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本拠地突入編・1
狼、誕生する
しおりを挟む122-①
突然現れたロイの姿を見て、武光は焦った。
「しゅ、シュワルツェネッ太……何故ここに!?」
「……捕らえた信徒への尋問が思いの外早く終わったのでな、様子を見に来た」
「そ、そっスか……」
「そんな事より、お客様の姿が見えないようだが……アルジェ、現状を報告しろ」
ロイに命令されたアルジェは姿勢を正し、おずおずと報告した。
「は、ハイ!! それが……その……エネムさんは……暗黒教団の生み出した影魔獣でした……」
「何だと……!?」
髑髏の仮面に覆われて表情を窺い知る事は出来ないが、そのリアクションから、仮面の下で信じられないと言わんばかりの表情をしているであろうロイに、武光は自嘲気味に笑いかけた。
「ふん……まんまと騙されたわ。全く、大した演技力やで、影魔獣のクセに」
「何と……アルジェ、怪我は無いか?」
「は、ハイ!! おら怪我してねぇです……あっ、じゃなかった!! わ、私に怪我はありません!!」
「本当か? 泣いていたようだが……ハッ!? 唐観武光……お前、まさかうちの子をイジメたりしてないだろうな……?」
「してへんしてへんしてへん!!」
ドスが効きまくりの声にビビった武光は、千切れ飛ばんばかりに首を左右に振った。
「本当だろうな? もし嘘だったら……その首叩き落とす!!」
「いいっ!?」
「フッ……冗談だ、許せ」
「いや、お前の冗談は冗談に聞こえへんねんて、マジで!!」
ロイは小さく含み笑いをすると、『ところで……』と切り出した。
「うちの仔犬はどうだった?」
ロイの質問に、アルジェが息を呑むのを見た武光は笑顔で答えた。
「いやー、凄かったわ!! 流石は最強軍団の一員や!! 群がる敵をバッタバッタと薙ぎ倒し!! 巨大な影魔獣にも果敢に挑み!! 八面六臂の大活躍!!」
「いやそんな……」
「仔犬などとんでもない、アルジェはまさに狼!! あの流麗な剣さばき……見習い隊員にしとくのは勿体ない!!」
「ほう? 『流麗な剣さばき』……だと?」
ロイに視線を向けられたアルジェは緊張して姿勢を正した。
「アルジェよ……」
「は、ハイ!!」
「我が軍団の一員たる者、いかなる時も餓えた狼であるべし……それが我が軍団の信念だ……そうだな?」
「ハイ!!」
「だがお前は我が軍団の一員たらんと焦るあまり、本来の自分を隠してしまっている」
「それは……」
「言っておくが……お前に見た目を気にしている余裕などない。狼たらんとするならば、見た目を繕う前にやるべき事があるはずだ!! ナメるな!!」
ロイの厳しい言葉にアルジェは俯いた。両の拳はキツくキツく握りしめられ、肩が震えている。
「そんな事ではいつまでたってもお前は……ぬうっ!?」
武光が突如としてロイを背後から羽交い締めにした。
「貴様!? いきなり何を──」
「ふふん……アルジェ、ガツンとかましたれ!!」
「う……う……うわぁぁぁぁぁん!!」
「ぬうっ!?」
ロイの胸板にアルジェのエルボーが炸裂した。
「おらだって……おらだって必死に頑張ってるのに……!!」
アルジェはロイに何度も何度もエルボーを喰らわせた。
「ロイ将軍はおらの事ちっとも認めてくんねぇし……大体、本来の姿を隠してるのはロイ将軍の方でねぇか!! 何だその骸骨の仮面……意味が分かんね!! うわーーーーーん!!」
「なっ!?」
「ブフッ!?」
ロイを羽交い締めしている武光は思わず噴き出した。
「おら知ってるもん!! ロイ将軍は本当はカワイイもの好きで、皆に内緒で子猫飼ってんだ!! しかも語尾に、 “にゃー” って付けて話しかけてんだべ!!」
「マジかシュワルツェネッ太……」
「あ、いや……それはだな……」
「あと……あと……おっかなく見せてっけど、本当は優しくて……それと……それと……あっ……?」
泣きながら力の抜けたエルボーを繰り出し続けるアルジェだったが、武光の羽交い締めを振り解いたロイによって、何十発目かのアルジェのエルボーは受け止められた。
ジッと視線を交わしていた二人だったが、ロイが片手を上げたのを見て、武光が二人の間に慌てて割って入った。
「ま、待てや!! アルジェを焚き付けたんは俺や!! やるなら俺をやれー!!」
「隊長さん……」
「ち……ちなみにシュワルツェネッ太、お前どっち利きや……え、右? じゃあ……やるなら左手で俺をやれー!! あ、ちょっと待って。アルジェ、お前の盾貸してくれへん? 服の下に仕込むから……あとナジミはいつでも癒しの力を使えるように準備しとってくれ!!」
「武光様、前向いて下さい!! 前!!」
「あっ、お前コラ!!」
ナジミに言われて振り返ると、ロイがアルジェに右手を伸ばしていた。恐れ慄くアルジェはキツく目を閉じている。
武光はアルジェがブン殴られると思って止めようとしたが、ロイの右手はアルジェの頭に優しく載せられた。
「フフ……この私に牙を剥くとは……やれば出来るじゃないか? だが、最後に目を閉じてしまうようでは、まだまだだな。一度牙を剥いた以上は相手か自分が死ぬまで目を逸らすな」
「将軍……」
「お前は狼らしくあろうとする前に、まずは自分らしく戦え。焦らずとも、ただひたすらに敵を殺し続ければ、周りの連中が自然とお前を狼として認めるだろう……出来るな?」
「ハッ!! 粉骨砕身、励む所存で──」
「……違うだろう?」
「は、はい!! おら……力いっぱい頑張りますっっっ!!」
アルジェの返答に、ロイは満足げに頷いた。
「良かろう、私は、お前の事をもう仔犬とは呼ばん……」
「しょ……将軍……!!」
ロイの言葉に、アルジェは思わず嬉し涙を流した。
「今日からお前は…………『赤ちゃんオオカミ』だッッッ!!』
アルジェはズッコケた!!
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