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第2章 司のあわただしい二週間
第33話 収納拝見!
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ひっつかまれてギルドから出て行った帰り道、街中で初めてプロポーズを目撃した。
薄くなった黒髪の中にぴんと立った獣耳。眉間の皺は罅の様に刻まれ、たるんだ皮膚が瞳を半分隠しているおじいさんと、僕と同じくらいに見える骨格はしっかりしてるけど僅かに胸もある両性。
おじいさんと青年は道の脇のベンチに一緒に腰掛けて、熱のある口調でおじいさんを口説いている。
「来生もあなたと一緒に居たいんです。あなたを育てさせて下さい」
「何度言っても同じだ。私は今生を終生とするつもりだと言っているだろう」
「あなたこそ、僕がしつこいのも知っているでしょう」
「ああ、まさか押しかけ介護までするとは思っていなかった」
「諦めるつもりはありません。気の迷いなんかじゃない。あなたがおじいちゃんになった今でも、変わらず愛しています」
見詰め言葉を待つ青年。何も言わず、頑なに相手を見ようとしないで俯いてばかりいるおじいさんに痺れを切らしたのか、両性がベンチから降りて足元に跪いて脚の間に置いてある杖に手を添えた。
「僕があなたの杖になります。そして今のあなたの世話をしているように、来生で赤ん坊になったあなたを育てて番として一緒に生きる事が僕の幸せなんです」
「どうせ私は生きたとしても次で終わりだ。置いて行く事が分かりきっている」
「あなたは最後の生を僕にくれるんですね!」
「そういう意味じゃない・・」
段々と聞こえる声が弱弱しくなっていく。
「同じです! 傍らに僕の姿があったのでしょう?」
「ふん、この馬鹿・・・そんなに欲しければくれてやる」
涙を流しながら両性が泣きながらおじいさん抱き着き、邪魔な杖は若々しい手によって遠くにぶん投げられ、周囲は観衆の歓声と温かな拍手で包まれた。
拍手も止み、姫抱きで持って帰ろうとおじいさんを抱えるも杖を忘れるなと注意され下ろした姿は間が抜けていたが、拾ってきた杖でこつんと頭を叩かれた両性も抱き上げられたおじいさんも幸せそうに笑っていた。
あの二人は番としてお互いに満たし合える温かな家庭を作るのだろうか?押しかけ介護は結構有名なアプローチ法らしかった。
こうやって異世界に来れてしまった以上、どうやら僕にとってそんな家庭というものは異世界より遠い場所だったらしい。周囲に頭を下げ去って行く二人を目を細めて見送った。白い毛の混ざった長い尻尾がするりと脚に絡む。
▽
しんみりとした気持ちでお家に帰ったらお荷物チェックが待っていました。
「出せ」
「プライバシーって必要だと思うんです」
カツアゲか! リビングで睨み合う二人。僕とアルフリートさんのバトルが勃発した。抵抗空しく監督者にあっさり負けて、今は正座しながら一個一個収納から出しては説明を繰り返している。爆発物、装備品、薬品、毒薬、捕獲用の道具エトセトラ。ダンジョンで何が有っても大丈夫な様に充実したラインナップ。
「これは没収だ」
「ああぁぁ! 僕のスグオチール!」
満たされた気持ちで眠れる睡眠薬・・捕獲に持って来いの素晴らしい薬なのに! なお健康への被害は身体依存は形成されない。
話を聞くと必ず幸福な夢を見れるユーフォリア草の使用が制限されているそうだ。
そんなこんなでダンジョンから帰ったらすぐに錬金術師として登録しろだの、免許はこれが必要だとアドバイスを頂いた。
色々没収され魔獣がいる世界なので危険物への管理がかなり甘いからまだ良かったのだと自分を慰める。
「で、これは何だ?」
「杖です」
「見ればわかる。そういう意味ではない」
青い結晶と液体の循環する球体を取り囲む湾曲した金属。ぱっと見ペンダントライトが先に付いた様な杖。
