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断頭台で処刑された公爵令嬢は死に戻る。ありがとうございます、神様、竜神様、聖獣様、精霊様、英霊様。で、誰がお助け下さったのですか?

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 ウォーターリリー王国の王宮の貴族の処刑場では、1つの処刑が行われようとしていた。

 王太子であるブルース・ウォーターリリーの元婚約者で、公爵令嬢であるグレーナ・パンタスの処刑が。

 元王太子の婚約者にまでなった公爵令嬢のグレーナが処刑されるのだから当然、罪も処刑に相当する重罪が多数存在する。

 罪状の筆頭は王家の秘宝紛失だ。

 婚約者の王太子ブルースによって告発されたこの罪状によって、他にも署名偽造による複数の王太子命令発行、ロト伯爵の暗殺、公金流用、と数々の罪状が明るみとなって公爵令嬢のグレーナは本日処刑される事となった。

 だが、その罪の数々は総てが冤罪だった。

 王家の秘宝が安置された宝物庫に出向いたのは、王太子ブルースが宝物庫で待ってます、と王太子付きの侍従が伝えたからだったし、署名偽造は遊び回る王太子に代わり、執務をこなすのに必要でここ数年形骸化しており複数どころか500件以上の偽造命令が既に執行されていて、その事は上級文官ならば誰もが知る事実だったのだから。今更総てを洗い直して、その命令全部を無効にしたらウォーターリリー王国は大混乱だ。そもそも国王陛下も黙認どころか、許可を出してる。署名偽造に関しては事実だが免罪案件だった。

 他のロト伯爵の死は純粋な馬車の事故だったのに何故かグレーナの仕業となり、公金横領の件は王太子ブルースが遊興費欲しさにやった事だった。なのに、それまでついでとばかりにグレーナの罪として押し付けられていた。

 告発された際、グレーナは、冤罪です、と無実を訴えたかったが、冤罪をしかけた黒幕が王太子ブルースで周到に罠に嵌められて準備されていたのでくつがえらなかった。

 最後に処刑の間際に無実の声を上げたくても、薬を飲まされていて、グレーナは声すら上げられない状態にされている始末だ。

 処刑台に首を固定される際、処刑場を見下ろせる観覧席を見上がれば、黒幕の王太子ブルースを始め、国王陛下や側妃殿下も出席していなかった。

 擁護してくれた第2王子殿下や王妃殿下が出席していて、悲しそうに見つめてるだけだった。

(こんな非道が許されていい訳がありませんわ。神様、竜神様、聖獣様、精霊様、英霊様、誰でもいいですから、わたくしの代わりに正義の裁きをお願い致しますっ! せめて卑怯なあの男だけでもやっちゃって下さいませっ!)

 そんな事を願う中、グレーナの首に刃が落ちて、公爵令嬢は無実の罪で処刑場の露と消えたのだった。

 グレーナ・パンタスは享年20歳だった。


 ◇


 そして死んだ公爵令嬢のグレーナは気付くとお茶会の席に座っていた。

 それにはグレーナ本人もびっくりしたが、受けた王太子妃教育の賜物で内心の動揺はともかく、声1つ上げず、片眉1つ動かさずに涼しい顔をしていた。

 周囲を見渡せば、王宮の中庭だった。

 ガーデンパーティーのようだ。

(何が起こったんですの? まさか、処刑されたのは白昼夢? いえ、それにしてはリアル過ぎですわ。20歳までの経験が長々と記憶にあるのですから。どっちかと言えば、このパーティーの方が夢のようで・・・)

