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第1章 無一文から始まる異世界生活
第5話 魂核とスキンシップとお説教
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さきほど戦って分かったがOTLとこの世界は本当にシステムが同じだ。感覚が変わらない。
世界には多様な職・魔法・魔術・スキルがあるが、誰でも魔術やスキルは使える。魔石を持つ生物は皆魔力を持つ。アンデッドすら魔石があるので生物というのは適切じゃない気もするが。
その誰でも使える魔術やスキルは職や本人の適性によって操作難易度や効率が変わる。がちがち物理アタッカー職で該当属性の能力と適性がお粗末でも使えることは使える。
莫大な魔力要求で威力は悲惨になるので使おうとしないだけで。
これは重いものなんて魔術で運べばいいではないですか? の生活すら魔術に頼りっきりの魔術師が頑張って自分の手でナイフを持って物理スキルで戦おうとしても切れるのは自分の腕だったりするのと似ているかな。
性差はあるが上限レベル30のどんぐりの背比べの初生から様々な経験を積み、転生を繰り返すたびに使わなかった能力の潜在値は下がり、使用することで潜在値上限近くまで高まった能力の潜在値は上がる。
転生したら一からスタートだけど潜在値の上限の高いものほど上がりやすい。魂の力は転生を繰り返すほど高まり全体の能力は高くなり、魂の容量を表すとされるレベル上限は転生すると上がる。
その他の能力潜在値は生きている間に微増、微減するが振り直しがあるのは転生の時のみである。
魔法や魔術適性も上限近く高めることで上がる。使わないと下がる。
この潜在値はなんと毛の長さにもある。活動エネルギーである魔力を操作することで急速に伸ばすということはできないが、少し早くしたり、長くなることを抑えることができる。
ある人は髪の手入れが面倒という理由でずっとスキンヘッドでいたら転生後髪が生えてこなくなるという悲劇に襲われた。まったく使わないならいらないよね? と魂核が判断したのだろう、さもあらん。髪は死んだ。
これら転生システムは、初生や肉体を鍛えてはこなかった男性より、重い武器を振り回しながら魔獣を討伐し、2度3度と転生を繰り返した少女の方が力が強いという事態を普通に発生させた。身の丈に合ってないような大剣を振り回す少女とかロマンがあるよね。
魔法や魔術で詠唱が必要なゲームは多いがOTLはあってもなくても良いというゆるさだった。というか魔法や魔術そのものがゆるゆるだった。属性ごとの一括りで適性等が表示されるのみ。魔法に至っては表示すらない。
例を挙げると自分が発現したいイメージが重要で炎の矢! と叫びながら炎の壁を出現させることもできる。というか詠唱も名称区分も術式の展開も必須じゃないから自分がやりやすいようにやれば? という色んな意味でやさしくない仕様でした。
▽
オラクルという職は変身スキルに適性が高く、特性の違う変身形態ごとに戦い方を変える色物職である。クレリックからの派生なので一応神性魔法と聖と光の魔法術に適性が高くなる神職の系統。
同職なのにも関わらずプレイヤー毎にプレイスタイルが大きく異なりOTL内での評判は”あいつらなにするか分からん”で色んなクランを放浪したが最後に落ち着いたのが同職クランの”色物”だった。
嫌われて避けられるなら同職だけでPT組めばいいんじゃね? と開き直り、熊やゴリラ等の耐久力の高い変身形態を持つ人をタンクにし、火力も回復も身内で賄う。
何でもできそうなイメージだけど専門職の一流には決して及ばないので試行錯誤を要求され、それが上手くかみ合ったときは言葉にできない喜びや楽しさがあった。
形態ごとに装備を揃えるのが大変で僕は大体いつも金欠気味。錬金で作った薬売ったり魔道具作って売っても入る端から消える悲しさ。
そんな僕らは周りからは”アニマルサーカス””動物園”と言われていたが、この職以上に好きになれる職があるとは思えなかった。
▽
「司さん? 分かりました? あなたはまだこの世界のことを十分理解しているとは言えません。ですから問題が起こることも仕方ないんです。
私たちはその解決のお手伝いをするためにいるんです。アルなんて顎で使って尻に敷いてくれていいんです。創造神様の威光と私の権力と能力の及ぶ範囲でまったく対処できない問題はこの街にはありません。
人を頼ることが苦手なのは薄々分かっていました。ですので、まず私たちという存在に慣れていくことから始めましょう」
今僕はトトさんの膝の上でお説教されてます。
▽
夕食後執務室へと。気分は出頭。沈痛な面持ちの僕を座り心地の良さそうな椅子に座ったトトさんが迎え入れた。
わざわざ奥の棚と執務机に挟まれた執務椅子を手前に移動させている。嫌な予感はした。
「お説教は相手が反省して行動を改めようと思ってくれないと意味がありません」
おっしゃる通りです。
「ですが何よりも大切なのは信頼関係です。どんな言葉も相手の心に届かせるためには、先にこちらから心を見せて信頼を示さないといけないというのが私の考えです。
私にはこの眼があります。一方的に見られ裸にされているような気がすると不快に思われることもたくさんありましたし、そう思われることも仕方の無いことです」
トトさんを不快に感じたことはないんだけどな。
「なので、まず私から信頼を示すことにしました」
ぽんぽん、と膝を叩く。
「ほら、こっちに来てください」
「・・・アルフリートさん」
「無駄だ。長官は何かあれば膝に乗せたがるし乗りたがる。特に庇護している相手にはな」
いつの間にか定位置の入り口側の椅子に座っていたアルフリートさんは腕を組み静観の構え。鎧を脱いでいて軽装だし僕一人が緊張してる気がする。うらぎりものー。
「本当にそこ座らないとだめですか?」
「はい、向かい合って話もできて反省も促せる。スキンシップで親密さも高まる。いい事尽くめです」
これがこの世界流のお説教なのか?いやきっとトトさん流だそうに決まってる。トトさんは貴重な時間を割いてまで僕に色々なことを教えようとしてくれている。悪い人じゃない。
でもこの距離感はどう対応していいか分からない。
「膝の上で30分お説教と、正座で今日の授業丸々お説教はどちらが良いですか?」
「お邪魔します!」
「いらっしゃい」
うん、勢いって大事。トトさんは細身に見えたけど僕よりはずっと安定感の有る体をしていた。
「ふふ、緊張してますね?結構結構。じゃあ30分間頑張りましょうね」
▽
お説教は声を荒げることなく進んだ。羊やリスなどの変身形態で身内でお互いに撫で回す事には慣れていたが、人の姿同士ではじゃれあう事はあってもここまで距離が近いのはほとんど無かった。
「鳥の姿になるんで、そっちじゃだめですか?」
モフモフ羊なら懐柔力も高いのにと打算的な事を考えた。さっさとランクアップして3種全部変身できるようにしたい。
「確か大きなの薄紫の鳥なんですよね?」
「変身の体毛とか羽の色は髪の色と同じなんでそうです」
「それも魅力的なんですが、今日はお説教なのでまたの楽しみに取っておきます」
懐柔作戦は失敗でした。
トトさんは優しく頭をなでたり腰に手を回したり、しかし性的な色は一切無い。されていることはお説教なのに安心感が高まって自然と力が抜けた。
「司さん? 分かりました? あなたはまだこの世界のことを十分理解しているとは言えません。ですから問題が起こることも仕方ないんです。
私たちはその解決のお手伝いをするためにいるんです。アルなんて顎で使って尻に敷いてくれていいんです。創造神様の威光と私の権力と能力の及ぶ範囲でまったく対処できない問題はこの街にはありません。
人を頼ることが苦手なのは薄々分かっていました。ですので、まず私たちという存在に慣れていくことから始めましょう」
膝の上に居ることに慣れてきた頃、所在なげにしていた手を掬い上げられ、トトさんの胸に導かれる。
服越しに感じる命の音。心音に心を落ち着かせる効果が有ると聞くけど、いまこの時は確かにそうだ。
「そのまま手を置いていてください」
そう言うとトトさんは首元の金具を外してケープを落とし、上着のボタンを外し始めた。呆気に取られているとそっとまた手を取り押し胸に当てられ、邪魔なものが無くなった分さっきよりはっきりと伝わる鼓動と熱。
毛皮もないただの人の肌。動揺で大きく脈打つ心臓は自分の存在がここにあるって主張してくる。揺さぶられる。さっきまで安心していたはずなのに緊張で喉が絞まる。
「私の魂核は背中に在るとお伝えしましたよね。司さんの世界では分かりませんが私たちの世界では魂核を見せると言う事は信頼を示すという事でもあります。ですので私の魂核をお見せしたいと思います」
上着から袖を抜き去る。神官服はつなぎになっており腰元に服が溜まる。昨日会ったばかりの人の半裸を今日見ている事に困惑を隠しきれない。体を直視するのも気恥ずかしい。”見えている”って分かっていても、目隠しの有る顔を見下ろす方がマシ。
顔が熱い。お説教コース変更も已む無しで逃げようかと思ったら抱きしめられた。反射的に身を固める。腕が少し緩んだので心臓においていた手を下ろしたら図ったようにまた抱きしめられ密着度が上がる。
猛烈に恥ずかしいがこれは純粋な好意と心配から来ている物だって分かってる。無碍にするのもまた申し訳ない。外套とか脱ぎっぱなしだったことを後悔した。
「背中の魂核見えますか?」
「ん・・ちょっと待ってください」
ごそごそと座りの良い位置を探して身じろぎする。トトさんの頭の横から顔を出して背中を覗き込む。あった。
魂核は一つとして同じ物が無い。初生の1.5cm角に収まる丸とか四角とかの簡単な形で始まり、転生を重ねそれぞれの形に変わっていく。
材質も色も人によって違い、木材のようなものから鋭い金属のようなものまで実に多様で複数の材質が組み合わさった魂核に成長することもよくある。大きさは大きくても2cmくらいまでしかならないみたいだったけど。
背中の中央のやや左に赤い蝶が飛んでいた。つるりとした赤い瑪瑙に漆のような輝きの黒の筋が混ざる。優しい炎と闇の色。
魂の象徴であるとも言われる蝶はトトさんに相応しいモチーフだと思った。
いつか司さんも見せてくださいねとトトさんは笑いながら言った。
▽
そうしてようやく僕は膝の上から解放された。30分しか経ってないのに疲労感が酷い。トトさんはケロッとした顔で身だしなみを整えている。
よたよたと歩きながら椅子に座る。執務用の椅子は元の位置に戻され昨日と同じ配置で授業スタート。違うのは僕が机に突っ伏している事か。
・・・これ授業になるのかな。主に僕の体力精神力的な意味で。
「うーん、これは授業になりそうにありませんねー。仕方ありません、最低限の事だけやって今日はおしまいにしましょう」
助かります。ありがとうございます。
「アルと魂核登録したんですよね。私ともしましょう」
うぅと呻きながら顔を上げると耳をいじられる。ふにふにともてあそびながら精神音が飛んでくる。作業的に返事をして登録完了。トトさんの音は篝火とそれに舞う蝶のイメージを喚起した。
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