Over the Life ~異世界変身冒険奇譚~

鳥羽

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第1章 無一文から始まる異世界生活

第2話 異世界生活の始まり

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 ごぽり、空気と一緒に水の中で引っ掻き回される。洗濯機の中ってこんな感じかなーと逃避してる場合じゃない。不思議と苦しくは無いけど水に揉まれてどっちが上かも分からない状態になったらパニックなるよね普通! 瞼越しに光を感じる、あっちに行けばいいのだと分かる。水はいつの間にか穏やかになっている。

 水面に顔を出す。白い石造りの大きな円柱が立ち並ぶ野外。ぼんやりとした灯りが柱に付くように浮かんでいる。水面が満月を映しきらきらと動く毎に波打つ。渕まで泳いで低い縁を掴んで池を出る。水を吸って重くなった衣服と髪を生活魔術で乾かす。感覚はOTLと同じだった。

「宝条司様ですね?」
 白い布で目隠しをした神官服の青年がランタンを手にこちらを見つめていた。

 ▽

「私はこの神殿の司教のトトと申します。養育長官を拝命しております。創造神様より神託を授かり、この度僭越ではございますが使徒様がこの世界で務めを果たされるためのサポートを微力ながら誠心誠意させていただく所存です」
「使徒様?」

 頭を下げながら今までされたことの無い堅苦しい挨拶を受ける。すごく大層な扱いすぎて困る。物腰は穏やかで包容力がありそう。教育者というより保育士さんっぽい。ふわふわとした黒髪がより一層柔らかさを強調している気がする。

「はい、創造神様からの使命を帯びこの世界にいらっしゃったと伺っております。ですから使徒様と」
「あー間違いではないです。でも本当に使命と言えるほど創造神様の意向に沿って手足として働く訳ではないで使徒様というのは適切じゃない気がします。それと様付けも要りません。堅苦しいのは苦手なので・・・」

 創造神様レベルになれば畏まるのも吝かではないが日常生活からそれは息が詰まる。

「ふふふ、どんな方がいらっしゃるかと楽しみにしていたんですけれどここまで純粋な方だとは思っていませんでした。ここでいつまでも立ち話も気が休まらないでしょうし今日は遅いので明日詳しいお話をします。世話役を紹介しますので分からないことは彼に尋ねてください。お腹が空いるなら夜食を届けさせますし、足りないものがあれば申し付けてください」

「お腹は空いてないので大丈夫です。トトさんでしたよね。ありがとうございます」
「司さんとお呼びしても?」
「はい、トトさんが優しそうな人でよかったです」

 連れ立って歩きながら周りを観察する。人いないなー?  外観は暗くてよく見えなかったが等間隔でささやかに装飾が施された照明器具が薄暗く白い石造りの廊下を照らす。魔道具っぽい。さっきのランタンも魔道具だろうな。いつのまにか収納したのか手は空だ。トトさんは危な気なく歩いている。見えているのかな。

 いくつかの扉を抜け、ぐるぐると歩く。・・・これ絶対迷わせる造りになってるよね。さっきの泉は各国の主要神殿にある転生と復活に使われる施設だと分かったけれど神殿内部を歩き回るのは初めてだ。神殿関係の仕事に就けば関係者しか入られない所に入れたらしいけど転職・転生・稀に死に戻りでお世話になることはあっても神殿関係の仕事をした事は無かった。

 国によって転生施設の様相はまったく違ったがここは泉で平野でかなり広さがあったからOTLと同じなら大陸中央国家のどこかなのだろう。神殿は自治権を持ち商業的な面がかなりあったけどこちらの世界ではどうなんだろう?

「今日からはこちらの部屋を使ってください。臨時の鍵をお渡ししますが、ちゃんとした鍵は明日作ってお渡ししますね。呼んできますので中で寛いでいてください」

 ▽

 紹介された彼は狼の獣人だった。獣人は完全な獣の姿から人の形態までを行き来することができる。その度合いの調整は本人の身体操作・魔力操作の能力による。獣人に転生したこともあったけど体外魔力(ルフ)の操作がすっごく難しかったのを覚えている。

 その代わり体内魔力(オド)の操作は楽だった。あと耳と尻尾も隠せるけどそこまでするとすっごく息苦しい上一気に維持する難易度が上がるから、大体の人は人の姿をとっても耳と尻尾はだしっぱである。
 ちょっと動揺したら耳と尻尾が出て下手したらズボンで締め付けられて痛い目に遭うくらいなら最初からだしっぱの方が楽。

 その中で彼はかなり狼に近い姿をとっていた。二足歩行のもふも・・狼でシルバーグレイに白と黒の毛が混ざっている。黄色の瞳は鋭く背も頭一つ高い。

 白銀の鎧を着ているから神殿騎士かな。タンクですね。よっしゃもふもふ盾職様です。世話役ってことはダンジョンには付いて来てくれるよね? どこまで僕のプレイスタイルに付き合ってくれるか分からないけど! ダンジョン大好き支援補助大好きとしては盾職様には感謝しかありません。

「紹介に与ったアルフリートだ。神殿騎士をしている。堅苦しいのが苦手ということだが馴れ馴れしいのは好みではない。私も努力するが慣れてほしい。使徒様の身の回りの世話や護衛が私の任務になる。生活面でも色々不便はあるだろう。何かあれば遠慮せずに言ってくれ」
「はじめまして、宝条司です。司って呼んでください。お願いですから使徒様はやめてください・・」
 崇め奉られると寒気がしてくる。

「あはは、言ったとおりでしょ? 上司命令だよ。本人の意思を尊重するように」
「うむ・・では司、これからよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします。本当使徒様って柄じゃないし知識も欠如してるので色々訊ねると思いますが、面倒くさがらずに答えてくれると嬉しいです」
「問題なさそうだね。司さん、今日は遅いし早く休むんだよ。アル、部屋の使い方を一通り教えたら下がっていいから」

 アルフリートさんとトトさんが来るまでに色々見ておこうかとも思ったけど、触ってうっかり壊しちゃったりしたら怖かったからリビングしか見てないんだよね。

 部屋は廊下と同じ白い石造りなんだけど温度も湿度も快適で技術水準の高さを窺わせる。あと広くは無いけど天井が高い。

 簡易キッチンと食卓の有るリビング、寝室は入って右、反対に風呂場。洗濯機とベランダは無いからホテルみたい。驚いたのはベッドのサイズで明らかに長い上に幅クイーンくらいない?アルフリートさんならこのくらいないといけないだろうけど生憎自分は幼児体型ではあるが一般成人サイズである。きっとこのサイズがこの世界の普通なのだろう、そう思おう。

 威圧感はあるがもふもふ+盾職ということで始めから彼に対する好感度は高い。できれば良好な関係を築いておきたい。私をD(ダンジョン)に連れて行って! と欲望塗れではあるが。

「トトさんとは親しいんですか?」
「ああ、私は親だと思っている。」
 あー失敗した? 養子とかなのかな。
「ふっ、面白い顔をしているな。構わんよ。私はここの神殿であの人に育てられたようなものだ」
 慣れているのか世間話の様な軽い口調で彼は話を続ける。
「転生後数年神殿で養育を受けることができることは知っているか?」
「はい、それは知っています」

 OTLでの設定ではそうなっている。ゲームでは転生後すぐある程度成長した姿になって養育期間はスキップされ、成長アルバムが一冊渡されるのみである。転生は神殿に転生費用と養育費を払わないといけな上必要書類も色々あって正直面倒くさかった。蘇生も神殿で行われておりもちろんこちらも有料である。

「私は産着に包まれて神殿の前に捨てられていたそうだ。あの人は長官になる以前は養育所で子どもたちの相手をしていた。優しい人だが隠し事は一切できない恐ろしい方だ。長官は眼が見えないがその代わりに眼で見えないもの以外はほとんど全部見える。それでもいち養育神官として皆から慕われていた。もちろん私もあの人には今でも頭が上がらない」

 恐ろしい人だと言いながら微笑む顔はトトさんによく似ていた。
「明日どうせ長官からも話がある。興味があれば聞くといい」

 キッチンや風呂場は魔力起動式の魔道具でOTLとほぼ同じで安心した。必要なものは無いかと聞かれ今は特に思いつかないと答え、明日の朝迎えにくると言い残しアルフリートさんは去っていった。
 ・・・静寂が部屋に戻ってくる。足音はラグが吸うから静かなものだ。質素で清潔感のあるこの部屋と神殿にどれくらいお世話になるかわからないけど、とにかく今日は風呂に入って最低限の確認をしたら休もう。

 ▽

 ベッドに寝転がり灯りの魔道具を落とす。窓もないし真っ暗で快適なんだけれど眠気はまだ訪れない。寝間着だけど召喚魔石のピアスと空間魔法の刻まれた魔道具であるネックレスは身に着けている。
 召喚魔石には精霊馬のラクリマとホワイトドラゴンのコロナが宿っている。出せと言っている様に感じるが今は無理。さすがに狭い室内では呼び出せない。明日呼べるようなら呼ぶから我慢してほしい。

 こういう時こそスライム抱き枕なのにと切なさが募るが、いないことに慣れないといけないと自戒する。

 もう日付が変わって数時間経っている。習慣はこういうときこそ守ったほうが良いだろうと判断し潜在魔力値上昇ポーションを飲み、錬金のついでに作っている香水を付ける。瞼を閉じると精神的には疲れていたのか、ゆるやかに忍び寄ってきた睡魔に身を委ねた。
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