 グレーナが探るように出席者達を見た。

 10歳くらいの見知らぬ子供ばかり・・・ではない。

 前世はもちろん今世の記憶もあるので全員が誰か理解出来た。

「ははは、グレーナはどう思う?」

 と笑いながら話し掛けてきたのは、冤罪に嵌めてくれたブルース・ウォーターリリー殿下の時の姿だったので、グレーナは笑顔で、

「気安く話しかけないで下さいません、この悪党がっ!」

 と持ってる紅茶の入ったカップの中身を第1王子のブルース殿下の顔に掛けたのだった。

 公爵令嬢としても王太子妃候補としても失格だが、激情に駆られたからではない。

(10歳の子供なら、例え不敬罪で罰せられても王都追放くらいの罪状で死なないはずだわ。それよりもこのまま友好的だとまた婚約させられる。冗談じゃないわ。それだけは阻止よ)

 との冷徹な計算の下での行動だった。

 直後に遠めに居たお茶会の警備の騎士によってグレーナは取り押さえられた。

 王子の顔に紅茶を掛けたのだ。

 不敬罪は確実で、例え、公爵令嬢でも無罪になる事はなかったはずなのだが、

「どうした? 何をやってる、子供を取り押さえるなんて?」

「この娘が悪党の顔に紅茶を掛けてーー」

「ナニ、悪党の顔に紅茶を掛けただと?」

「悪党、大丈夫ですか? こちらのタオルでお顔をお拭き下さい」

「悪党」

「悪党」

 と心配してブルース殿下の周囲に集まった全員が声を掛けてから、ハテナ顔で、

「えっ、今、なんて言った、オレ?」

「悪党・・・? 悪党? おわ、何だ、これ?」

「悪党」

 誰もがブルース・ウォーターリリー殿下の事を、悪党、としか呼べなくなった事で大騒ぎとなってしまい、グレーナの事はそれほど問題にならなかった。


 ◇


 と言うか、捕縛された直後の取り調べの席で、

「どうして自分でもあんな事をしたのか分かりません」

 と悪党騒ぎに便乗して、塩らしくグレーナがそう答えたら、不敬罪に問われる事も王都から追放される事もなかった。


 ◇


 ブルース殿下はウォーターリリー王国の第1王子で前世では王太子となったが、今世では王太子に立太子される事はなかった。

 原因は無論、あのお茶会から続く不思議な現象。

 名前だろうと敬称だろうとブルース殿下を呼ぼうとすれば総て、悪党、となるからだ。

 呪い、との見方が強いが、誰も解く事が出来ず、悪党との呼称から、

「何か罪を犯したのだろう」

 と陰口を叩かれて、その論理は実母の側妃殿下が野心家だった事から、

「子供の罪などたかが知れてる。母親の罪を息子が受けたと見るのが妥当では?」

「だとしたら、やはりあの令嬢の死に?」

「いやいや、一時、噂になった男爵の令息の死の方だろう」

 と好き勝手な風聞が広がり、呪いを解く手掛かりすら見つからず、悪党、との呼び名は外聞が悪過ぎる事から、お茶会の半年後にはブルース殿下は実母の側妃殿下と一緒にやまいと称して離宮に幽閉されたのだった。


 ◇


 グレーナの方は紅茶を掛けた件ではウォーターリリー王家から罪を問われなかった。

 だが、父親のパンタス公爵からはキツイお叱りを受けて慈善活動の奉仕を義務付けられたのだった。

 グレーナからすれば、その慈善活動の奉仕の罰は実に都合が良かった。

 パンタス公爵家の書庫で死に戻りの原因を探るも、文献などで死に戻りの原因が特定出来る訳もなく、よってグレーナはあの時、願った「神様、竜神様、聖獣様、精霊様、英霊様」の全員に感謝する事にして、奉仕活動に喜んで出掛けたのだった。

 正直、数は多かったが、あの断頭台の上での絶望を思えば、助けて貰った感謝の方が大きい。

 その為、あちこちの神殿や英霊記念碑等々に父親の慈善活動の命令を盾に出掛ける日々を続けた。

 パンタス公爵家のグレーナ嬢は信心深いとの噂が立つ程に。

 その元凶となった奉仕活動を命令した父親も後悔したくらいで、高等教育漬けにして屋敷から出さないようにしようとしても、2回目のグレーナは王太子妃教育すらも既に習得済みなので、家に閉じ込める事が出来ず、礼拝巡りに興じたのだった。


