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決戦編
斬られ役、牢を破る
しおりを挟む161-①
エルフ達によって魔王軍に引き渡された後、武光達はひとまず牢屋にぶち込まれた。
魔王軍のNo2であり、魔王軍全体の動きを統括していた大参謀のカンケイが横死したのだ、大賢者ウィスドムの読み通り、魔王城内は上を下への大騒ぎとなり、武光達への尋問は後回しにされた。
そして、城内が混乱している今こそ好機である。武光はイットー・リョーダンに小声で話しかけた。
(よっしゃ……行動開始や!!)
〔ああ、行こう!!〕
武光達が牢屋の中にイットー達を持ち込めたのには理由がある。ソフィアがイットー・リョーダン、魔穿鉄剣、カヤ・ビラキ、テンガイそれぞれの鞘に《隠形の秘術》を施してくれたおかげで、鞘に収まっている間は、外側から各々の武器は見えないようになっているのだ。
……余談だが、最初は武器本体に隠形の秘術を施してもらったものの、『アカン、全然見えへん!! どこに置いたか分かれへん!!』というかなりマヌケな事態に陥り、皆であーでもない、こーでもないと悩んだ結果、今の形に落ち着いたのは内緒である。
見張りは一人……武光は鉄格子越しに背中を向けているオーガにそろりと近付いた。
武光の頭の中ではさっきから中◯主水のテーマが流れっぱなしである。武光が気配を殺しつつ、ゆっくりとイットー・リョーダンの柄に手をかけたその時だった。
「たぁぁぁっ!!」
「グエーーー!?」
ミトが鉄格子の隙間を通して、カヤ・ビラキで背後からオーガの心臓を貫いた。即死したオーガがゆっくりと崩れ落ちる。
「お前……俺がせっかく必殺しようと……」
「早くナジミさんを助けに行きましょう!! 鉄格子を破るのよ!!」
「アッハイ……」
“すん!!”
武光はイットー・リョーダンで鉄格子をバラバラに斬り裂いた。
「よっしゃ……行くぞ!!」
武光達は牢屋を出た。
161-②
牢屋を突破した武光達は密かに看守達を襲撃して、彼らが身に付けていた鎧や服を奪って変装すると、監獄の壁の至る所にイットー・リョーダンで穴を開けつつ進んだ。
壁に穴を開けながら進むのは、武光達が脱走した事がバレた時に、『この穴から逃げた!!』と思わせて追っ手を撹乱する為だ。ナジミを救出し、皆で脱出する為に、武光は必死に悪知恵を絞っていた。
数分後、後方で誰かの『捕虜が逃げた!!』という叫びが聞こえた。
その声を聞き付けたのか、前方から三人の魔族が走ってきた。いよいよバレたかと、カヤ・ビラキの柄に手をかけたミトを武光は制止した。
「慌てんな、俺に任しとけ」
三人の魔族は武光達に声をかけた。
「おい、捕虜が脱走したって本当か!?」
武光は狼狽したような声色を作って答えた。
「は、はい!! どうやったのかは分かりませんが、捕虜は牢獄の壁に穴を開けてそこから外に逃げたみたいです!!」
「何だと!?」
「逃げたのは、あのカンケイ様を殺害した懸賞首第一位の武刃団です。探しに行くならご注意を!!」
「おう!! お前達も気を付けろよ!!」
三人の魔族は慌てて走り去ってしまった。
「どや? 俺の演技力をもってすればざっとこんなもんや!!」
「見つけたぞ、脱走者め!!」
「ふへっ!?」
武光が情けない声を出しながら慌てて振り向くと、いつの間に現れたのか、ヨミが妖しげな笑みを浮かべて立っていた。
「何や、しょーもなし子か、びっくりさせんなや……」
「誰がしょーもなし子よっっっ!! あの巫女の所まで連れてってやんないわよ!?」
「す、すんませんでした!! 全然しょーもなくないっす!! マジ最高っす!!」
「うわぁ、心にも無い過ぎる……やっぱ連れてくのやめようかな」
「そ、そんな事言わんといて下さいよー!! よっ、絶世の美女!! いや、マジでお美しいッッッ!! 例えるなら、そう……立てばジ◯アッグ、座ればア◯グ、歩く姿はア◯グガイ……みたいな?」
「ゲテモノばっかじゃねーか!!」
武光の頭に浮かんだ、全身を鋼鉄に覆われた一つ目の魔物(?)のイメージを見たヨミは思わずツッコんだ。
「はぁ……まぁ良いわ。約束通り……あの巫女に会わせてあ・げ・る♪」
「……頼む」
「ええ、任せて……んふっ」
ヨミは妖しく微笑むと、大きく息を吸い込んだ。
「みんなーーーーー!! 脱走者はここよぉーーーーーーーーーっっっ!!」
「んなぁっ!?」
叫びを聞き付け現れた何十という魔族によって、武光達はたちまち取り押さえられてしまった。
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