斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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鬼退治編

刀匠、依頼する

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 98-①

〔武光……無事……か?〕

 武光が折れたイットー・リョーダンを手に呆然と立ち尽くしていると、イットー・リョーダンが声を発した。

「イットー!? お前……何でやねん!! 何で無茶したんや!?」
〔本当だよ、全く……誰に……似たんだろう……ね?〕
「待ってろ!! 今すぐジャトレーさんに見てもらって……」
〔武光……今まで……ありが……〕
「おい!! そんな縁起でも無い事言うなアホっ……おい? イットー……? イットー!!」

 武光はイットー・リョーダンに必死に呼びかけたが……返事が無い。

「おい……嘘やろ!? おい!!」

 武光は折れたイットー・リョーダンを手に、大急ぎでジャトレーの所へ向かった。

 98-②

「ううむ……これは……」

 折れたイットー・リョーダンを前に、ジャトレーを始めとするマイク・ターミスタの刀匠達は皆一様にうなっていた。

「ジャトレーさん!! イットーは……イットーは直るんですか!?」
〔父上!! お願いです……イットー・リョーダン様を助けて下さい!!〕

 武光とカヤ・ビラキのあまりに悲痛な叫びに、ナジミとミト、そしてリョエンは思わずうつむいた。

「武光殿、この剣を直すというのは……はっきり言って至難の技……無茶というものだ」
「そ、そんな……」

 ジャトレーの発した言葉に、武光はひざから崩折くずおれた。

〔父上……修復の材料が足りないと言うのなら……この私を溶かしてイットー・リョーダン様の刀身にお使いください!!〕
「ダメよカヤ!! そんな事をしたら貴女まで……!!」

 とんでもない事を言い出したカヤ・ビラキをミトが慌てて止める。

「くっ……そぉぉぉぉぉっっっ!!」

 武光は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら拳を振り上げた。

「待ちなされ!!」

 勢い良く地面を殴りつけようとした武光をジャトレーが制止した。

「早まるな武光殿。これから、この聖剣イットー・リョーダンを修復する為に一働きしてもらわねばならぬというのに……怪我をされては困る」
「……へっ? いや、だって……さっき『直すのは無茶』やって……」

 それを聞いたジャトレーはニヤリと笑った。

「言った!! 確かに……わしは先程、直すのは『無茶だ』と言った。じゃが……『無理だ』とは一言も言っておらん!! それに……『無茶』や『無理』には、挑戦し、乗り越えずにはおられぬのが、マイク・ターミスタの職人魂というものよ!! そうであろう……皆の衆!!」

 ジャトレーの問いかけに、マイク・ターミスタの職人達が一斉に『応ッッッ!!』と応える。武光は、涙を拭うと、頭を地に着けて感謝した。

「み、皆さん……あ、ありがとうございますっっっ!!」
「うむ、では……お主らにしてもらわねばならぬ事が二つある」
「何ですか!! 俺、何でもやります!!」
「うむ。それでは、まず一つ……ここの設備では剣を打ち直す事は出来ん。わしの工房を奪還してもらいたい」
「二つ目は?」
「もう一度刀身を打ち直す為には素材がいる」
「素材……?」
「どうやらこの剣の刀身には、カヤ・ビラキと同じ、皇帝鋼が使われておるようじゃ」
〔しかし父上、皇帝鋼は超が五つくらい付く程の希少金属……備蓄などあるのですか?〕
「無い、全く無い」

 カヤ・ビラキの問いにジャトレーは即答した。

〔そ、そんな……〕
「じゃが……代わりになりそうな物はある」
「な、何なんですかそれは!?」
「……オーガの角じゃ」
「オーガの角……」
「うむ、オーガの角は並の金属よりも遥かに頑強じゃ……それを儂の工房にある特別な炉で、一旦いったん溶かし、純化に純化を重ねて……それを元に刀身を打ち直す!!」
「な、なるほど……で、どれくらいの量が必要なんですか!?」
「一本や二本では到底足りぬ……少なくとも百本は要る」
「ひゃ……百本っ!?」
「うむ……百本じゃ」
「ひゃ、百って……十の十倍の、あの百ですか!?」
「うむ」
「五の二十倍の!?」
「うむ」
「二の五十倍の!?」
「そうじゃ……やれるか? 武光殿?」

 百本ものオーガの角……一体どれだけの数のオーガを倒さねばならぬのか……いつもならばビビりまくって尻込みする武光であったが、今日の武光は一味違った。

「おうよ!! やったらあっっっ!!」

 イットー・リョーダンは、次に戦えば折れるという恐怖に襲われながら、それでも尚、自分を命がけで救ってくれた……その友情に応える為にも、何が何でもやり遂げねばならない。怖いだのヘチマだの言っている場合ではない。

「武光殿……おそらく時間はあまり無い。時間がかかり過ぎると、刀身を作り直す事が出来たとしても、この剣に宿るイットー・リョーダンの魂は戻らぬかもしれぬ、恐らくは保って数日じゃ……急がれよ」
「分かりました……よっしゃ、手分けしてやんぞ!! ミトと先生はジャトレーさんの工房の奪還に向かってくれ!! 鬼退治は俺とナジミでやる!! 頼むで、皆……イットーを助ける為に力を貸してくれ!!」

 武光の言葉に一同は頷いた。

「武光、工房の奪還は任せなさい!!」
〔愛するヒトの為……この身に代えても、工房は奪還してみせます!!〕
「武光君達も……無茶はしないで下さいね」
〔ドン ト コイヤー!!〕

 ミトとリョエンは、それぞれ宝剣カヤ・ビラキと機槍テンガイをたずさえて、工房奪還に向けてアジトを出発した。

「よっしゃ……俺達も行くぞナジミ!!」
「ハイっ!! 武光様!!」

 武光とナジミも街に蔓延はびこるオーガ共を退治するべく、アジトを勢い良く飛び出した!!

 飛び出したのだが、わずか数分で武光とナジミはアジトに戻ってきてしまった。


「いやいやいや……よう考えたら、俺ら丸腰やんけ……」
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