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第2章 司のあわただしい二週間
第32話 エリクサー? それならそこに吊るしてあるよ
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アルフリートさんと思念通話でこそこそと話す。この場合ドラゴンとゾンビの素材や魔石は総取りしていいそうなので嬉々として回収させてもらった。ドラゴンゾンビの魔石はぎりぎり収納できた。
生き物や人の魂核、高レベルの龍の魔石は収納できない。収納は大きさも関係するが、それが持つエネルギーも関係してくる。くだらない実験だが熱した金属と室温の金属なら、熱した金属の方が入らない。じゃあ絶対零度なら一番入るんじゃと思いきやそうでもなかったり。解明される日は来るのだろうか。口論するPTに取り合えず外出ませんか? と声を掛けて一緒に外に向かう。
『アルフリートさん、報奨金ってどんな風にもらえるんですか?』
『救援要請を出したPTと救助に向かったPTがそれぞれギルドに報告し、救援要請を出したPTの報酬から報奨金が出されることになる』
『支払いから逃げたりとかないんですか?』
『救助要請自体がギルドを通して行われている。もし救援要請を出したPTが払えなかったとしてもギルドが立て替えるから支払い自体は安心していい。それにDランクであれば一期に一度の救援要請までは補助金が出る』
『へー、そこら辺は優しいんですね』
『PTとして登録してダンジョンに潜った以上、壊滅しても魂核だけは回収しなければいけない。それが出来なければどちらにせよ救助にお金を出す事になる。ダンジョンを合法的殺人の場にされては困るからな』
『要は見捨てちゃだめですよと』
『ヒーラーならその場では見捨ててもちゃんと後で魂核は拾うくらいでいい。安全な場所を確保して蘇生できるならそれが一番だ』
勝てない戦に情や流れで飛び込む気は無いのでそれはありがたい。
薄暗い洞窟をマッピングが済んでいるルートを選んで進む。
後からついて来ているPTの空気は最悪。盗み聞きで話を繋ぐと、後ろに流れたゾンビに絡まれた挙げ句仲間から攻撃しを喰らったテッド君が死亡。
なんとか蘇生したもののゾンビの召喚は続き、だんだんとヒーラーが発情して理性を失いドラゴンゾンビの相手をしていたタンクの女の子にバックアタックという名の抱き着きを繰り出し、鎧の隙間から手を入れて胸を揉みしだいたらしい。
呆気に取られ身動きが取れなくなった所を纏めて一撃をもらい、二人揃って壁に激突。なんとかヒーラーを庇い死亡は避けられたものの救援要請を出しタンクは失神。タンクの女の子はメーティー、ヒーラーはユートと言うらしい。
相手が体の大きいドラゴンゾンビのうちは良かったが、動き回るゾンビ相手となると技術が足りなかった様だ。あそこにたどり着くまでは遠距離攻撃でおびき寄せ、一匹一匹メーティーとテッドで袋叩きにしていたそうだ。
色々不足したPTでした。お金にほいほいつられて出来立てPTが無茶するから。取り巻き召喚有の階層主相手は運が悪かった。
「侍者(アコライト)盾なんて初めから信じるべきじゃなかったのよ!」
「ヘイト稼げる技が使えるならいいって言ったのはおまえ達だろ!」
「俺は、いってないぞ! お前だろ、カーラ!」
「そもそもテッドがタンクすれば良かったじゃない、この役立たず!」
「ごめん、その・・僕が弱いせいで・・」
罵り合いを聞きながら洞窟を歩く。まさかの侍者(アコライト)盾とは。拳闘士じゃなかったのか。そういえば前衛職になりたくてもなれなかったとかレイムさん言っていたような? すっかり忘れてた。
まあアコライトから上位職のモンクに成るのを狙っているのだろう。ならあの戦気は適性もないのに魔力と経験で無理矢理に使っている訳か。前生使いなれていたらからこそ出来たのだろう。アコライトもモンクも神性魔法系統の職。モンクは拳闘士に似てはいるが回復が出来る分継戦能力が高いく、しかし筋力等の素の能力が上がりにくい欠点があり技術力が要求される。僕が戦気や闘気を使おうとしてもその適正も経験もほとんど無いためか感覚が分からずエラーしか返って来ない。
醜い言い争いを聞き流しながら洞窟から出るとまだスケルトンの骨と烏の羽があちこちに散乱していた。死体は一応埋めてある。骨も死体もあと数時間でダンジョンに呑まれて消えるはずだ。一体誰がしたんだと騒ぐ声がしたがスルーさせてもらった。
