ぎになっております。どうも王家主導との噂までが広まっています」

国王の母親の王太后と国王の弟の大公の出発時間が食堂の毒の木の実事件とモロ被りなのだからそう噂が立つのも当然だ。

というか、そもそも王都アンゼルから出発する時刻が昼なのも「変」過ぎる。

つまり、そういう事なのだろう。

「フイト様は御存知でしたの?」

パリスがそう婚約者を疑ったのは当然だ。

「貴族学校を休んで死んだお祖母様の姉君の王太后陛下の出発の見送りに行こう」と提案して本日パリスを欠席させたのだから。

「隠せない」と判断したのか、それとも「喋っていい」と言われていたのか、フイトミ一は苦笑混じりに、

「内緒だよ、パリス嬢」

「わたくしは知りませんでした」

「教えて欲しかったですわ」と可愛く口を尖らせるパリスを見て、

「知らない方がいいさ。王家主導の策動なんて物騒過ぎる」

「でもわたくしもフイト様と結婚してマリーハルケン公爵夫人になったら・・・」

「その時は嫌でも知るかな。その時は素知らぬ顔をするんだよ、パリス嬢も」

髪を撫でフイトミーはパリスを宥めた。

「誰にも教えたら駄目なんですか?」

「御両親には・・・直接囁くのならいいが手紙は駄目だね。手紙が盗み見られたら大変な事になるから」

「公爵夫人って思っていたよりも大変なんですね」

「それよりも今回の策動さ。殿下が知ったら絶対に怒るはずだ。『義姉上が王家に泣き付いてやらせた』と的外れな事を言って。本当に大変だよ、殿下の側近は。今回が『最後の警告』らしいのに」

「最後の? 次はどうなるんですの?」

「結婚相手を斡旋されるらしい。おっと」

そう口を滑らせてからフイトミーはパリスを真剣に見て、

「今のは内緒だよ、パリス嬢。いいね」

「は~い」





 ◇





そして、そんな貴族学校の食堂の食中毒事件が起きた同日の事である。





アンドレーヌ王国で罪を犯した平民の犯罪者は王家や貴族に反逆しない限り、極刑はあり得ない。

大概は労役刑となった。

王都アンゼルで労役刑を受けた罪人はアンドレーヌ王国の王都アンゼル近郊にあるナンシーサン侯爵の領地にあるイクシー銀山に送られるのが通例である。

そこで刑期の間、鉱夫として銀鉱石の採掘、または銀の精製をやらされる訳だ。

刑期が明ければ労役から解放される。

書類の紛失などの嫌がらせがなければ。





そのイクシー銀山はアンドレーヌ王国の直轄の銀山ではない。

ナンシーサン侯爵家の領地に属した。まあ、「アンドレーヌ王国の鉱山法でその利益の50%が税」なので王国が損をするという事はないのだが。

だが。

ナンシーサン侯爵家とは国王カミルの側妃スミアンの出身家である。

前マリーハルケン公爵がイクシー銀山を有するナンシーサン侯爵家を取り込もうと水面下で動いた情報をキャッチした王家が「侯爵令嬢だったスミアンを側妃に召し抱えて強引にナンシーサン侯爵家を王家の陣営に引き入れた」という経緯を持つ。

この側妃話はナンシーサン侯爵家からしても「情勢次第では非常においしくなる」政略だった。

もしアンドレーヌ王国が同盟国である東隣国のサラット王国と険悪な関係になればサラット王家出身の王妃ミラリーが産んだ第1王子ハミルの即位する芽がなくなってスミアンが産んだナンシーサン侯爵家の血を引く子供、第2王子のコミルが国王として即位するのだから。

それにスミアンが側妃になる事でナンシーサン侯爵家もイクシー銀山の税収面で優遇措置を受けている。

税率が50%から38%に軽減するという。

たかが12%と思うなかれ。

金貨100枚の利益なら金貨12枚だが、金貨1000枚の利益なら金貨120枚、金貨1万枚の利益なら金貨1200枚、金貨10万枚なら金貨1万2000枚なのだから。

莫大な利益を生むイクシー銀山で12%は大金だった。

そうなのだ。

このイクシー銀山の税率の軽減措置からも分かるように、王家はナンシーサン侯爵家を自分の陣営に引き入れる為にかなり無理をしていた。





そんな情報はともかくとして。





国王カミルの裁定で(秘密だが宰相ブラックス・サンドスの孫で)サバルス商会の会頭の息子イーグルは、王太子ハミルの謹慎中の脱走の巻き添えで5年間の労役を課される事となった。

ここまでは確定情報である。

そして、その罪人イーグルの(隠された系譜で)伯父に当たる内務卿ジョール・サンドスが暗躍してイーグルに断種措置を施した事も確定だったが。





だが、その後は通常と少し異なっていた。





イーグルは信じられない事にイクシー銀山に搬送される前の王都アンゼルの牢獄で人知れずチョメされていたのである。

無論、宰相ブラックス・サンドスの許可を得てだ。





 ◆





イーグルの未来が確定したあの王太子ハミルの側近3人の処遇を決定し退室させた後に、アンゼル宮殿の国王執務室で国王カミルが、

「宰相、あのサバルス商会の会頭の息子は駄目だな」

「申し訳ございません」

「あれは絶対に銀山で王家の不満を口にするぞ。下手をすれば宮殿の隠し通路の事も」

「口を封じるべきかと」

それを口にしたのは祖父にあたる宰相のブラックスだった。

「いいのだな?」

そういうように誘導した国王カミルが冷酷に眼を光らせて問い、

「はい」

と宰相のブラックスが了承した為に。





 ◇





こうしてイーグルは鉱山には送られずにアンゼル宮殿の秘密を守る為にチョメされたのだった。





それもイーグルはただチョメされただけではなく、





別の長い水色髪の男の偽イーグルが(まあ、ぶっちゃければ騎士団と裏取引をした罪人なのだが)イクシー銀山に搬送されていったのが本日となった。





王家もマリーハルケン公爵家に押されてるなりに頑張って陰謀を張り巡らせて防戦していた訳である。
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