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勇者(?)帰還編
斬られ役、帰ってくる
しおりを挟む1-①
……我々の住む世界とは異なる世界に存在する国、《アナザワルド王国》
太古の昔に、超巨大火山《タンセード・マンナ火山》の噴火により形成された円形の本島と、その周囲に点在する多数の島々から成る海洋国家である。
王国歴1192年……突如として復活を遂げた古の魔王《シン》が魔族を率いて戦乱を巻き起こした。王国全土を巻き込んだ戦乱は、光の勇者リヴァル=シューエンが魔王シンを打ち倒し、終結した。
それから三年……完全とまではいかないが復興が進むアナザワルド王国を新たな脅威が襲っていた。
《影魔獣》の出現である。
アナザワルド王国各地に突如として出現した影魔獣は人も魔族も見境なしに襲いかかり、破壊と混乱を振り撒いた。
姿形は千差万別、大きさも大小様々な影魔獣だったが、全ての影魔獣に共通するのが、その名が示す通り、頭のてっぺんから足の先まで、まるで影が実体を持って起き上がってきたかのような、黒一色の不気味な姿をしているという事、そして……
現時点において……出現理由、行動目的、そして……倒す方法が全くの不明という事だ。
1-②
「はぁっ……はぁっ……ここで捕まる訳には……!!」
夕暮れ時、廃墟と化した町を黒い髪の巫女が必死に駆けていた。
そして必死に駆ける巫女を、地面を揺らしながら、全高約3mはあろうかという、巨大な二足歩行型恐竜のような影魔獣が追う。
「い……行き止まり!?」
彼女は町の外に脱出しようとしたが、なぎ倒された木や瓦礫によって道が塞がれてしまっていた。
「フフフ……もう逃げられませんよ……アスタトの巫女」
立ち往生してしまったアスタトの巫女……ナジミの前に、黒のロングコートを身に纏った銀髪の少年が巨大な影魔獣を引き連れ現れた。
歳の頃は14~15歳といったところか、少年は、整った端正な顔に笑みを浮かべている。
「君は一体何者なの!? どうしてこんな酷い真似をするんですか!!」
前髪をかき上げながら少年が嗤う。
「……これから死ぬ貴女が知る必要はありません」
「くっ……開け、異界への──」
「させるかっ!!」
“ビュン!!”
ナジミは懐から異世界へ渡る為の神具、《異界渡りの書》を取り出し、天に向かって高々と掲げると、《異界渡りの秘法》によって異世界への扉を開こうとしたが、少年が投擲したナイフによって異界渡りの書は斬り裂かれてしまった。
「あぁっ!? 異界渡りの書が!!」
「異界へ渡り、異界の勇者を連れて来ようという魂胆でしょうが、そうはさせません。もっとも……異界から勇者を呼ぶ事が出来たとしても……この僕に勝てるとは到底思えませんけどね。さて、おしゃべりはお終いです!!」
少年が右手をナジミに向けると、魔獣の叫びが轟いた。
ズシン……ズシン……と足音を響かせて、影魔獣がナジミに迫る!!
絶体絶命の危機に、ナジミはあの男の事を思い浮かべていた。三年前、壮大なる勘違いでこの世界に召喚された、ビビリで、ヘタレで、特別強くもないけれど、その優しさで勇者と魔王を救い、元いた世界へと帰って行った男の事を……
「さぁ……殺れ!!」
迫る影魔獣を前に、ナジミはキツく目を閉じた……脳裏にあの男の顔を浮かべながら。
(た、助けてっ……!!)
巨大な影魔獣が、ナジミを踏み潰──
“すん!! ”
正に一刀両断であった。突如として現れた影が影魔獣を縦一文字に斬り裂いた。
地響きを立て、左右に分かれた影魔獣の巨体が崩れ落ちる。
ナジミは、ゆっくりと目を開けた。果たして夢か幻か……そこには心の中で、助けを求めた男の背中があった。
「あ、貴方は……っ!?」
濃紺の着物に黒の袴、白の羽織に二本差し、サムライ感満載の服を着たその男は低く呟いた。
「轟く叫びを耳にして……っ!! 凶悪怪獣倒す為……!! 正義と平和を守る為……!! 帰ってきたぞ……」
男は天に向かって高らかに吼えた。
「帰ってきたぞーーーーーっ!!」
「た、武光様ーーーーー!?」
武光が 帰ってきた!?
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