「そんな事より洞窟出ましたけど皆さんはどうされるんですか?」
「おまえ達が帰還するというなら送ろう」
その言葉を聞いて魔術師の女性がアルフリートさんにあからさまにすり寄る。胸の谷間をわざと強調する仕草は寒気しかしない。
「ありがとうございます~頼りにさせてもらっていいですか?」
「勘違いするな。おまえ達が生還して報告しないことには私たちへの報奨金の支払いが滞るからだ」
「ならせめてお名前だけでも・・」
「名乗るほどの者ではない」
おおかっこいいー。一度は言ってみたい科白だけど僕が言っても決まらないだろうな。すごい目で魔術士に睨まれるが勘違いの独り相撲ですよ。
▽
黒い転移門をくぐるとそこはボコボコと泡を立てる毒の沼地だった。
先頭はアルフリートさん、最後尾は僕でギルドが設置した転移陣に直行する。隙あらば媚を売ろうとする人間を後ろから見るのはかなり不愉快だったがあと少しの辛抱だと我慢した。
ギルドの転移陣は四方には結界の魔道具が置かれ、ギルドに戻る用とこちらに来る用の二つが並んで設置されている。
全員乗ったのを確認し4階層のギルドに転移。ようやくこのPTと離れられると息を吐く。
早速ドラゴンゾンビ、トレント、各種魔石を必要な分残して売り飛ばす。スケルトンやゾンビの魔石は予想通りの低価格。ドラゴンゾンビは階層主だった事もあって高く売れた。これで帰りの転移費用含めて黒字になったと人心地ついた。
受付で今日救援要請を受け行った救助活動の報告がしたいとアルフリートさんが受付に申し出ると感謝の言葉を言われ、すぐにお話を伺いに係の者が参りますと廊下奥の部屋に案内された。
▽
案内された部屋は一番奥にある応接間より簡素で、木の机とパイプ椅子が6脚並んでいるだけだった。
「受け答えは基本私がする。司は何か質問をされたら正直に答えればいい」
「分かりましたけど、どんな事を質問されるんですか?」
「救助時の状況や、消耗品で使用した物は何があるかなどだな。救助されたPTとの情報に食い違いが無いか確認の後、報奨金が支払われる」
「あ、そういえば僕免許も無いのに薬つかっちゃいましたよ! 大丈夫なんでしょうか?」
「救助要請を受けたあの場であれば問題ない。あの場でなくとも販売目的で無いなら使用を禁止された素材を使ったり、規制された成分が入っていなければ特に何も言われないだろう」
僕の今持ってる物の中に危なそうな物が結構あるけど、うん、黙っておこう。爆弾とか唐辛子を100倍凶悪にした物の泡スプレーとか・・大丈夫だよね・・?
4回のやや気忙しさを感じさせるノックの後、アルフリートさんが入室の許可を出すと制服姿の職員さんが部屋に入って来た。
メガネの・・これは両性かな。事務員のディオナさんが頭を下げ謝辞を述べ、救助活動の聞き取りが始まった。時折白い手袋をはめた指が細いフレームを押し上げる。神経質そうな手つきで持っているボードに聞き取った事を書き込んでいる様だった。
「では到着された際にまず重傷のメーティーさんとユートさんを魔術と回復薬を使用し回復されたという事ですね」
「そうだ」
「その時救助要請を出された他のPTメンバーの方はどうされていましたか?」
「ゾンビ数体にそれぞれ纏わりつかれ、ドラゴンゾンビにいいように遊ばれ逃げ回っていたな」
「その様な状態からどの様に立て直されたのですか?」
「まず私がドラゴンとゾンビの半数を持ち、その後タンクが復帰しPTのゾンビを回収していた様に思う」
「お隣の司さん、事実ですか?」
「はい、そうですね。僕は回復に専念してて、タンクが復帰した後にヒーラーも目を覚ましました」
「その後はどうされました?」
「私がドラゴンの相手をしている間に残りの人間でゾンビの相手をしてもらい、その後司と私でドラゴンを討伐した」
「はい、ありがとうございます。特に問題は無さそうですね。次に使われた回復薬を教えていただけますか?」
「エリクサーと回復ポーションと・・あと知力系上昇のポーションです」
知力系は回復には必要無かったから言い辛かったが、向こうも聞き取りをしているだろうからどうせばれるし。
「ちょ、エリクサーだったんですか。それぞれの薬品の販売元はどちらですか?」
「全て自作なんです」
「ああ、薬師さんでしたか。免許番号は?」
「その、趣味でやってるので免許とか持ってないんですよ・・・」
「錬金術師組合等にご登録はされていらっしゃいますか? そちらでも大丈夫ですよ」
