斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
97 / 180
鬼退治編

聖剣、姿を現わす

しおりを挟む
 97-①

 次に戦えば、イットー・リョーダンは間違いなく折れる。

 ジャトレーの言葉を聞いて衝撃を受けた武光は、乾いた笑いを浮かべた。

「いやいやいやいや、そんなアホな……冗談キツイっすわジャトレーさん」
「残念じゃが……儂の目に狂いはない」
「そ、そんな……おい、イットー!! お前も何とか言えや!!」

〔武光……その老人の言っている事は……恐らく正しい〕

「んなわけあるかい!! さっきかて、あのオーガをいつもみたいに……」
〔……本当にそうか?〕
「うっ……」

 武光は先程の戦闘を思い返した。先程の戦闘でオーガを斬った時、確かに斬った時の感触がいつもと違った。いつもの “すん” という感じではなく、 “……ズバァァァッ!!” とか “……ザンッッッ!!” という感じだった。

「いやいやいや、アレは俺の調子が悪かっただけやって!! 実は50度くらい熱があったし、頭が割れそうに痛かったし、う◯こめっちゃガマンしてたし……」
〔嘘つけ、今日のお前は出会ってから今までで、一番動きのキレが良かった。自分でも分かっているだろう?〕
「……くっ」

 うつむき、血が出んばかりに拳を強く握り締めた武光に、ジャトレーが声をかける。

「武光殿、この剣はもはや戦闘には耐えられぬ……じゃが、戦闘に使わなければ一緒に旅をする分には何の問題も無い。さっき、イットー・リョーダンを見させてもらった……つかや刀身を覆う外装のこしらえ……あれは、お主がやったものであろう?」
「は、はい……」
「本職の職人には及ばぬが……丁寧な仕事じゃ、魂がこもっておる。その剣、大事にしてやってくれ」
〔フン、我は聖剣イットー・リョーダンだ!! 戦いに散る事など微塵みじんも恐れはしない。どうした武光? そんな顔をするな……やれやれ。皆の衆……済まぬがこの者と二人で話がしたい。ここを出ても良いか?〕

 イットー・リョーダンの問いに、ジャトレーはうなずいた。

「分かりました。ですが、あまり遠くには行かれぬように……迷子になっては大変じゃ」
〔ああ、分かっている〕

 97-②

 武光とイットー・リョーダンはアジトの入り口から少し離れた所で壁に持たれて地面に腰を下ろした。

〔……武光〕
「……何や」
〔君にだけは本心を言っておく…………怖い、めちゃくちゃ怖いよ〕
「イットー……お前」
〔ふふふ……怖くて仕方ないよ。全く……誰に似たんだろうね?〕
「……さあな? 俺めちゃくちゃ勇敢やし」

 少しの間のあと、一人と一振りはこらえきれずにプッと噴き出した。

〔……セイ・サンゼンの宿屋での事、覚えているかい?〕
「……お前を改装した時の事か?」
〔ああ、あの時僕は刀身に突き刺さった丸太を抜かないよう、君に頼んだ〕
「……そう言えば、そうやったな」
〔……抜いても良いよ、丸太〕
「いや、でもお前……あんなに嫌がってたやんけ」
〔今なら大丈夫〕
「……分かった」

 武光は左手で刀身を覆う木の外装を掴み、右手でゆっくりと柄を引っ張った。 “ずずず……っ” という感触と共に丸太から引き抜かれ、姿を現わした刀身は……びついてボロボロだった。

ひどいものだろう? ま、かなりの長い間、誰にも触れられずにいたからね……仕方ないさ〕
「お前……何で?」
〔セイ・サンゼンの時は……このボロボロの刀身を見られたら、また捨てられるんじゃないかと思って……怖かったんだよ。でも、今なら大丈夫。君なら……こんな僕でも大事にしてくれる〕
「けっ、そんなん当たり前やんけ……相棒」
〔そう言ってくれると思ってたよ……相棒〕

 一人と一振りは笑った。

〔僕無しで……大丈夫かい?〕
「……何とかするわ」
〔そうか……それじゃあナジミ達の所へ戻ろうか〕
「せやな」

 武光がイットー・リョーダンの刀身を再び木の外装に納めようとしたその時だった。

「ガアアアッッッ!!」

 一体のオーガが突然現れた。
 現れたオーガは、泥だらけで、異様に痩せこけている。恐らくこの坑道に迷い込んで抜け出せなくなり、何日も彷徨さまよっていたのだろう。
 極限状態が長く続いたせいか、すっかり理性が失われてしまっている。その血走った目には、武光が敵ではなく、肉の塊に見えている事だろう。

「嘘やろ……こんな時に!!」

 逃げ出したい所だが、後ろはアジトの入り口である。逃げるわけには行かない。

「くっ……先手必勝っ!! 火術・火炎弾!!」

 武光は、左手からリョエン直伝の火術を放った。火炎弾の直撃を受けたオーガが、炎に包まれ、崩れ落ちる。
 倒れ伏したオーガを見下ろし、武光は息を吐いた。

「はぁ……はぁ……どや!! 俺もやるやろ?」
〔ああ、それじゃあナジミ達の所へ……危ないっ!!〕
「え?」

  “……すん”

 イットー・リョーダンに引っ張られて、右手が動いた。
 その一撃は、突然立ち上がり背後から武光に襲いかかろうとしていたオーガを真っ二つに斬り裂いていた。

「い、イットー!? お前何しとん──」

 武光は言葉を失った。イットー・リョーダンの刀身が……真ん中からボキリと折れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...