150 / 180
殴り込み編
斬られ役、拷問する
しおりを挟む150-①
次に目覚めた時、ヨミはエルフ達の練兵場の広場で、厳重に縛り上げられ、転がされていた。ヨミの周りには武光達やエルフの戦士達が武器を携え立っている。
「くっ……こ……こんなもの……っ!!」
ヨミはオーガの剛力を使って縄を引き千切ろうとしたが、力が全く入らなかった。
オーガの力の源である角が、気を失っている間に切り落とされてしまっている。ヨミは怨みのこもった視線を武光達に向けた。
「アンタ達の仕業か……!!」
「ふっふっふ、いかにも。こっちには角折りのスペシャリスト……妖怪ちちなしつのちぎりがおるからな!!」
「ちょっ、誰がちちなしつのちぎりですか!!」
ナジミにポコポコと殴られる武光を見ながらヨミは歯噛みした。
「くっ、この私がアンタ達みたいなヘッポコ集団に捕らえられるなんて……屈辱だわ……!!」
「お前には色々と魔王軍の情報を吐いてもらうからなぁ……えぇ、しょーもなし子ちゃんよぉ!?」
「誰がしょーもなし子だっ!!」
目の前に、手足を縛り上げられた美少女というシチュエーションに、悪役魂が疼き、ついつい悪辣な笑みを浮かべてしまう武光であったが、そんな武光にヨミは “キッ!!” と鋭い視線を向けた。
「フンっ……嫌だと言ったら?」
ヨミの問いに対し、武光は邪悪な笑みを浮かべたまま言い放った。
「クククッ……お◯ぱいを揉みしだくっっっ!! って……ぐはぁぁぁぁっ!?」
武光は、ナジミとミトにツープラトンのドロップキックをかまされた。
「アホかっ!! 武光様アホかっ!!」
「この馬鹿!! 最低!!」
ナジミとミトにボコボコにされている武光をヨミは鼻で笑った。
「バーカ、私はアンタの思考を読めるのよ? そんなチンケな脅しが効くとでも? アンタにそんなつもりがこれっぽっちも無い事くらいお見通しだっての!!」
「「え……そ、そうなの?」」
ナジミとミトは武光に視線を向けたが時すでに遅しである。
「痛てててて……ホンマにお前らは冗談の通じん奴っちゃなー!!」
「ご、ゴメンなさい……」
「わ、悪かったわよ……」
武光は体に付着した土埃を払いながら立ち上がった。
「ったく……さてと……ナジミ、ミト……お前らはあっち行ってろ」
「ど、どうしてですか?」
「俺は今から……コイツをとんでもなく残虐で惨い拷問にかけて魔王軍の情報を聞き出す……聖職者や、ましてや一国の姫君が関わってええ事ちゃう。先生、二人を頼んます」
「ああ、分かったよ武光君」
「セリさんやヴィゴやん達も、俺が今からやる拷問に関わったりしたら、万が一の時言い訳つかんようになるから、この場を去ってくれ」
「我々はお前がやろうとしている事を何も知らなかったし、何も見ていなかった……本当にそれで良いんだな?」
「大丈夫かよ武光っちゃん……」
「かまへんかまへん、行ってくれ」
ナジミ達とエルフ達がその場を立ち去ったのを確認すると、武光は改めてヨミと向かい合った。
「さてと……拷問の時間じゃあああああ!!」
武光による『とんでもなく残虐で惨い拷問』が始まった。
150-②
武光の『とんでもなく残虐で惨い拷問』は連日続いた。
《顔面落書き地獄》に始まり、《足の裏こちょばし地獄》、《紙縒くしゃみ地獄》など、筆舌に尽くしがたい悪逆非道の数々が連日に渡り繰り返されている。
今日も今日とて、捕虜収容施設の牢屋から収容施設の中庭に引きずり出されたヨミに対して、ヨミの読心能力を利用した《回想・ホラー映画連続上映地獄》が現在進行形で行われている。
