Over the Life ~異世界変身冒険奇譚~

鳥羽

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第2章 司のあわただしい二週間

第31話 戦闘・ドラゴンゾンビ

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 ▽

「司、ヒーラーとタンクの立直しが最優先だ」
「はい、わかりました」

 散りじりに逃げ回る3人に声をかけず、明かりのフラッシュも消し、壁近くの岩陰に倒れ伏す2人に忍び寄る。二人まとめて壁にたたき付けられたのだろう、盾職の女の子を下敷きにもつれ合っている。
 あっちは言っちゃ悪いがしばらく弾除けになってもらっていたほうが都合がいい。

 二人を離し負傷具合を診る。戦闘不能と聞いて死亡かと思ったが息があった。タンクは虫の息、ヒーラーの方はよほど当たり所が良かったのか吐血もしていない。ここで死亡していたら服を脱がせて魂核だけ回収して、変わりに入る予定だった。OTLではそんな事した事が無かったので、やらなくてすんだことに心底ほっとした。

 生きているなら回復で済む。タンクの女の子はやっぱりあの転職窓口で絡んできた、見た目だけは可愛い二本角の魔人の女の子だった。地味な茶色の防具は胸周りと腰周りのみの機動力を重視したもので、純タンクじゃないのだろう。
 ぱさついた短い金髪には血がこびり付き、鼻が折れて流れた血が左頬を汚している。

 神性魔法を主としたヒールを全身に広げる。うっとうめき声が上がり意識が戻ってきたかぺちぺち頬を叩いて確認。上体を軽く持ち上げ、5倍に薄めたエリクサーを少しずつ、含ませるように飲ませる。ついでに血の汚れもおおまかに綺麗にする。魔法って素晴らしい。
 魔力と体力が戻って来たのでリジェネで身体の活性化を図る。ヒーラーの男性はアルフリートさんが回復している。回復もできる盾とかうらやましいなー。ゾンビがこちらの回復に気づいた。数体こちらに来ているのでアルフリートさんが迎撃に出る。

「た、たすけてえぇぇ!!」

 その動きを見て、冷静さを失った少年もこちらに気づきがゾンビを引き連れて向かってくる。
 悲鳴はドラゴンゾンビのだみ声よりも高く響き、残った二人も救いを求めるように駆け寄ってくる。ドラゴンゾンビの瞳の無い落ち窪んだ眼窩の奥、紫の炎がゆらめいていた。

 アルフリートさんから、こういった状況に陥ったらバフも含めて状況が安定するまで手を出すなといわれているので、今は僕はこっち優先。バリアだけ周囲に張って自分たちを守って、二人を戦線復帰させること第一に動く。

 女の子の方が先に目を覚ました。がばりと起き上がり、自分の両手を見て顔と頭を触り、傍らに倒れるヒーラーの男性に気づくと僕に背を向ける形でにじりより、心音を確認し生きていると確認できてほっとしたのかよかったとちいさくつぶやいた。

 響き渡るドラゴンゾンビのひしゃげた低音と泣きわめく人間たちのカルテット。

 アルフリートさんが魔力を込めて広い範囲に闘気を波の様に広げている。これでゾンビのタゲの半数はアルフリートさんに移ったが、ドラゴンゾンビはまだ好き勝手に動き回っているのでそちらに攻撃をしている。サブウェポンは槍なのかな?

 パニックに陥った人間に冷静な対処など期待できる筈もなく、ようやくタゲが半分外れたと言うのにゾンビに立ち向かうことなど考えもつかないようで、ヒーラーである僕の方に駆け寄って来る。

『アルフリートさん、こっちは心配しないでドラゴンだけはタゲ取りお願いします。タンクの人起こせたので大丈夫でしょう』
『お前が死んだら誰も蘇生できない。お前だけは死ぬな』
『はーい、アルフリートさんが死んだら助けに来ておいて壊滅なんで絶対死なないで下さい』

「救援要請を受けて助けに来ました。今あなたのPTの人がゾンビ引き連れてこっち来ているので、あれどうにかできますか? ドラゴンの方はBランクの騎士に任せておけばひとまずは大丈夫でしょう」

 この状況で最善はアルフリートさんがドラゴンに集中出来て、僕とヒーラーがそれぞれ安全に支援出来る事だろう。なのでゾンビはできるだけサブタンクとしてこの人と今はパニックになってる人たちに任せたいんだよな。

 はっとして振り向く女の子はその顔に似合わない粗野な口調で「わりぃ助かった。礼はあとで言う」と言って立ち上がる。

「あ、ポーション飲んでください」
「ありがとよ」
 ぐいっと一息で飲み干した後「くそまずい・・」と空瓶を返しながら苦虫を嚙み潰したよう顔で言われた。失礼な、固定ファンもいたんですよ。極々一部に。
「気付けにいいでしょ? あの乱れた状況立て直すにはゾンビと人どうにかしてもらわないと」
「やるっきゃねぇな、そっちは任せた」

 唾を吐き捨てそう言ってゾンビ連れた人の方に走っていく姿は、守られる女の子というより前線志向の戦闘職だった。

 アルフリートさんはどうにかドラゴンゾンビのタゲが取れたようで、多数のゾンビにわらわらと纏わりつかれながら回避重視で動いているようだった。

「おいおまえら! 助けが来たんだ! テッド! ちったぁしゃんとしろおお!」
 と叫びながら駆け寄って来た男の子を裏拳で殴り飛ばした。なんともドメスティック。
 受け身を取ってごろごろとこちらに転がってきたのでヒールをぽいっと投げる。

 混乱を収める一応の効果はあったようで、こちらに逃げようとしていた2人の足が一瞬止まった。ああ、うしろー!

 タンクの女の子はそのままゾンビ2体に直進後、一体の側方を取り、炎を纏わせた拳でワンツーを決め、もう一体には闘気の下位互換と言われる戦気を練り上げ突き刺すようにぶつけている。魔人だからか操作上手いな。

「おいカーラ! こっち来い!」
「はいぃっぃ」
 タゲが向いたことを確認し、次の救出に走る。
 僕はヒーラーさんを起こそうとさっきからゆすぶってはいるが、一向に起きてくれない。

「さっさ起きろ」
 襟首掴んでべしん、べしんと往復ビンタ。もう治ってるの分かってんだぞ。
「う、わぁ!」
「おはようおございます。助けに来ました。ゾンビのタゲとってるタンクの援護お願いします。ドラゴンゾンビのタンクはあっちのBランクの騎士さんに任せた方が安全です・・・ってなにしてるんですか?」

 飛び起き、こちらの存在に気づくとはぁはぁ血走った目で無い胸をがしがし揉まれる。痛い、そしてこれじゃないって顔をされてぴたりと手が止まる。

「おい、クリス! 正気に戻れ! ごめんなさい! 僕が死んじゃって蘇生したから!」
 さっき殴り飛ばされた男の子が後ろからヒーラーを羽交い締めにしてひっぺがす。ああ・・・死ねばこの症状治るんだよね? 一遍殺したろかとちらっと思ってしまった。

「よし、これを飲め」
 片手でキャップを開け、口に瓶をねじ込む。行け、激烈香辛料知力系ポーション。頭をハレーションさせるが良い。
 ふごおおろぉってほら飲め、頭がちょっとだけ良くなるよ。頭が良くなったら性欲もコントロールし易くなるって理性至上主義者(あるどうてい)が言ってた。
 これじゃないって判別できる時点である程度理性があるんだよ畜生。僕は一番理性が飛んでた時誰か分かってなかったんだぞ。

「動けます? 下半身が元気でも我慢して仕事は出来ますよね? ゾンビ相手しているタンクの援護は任せます。ドラゴンゾンビの相手は僕らがメインでしますから、取り巻きの処理をお願いします」

『アルフリートさん、ヒーラー復帰します。そちらの支援に回っていいですか?』
『待て、あちらのゾンビの処理を先にしろ。私は大丈夫だ』
『そうですね。力量分かってませんし、そっちが良いですよね』

「あ、聞いたらそちらのゾンビの処理を先にと言う事だったので、まずは手伝います。そのあとはアルフリートさんがドラゴンゾンビに集中できるように取り巻きゾンビの相手をお願いします」

 アルフリートさんはゾンビを魔法術を込めた盾で浄化しながら闘気を広範囲に宜飛ばしている。うむ・・あの魔力量2生の獣人としてあり得ないな。盾兼武器とはまた嫌がらせ装備を。

 タンクの女の子はどうにか纏めきれたようで、ゾンビ6体を相手によく立ち回っているように見えた。炎魔術拳闘士辺りなのかな? 向こうに居る二人は弓と水系統の魔術士で、多分この男の子が剣士っぽい。

 純タンクいないのか・・取り巻き召喚する相手には厳しかったのだろう。

 ぽんっと鳥の姿になるとおっといけない忘れてた。

「変身しますけど気にしないで下さい。それと、そこのヒーラーさん加護付けますけどいいですよね? 平常心になりやすい加護です」

「あ、はい、お願いします・・・」
 解放され、息を荒げ膝を突いて前かがみの姿は何とも情けない。《無報の加護》は鈍色の細かい鎖のイメージなんだよね・・ぐるぐるっと巻き付かれて吸収される意図しないSM。僕の趣味ではない、共通エフェクトだ。
 それと念のため解呪を二人に掛ける。退魔や呪術の専門職では無いし、普段使わないからこれはあまり得意じゃなかったりする。

「少し楽になりました。これなら戦えそうです。さっきはごめんなさい」
「じゃああの三人を助けに行きましょう」

 飛行する相手に対してのヘイトは種族、個体によって違う。取った後に飛び回って攻撃範囲から外れていたらタゲが外れる事が多い。

「ゾンビ3体持ちます!」

 ホーリーを小さく地面に展開し引っ掻ける。半分引きつければ向こうは余裕だろう。攻撃されるが躱せる高さで飛行すればすぐすぐにタゲは外れたりしない。
 ゾンビはスケルトンより耐久がある。魔石破壊が手っ取り早いがどこにあるかは分からない。

 拳闘士は火力職ではあるが戦気を扱え、タンクの中でも回避型に分類される。機敏な動きで敵を翻弄し、単体への連続した攻撃が特徴。半面囲まれたり、多数を相手にするのは苦手な傾向。戦気自体闘気の下位互換と言われ、範囲で展開するとすぐ効果が薄れるそうだ。

 弓と水魔術の人は遠距離攻撃組だから腕さえあれば、盾に攻撃しようと動き回るゾンビに安全に攻撃できる。腕さえあったなら・・・なんでタンクに当てるの? ねぇ、そっちに当てたらタゲ流れるって分かるよね? もしかして暗闇とかのデバフ入ってる? 解呪やワクチン掛けてみたけど変わらないな。あはは・・もう笑うしかない。よくここまで来れたな・・。

 低階層だからってコレは無い。仕方ない、回避盾しながら上空から支援しよう。僕に全部流れてもいいやくらいの勢いで回復するしホーリー重ねます。レーザー系は、みんなの動きが予想できないので使いません。

 ようやく3体が片付いた。僕の持ってる3体も全員でってほぎゃあ!! 矢が! アイスランスが!
「もうそこの二人攻撃しない! テッドさんでしたっけ、タンクさんの補助よろしく!」

 そんなこんなで近接攻撃と僕とヒーラーの援護でようやく片付いた・・・そう思って向こうを見たら取り巻きゾンビは綺麗にいなくなっていた。アルフリートさんごめんなさい。

 ▽

「皆さんには召喚されるゾンビの相手をお願いします。と言ってもそこの弓と水魔術士の方お二人は待機でお願いします!」

「そんな! たまたま当たっただけじゃない!」
「そうだ! 俺たちを除け者にする気か!」

「いい加減にしろ! 俺がゾンビたちを後ろに流したのは悪かった! でもフォローに入ってゾンビのタゲ取ったテッドに当てたのはどいつだ?! だからテッドが死んじまったんじゃねぇか!」

 わお、想像以上に惨い。なんかもう構うのが嫌になって来たのでアルフリートさんの方に行こう。

『片付いたのでそっち行きます。ゾンビが多少湧いても僕飛べるので気にしないで下さい』
『何やら騒がしかったが、手伝った方が良かったか?』 
『いやー大丈夫だと思ったんですけどね。思った以上にアレだっただけです。あそこで手出しされてもきっと混乱してたでしょうし、結果オーライという事で』
『ならいいが・・。ヘイトも溜まっているだろうし好きに攻撃してもいいぞ?』

 銀色の盾は見るからに神聖な光を帯び、ドラゴンゾンビはその盾に防がれるたび肉を溶かしている。重量とそれを扱える膂力があれば打撃武器としても優秀だなー。
 肉が融けても新しく盛り上がってくるのがグロテスク。ブレスも予備動作で判断してきっちり避けて横面殴って反撃しているし、もう弾切れなのか時間制なのかゾンビの召喚ペースは遅く、召喚されても一体であれば容易に対処していた。
 もうこれソロで良くないか? 大盾一枚でドラゴンゾンビと対等に渡り合うって、僕には何度転生しても無理だと思う。ソロでやるなら執拗に罠を多重に設置した場所に誘導するだろう。
 
「わー・・うれしいなー」
 回復職(ヒーラー)ってなんだろね。

「じゃあいきますねー。アルフリートさんには効かないのでなるだけその位置でお願いします」

 上空から脚で持った聖水でぐるっとゾラゴンゾンビを囲むように円を描き、ぱらぱらと天燐蛾の鱗粉をドラゴンの全身に振りかける。下準備オッケー。キリエとホーリーの併せ技。天燐蛾は聖なる炎を纏う蛾で、鱗粉は聖属性に反応して燃える。生物が触れても温かいだけの無害な炎。蚕から取れる天燐絹は最高級のシルクで、精錬した糸の織られる前のつややかさはバロック真珠よりも婀娜めいている。

 範囲を決めたホーリーがゾラゴンゾンビの足元から照らす。嫌がって逃げようとするけどホーリーに反応して鱗粉が白く燃える。キリエはターンアンデッドの魔術で、聖水の補助が有れば威力が格段に上がる。この場合燃え広がるホーリーファイヤと反応して飛び散る光も炎になる。要は聖属性でアンデッドを丸焦げにしよう作戦。体力減って抵抗力も落ちてるだろうし、これで終わるはず。

『絶景かな絶景かな』
『また悪趣味な』
『綺麗じゃありませんか? 瞬発火力はそんなにないんですから、これくらいしないと』

 黒い霧を白い炎が食い尽くす。声とも言えない不協和音が残響し、肉が溶けて無くなって後には骨と魔石だけが残った。

 ▽

 救助は終わった。あちらのPTには険悪な空気が流れている。テッド君とやらは死ぬ原因を作られたにも関わらず必死に仲裁をしていた。

 これどこまで相手するべきなんだろうか。とりあえずアルフリートさんに聞こう・・。
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