斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
282 / 282
最後の決着編

斬られ役、扉を開く

しおりを挟む
 282-①

 クレナは、暗黒教団の元・聖道化師である月之前 京三からの連絡があった事を伝えると、京三から預かっていた《アルティメットフォン》を武光に差し出した。

 アルティメットフォンは、武光のいた時代のおよそ300年後の日本から来た京三が所持していた通信端末で、未来の超技術により半永久的な動力を内蔵し、基地局を介さずとも地球~月間の距離に匹敵する距離の通信や通話が行う事が出来、更には2台のアルティメットフォンの間で、物質の転送をも可能としたトンデモ機器である。

 普段はクレナが所持しており、マイク・ターミスタにいる京三から、穿影槍に装填する為の閃光石や、旅に必要な物資や食料を転送してもらっていた。
 武光はアルティメットフォンを受け取ると、京三を呼び出した。数回のコールの後、手元のアルティメットフォンに京三の姿が小さく立体投影された。

「おっす、京三」
『武光さん、ご無事で何よりです!!』
「ああ、お陰様でな。聞いたで京三、魔王城に搭載した特大穿影槍……あれ、お前が教えた技術のおかげでけ建造出来たんやて? ありがとうな、お陰で助かったわ!!」
『い、いえ……僕はただ、アルホのアーカイブに保存されていた情報をマイク・ターミスタの職人さん達に伝えただけで……それより、クレナさんから聞きました。シルエッタさんは……まだ生きているんですよね?』
「ああ、正体を隠して、ナジミと一緒に各地を回る予定や」
『僕にも、暗黒教団に加担して多くの人の生活を壊し、命を奪ってしまったという罪があります。僕も……同行させてもらえませんか?』

 京三からの提案に、ナジミは笑顔で答えた。

「もちろんです!! 来てくれると助かります!!」
『ナジミさん、ありがとうございます!! ん……ところで武光さん、その手に持っている物は……?』
「ああ、コレか?」

 武光は先程神々から授かった異界通行手形を、アルホから投影されている京三の立体映像へと向けた。

「ふふん、この異界通行手形があれば、俺が元いた場所と、こっちの世界を自由に行き来出るねんで!! 凄いやろ!?」
『ど、どうしてそれを武光さんが……!?』
「へっ……?」

 京三の立体映像が戸惑いながら何かを取り出した。
 京三が取り出した物は……色はくすみ、所々に傷や凹みがあるものの、間違い無く先程武光が神々から授かった神具、《異界通行手形》だった。

「な……何でお前がそれ持っとんじゃーーーーー!?」
『こ、これは僕の家に代々伝わる物で……何に使う物かまでは知りませんでしたけど……』
「えっ、ほんならお前……」
『それじゃあ武光さんって……』

「俺の……子孫んんんんんん!?」
『僕の……御先祖様ぁぁぁっ!?』

 その場にいた全員があごが外れんばかりに驚愕したが、武光は驚愕する一方で、なるほどとも思っていた。

 神々は言っていた……『不正な手段でこちらの世界に渡って来た者は、本来であれば即抹殺』だと。

 自分の場合は、『前回こちらの世界に来た際に魔王を倒した』という功績があったから見逃してもらえたものの……おそらくそういったたぐいの功績も無く、むしろ暗黒教団に加わって各地を荒らし回り、神々の『絶対ブチ殺すリスト』のトップに載っていてもおかしくない京三が、何故神々に目を付けられなかったのか……
 それはおそらく、京三は異界通行手形という神々が公認した手段でこちらに来た為に、今回の自分のように不正な手段でこちらに渡って来た際に生じる異常のようなものを神々に感知されず、見落とされていたという事なのだろう。

「マジか……誰か、書くもん持ってへんか?」
「わ、私持ってます」
「ちょっと貸してくれ」

 武光はキクチナからメモとペンを受け取った。

「何をするんですか、武光様?」
「いや、未来で京三がこれを手にするんやったら、ちょっと注意書きを書いとこうと思って」

 武光は紙に『京三へ、暗黒教団に騙されるな』と書いた。

「……これで京三も暗黒教団の幹部にならんで済むかもしれん」

 それを聞いたナジミやフリード達は皆首を傾げた。

「武光様……? 暗黒教団の幹部にならなくても済むって……京三さんはそもそも暗黒教団の幹部なんかじゃないでしょう?」
「そうだよアニキ、京三さんはこっちの世界に迷い込んで暗黒教団に追われてた所を俺達が保護したんじゃないか」
「それで、『助けてもらったお礼に』って、アルティメットフォンでマイク・ターミスタから私達に物資を転送してくれたり」
「京三殿が暗黒教団に加入させられそうになって逃げ出した時の情報を元に、暗黒教団の本拠地も判明しました」
「そ、それに……京三さんがもたらして下さった知識と技術のお陰で超弩級穿影槍も建造出来ましたし……」
「そっか……そうやんな。あれ……? 何で俺、京三が暗黒教団の幹部やなんて思ったんや……?」

 恐ろしい事に、武光の迂闊うかつな行動によって、過去の出来事の一部が改変されてしまった!!

 武光が先程のメモを残した事で、武光のいた時代からおよそ300年後、京三は異界通行手形と共にこのメモを発見し、こちらの世界へ迷い込んでしまった際に、メモに従って暗黒教団への参加を拒否してホン・ソウザンから逃亡。そして、逃亡の果てに武光達に出会う……という流れになり、京三が手に掛けてしまった人々も生きかえった……と言うより、という状況になってしまったのだ。
 この迂闊な行為によって、結果的に武光は、本人も全く認識のしようが無いまま、京三と、京三の行った悪行によって、命を落としたり、生活が破壊された多くの人々を救っていたのであった。

 そんな事を知るよしも無い京三は武光とナジミに呼びかけた。

『あ、あの……武光さんにナジミさん……!!』
「お、おう……何や京三」
「はい、何でしょう?」

『あの……えっと……その……ちゃんと子供を作って下さいねっっっ!?』

「「ブッ!?」」

 会心の一撃!!
 武光と ナジミは 噴いた!!

「おおおおおお前、いきなり何言うねん!? アホ!!」
「そそそそうですよ!! こ、子供だなんてそんな……」

 二人は、超ド赤面した。

『だ……だってそうしてもらわないと、僕が生まれてこなくなるかもしれないじゃないですか!?』
「や、やかましわアホ!! 切るぞ!!」
『あっ──』

 武光は通話をブツリと切ってしまった。

「な、ナジミ!!」
「は、ハイ!!」

 二人は、気恥ずかしさのあまりそっぽを向いたまま会話していた。

「い、一旦俺の世界に戻るわ。神様にも、一旦戻ってから異界通行手形で正式にこっちに渡り直せって言われてるし……」
「そ、そうですね!! お早いお戻りを……」
「お……おう!! すぐに戻ってくるから」

 武光は若干挙動不審になりつつも、クレナにアルホを返し、フリードからイットー・リョーダンと魔穿鉄剣を受け取った。

「あ、そうだアニキ!! せっかくだからアニキの世界の食べ物持って戻ってきてよ、アニキの言ってた『たこ焼き』とか『お好み焼き』って奴!!」
「あっ、フー君だけズルイ!! 隊長!! 私、お菓子が食べたいです、お菓子!!」
「私は隊長殿の故郷の衣装が着てみたいです!!」
「わ、私は武光隊長の世界の書物を是非!!」

 弟分達のお土産要求に、武光は苦笑した。

「お前らなー、隊長をパシリにすんなや」
「良いじゃん、俺達めちゃくちゃ頑張ったし!! 要求を拒否した場合は……アニキのあんな事やこんな事を姐さんにチクる!!」
「分かった分かった!!」
 
 武光は、異界通行手形を操作し、前方の空間に、元いた世界へと繋がる直径3m程の大穴……世界を繋ぐ『扉』を開いた。

「ほんなら、一旦帰るわ」
「はい、お気を付けて、武光様」
「おう!!」

 笑顔で手を振り、武光は穴へと入って行った。

 282-②

 世界を繋ぐ扉を通り、武光は元の世界へと戻って来た。

 近所のコンビニでコピーした《異界渡りの書・偽造》を使用した、自宅のボロアパートだ。

 異界通行手形を操作して、世界と世界を繋ぐ扉を消すと、武光はすぐさま、ちゃぶ台の上の置き時計を確認した。デジタル式の置き時計に表示されているのは、《異界渡りの書・偽造》を使用した日付と、向こうに渡った時刻の十数分後の時刻だった。

「どうやら無事に戻って来れたみたいやな、イットー、魔っつん」
〔そうみたいだね〕
〔はい!!〕

 武光は、シャワーを浴びると、Tシャツとジーンズに着替えた。

「さてと……」

 再度あっちの世界に渡る前に、可愛い弟分達のお土産リクエストに答えてやらねばならない。

「ほんならちょっとパシられてくるわ!!」



 巨大な影を打ち払い、愛する女性と大切な仲間達を守り抜いた斬られ役は、笑顔で玄関の扉を開けた。



 斬られ役、異世界を征く!! 弍!! これにて一件落ちゃ──



「……動くな」
「えっ!?」

  武光が玄関のドアを開けた瞬間、黒のスーツに身を包んだ数名の男達が突如として部屋に押し入り……武光に拳銃を突き付けた。
 黒服達のリーダーらしき壮年の男が口を開く。

「大人しく同行してもらおうか」


 ……そして、新たな物語の扉が開く


(了)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

処理中です...