「ククク、どうや……ジャパニーズホラーの味は? 拷問前は『私はアンタなんかに屈しない、絶対最期まで耐え抜いてやる』と息巻いていたのに、随分と大人しくなったやんけ、えぇ!?」
「こここ、こんなもの……ぜぜぜ全然ここ怖くなんかないんだから!!」
「お前の後ろの井戸から白い服着た長い髪の女が覗いてんぞ」
「ひっ!?」
「わはは、ビビってやんの!!」
「ば、馬鹿言わないで!! 魔王の花嫁であるこの私が……」
「お前のすぐ後ろに全身真っ白の子供が体育座りしてんぞ」
「ひぃぃぃっ!?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………あっ、気絶しよったっ!?」
呪◯の伽◯子のモノマネをしながら、四つん這いになってカサカサとヨミの周囲を回っていた武光だったが、ヨミが恐怖のあまり気絶したのを見て、武光は拷問を中断し、ヨミに近付いた。
「うっわ、白目剥いてるやん……おい、しっかりしろ」
武光はヨミの肩を揺さぶった。
「うぅーーーん……ハッ!?」
「大丈夫か?」
恐怖で気絶したのを誤魔化そうと、ヨミは精一杯の虚勢を張った。
「あ……アンタの拷問とやらがあまりにもヌル過ぎるもんだから居眠りしちゃったわ!!」
「そんな汗びっしょりで震えながら言われてもな……ええ加減魔王軍の情報を吐けや、これ以上黙秘を続けるなら次は《激熱関東炊き(=おでん)地獄》やぞ!!」
「うぅぅっ……こんな辱め……殺せ!! いっそ殺せーーー!!」
「……嫌や」
「嫌ですって……何でよ!? 戦いの時は私を躊躇無く殺そうとしてたじゃない、殺しなさいよ!! 殺せ!!」
「やかましい!! 嫌なもんは嫌や!!」
「どうしてよぉ……ワケ分かんない……」
ポロポロと涙を流すヨミを見て、武光は困ったような笑みを浮かべてポツリと呟いた。
「……俺は弱いからなぁ」
「え……?」
「俺は……弱くて、ヘタレで、ビビりやから……戦いの真っ最中で『殺るか殺られるか』『相手を倒さな自分が死ぬ』みたいな状況やったら相手を斬る事を選ぶ。死ぬのめっちゃ怖いしな? でも、今はそうとちゃう、お前を殺さな俺が死ぬんやったらお前を斬るけど、そうじゃないなら……お前みたいなしょーもない奴でもなるべく殺したないねん」
「何よそれ……」
生まれてこのかた、『力こそが全て!!』『強さこそが全て!!』『強き者には弱き者の全てを奪う権利がある!!』という、妖禽族の価値観の中で生きてきて、それを疑問に思う事も無く、命を奪う事に愉悦すら感じていたヨミにとって、『殺さずに済むなら殺したくない』という武光の言葉は意味不明極まりないものだった。
ヨミは武光を、『偽善者!!』だの『キレイ事抜かすな!!』だの『アホ』だの『バカ』だのと罵り倒したが、武光がの言葉が本心からのものだという事を、相手の思考を読めるヨミには分かっていた。
「さてと……じゃあ、明日また拷問しにくるからな? ええ加減吐けよ?」
「フン!! 今頃、我が夫である魔王様は、帰りの遅い私の身を案じて、捜索に動いているはずよ……魔王様が来たらアンタも、アンタの仲間達も、エルフ達も皆殺しにしてやるんだから!!」
「まぁ、そん時はお前を人質にさせてもらうわ……俺は悪役歴が長いからな、人質を取るのには慣れとる」
武光はヨミを再び牢屋に閉じ込めると、ナジミ達の待つ家に帰った。明日の拷問に備えて、関東炊き(=おでん)を仕込まなければならない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる