斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
97 / 282
双竜塞編

野郎共、大いに語る

しおりを挟む

 97-①

 ……結論から先に言うと、影光の矢の方が中心に近かった。

  “ダァーーーーーッッッ!!” と、放たれた矢は的のど真ん中のど真ん中に突き立った。それに対してリュウカクの矢は……中心から1cmほどズレていた。

「よーーーし、勝ったーーーっ!!」
「ま、待て!! 納得いかん!!」

 ガッツポーズを取る影光にリュウカクが待ったをかけた。

「ああん?」
「お前……あれは卑怯だろ!!」

 弓術の素人である影光がどうして的のど真ん中に当てる事が出来たのか、それは──


 ~~~ 回想 ~~~


「行くぞーーー!! イーーーチ!! ニーーー!! サンッッッ──」

「なっ!?」

 矢を放つ直前、影光は矢を引き絞った姿勢のまま、影魔獣の持つ『肉体の形状変化』の能力で、両腕の肘から先を限界まで “ぐいーーーーーーーーーーーーん” と伸ばした。

「ダァーーーーーッッッ!!」

 そうして、的からわずか1cmの超至近距離から放たれた矢は……当たり前だが、的のど真ん中に突き刺さった。


 ~~~ 回想終了 ~~~


「あんなものが認められるか!! 反則だ!!」

 リュウカクの抗議に対し、影光は腕組みしながら仁王立ちで反論した。

「待ってもらおう!! 反則だと……? 俺は何一つとしてルールを破っていないッ!!」
「何ぃ!?」
「俺は、アンタの決めたルール通り、ちゃんとそこの線の所に立って的を射た。それに……俺はやる前にちゃんと聞いたはずだ、『そのルールで良いのか? 後から文句を言わないな?』ってな……アンタは、『腕を伸ばしてはいけない』とは言っていない!!」
「ぐぬぬ……へ、屁理屈を!!」
「まあ良いさ、どうしても納得できないってんなら、もう一度だけ勝負してやる……但し!!」
「何だ?」
「さっきはカクさんの得意分野で勝負したんだ……今度は俺の得意分野で勝負してもらおうか!!」

 影醒刃シャドーセーバーつかを取り出した影光を見て、リュウカクはニヤリと笑った。剣での勝負ならば先程のような屁理屈は言えまい!!

「良いだろう、受けて立つ!!」

 言った瞬間、影光は影醒刃の柄をスッとしまってしまった。

「面白リアクション対決ぅぅぅーーーーー!!」
「待て待て待て!! 何だそれは!!」
「何って……俺の得意分野だが?」
「なっ……はかったな貴様……!!」

 唖然あぜんとするリュウカクをよそに、影光は兵士の一人から、水の入った竹筒を借りてきた。

「良いか? この竹筒に、《めちゃくちゃからい水》が入っていると仮定して、面白いリアクションを取った方の勝ちだ。判定はこの場にいる皆にしてもらおう……ほらよ、カクさん」