 ◇


 その色々な助けぬし様の礼拝巡りをしてるグレーナは14歳の時、遂に誰が自分を助けたのか知る事が出来た。

 王都の西の森の精霊の泉と呼ばれる場所で、この世の者とも思えぬ美しい青年と出会ったのだ。

 見た瞬間にグレーナは胸を高鳴らせながら、

(この方が助けてくれた方だわ)

 と直感した。

 礼を欠く事なく、最上級の作法で、

「助けて戴きありがとうございました。この身を捧げるので受けて戴けないでしょうか?」

「・・・人間にしては珍しい。本気で言ってるようだな」

 愉快そうに青年が微笑する中、グレーナは、

「命を助けていただいたのですから当然ですわ」

「ふむ、人間もそう捨てた物ではないな。だが娘を奪われた父親が怒って身の程知らずにも森を攻めてくるのも困る、か」

 と呟いた後、

「人間の娘よ、気持ちだけ貰っておこう。それと他の方々の礼拝も怠らぬようにな。私以外にも少なからず全員がソナタの呼び掛けに応えて力を貸したのだから」

 それにはグレーナは眼を丸くしながらも、嘘とは思わず、

「ーー畏まりました。ええっと、何とお呼びすればーー」

「精霊様で構わんよ」

「畏まりました、精霊様」

「もう私は姿を現わさぬ。よいな」

「はい」

「礼拝は今後も怠らぬように」

 と言うと、グレーナの目の前から透けるようにしてその精霊様は消えたのだった。


 ◇


 その話はその時、グレーナを護衛していた私兵からの報告によって、その日の内にパンタス公爵の耳に入り、

「西の森に住む精霊と知り合いなのか、グレーナ?」

「助けて戴いただけですわ。まあ、他にも神様、竜神様、聖獣様、英霊様にも助けて戴いたらしいのですが」

「それで、あの礼拝狂いな訳か」

「はい」

「ふむ、分かった」

 とパンタス公爵は話を打ち切り、礼拝や献花を許したのだった。


 ◇


 その後もグレーナの周囲では不可思議な事が多数起こった。

 16歳の時に貴族学校に通学すれば、王太子ブルースだけではなく、その側近の令息や恋人になる令嬢達、それら全員が通学しておらず、軽く調べれば、流行病や親の不幸や失脚による当主交替、最初から存在していない場合すらあった。

 お陰で貴族学校は平和その物で何事もなくグレーナは卒業したのだった。


 ◇


 そして貴族学校の卒業と同時にグレーナは結婚式を挙げた。

 それも西の森から続く精霊界で。

 無論、相手は父親が勝手に決めて次々と不幸が襲った3人の婚約者の誰でもなく、泉で精霊様と名乗った精霊王とだった。

 もう姿は現わさぬと言ったが、グレーナが西の森に通い続け、

「来過ぎだ。人間の娘よ」

 姿は見せないまでも声で警告したが、それでもグレーナが泉への礼拝を止めず、公爵令嬢の泉訪問の噂を聞き付けた賊に扮した公爵家乗っ取りを企む親族の兵と森で戦闘になったのを助けたのがきっかけで、

「せっかく助けたのに、また危険な事を。仕方のない娘だ」

 と精霊王も苦笑して、グレーナが森に訪問した際には姿を見せるようになった。

 元々、グレーナは精霊や英霊と波長が合うので心地良いらしく、グレーナが真剣に求愛しようとしたら、思考を読まれて、

「グレーナなら問題なかろう。だが、結婚して精霊化すると人間界には二度と帰れなくなるぞ?」

「構いません。婚約者3人に不幸が続いた事でお父様からの許可も出ておりますので」

「ふむ」

 との会話もあり、結婚したグレーナは精霊化して精霊界で精霊王妃として迎えられ、

「幸せです、私」

「それは良かった」

 グレーナは精霊王に大切にされて幸せに暮らしたのだった。





 おわり
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