57 / 282
両雄邂逅編
少年、吼える
しおりを挟む57-①
「シルエッタ……お前……!!」
武光達はシルエッタを睨みつけた。
「何でや……何でこの人を殺した……!!」
怒りのこもった武光の問いに対し、シルエッタは男の死体にチラリと視線をやると、穏やかな微笑を浮かべたまま答えた。
「何故って……不要になったからですよ」
シルエッタが右の掌を上に向けると、男の背中に刺さっていた操影刀が、黒い蟲へと姿を変えてシルエッタの元へ飛んで行き、再び小刀に形を変えて、シルエッタの掌に収まった。
「そこの男が持っていた刀鍛冶としての知識と技術は、この黒蟲達が読み取りました。この操影刀を使えば、そこの男の知識と技術を受け継いだ影魔獣を生み出す事が出来ます……もはや、そこの男に価値はありません」
相変わらず、人を人とも思わないシルエッタに、武光達……特に、過去にシルエッタに利用されていたフリードは怒りを露わにした。
「アンタは……アンタは人を何だと思ってるんだっっっ!!」
「その髪の色……貴方は……ええと、誰だったかしら?」
「なっ!?」
「……ごめんなさいね、逃げ出した実験動物の名前なんていちいち覚えていられないの」
「お前……っ!! お前ぇぇぇぇぇっ!!」
激昂したフリードが、シルエッタに殴りかかった。
フリードの拳を躱したシルエッタはフリードに問うた。
「この気配は……まさか貴方、自分の肉体に影魔獣を宿したというのですか?」
「うおあああああっ!!」
シルエッタは再び殴りかかってきたフリードの拳を躱した。
拳を大きく空振りし、前につんのめって転倒したフリードを見下ろしながら、シルエッタは告げた。
「ふふ……馬鹿な事をしましたね。そんな事をすれば影魔獣に生命を吸われて死ぬしかないというのに」
「うぐぐ……何だ……力が入らない……?」
フリードは立ち上がろうとしたが、そのままバタンと倒れてしまった。倒れたフリードに武光が慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫かフリード!?」
「だ、ダメだ……腹が減って仕方ないよ……助けて……アニキ……」
「ふふふ……激しい怒りによって体内の影魔獣が急激に活性化したようね? もうすぐ貴方は体内の影魔獣に命を吸い尽くされて……死ぬわ」
「くっ、シルエッタ……フリードを助ける方法を教えろコラァ!!」
苦しむフリードを見た武光はイットー・リョーダンを抜刀し、切っ先をシルエッタに向けたが、シルエッタは、余裕の笑みを崩さない。
「ふふふ……良いでしょう。吸命剣と引き換えです。そこの男の代わりはいくらでも生み出せますが、吸命剣の代わりはありませんからね」
男の屍にチラリと視線をやりながら、シルエッタは微笑んだ。
妖月をシルエッタに渡してしまったら、間違いなく、今より多くの操影刀が造られ、暗黒教団による被害が広がってしまう。多くの人を救う為には、吸命剣を渡さないのが正しい。
だが……正しいからと言って、武光は目の前で苦しんでいる弟分を見捨てられるような男ではなかった。
「くっ…………持ってけ」
「ふふ……賢明な判断です」
武光は、苦々しい表情で、押収した吸命剣・妖月を差し出したが……
「だ……ダメだ、渡しちゃダメだ!!」
「フリード!?」
フリードは渾身の力を振り絞って立ち上がると、武光の手から妖月を奪い取り、そのまま鞘から抜き放ってシルエッタに襲い掛かった。
「し……シルエッタァァァァァ!!」
フリードはシルエッタ目掛けて、左手に握った妖月を突き出したが……
「ふふ……」
シルエッタの足元の影から、人型影魔獣が飛び出し、シルエッタの盾となってフリードの攻撃を防いだ。妖月の刀身は影魔獣の腹部に深々と突き刺さったものの、シルエッタには届かなかった。
「……つくづく愚かね。無理に動いたりしなければ、あと数十秒くらいは生き永らえたもの──」
「う…………うおおおおおっ!!」
「なっ!?」
フリードが、右の拳で影魔獣を思いっきり殴り飛ばした。
虫の息だったはずのフリードの一撃を目の当たりにした武光とナジミは唖然とし、シルエッタの顔からは微笑みが消えた。
影魔獣を殴り飛ばしたフリードの拳は、ペンキの缶にブチ込んだかのように真っ黒に染まっていた。
「貴方のどこにそんな力が……!? 間違いなく貴方は影魔獣に命を吸い尽くされて死ぬ寸前だったはず!!」
フリードは重心を低くすると、左手を前に突き出し、右拳を振り上げて構えた。
「はあっ……はあっ……そんなこと……俺が知るかッッッ!! 覚悟しろよ……シルエッタァァァァァッ!!」
“グオアアアアアッッッ!!”
フリードと……黒王の頭部へと変貌した彼の右拳が雄叫びを上げた。
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる