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聖道化師襲来編
両雄、戦いを振り返る
しおりを挟む64-①
ネヴェスの里を後にした影光達、天驚魔刃団は月明かりの下、街道を歩いていた。
「ちょっと影光!! アンタ一体どういうつもりなの……!! どうしてアイツに勝ったのに──」
「勝ってねぇ……!!」
影光は反射的にヨミの言葉を遮った。
「俺は勝ってねぇ!!」
「か、勝ってないって……何を訳の分からない事言ってんのよ!?」
「まぁ待て、小娘」
影光に突っかかるヨミをガロウが制止した。
「ガロウ……『アイツを倒したら、俺を仲間じゃなくて主と認めてくれる』って言ってくれた件だけどな……すまん、今はまだ……仲間でいてくれないか?」
「ああ……今はまだ、な」
「ありがとうガロウ」
影光に頭を下げられて、ガロウは照れ臭そうに鼻の先を掻いた。
「よせよせ、らしくないぞ、殊勝な態度なんて」
「ヨミもすまん……妖月はいずれ必ず取り戻す!!」
「フン……次は絶対だからね!?」
「おお……流石はヨミ!! 心が広い!! よっ、絶世の美女!!」
「うっわぁ……心にも無い過ぎる……」
「そ、そんな事ないって!? いや、マジでお美しいっっっ!! 例えるならそう……立てばガ◯Q、座ればノ◯バ、歩く姿はペ◯レオン、みたいな?」
「ゲテモノばっかじゃねーか!!」
影光の頭に浮かんだ巨大な魔獣(?)のイメージを見たヨミはツッコんだ。
「やれやれ……全く、調子の良い奴だ」
「グォー……コ……コロ……ニモナ……イ」
「ええ、レムのすけさん、びっくりするほど、心にもないですね」
影光は自分の両頬を叩いて気合いを入れ直すと、前方を勢い良く指差した。
「さぁ、回り道しちまったが……行くぞ、魔王城へ!!」
「影光、魔王城はあっちの方角だ」
「そ、そうか……とにかく行くぜ野郎共!! 魔王軍に……売り込みじゃあああああ!!」
天驚魔刃団は、魔王城に向けて出発した。
64-②
天驚魔刃団が去った後、天照武刃団の面々は倒れ伏す武光に駆け寄った。
「た、武光様ーーーっ!?」
「アニキーーー!?」
「隊長ーーー!!」
「隊長殿!?」
「武光隊長!?」
「う、うーん……」
〔皆、武光が目を覚ましたぞ!!〕
〔ご主人様、しっかり!!〕
武光はゆっくりと上半身を起こした。
「あ……アニキ!? 大丈──」
「あっ、フリード!! 妖月は!? 皆は無事か!?」
フリードの言葉を遮り、武光はフリードの両肩を掴んだ。
「う、うん!! 皆、無事だよ、妖月もちゃんとある!!」
「そっか……妖月奪っていけへんかったんやな、分身」
どこか納得した表情を浮かべている武光にフリードは尋ねた。
「そ、そんな事よりアニキの方こそ大丈夫なの!? 斬られた傷は!?」
「斬られてへん……峰打ちや、峰打ち。アイツ……最後の一撃が俺に当たる瞬間に咄嗟に刃を返しよった」
「な、何でさ……何でアイツが……」
「……勝ちを譲られるのが嫌だったんでしょう、きっと」
戸惑うフリードと三人娘に対して、ナジミは落ち着き払って答えた後、武光に尋ねた。
「武光様……どうしてワザと負けたんですか?」
「いや、ワザとってわけでもないんやけどな、ただ……子供がおったから」
「は? 子供?」
怪訝な表情をするフリードと三人娘に、ばつが悪そうに武光が答える。
「い、いやな……子供達が見とる前で……アイツを斬るのは……その……あんな小さな子供にそんなショッキングな光景を見せるのはどうかと思ってな……」
「な……何言ってんだよアニキ!? アイツら魔族なんだよ!?」
「そうですよ隊長!!」
「せやな、魔族やな。でも……幼い子供や」
〔それでか……それであの時、隙を〕
イットーの指摘に対し、武光は小さく頷いた。
「ワザと隙を作ったと言うよりは……気が引けて攻撃出来へんかったってのが本音やな」
「で……でも、それがどうして奴がアニキを殺さなかった理由になるのさ!?」
フリードの疑問にナジミが答える。
「……あの武光様そっくりの影魔獣からしてみれば、あれだけ一方的に叩きのめされた挙句に譲られた勝利なんて、到底自分が勝ったなんて思えなかった……だから再戦の機会を得る為に、咄嗟に武光様を斬る事をやめたし……妖月も奪う事なく引き上げたのよ」
ナジミの解説にクレナは尊敬の眼差しを向けた。
「副隊長凄いです、そんな事まで分かるなんて!!」
「……あの影魔獣は『自分は武光様の記憶や人格を複製して生み出された』って言ってましたし、武光様はヘンな所でカッコ付けたがる所がありますからね。悪い癖ですよ、全く!!」
「ははは……」
「笑って誤魔化そうとするのも良くない癖です!!」
「は、はい……」
「いくら勝敗に関係無く、フリード君に妖月を持ち逃げさせるつもりだったからって、ワザと負けようとするなんて!!」
「いや、でももし俺が逆の立場やったら同じ事するやろうから、ちゃんとそれも計算した上でやな……」
「外れたらどうするんですか……!!」
「う……それは」
「その計算とやらが外れたらどうするんですかっ!! また私に心配かけて……」
「ご、ごめんなさい……」
思った以上にシュンとしてしまった武光を見て、ナジミはコホンと咳払いをした。
「ま、まぁ……反省してるなら許してあげます。武光様が無茶な事しちゃうのは今に始まった事じゃないですしね?」
「おお……流石はナジミさん!! 心が広い!! よっ、ナイスバディ!!」
「すぐ調子に乗るのも悪い癖ですよっ!!」
「も、申し訳ございませんでしたあああああっっっ!!」
ナジミに睨まれて、武光は慌てて土下座した。
「へへ……これじゃどっちが隊長か分かったもんじゃないね、アニキ」
「まぁな、でもコイツは天照武刃団の副隊長 兼 ドジっ子まな板裏番長やしな」
「誰が……ドジっ子まな板裏番長ですかーーーーーっ!!」
“ズガァァァン!!”
「あ、あれが姐さんが前に言ってた……!?」
「アスタト三大奥義の一つなの……!?」
「凄い、何という威力なのだ……!!」
「か、感心してる場合じゃありませんよ!! た、武光隊長……泡吹いて痙攣してるじゃないですか!?」
その後、KOされた武光は裏番長に介抱してもらい。意識を取り戻した。
「痛ててててて……お前、奥義でツッコミ入れんなや……」
「ごめんなさい、やり過ぎちゃいました……でも、これでまた手掛かりが無くなっちゃいましたね……」
ナジミの言葉に対し、武光は首を左右に振った。
「いいや、妖月がこちらの手にある以上、奴らはこれ以上操影刀を増やす事が出来へんはずや。だから……今度からは、放っといても向こうから来る。これまで以上に厳しい戦いになる……皆、気合い入れろ!!」
天照武刃団は、次なる戦いに向けて気を引き締めた。
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