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双竜塞編
斬られ役(影)、暗躍する
しおりを挟む83-①
「グモモ……ク……クスグッ……タイ!!」
「れむしょーぐん、うごいちゃだめっ!!」
「きれいきれいするのっ!!」
双竜塞から少し離れた場所に流れる川のほとりで、つばめとすずめは、影光が牧師に化けた時に使用した《何か分からんがとにかく黒い液体》を全身に塗りたくられているレムのすけの身体をゴシゴシと洗っていた。
「……ふう、まったく……えらい目に遭ったぞ」
レムのすけと同じく、全身に塗りたくられた《何か分からんがとにかく黒い液体》を洗い流す為に、川に身を沈めていたガロウが “ざばぁっ!!” と出て来た。
ブルブルと身震いして、水を弾き飛ばすガロウを見て、つばめとすずめがキャッキャと笑う。
「がろしょーぐん、もっと!!」
「もっと!!」
「ダメだ」
「えー!!」
「やだ!!」
ガロウは、まるで、ふくら雀のように頰を膨らませているマスコット二人の頭にポンと手を乗せた。
「怒るな怒るな、キサイはどうしてる?」
「……ぴくぴくしてる」
「……がくがくしてる」
それを聞いて、ガロウは苦笑した。まぁ、あれだけの数の幻影を操ったのだ、『然もありなん』といった所か。
しばらくしたら、キサイには、もう一働きしてもらわねばならない。今のうちに少しでも休んでおいてもらおう。
ガロウは空を見上げ呟いた。
「影光……上手くやれよ」
83-②
一方その頃、双竜塞へと帰還する兵達の中に紛れて込んだ影光は、まんまと双竜塞への潜入を果たしていた。
肉体の形状変化で側頭部に角を生やし、竜人族に化けた影光は双竜塞内部を見て回り、内部構造を把握すると、日が暮れ始めるのを待って行動を開始した。
まず最初に影光が向かったのは、食糧庫だった。
「おーし!! あったあった」
影光は盗んだ酒樽を両脇に抱えて、城壁の上へ向かった。
城壁の上では竜人族の兵士達が警備に当たっていた。影光は兵士達の顔を見回したが、どういうわけか、竜人兵は皆、人間で言えば二十歳になるかならないかという若い兵士ばかりだった。
それもそのはず、歴戦の勇士や経験豊富な熟練兵は、三年前の戦いの際に、竜人四天王共々、勇者リヴァルとその仲間達によって尽く葬られている。今ここに残っているのは当時、新兵や訓練生だった者達ばかりなのだ。
影光は、城壁を守る竜人達に陽気に話しかけた。
「おおーい、大将からの差し入れだぞーーーぅ!!」
影光は両脇に抱えていた酒樽をドドンと置いた。
城壁の上の守備兵達が、何だ何だと集まってきた。
「何だこれは?」
「この匂い……もしかして酒か!?」
兵士達の問いに影光は頷いた。
「おうよ!! 大将からの差し入れだ。さぁ、一杯やろうぜ!!」
影光は食糧庫からここに来る途中で調理場から拝借してきた盃に酒を注ぐと、目の前の兵士に差し出したが、兵士はゴクリと生唾を飲み込みながらも、盃を受け取ろうとはしなかった。
「……どうした? いらねぇのか?」
「俺達は任務中だ……任務中の飲酒はリュウカク将軍に……その……厳しく禁じられている……!!」
それを聞いた影光はニヤリと笑った。今こそ……自分の演技力の見せ所だ。
「バッカだなぁお前!! この酒は、そのリュウカク将軍からの差し入れなんだぞ? 『お前達の奮戦を称えて』ってな!!」
兵士達は互いに顔を見合わせた。
「し、しかし……」
「そうか……分かった、任務が第一だものな。だが……リュウカク将軍の御厚意を無駄にするのも心苦しい……よし!! こっちは俺に任せろ!!」
「えっ!?」
影光は杯を呷り、一気に飲み干した。
「くぅ~~~~~ッッッ!! うんめぇぇぇぇぇーーーーー!! くっはーーーーー!!」
……影魔獣に味覚は存在しない。全ては影光の芝居である。しかしながら、あまりにも美味そうに酒を飲む影光を見て、兵士達は再び生唾を飲み込んだ。
「お、おい……」
「ん? 俺に構うな……っ!! お、お前達は……俺の分まで……任務を果たしてくれ!! リュウカク将軍の気持ちはッッッ、この俺が決して無駄にはしない!!」
兵士達は再び顔を見合わせると、影光に向き直った。
「お……おまえばかりいいカッコウはさせないぜ!!」
「ああ、リュウカク将軍の想い、無駄にはしない!!」
「やろう、みんなで!!」
影光は兵士達の顔をぐるりと見回した。
「お、お前達……頼む!! 力を貸してくれ!!」
~~~ 1時間後 ~~~
「おー!! いいぞー!!」
「もっと飲め飲めー!!」
「わははははは!!」
兵士達はすっかり出来上がっていた。もう何度目か分からないが、またしても食糧庫から酒をかっぱらってきた影光が、兵士達に酒を注いで回る。
影光は城壁の上から、仲間達のいる方を見た。
……もうそろそろ頃合いだろう。そんな事を考えていると、遠くの方に、影魔獣の群れが現れた。キサイが作り出した幻影である。
「流石は知将枠、良いタイミングだ」
影光が小さく呟いていると、キサイの作り出した幻影に気付いた誰かが叫んだ。
「皆、大変だ!! 影魔獣だぞ!!」
慌て始めた兵士達を見て、影光は声を張り上げた。
「慌てるんじゃねぇ!! 影魔獣がなんだってんだ!! あんな連中、俺達の敵じゃねぇ!!」
影光の檄に対して、昼間の圧倒的大勝利と酒の力で気が大きくなっていた兵士達は『そうだそうだ!!』と賛同した。
「俺達は無敵だ!! アイツらを……ぶちのめせーーーーー!!」
影光にしこたま酒を飲まされ、酔っ払っていたせいで、『リュウカクに敵襲を報告する』という基本的な判断すら出来なくなっていた竜人兵達は、影光の叫びを聞くと、次々と城壁を飛び降り、キサイの生み出した幻影目掛けて突っ走っていった。
「……こうも上手くいくとはな、流石はキサイの立てた策だ」
影光はニヤリと笑うと、リュウカクのいる部屋へと向かった。
……『敵を見つけた守備兵達が、全員飛び出して行ってしまった!!』と伝えてやる為に。
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