83 / 282
双竜塞編
斬られ役(影)、暗躍する
しおりを挟む83-①
「グモモ……ク……クスグッ……タイ!!」
「れむしょーぐん、うごいちゃだめっ!!」
「きれいきれいするのっ!!」
双竜塞から少し離れた場所に流れる川のほとりで、つばめとすずめは、影光が牧師に化けた時に使用した《何か分からんがとにかく黒い液体》を全身に塗りたくられているレムのすけの身体をゴシゴシと洗っていた。
「……ふう、まったく……えらい目に遭ったぞ」
レムのすけと同じく、全身に塗りたくられた《何か分からんがとにかく黒い液体》を洗い流す為に、川に身を沈めていたガロウが “ざばぁっ!!” と出て来た。
ブルブルと身震いして、水を弾き飛ばすガロウを見て、つばめとすずめがキャッキャと笑う。
「がろしょーぐん、もっと!!」
「もっと!!」
「ダメだ」
「えー!!」
「やだ!!」
ガロウは、まるで、ふくら雀のように頰を膨らませているマスコット二人の頭にポンと手を乗せた。
「怒るな怒るな、キサイはどうしてる?」
「……ぴくぴくしてる」
「……がくがくしてる」
それを聞いて、ガロウは苦笑した。まぁ、あれだけの数の幻影を操ったのだ、『然もありなん』といった所か。
しばらくしたら、キサイには、もう一働きしてもらわねばならない。今のうちに少しでも休んでおいてもらおう。
ガロウは空を見上げ呟いた。
「影光……上手くやれよ」
83-②
一方その頃、双竜塞へと帰還する兵達の中に紛れて込んだ影光は、まんまと双竜塞への潜入を果たしていた。
肉体の形状変化で側頭部に角を生やし、竜人族に化けた影光は双竜塞内部を見て回り、内部構造を把握すると、日が暮れ始めるのを待って行動を開始した。
まず最初に影光が向かったのは、食糧庫だった。
「おーし!! あったあった」
影光は盗んだ酒樽を両脇に抱えて、城壁の上へ向かった。
城壁の上では竜人族の兵士達が警備に当たっていた。影光は兵士達の顔を見回したが、どういうわけか、竜人兵は皆、人間で言えば二十歳になるかならないかという若い兵士ばかりだった。
それもそのはず、歴戦の勇士や経験豊富な熟練兵は、三年前の戦いの際に、竜人四天王共々、勇者リヴァルとその仲間達によって尽く葬られている。今ここに残っているのは当時、新兵や訓練生だった者達ばかりなのだ。
影光は、城壁を守る竜人達に陽気に話しかけた。
「おおーい、大将からの差し入れだぞーーーぅ!!」
影光は両脇に抱えていた酒樽をドドンと置いた。
城壁の上の守備兵達が、何だ何だと集まってきた。
「何だこれは?」
「この匂い……もしかして酒か!?」
兵士達の問いに影光は頷いた。
「おうよ!! 大将からの差し入れだ。さぁ、一杯やろうぜ!!」
影光は食糧庫からここに来る途中で調理場から拝借してきた盃に酒を注ぐと、目の前の兵士に差し出したが、兵士はゴクリと生唾を飲み込みながらも、盃を受け取ろうとはしなかった。
「……どうした? いらねぇのか?」
「俺達は任務中だ……任務中の飲酒はリュウカク将軍に……その……厳しく禁じられている……!!」
それを聞いた影光はニヤリと笑った。今こそ……自分の演技力の見せ所だ。
「バッカだなぁお前!! この酒は、そのリュウカク将軍からの差し入れなんだぞ? 『お前達の奮戦を称えて』ってな!!」
兵士達は互いに顔を見合わせた。
「し、しかし……」
「そうか……分かった、任務が第一だものな。だが……リュウカク将軍の御厚意を無駄にするのも心苦しい……よし!! こっちは俺に任せろ!!」
「えっ!?」
影光は杯を呷り、一気に飲み干した。
「くぅ~~~~~ッッッ!! うんめぇぇぇぇぇーーーーー!! くっはーーーーー!!」
……影魔獣に味覚は存在しない。全ては影光の芝居である。しかしながら、あまりにも美味そうに酒を飲む影光を見て、兵士達は再び生唾を飲み込んだ。
「お、おい……」
「ん? 俺に構うな……っ!! お、お前達は……俺の分まで……任務を果たしてくれ!! リュウカク将軍の気持ちはッッッ、この俺が決して無駄にはしない!!」
兵士達は再び顔を見合わせると、影光に向き直った。
「お……おまえばかりいいカッコウはさせないぜ!!」
「ああ、リュウカク将軍の想い、無駄にはしない!!」
「やろう、みんなで!!」
影光は兵士達の顔をぐるりと見回した。
「お、お前達……頼む!! 力を貸してくれ!!」
~~~ 1時間後 ~~~
「おー!! いいぞー!!」
「もっと飲め飲めー!!」
「わははははは!!」
兵士達はすっかり出来上がっていた。もう何度目か分からないが、またしても食糧庫から酒をかっぱらってきた影光が、兵士達に酒を注いで回る。
影光は城壁の上から、仲間達のいる方を見た。
……もうそろそろ頃合いだろう。そんな事を考えていると、遠くの方に、影魔獣の群れが現れた。キサイが作り出した幻影である。
「流石は知将枠、良いタイミングだ」
影光が小さく呟いていると、キサイの作り出した幻影に気付いた誰かが叫んだ。
「皆、大変だ!! 影魔獣だぞ!!」
慌て始めた兵士達を見て、影光は声を張り上げた。
「慌てるんじゃねぇ!! 影魔獣がなんだってんだ!! あんな連中、俺達の敵じゃねぇ!!」
影光の檄に対して、昼間の圧倒的大勝利と酒の力で気が大きくなっていた兵士達は『そうだそうだ!!』と賛同した。
「俺達は無敵だ!! アイツらを……ぶちのめせーーーーー!!」
影光にしこたま酒を飲まされ、酔っ払っていたせいで、『リュウカクに敵襲を報告する』という基本的な判断すら出来なくなっていた竜人兵達は、影光の叫びを聞くと、次々と城壁を飛び降り、キサイの生み出した幻影目掛けて突っ走っていった。
「……こうも上手くいくとはな、流石はキサイの立てた策だ」
影光はニヤリと笑うと、リュウカクのいる部屋へと向かった。
……『敵を見つけた守備兵達が、全員飛び出して行ってしまった!!』と伝えてやる為に。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる