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第1章 無一文から始まる異世界生活
第4話 誰が罠は一つだと言った?
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勢いで飛び出しては見たものの、しばらく飛行していれば頭をも冷える。先ほど見た大きな川は街を蛇行しながらその先にある湖に流れ込んでいる。街の規模は思っていたより小さい。まあそうか、転送門があればわざわざ機能を集める必要性は低くなる。聖地とその周辺は聖教国が借りてるのだろうし無闇な開発はしないのだろう。素直に綺麗だと思う。コロナに乗って夜間飛行と洒落込むのも悪くない。
落ち込みながらぼんやりと飛行してたのが悪かったんだろう。急速に接近する魔獣に気がついたのは上空から強襲された後だった。
▽
お前この世界にもいたんかい! と口から思わず文句が飛び出す。プテラノドンを悪趣味に赤い羽根でこれでもかと飾り立てけばけばしくしたらこんな風になるだろう。
空の害獣はたくさん居れどこいつは知名度ナンバーワン。自分より小さいものしか襲わないOTLでも空の世界の嫌われ者。人より大きいので飛翔や浮遊でふらふらしてるとまず襲われる。嫌なら群れるか大型の飛行生物に乗ってねという運営の方針かと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
不快な金切り声を発しつつ、こちらを挑発するように風の魔術で煽りながら接近と離脱を繰り返す。街には降りてこないが逃げようとすると追い回される。一撃入れて離脱が望ましい。魔法火力型支援回復鳥を舐めるなよ! 防御は低いけど当たらなければどうということは無い。さっきバックアタックされたけど回復してるから問題無し。
・・・OTLでも反射神経とか格闘技術とかリアルと大幅に変わったりしなかったんだよね。リアルに強い人が有利だったのだけど、魔法や魔術はリアルとは違って想像力の大勝利でしたよ? というわけでこっちくんなあっちいけ。下が街でなければ遠慮なく撃墜するが万が一も有るし、消し炭にするのも手間だ。
こいつらとの戦闘は一撃入れればこちらの勝ち。接近に合わせて術式を複数展開、ソロだし遠慮なく行こう。警戒しても遅い。光魔術+誘導魔術式の追尾レーザーを発現させる。ダンジョンでPTプレイ中だと必要以上にヘイト稼ぎはする気はないのであまり使わない。
高い魔力反応に気付いたのか接近をやめ上空へとコースを変える。急旋回をして回避行動をとるが無駄だよ、この速度の単機で魔力妨害(ジャミング)無しならまず全部を外したりはしない。
二発当たり小規模爆発、ゲェッ! と短くひしゃげた声。多少焦げてるが穴は開いてない。ケケケケと鳴く声は相変わらず不快な音程。墜落もせず飛行できているのが不思議なのか首をかしげるような仕草をしながら滞空しこちらを見下ろす。
こちらが本気でないのが分かったのか僕の周囲をぐるぐると何周か回ってケーと一鳴きし飛び去っていった。
空のかまってちゃんはこの世界でも健在のようです。本当にありがとうございました。
落ち込んでいた気分も吹っ飛んだ。害獣に感謝、したくない。あーコロナ呼んで威圧してもらえば戦闘回避できたかなーと今更に思う。普段コロナに乗っているときは余程のアホじゃないと挑みかかってこなかったし、わざわざ相手にしなかったけど。
ともかく、一度街に戻ろう。目立つところにいれば見つけてくれるかな、日が落ちたら神殿に帰ろう。魂核の登録を済ませていなかったこと後悔した。見つけてもらえたらすぐに登録しよう。
▽
市街地中央部に位置する公園は、芝の上にシートを広げた人たちと移動販売の屋台で賑わっていた。噴水を十字に配し、地面の浅く広い水路がそれをつなぐ。水遊びをしている人たちが楽し気だ。
中央の一番大きくて像が飾ってあった噴水にダイブ。いいじゃないか安全で綺麗な水を見たら飛び込みたくならない?
くぐったり浮かんだりしながら毛づくろい。翼と尾羽は念入りに。がっしがっしと強めが丁度いい。
一通りやったら満足したので噴水を出て水を振り払う。魔術で乾かすよりこのまま自然乾燥にまかせよう。風が心地良いからもったいない。
噴水の水を貯めておけるようにと高さのある土台部は人が座れる幅があり、そこに変身を解いて座る。
変身を解けば事前に登録してある衣服を装備した状態になる。この服には温度調整機能を積んでいるので暑くはないが風を感じたいし外套と手袋を収納をした。
髪は水を吸って重いので半乾きの状態まで乾かす。全開の背中に噴水からのミストが飛んでくる。
昨日、今日を振り返る。色々有ったけどトトさんもアルフリートさんも良い人たちで、街には活気がある。とりあえずダンジョンと住居の確保と・・・お金が使えないこと思い出した。本気で忘れてたんだ、ほんとどうしよう、とにかく相談でその前に見つけてもらわないと。なんともなしにぱしゃぱしゃと足で水を叩きぼんやりしていると、さっきまで一緒にいた人の影が近づく。
「ここにいたのか」
ごめんなさい許してください、だから睨まないでください、お願いします。
▽
アルフリートさんは白い鳥が降りるのを見てこの近辺に当たりを付け探していたらしい。全長1Mの白に近いペールパープルの鳥は見つけやすかっただろう。頭を下げ謝罪すると仕方ないといわんばかりの溜息と共に眼光が緩んだ。
何事かと思ったがばしゃばしゃと無邪気に水遊びをするのを見て毒気を抜かれたそうで、しかしお説教は神殿に帰ってからだと言われビクっと竦み上がる。
反省はしてますよ。今日のトトさんの夜の授業はお説教タイムになる可能性。挫けそう。
「さきほどの硬貨は店員に言って回収している。神殿騎士の私が一緒にいたのだ、司が悪意を持っていない事は彼女も分かっていたらしく事情があるんだろうと納得していたよ。問題があるとすれば、急に逃げ出しあまつさえ飛んでいったことには驚いた。司は翼も隠した鳥の獣人だったのか?」
「獣人じゃなくて変身スキルです。」
変身形態は3種類まで。鳥の他には羊と豹に変身できる。ただ今は下位職なので鳥にしか変身できず、さっさと経験値稼ぎをして上位職にランクアップしたい。
「変身スキル・・そういえばあったな。魔術師が猫に変身したりなどは聞いた事があるが魔術師なのか?」
「魔術師ではなく下位オラクルの後衛神職です。魔術ももちろん使います。だけど僕は本来の回復支援職です。形態によって戦闘スタイルを変えるって聞いたことないですか?」
「オラクルという職自体聞いたことがないな」
「・・・・・え?」
創造神(ベネル)様、コレどういうことでしょうか?
▽
気になっている問題は二つ。
本当にオラクルいないの?
お金どうしよう?
どちらも自分にとって重要な問題ではあるが、リアルでの収入源と生き甲斐を守るため異世界に来たのにまさかの無一文スタートとは。
愛用の懐中時計は逆回転になって盤面の文字と配置変わってたけど5針問題なく動いてたし、暦や時間が同じなのは確認してる。だから油断していた。最高神(ベネル)様が貨幣経済を理解していないなんて思いもよらなかった。
▽
考えた結果とにかく先立つものが大事だと思い、お金を稼ごうと考えた。
「アルフリートさん、夜アルフリートさんとトトさんにお金のことで相談したいんですけど、大丈夫ですよね?」
「ああ、長官なら悪いようにはしないだろう。さっきの硬貨は司の世界での通貨か?」
「まさか・・使えないとは思っていなかったんです・・・」
溜息しか出ない。でも僕はまだ恵まれている、相談相手がいて今日の寝床も有る。焦るとここで盛大にこけて迷惑をかけるのだ、お約束は避けたい。
兎角もう迷子になりたくないのでアルフリートさんと魂核登録をしておこう。
「アルフリートさん魂核登録していいですか?」
「わかった」
出された手を握り返す。ひさしぶりのもふもふに胸が跳ねる。手であっても人間の肌とは違って短い毛並みが生え揃っている。
向こうから精神音が伝わってきたのでこちらも精神音で返事をして登録完了。これで思念通話が使えるようになる。アルフリートさんの精神音は暖かな陽だまりに解ける冬の雪のイメージを喚起した。
▽
すっかり食べ損ねたお昼を食べようということで案内されて大衆食堂へ。無一文なので気が引けたが手首を掴まれ連れて行かれる。
安くて美味いと評判の店らしいが昼を過ぎて酒を飲むにもまだ早いこの時間は席に余裕があった。
メニューの文字は読めるがそれがどんなものなのかは分からない。授業の時から分かってはいたが、文字を認識するとなんとなく頭の中で変換される。慣れるまでは我慢しないと。
バザーのときとは打って変わってどんなものかひとつずつ説明してくれた。食べられなかった悲しみを癒すため白身魚のシアの実ソースがけとサラダを頼む。
向かいのアルフリートさんは大量のメニューとエールを頼んでいる。いいなーと思っていたらお前も飲むかと誘われおもわず頷いていた。笑わなくてもいいじゃないですか・・・
目の前で皿が積み上がる。比喩ではない。二人だと広く感じたテーブルは料理に占拠され出される端からアルフリートさんの口に消えていく。
エールも魚も美味しかったです。次は白ワインで食べたい。横から出されたステーキが3口で消えた。付け合せはいつのまにか消えている。不思議。エールもなかなかのペースで消費されているが酔う気配はない。水みたいなものなんだろうな。肉類がほとんどで見てるだけでおなか一杯。
「朝も思ったが本当にそれだけで足りるのか?」
「足ります。十分です」
肉体の成長期は終わっている。これからは魔力系統を伸ばす期間。しかし戦闘もあっさり終わったし魔力を使わなすぎ+もふもふ不足でフラストレーションが少し溜まっている。
魔力は魔術を使わなくても生きてるだけで消費される。他にも集中したり、物を作ったり、体を動かすことでも消費される。つまり何か作りたいが素材や設備が不足している。遊びでのストレス解消とコレはまた別問題なのです。
「今日は悪かった、私の配慮が足りなかった」
食べて落ち着いたのか、アルフリートさんがそう切り出した。
「アルフリートさんに問題はなかったと思いますけど・・」
「しかし、私の認識不足があのような事態を招いてしまったことも否定できない。理知的で話も通じ落ち着いていたからといっても言い訳にならない。違う世界の存在だということを軽く見ていた」
「僕が悪いんですよ、いくら配慮してくれても神様は神様で人の価値観なんて完全に理解できるわけない、そんな言ってしまえば当たり前のことが理解できていませんでした。
自分から望んでこの世界に来て、違うところはあるはずだからって必死にトトさんから話を聞いても問題が起こったら逃げ出して話にならないですよ。
迷惑かけてごめんなさい。多分これからも迷惑かけると思いますけど、できるだけ頑張るので見捨てないでくれると助かります」
「自由をもたらす者とはこうも殊勝なのか? 今回の件に関しては確かに鳥になって逃げられたことには驚いたがちゃんとこうして戻ってきた。結果論だが問題が分かったがトラブルは起こっていない。そこまで悪いとは思わん」
「ならトトさんには黙っていてくれませんか・・?」
「それとこれとは話が別だ。大人しく長官から叱られるといい」
葉物の苦味とカブの甘みに酸味の利いたドレッシング。サラダが美味しい。春は苦いものが食べたくなる。
先の事に気をとられ目の前の食事を疎かにするのは悲しいことだ。舌と食感に集中して現実逃避した。
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