 有無を言わさず竹筒を渡され、リュウカクは困惑しまくったが『受けて立つ!!』と言ってしまった手前、やらないわけにはいかない。

「よ、よーし……行くぞッ!!」

 リュウカクは竹筒に口をつけた。

「か……からい……」

 リュウカクは兵士達を見回した。リュウカクの芝居の目に余るぶり大根……もとい大根ぶりに全員、目が点になっている。

「いやぁ……じ、実にからいなー。なんという辛さだー!!」

 たまれなくなってしまったオサナは、『もう見ていられない!!』と言わんばかりに、無言でタオルを投げ込んだ。

「よぅし、じゃあ今度は俺の番だな!!」

 影光はリュウカクから、竹筒を受け取ると、ぐいと飲んだ。

「……カハッ!? ☆%〒#@~~~!?」

 影光は口元を押さえて、涙目になりながら地面を激しく転げ回った。

「ハァーッ……ハァーッ……し、死ぬ!! み、水……水を…………ほんぎゃらぎゃあああああああああ!!」

 影光は、再び竹筒を口に付け、そして、再び転げ回った!!
 影光のリアクションを見て、兵士達は爆笑した。

 芝居を終えた影光はゆっくりと立ち上がると、審判達に聞いた。

「さぁ……判定してもらおうか!! どちらが面白かった?」

 兵士達は、リュウカクに対して申し訳なさそうな顔をしながらも、全員影光を指差したが──

「こ……この勝負引き分け!!」

 オサナの突然の引き分け宣言に、影光は抗議した。

「ちょっと待て!! どう見ても俺の勝ちだろうが!!
「引き分けやもん!!」
「どこがだよ!? 80対0で俺の勝ちだろうが!!」
「ちゃうもん!! 『オサナちゃんポイント』が80Pで引き分けやもん!!」
「なんだそりゃ!?」
「引き分けでええやん!! 二人とも仲良くしてや……お願いやから!!」

 涙目になりながら訴えるオサナに対し、影光はオサナの目を真っ直ぐに見て言った。

「お前なぁ……カクさんを見くびるなッッッ!!」
「……え?」
「これは男と男の真剣勝負や、そんな事で引き分けになって……カクさんが喜ぶとでも思うんか!?」
「でも……」
「周りの皆もそれを分かってるから俺に投票したんやんけ、カクさんが『不正で勝たせてもらって喜ぶ人やない』ってのを分かってるから」

 影光の言葉に、兵士達も頷く。

「そういう奴らやからこそ、俺はカクさん達を是非とも仲間に──」
「もういいもういい、分かった。私の負けだ」

 リュウカクは、苦笑しながら言った。

「良いだろう、約束通り、貴殿を我が友としよう……影光殿」
「カクさん……」

 影光は差し出された手をガッチリと握った。

「影光っちゃん……リュウカク君……」
「ところで、影光殿」
「ん?」
「友となったからには、もっと互いを良く知る必要があるとは思わないか?」

 拳をゆっくりと突き出したリュウカクに対して、影光はニヤリと笑った。

「ああ、存分に語り合おう!!」
「えぇっ、ちょっ!? 二人共!?」

 殴り合いを始めた二人を見て、オサナは慌てた。どうして今の流れで殴り合いに発展するのか……しかも楽しそうに。

「おう、お前らも来いよ!!」
「そうだ、存分に友と語り合えーーー!!」


 一時間後……ボロボロになった影光とリュウカクはオサナの前で正座させられていた。


「全く、こうなるのが嫌でウチは頑張ったのに……」

 ぶつくさと文句を言いながら、オサナは細長い紙のふだに、筆でサラサラと文字をしたためてゆく。

「さぁ出来た。まずは……リュウカク君!!」

 オサナは紙の札をリュウカクの額に “ベチンっ!!” と勢い良く貼り付けた。

「その札には癒しの力が込めてあるから、それを貼ってるだけで傷が徐々に癒えてくるわ」
「そ、そうですか……」
「ちなみに、その札は効力が切れるまで絶対に剥がれへんから」

 それを聞いて、影光は即座に逃げ出そうとしたが、オサナに取り押さえられてしまった。

「次は……影光っちゃんの番やで?」

 オサナは笑顔だが、目がまるで笑っていない。

「い、いや俺は再生能力があるから……」
「ふんっ!!」

 問答無用でオサナは影光の額に札を貼り付けた。

「三日くらいで効力が切れると思うから、二人共……じっくり治してな? それじゃあ二人共……お大事にっっっ!!」

 オサナが足取り荒く去った後、影光とリュウカクは、互いの額に貼られた札を見て苦笑した。

「酷いな? 影光殿?」
「全くだ、まぁ……女子には理解されにくいかもな」

 ……ちなみに、両者の札にはそれぞれこう書かれていた。


『ウ◯コたれの鼻血ブー太郎』
『チンピラくそドラゴン』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...