斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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本拠地突入編・1

斬られ役、絶句する

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 123-①

 ロイに『今日からお前は仔犬ではない……赤ちゃんオオカミだ!!』と言われて、アルジェは盛大にズッコケた。

「あ……赤ちゃんって……赤ちゃんって……」

 両手を地に着き、 “ズガーン” とヘコむアルジェに三人娘が歩み寄る。

「まーまー、そんなに落ち込まないで」
「元気を出せ……赤ちゃんとは言え、狼として認めてもらったのに変わりはない」
「そ、そうですよ!! クレナさんとミナハさんの言う通りですよ!!」

 クレナ達に励まされて、アルジェは顔を上げた。

「お嬢様方……だども、『赤ちゃんオオカミ』って……『仔犬』より弱っちくなってねぇだか?」

 それを聞いたクレナは、膝を屈してアルジェの両肩に手を置いた。

「大丈夫だよ!! だって赤ちゃんはカワイイし、オオカミはカッコイイんだから、『カワイイ』と『カッコイイ』が合わさって……カッコカワイくて無敵だよ無敵!!」
「く、クレナお嬢様──」
「むー……アルジェちゃんっっっ!!」
「は、はぁ……」

 クレナはアルジェを立たせると、先程のロイのように、アルジェをしっかりと見据えた。

「天照武刃団の一員たる者、人に優しく・皆仲良く・常に笑いを忘れるな……それが、我が軍団の信念だ……そうだな?」
「いや、それは知らねぇですけんども……」
「そういうわけだから様付けとかはナシ!! こういうのウチの隊長の故郷の言葉で “ぶれーこー” って言うんだよ。だからアルジェちゃんも天照武刃団では “ぶれーこー” なんだよ!!」
「いや、でもおらは第13騎馬軍団の所属ですし……貴族のお嬢様方にそんなおそれ多い……」
「そんな細かい事は気にしない気にしない!! 私がアルジェちゃんと友達になりたいんだよ!! そうだなぁ……私の事は『クーちゃん』で良いよ?」

 それを聞いたミナハとキクチナもクレナに続く。

「そうだな、じゃあ私も『ミーナ』って呼んでくれて構わない」
「わ、私も『キクちゃん』で良いですよ?」

 アルジェは数秒の間沈黙していたが、意を決したように口を開いた。

「く……クー……さま」

「あらら……」
「何だよー、堅いなーアルジェはよー」

 苦笑するフリードにアルジェが言い返す。

「う……うるせぇだ、フリードは黙っててくんろ!!」
「何で俺は簡単に呼び捨て出来んだよ!?」
「おめぇはクーさま達と違ってただの農家の息子でねぇか!!」
「はぁ!? 農家ナメんなよ!? お前だって田舎の猟師の娘じゃねーか!!」
「「むむむ……!!」」

 にらみ合う二人をクレナが苦笑混じりに仲裁する。

「まーまー、フー君もアリーもケンカしないで」
「あ、アリー……!?」
「そ、アルジェだからアリー。ダメかな……?」
「い、いえとんでもねぇです!! その……クー……さま」
「うーん、惜しいなぁ。でも、無理強むりじいするのも良くないと思うから、少しずつ仲良くなっていこうよ。で、いっぱい仲良くなったら『クーちゃん』って呼んでね?」
「ふふ……それなら私が一番最初に『ミーナ』って呼んでもらおう」
「いいえ、私が一番最初に『キクちゃん』って呼んでもらいます」
「ふふーん、俺はもう敬称無しで呼んでもらったもんね!!」
「そんじゃあおめぇは……ティンダルス『さん』だ」
「何でだよ!? 呼び捨てで良いって!!」

 笑い合う五人を、微笑ほほえましく見ていた武光とナジミにロイが声を掛けた。

「唐観武光、やはりアルジェを貴様に預けたのは正解だった……感謝する」
「何を大袈裟な、俺は特別に何かしたつもりはないで?」
「いいや、私は貴様の持つ力をアテにしていた」
「いやだから……三年前にお前をブチのめした時のあの力はやな──」
「私が言う『お前の力』とは武力の話ではない。お前は……不思議と人の心を開かせる力を持っている」
「お前……三年前はもっとこう……常に殺気全開でビリビリしてて……そんなこっ恥ずかしい事言うキャラとちゃうかったやん!?」
「フッ……だろう? だからお前をアテにした」
「やめろやめろ、こちとら天下御免の悪役や。あんまり『良い人』のイメージが付き過ぎたら悪役の仕事がぇへんようになるやろが、営業妨害だにゃ~、迷惑だにゃ~」
「んなっ!? き、貴様……」
「フン……仕返しや!!」

 そう言ってロイに背を向けた武光を見て、ナジミは苦笑混じりにロイに教えた。

「アレ、めちゃくちゃ照れてるんですよ……子供みたいで可愛いでしょう?」
「アホか!! か、可愛い言うな!!」
〔ぷぷぷ……可愛いぞー、相棒ー〕
〔ご主人様、可愛いです!!〕
「お、お前らな……」

 武光はイットー・リョーダンと魔穿鉄剣の柄頭にデコピンを喰らわすと、ロイに語りかけた。

「で? これからどうする?」
「……耳を貸せ」
「うん……うん……えっ……は、はぁぁぁぁぁっ!?」


 ロイの策を聞いて、武光は絶句した。

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