「してません、ごめんなさい」
沈黙が痛い。この場合どうなるんでしょうねー・・。使用した物の値段の判定基準がきっとあるんだろうけど、僕は社会的な判断基準となる様な物は一切持っていない。
「仕方ありませんね・・この場合使われた物と同じ物があればそれを検査しての判断となります。無ければ最低基準でのお支払いになってしまいます」
「うう・・あるので持って行って下さい。お手数をお掛けして申し訳ございません。最低基準でも全然かまいませんから。エリクサーなんて5倍希釈のうっすい物でしたし、ポーションは造血が主目的の回復力はいまいちの物でしたし・・」
「知力ポーションはどういった目的で使用されたんですか?」
「ああ、それはヒーラーさんが蘇生して発情してて、起こしたら胸を揉まれたんで正気に戻れという意味で刺激的な味の知力ポーションを飲ませました」
腹いせも多分にあったが。
「聞いていないぞ」
「言う必要無いかなーと」
腕を組んでこちらを睨む人からさっと目を逸らすと、チッと舌打ちが聞こえる。同職(ヒーラー)の失態だからか、思い出したくない何かを思い出してしまうからか言いたく無かったんだよね。
3種類の液体をまとめてディオナさんに渡す。
「30分程度お待ちいただけますか? お忙しいようでしたらまた後日検査結果を元にお話しをする事もできますが」
「分かった。こちらで待たせてもらおう」
「検査よろしくお願いします」
出ていくディオナさんに心の中で待ってーと縋る。正確には隣に居る人のジト目が怖いから二人きりにしないで欲しい。
「司、今回の探索で良く分かった」
「はぁ・・何がでしょうか」
「お前は少し目を離せばあっちにふらふら、こっちに無自覚に問題行動ときている。悪い事は言わん。長官や私達の庇護下に居るべきだ」
「はぁ?」
まるで子供の様に扱われていると感じてカチンときた。反射的にけんか腰で言い返す。
「まだたった一回一緒に行っただけで何が分かるんですか?! 注意された事はちゃんと改めるつもりです! 確かに僕はこの世界の常識なんかまだ分からない。知らない内にやらかしちゃってた事も認めます。それでも無力な子供扱いされる謂れなんか無い!」
「子供扱いした覚えは無いが、そう思ったなら謝ろう。お前は憎たらしい程大人びているかと思えば、無邪気な姿は子供を通り越してまるで幼子の様だ。どう扱うべきなのか未だに分からない」
「・・・・・僕は誰かのイメージや定義に自分を合わせるつもりはないです。そんな事する利益が無いから。とにかく、無力な人間扱いは辞めてください」
足元に積もった沈鬱な溜息が不安の形を成して僕に這い寄って来る。ぎゅっと両手を握って耐える。
「いっそ無力であったなら扱い易くてよかったのだがな」
「ごめんなさい。お世話になっているのは分かっているんです。迷惑ばっかりかけてるのも知ってるんです」
役に立ってないのも分かりきっている。今回の探索だって別に僕じゃなくても良かった。
「ごめんなさい、勝手に一人で怒って大声出して・・・これじゃ子供扱いされても文句言えないですよね」
重苦しい静けさはディオナさんが「これ五倍濃縮ですよね? 希釈じゃないですよね?!」と騒がしく入ってくるまで続いた。
「えー・・、こほん、司さん、先ほど希釈とおっしゃっていましたが、濃縮とお間違えですよね?」
「薄めてますよ。原液がちょっと濃いだけです」
「見せていただいても?」
収納からエリクサーの一升瓶を取り出す。
「エリクサーって光りましたっけ?」
「光ってるのはエリクサーじゃないんですけどね。綺麗でしょう?」
そのまま置いておくだけで幻想的なランプとしても使えます! これを作る裏側でどれだけの牡蠣と魚と薬草と結晶が必要だったかは気にしてはいけない。
ゆらゆらぽわぽわと綿帽子みたいな青い光が瓶の周囲に現れては消える。
「ロマンチックですよねー」
「は、はあ。ではそちらを検査用にお借りしても?」
「あ、はい、どうz・・」
「司。帰るぞ」
「え、ちょっとアルフリートさん!」
「評価は最低基準で結構だ。支払いもいつでもいい」
立ち上がったアルフリートさんに首根っこひっつかまれてずるずると強制的に退室させられた。
目を離さなくともすぐコレだとぶつくさ言われ、納得いかなかったがヒステリーを起こした手前反抗し辛く、仕方なく一緒に拠点地に帰った。
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