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両雄邂逅編

斬られ役(影)、拠点に向かう

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 49-①

  武光達、天照武刃団が操影刀の素材について調べているその頃、影光は一人、《ウルエ・シドウ大洞穴》に向かっていた。

 毎度の如く時計の文字盤で例えるならば、時計の中心と4時を結び、中心からその線を辿辿っておよそ五分の四地点の辺りにウルエ・シドウ大洞穴は存在する。
 ウルエ・シドウ大洞穴はアナザワルド王国第三位の広さを誇る大洞穴で、様々な鉱石や宝石の原石などが豊富に埋蔵されている。
 しかしながら、ウルエ・シドウ大洞穴の内部は、人間よりも遥かに強靭な肉体を持つ魔族ですらわずか数分で肺に穴が空き死に至るほどの猛毒のガスが至る所で吹き出している、危険極まりない場所であった。

 アナザワルド王国では、昔から大罪人や死刑囚などが減刑や恩赦おんしゃと引き換えに、粗末な防毒具を渡されて、宝石や貴金属の採掘をさせられてきたが、実際に採掘を達成出来た者はほとんどいない、まさに地獄の入り口とでも言うべき場所だった。

「なるほど……操影刀の製造拠点が、毒ガスだらけの地下洞窟とは……考えたな」

 49-②

 影光が単独行動しているのには理由があった。大洞穴の入り口から1km辺りでガロウが異変を感知したのだ。

「ウッ……何だ……この匂いは……!?」

 嗅覚に優れた魔狼族である、早くも大洞穴の入り口から発せられる危険な匂いを察知したのだ。

「私達は何も感じないけど……ははーん、さては老化によるボケが始まったわねワンコオヤジ」
「ふざけるな小娘、俺はまだそんな歳じゃない!!」
「魔狼族は優れた嗅覚を持っていますからね、それはきっとウルエ・シドウ大洞穴の毒霧の臭気でしょう」
「ど、毒霧だと……!?」

 ガロウの問いに、キサイは頷いた。

「ええ……現在、我々が向かっているウルエ・シドウ大洞穴は、洞窟内の至る所で猛毒の霧が噴出してますからね。吸い込んだら……あっと言う間に肺に穴が空くほどの」
「へー、詳しいのね、ガリ鬼」

 感心するヨミに、キサイは自慢げに言った。

「僕は三年前の戦いで、百五十名ほどの王国軍部隊をあの大洞穴に誘い込んで殲滅してやりましたから」
「ゴアッガ……」
「毒殺とはエグい真似を……と、とにかくだ影光!! 俺はこれ以上その大洞穴とやらには近づきたくない!! 鼻がねじれて曲がりそうだ……ん?」

 ガロウの左右の腕をつばめとすずめが引っ張った。

「何だ……つばめにすずめ?」
「いこう、ねじれるのみたい!!」
「まがるのみたい、いこう!!」

 キラキラした目で見つめてくる二人に対し、ガロウは小さな溜め息を吐いた。

「あのな……鼻がねじれるとか曲がるってのは物の例えで、俺の鼻が本当にねじれたり曲がったりするわけじゃないんだぞ?」
「「えー……」」
「ちょっとワンコオヤジ!! ウチの部下の夢を壊さないでくれる? 鼻の一つくらいグニャングニャンに曲げて捻じ切って爆発させなさいよ」
「出来るかっ!!」
「ドグァゴ……」

 レムのすけの言葉を聞いて、ヨミは腕を組んだ。相変わらず、ゴーレムの言語はさっぱり分からないが、ヨミは、相手の思考を読む読心能力を駆使する事で、レムのすけが言わんとする所を理解していた。

「うー、確かにイワ男の言う通り、奴らの居場所が分かっても、そんなヤバイ場所じゃあ迂闊うかつに踏み込めないわね……」
「……しゃーねーな、お前らここで待ってろ、俺が一人で行ってくる」
「本気か影光? キサイの話だと、肺が裂けるほどの猛毒の霧が噴き出しまくってるんだぞ?」

 ガロウの言葉に対し、影光は不敵に笑った。

「フフン……俺、影魔獣だから肺とかねーし、毒ガスとか効かねーし!! じゃあ、ちょっくら行ってくる」

 そう言って、影光は一人で歩き始めたが……

「……かげみつさま、いっちゃうの?」
「いっちゃやだ!!」

 影光に追いつき、心配そうに見上げるつばめとすずめだったが、影光はゆっくり屈み込むと、二人の頭にぽんと手を置いた。

「心配すんな、俺は……ハイパームテキなんだぞ?」
「はいぱー……?」
「むてき……?」
「おう、絶ッッッ対に負けないし、絶ッッッ対に死なないし、めちゃくちゃイケメンで最強って事だ!! だから……二人共安心しろ!!」
「「……うん」」

 影光はマスコット達の頭を撫でた。

「よーし、二人共良い子だ!! じゃあ二人に命令を与える!!」

  “めいれい” をきくときは、せすじをのばして、あいてのめをみる!!

 影光にそう教わっていた二人は『気を付け』の姿勢を取った。

「一つ、将軍達の面倒をみる事!! 二つ、良い子で待つ事!!」

  “めいれい” をきいたら、 “ふくしょう” する!!

 つばめとすずめは命令を復唱した。

「しょーぐんたちのめんどうをみる!!」
「いいこでまつ!!」

 マスコット達の復唱を聞いて、影光は笑顔で頷いた。

「よろしい!! では、任務を開始せよ!!」
「「さー!! いえす!! さー!!」」

 元気良く四天王のもとへ走って行ったつばめとすずめの背中を見送った後、影光は再び前を向いた。


「さぁて……待ってろよ聖将エイノダ=イチュウハ!! 今度は逃がさん、その首……貰い受ける!!」
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