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本拠地突入編・2
少女(銀)、入水する
しおりを挟む166-①
フリード達を先に行かせる為に足止めを買って出たアルジェは、たった一人でカイコウオウと対峙していた。
「くっ!!」
カイコウオウの突進を、アルジェは最強部隊で鍛えあげられた身体能力と反射神経を駆使して何とか回避し続けていたが、徐々に追い詰められていた。
だが、アルジェもただ単に追い詰められていたわけではない。追い詰められながらもカイコウオウの動きの特徴を掴んでいた。
……奴は、本物の鮫と同様に、前進は出来ても後退は出来ない。つまり……
「背後を取り続ければ……殺れる!!」
そして、それを実行する為には、ある技を使わなければならなかった。
アルジェは深く息を吐き、呼吸を整えた。
「……《冥河入水》!!」
……追い詰められ、生命の危機に陥って死に物狂いになった人間は、平常時とは比べものにはならない、尋常ならざる力を発揮する。
《冥河入水》は苛烈な鍛錬により、自らの意思で、その《死の一歩手前の領域》に踏み込んで限界を超えた力を引き出す、第十三騎馬軍団に伝わる秘技である。
但し、限界を超える力を引き出すという事は、反動で体に凄まじい負担がかかるという事でもある。この力を使い過ぎると、死の河に押し流され……生命を落とす。
……《冥河》とは、この世界において、死者の魂をその流れに乗せてあの世に運ぶと信じられている河なのである。
「はぁぁぁっ!!」
アルジェはカイコウオウの突進を回避して、背後に回り込むと、カイコウオウに併走しながら、左腕の剣盾で胴体部を滅多斬りにした。
死角に入り込まれたカイコウオウはアルジェを振り切ろうとするが、アルジェは距離を取ろうとするカイコウオウに対し、コバンザメのようにピタリと張り付いて執拗に攻撃を繰り出し続ける。
「うらあああああああああッッッ!!」
アルジェは目を血走らせ、鼻血をボタボタと流しながら敵を斬りつけまくった。敵の再生速度を上回る速さで肉体を削ぎ落とし続け、そしてとうとうカイコウオウの核が露出した。光輝く核目掛けて、アルジェは剣盾を振り上げた。
「これでトドメ…………うっ!?」
核が……赤く染まった。アルジェが吐血したのだ。
「ガハッ!? ゲホォッ!!」
激しく咳き込み、足がぐらつく。それでもアルジェは力を振り絞って剣盾を振り下ろしたが、紙一重の差で空振りしてしまった。
うつ伏せに倒れてしまったアルジェは何とか立ち上がろうとしたが、腕に力が入らず、潰れたカエルのように再び這いつくばってしまった。
アルジェの視線の先では、カイコウオウが『よくもやってくれたな……!!』と言わんばかりに、悠然とアルジェの方に向きを変えている。
「うっ!?」
そして、目があった瞬間、カイコウオウが迫って来た。アルジェが死を覚悟したその時だった!!
“ドォォォンッッッ!!”
カイコウオウは、突如として激しい閃光と轟音に包まれ、動きを止めた。そしてその隙を突いて、カイコウオウに肉薄した影が、手にした剣でカイコウオウの核を刺し貫いて消滅させた。
アルジェは、ぼんやりと滲む視界と、朦朧とする意識の中で声を聞いた。
「ちょっと貴女、しっかりしなさい!!」
「大丈夫ですか!?」
「あ……あんた達は一体……?」
……アルジェの意識はそこで途切れた。
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