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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜
29、初戦の大勝とアンゼル宮殿に届いた戦勝報告書
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タル草原の覇者、騎馬民族タルは1回の侵攻では終わらない。
まだ初夏だ。
「また来る」に決まっており、ハジノス城の次なる戦いはもう始まっていた。
まずは城外に出て、倒れてるがまた生きてる騎馬民族タル兵の息の根を止めて回る。
使える矢はまた使うので回収だ。使えない矢は矢じりを回収する。再利用する為に。
矢で倒された馬は馬肉として消費するので回収。
騎馬民族タルの兵は略奪品を持ってて意外に金持ちなので、それらの財貨は拾った兵士達や作業を手伝った住民の臨時収入となった。それら全部を辺境伯のドルオが回収するのはさすがに大人げなかったので。
戦死した兵は放っておくと疫病の原因になるので焼却処分だ。敵と味方の援軍問わず。
騎馬民族タルが捨てた天幕にあった食糧や軍事物資は全部回収。
それらの作業がハジノス城の西側の草原地帯で素早く行われた。
騎馬民族タルを撤退させるまでの完勝はハジノス城では20年ぶりである。
城壁の内側の街はお祭り騒ぎだった。
何せ、騎馬民族タルの兵は全員騎兵である。1万4500人を討ち取ったという事は馬も倒したという事だ。まあ、800頭ほどの馬は運良く無傷で生きており、自軍の軍馬としたが。
他の馬1万3700頭は全滅である。
馬肉は食用だ。そして冷蔵庫などという気の利いたものがないので放っておくと夏なので早々に腐るので消費しなければならない。
そんな訳で1万3700頭分の馬肉がハジノス城下の住民全員に振る舞われていた。
よって現在は馬肉祭りなのである。
ハジノスの街の特産品の1つが加工肉なので燻製肉を作る器具もあるが、とてもではないが全部を燻製には加工出来ないので焼いて消費した。
兵はもちろん、住民達も喰らっていた。酒と一緒に。
そんな街の喧騒を城壁の上から皮肉げにドルオが眺めており、
「どうされました、父上」
「ん? この勝利の借りは大き過ぎるな、と思ってな」
「もしかしてマリーハルケン公爵家ですか?」
「ああ、何かが中央で起こった時は我がモスール家はマリーハルケン公爵家に味方するからな。例え、王家を敵に回そうとも」
父親の決断にアスレオは息を飲みながら、
「父上、今凄い事言っていますよ」
「我が父は王家に忠義立てした結果、勝ちを逃したばかりか命まで散らしたからな」
昨年の事だ。
昨年までは軍備が整っていなかったので大変だった。
軍備が整うとここまで簡単に騎馬民族タルに勝てるのを今年証明してしまったので。
「わかりました、父上に従います」
父親のドルオの意を汲んでアスレオも同意したのだった。
◇
そのハジノス城の勝利がどう中央のアンゼル宮殿に伝わったかと言えば、
「援軍3000人が勇猛果敢に出撃し、騎馬民族タルの敵の総大将を討ち取るも『大将の首を取り返さん』と騎馬民族タルが必死の反撃し、3000人は全滅した」
というのが、モスール辺境伯からの正式な戦況報告となった。
さすがに王家を不審に思っているモスール辺境伯も「使えない兵を寄越されたので見殺しにしました」と馬鹿正直には報告してはいない。
そんな事をしたら完全に王家と敵対するので。
「ほう、援軍に出した3000人の兵が良い仕事をしたらしいな」
報告書を読んだ国王カミルはそうひとりごちた。
西国境の為に死ぬまで頑張らぬでも良かったのだが。
それが本音であるが、宰相ブラックスは長年文官をしている。
30年前に援軍が全滅した本当の顛末を知っているので、正直疑って掛かっていたがこれ以上、王家とモスール辺境伯を不仲にしてマリーハルケン公爵家が利する必要もないと判断したのか無言を保ち、
「まだ初戦ですよ。西の蛮族どもは何度も来ますから」
「ふむ。やはり夏は西の貴族達はアンゼル宮殿に来ぬか」
「そのようで」
「飛び地の辺境伯の方は?」
そう国王カミルは水を向けた。
アンドレーヌ王国の辺境伯家は2つだ。
もう1つの辺境伯はカーダル家といった。
カーダル家はカフス海沿いの飛び地を統治している。
本当に飛び地だった。陸地で言えば東の同盟隣国のサラット王国の更に東隣国モーテルゼ公国領内のカフス海に面した港の1つが貴族の離反と複雑怪奇な外交交渉を経て、アンドレーヌ王国の領地となっていたのだから。
もしその港をエモンショール王国が攻めたら、アンドレーヌ王国は自国の領土なのだからカフス海を軍船で移動して救援に向かうという事になる。
だが、
「あの家の者は更に来ませんよ。アンドレーヌ王国に税も納めておりませんので」
そうなのだ。
税を納めていない。
アンドレーヌ王国が自軍を動かす利は一切なかった。
それどころか軍を動かせば、その軍費分が丸々マイナスである。
正直その港をアンドレーヌ王国の領土に加わって、得をしてるのは自国なので関税が撤廃されて安く物資を買えるカフス海で商船を持つ自国の貿易商だけだった。
まあ、長い目で見れば、そこから税が取れるのだからアンドレーヌ王国も得をしていると言えば得をしている訳だが。
「どうして税を納めていないのか」と言えば免税状を持っているからだった。
それも先々代のアンドレーヌ国王がカーダル家を寝返らせる為に発行した免税状を。
つまりは国王カミルの祖父王が約束した「遥か昔に発行された免税状」なのだが。
「100年間の免税か。我が祖父王も厄介な物を発行してくれたものだ。後20年だったか?」
「正確には23年ですな」
そう嫌そうに宰相ブラックスは答えたのだった。
まだ初夏だ。
「また来る」に決まっており、ハジノス城の次なる戦いはもう始まっていた。
まずは城外に出て、倒れてるがまた生きてる騎馬民族タル兵の息の根を止めて回る。
使える矢はまた使うので回収だ。使えない矢は矢じりを回収する。再利用する為に。
矢で倒された馬は馬肉として消費するので回収。
騎馬民族タルの兵は略奪品を持ってて意外に金持ちなので、それらの財貨は拾った兵士達や作業を手伝った住民の臨時収入となった。それら全部を辺境伯のドルオが回収するのはさすがに大人げなかったので。
戦死した兵は放っておくと疫病の原因になるので焼却処分だ。敵と味方の援軍問わず。
騎馬民族タルが捨てた天幕にあった食糧や軍事物資は全部回収。
それらの作業がハジノス城の西側の草原地帯で素早く行われた。
騎馬民族タルを撤退させるまでの完勝はハジノス城では20年ぶりである。
城壁の内側の街はお祭り騒ぎだった。
何せ、騎馬民族タルの兵は全員騎兵である。1万4500人を討ち取ったという事は馬も倒したという事だ。まあ、800頭ほどの馬は運良く無傷で生きており、自軍の軍馬としたが。
他の馬1万3700頭は全滅である。
馬肉は食用だ。そして冷蔵庫などという気の利いたものがないので放っておくと夏なので早々に腐るので消費しなければならない。
そんな訳で1万3700頭分の馬肉がハジノス城下の住民全員に振る舞われていた。
よって現在は馬肉祭りなのである。
ハジノスの街の特産品の1つが加工肉なので燻製肉を作る器具もあるが、とてもではないが全部を燻製には加工出来ないので焼いて消費した。
兵はもちろん、住民達も喰らっていた。酒と一緒に。
そんな街の喧騒を城壁の上から皮肉げにドルオが眺めており、
「どうされました、父上」
「ん? この勝利の借りは大き過ぎるな、と思ってな」
「もしかしてマリーハルケン公爵家ですか?」
「ああ、何かが中央で起こった時は我がモスール家はマリーハルケン公爵家に味方するからな。例え、王家を敵に回そうとも」
父親の決断にアスレオは息を飲みながら、
「父上、今凄い事言っていますよ」
「我が父は王家に忠義立てした結果、勝ちを逃したばかりか命まで散らしたからな」
昨年の事だ。
昨年までは軍備が整っていなかったので大変だった。
軍備が整うとここまで簡単に騎馬民族タルに勝てるのを今年証明してしまったので。
「わかりました、父上に従います」
父親のドルオの意を汲んでアスレオも同意したのだった。
◇
そのハジノス城の勝利がどう中央のアンゼル宮殿に伝わったかと言えば、
「援軍3000人が勇猛果敢に出撃し、騎馬民族タルの敵の総大将を討ち取るも『大将の首を取り返さん』と騎馬民族タルが必死の反撃し、3000人は全滅した」
というのが、モスール辺境伯からの正式な戦況報告となった。
さすがに王家を不審に思っているモスール辺境伯も「使えない兵を寄越されたので見殺しにしました」と馬鹿正直には報告してはいない。
そんな事をしたら完全に王家と敵対するので。
「ほう、援軍に出した3000人の兵が良い仕事をしたらしいな」
報告書を読んだ国王カミルはそうひとりごちた。
西国境の為に死ぬまで頑張らぬでも良かったのだが。
それが本音であるが、宰相ブラックスは長年文官をしている。
30年前に援軍が全滅した本当の顛末を知っているので、正直疑って掛かっていたがこれ以上、王家とモスール辺境伯を不仲にしてマリーハルケン公爵家が利する必要もないと判断したのか無言を保ち、
「まだ初戦ですよ。西の蛮族どもは何度も来ますから」
「ふむ。やはり夏は西の貴族達はアンゼル宮殿に来ぬか」
「そのようで」
「飛び地の辺境伯の方は?」
そう国王カミルは水を向けた。
アンドレーヌ王国の辺境伯家は2つだ。
もう1つの辺境伯はカーダル家といった。
カーダル家はカフス海沿いの飛び地を統治している。
本当に飛び地だった。陸地で言えば東の同盟隣国のサラット王国の更に東隣国モーテルゼ公国領内のカフス海に面した港の1つが貴族の離反と複雑怪奇な外交交渉を経て、アンドレーヌ王国の領地となっていたのだから。
もしその港をエモンショール王国が攻めたら、アンドレーヌ王国は自国の領土なのだからカフス海を軍船で移動して救援に向かうという事になる。
だが、
「あの家の者は更に来ませんよ。アンドレーヌ王国に税も納めておりませんので」
そうなのだ。
税を納めていない。
アンドレーヌ王国が自軍を動かす利は一切なかった。
それどころか軍を動かせば、その軍費分が丸々マイナスである。
正直その港をアンドレーヌ王国の領土に加わって、得をしてるのは自国なので関税が撤廃されて安く物資を買えるカフス海で商船を持つ自国の貿易商だけだった。
まあ、長い目で見れば、そこから税が取れるのだからアンドレーヌ王国も得をしていると言えば得をしている訳だが。
「どうして税を納めていないのか」と言えば免税状を持っているからだった。
それも先々代のアンドレーヌ国王がカーダル家を寝返らせる為に発行した免税状を。
つまりは国王カミルの祖父王が約束した「遥か昔に発行された免税状」なのだが。
「100年間の免税か。我が祖父王も厄介な物を発行してくれたものだ。後20年だったか?」
「正確には23年ですな」
そう嫌そうに宰相ブラックスは答えたのだった。
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