「おかしい所特に無いですよね?」
「大有りだ。何故球体が浮かんで光が取り囲んでいる。それはまだいいとしても、何故蔓性の植物が巻き付いているのだ。武器なのかコレは」
「ああ、これはですね」
蔓についている種子の入った袋を破いて中の種をつまみ、首に添えて魔力を流す。
「これ、寄生植物なんです」
「な」
「ああ、時間が経てば枯れるので大丈夫ですよ」
種は皮膚に根を張り、頭にくるっと蔓を伸ばす。葉が茂りすぐに僕の魂核によく似た大振りな花を一輪咲かせる。
こちらの花が咲くと杖の蕾も花開く。杖の花の根は球体を取り囲み、緑が茂る。
「多分ですけど、アルフリートさんのスティレットみたいな機能です。僕のいた世界では人と何かをリアルタイムでリンクさせる技術が発達してませんでしたから、こうやって僕は植物の能力を借りてたんです」
「害は無いのか?」
「あると言えば有ります。無いと言えば無いです」
簡単に言うと品種改良した植物を経由して繋がっているのだ。僕が魔力を使うと杖から魔力が供給される。中央の青い結晶化と液化を繰り返す球体は、お察しのエリクサーを元にラクリマ以下多数の協力を得て作った物体。
僕の魔力が向こうの魔力を上回ってしまうと逆に持っていかれるので、それを害と言えば害だろう。まあそうならない様にセーフティは一応掛けている。
「これがあると広範囲ヒールとか範囲蘇生が出来るんですよ!」
神性魔法と言っても魔力もガンガン消費するのでそこを随時カバーするのがメイン。
「範囲蘇生などすればお前がどうなるか分からない。やめろ」
「僕の武器が・・・」
せっかくの人間形態の大事な必殺技が・・・人の形態でわざわざいる時は回復と蘇生が必要とされる時だから杖は人間形態専用。
蘇生は何故か人の時しか使えないから分かりやすい利点で、支援つええできる大事な機会だから優先して作って、ようやく杖が出来ただけで他の形態用の分は作れてなかったのに。
改良した寄生植物の武器利用は完全にグレーゾンだそうです。違法では無くて本当に良かった。
装備は形態の特性ごとにそれぞれ有り、計4形態分の装備と戦闘スタイルを説明する。
「そういえば、爆心地帰りには話しませんでしたもんね。こういうの」
「お前のやりたいことに合わせる自信が無くなってきた・・」
「えー。僕に合わせるじゃなくて僕が合わせるのであんまり気にしなくていいですよ」
「そうはいかん。お前の顔はやりたい事がまだまだあるという顔だ」
「う、だってランクアップしないと羊と豹が解放されないんですよ? 片腕捥がれている様なもんなんですよ。現状」
そうなのだ。あの時この形態ならこう動く、このやり方が使えるというシーンが有った。制空権が無くとも違う形態になれたならばまた違う戦法が使えた。食料品のチェックは甘かった。中には薬なのか危険物なのか分類不可能な物体Xも混入していたが、いっしょくたに出したので見事に見逃された。
「これは長官に報告だな」
「溜息吐くくらい気が重いならしなくてもいいですよ?」
ギロっと擬音が聞こえるここ最近で一番の目で睨まれる。
そうして三者思念通話が開催された。
▽
『やっほー司さん元気してた?』
『トトさんこそ、お仕事は大丈夫なんですか?』
『もう、そんなの気にしなくていいの。司さんからの連絡楽しみにしてたのに。アルから聞いたけど色々没収されたって?』
『うぐ・・全部使える物なのに・・・』
『司。また騒動を起こす気か?』
『うぅ。ある物で頑張ります』
予想よりお説教は短く済んだ。僕に悪気は無い事は分かっていてくれたらしい。
『トトさん、サールーンの様子はどうなんですか? あ、話せないならいいです』
『うーん、公爵家の当主が死ぬのも時間の問題かな?』
『え、そんな事話していいんですか?』
『良いも何も皆分かってる事だろうし。農奴の問題にダンジョンの問題。神殿は封鎖されてないけど蘇生の優先付けと準備でてんやわんや。医療施設も少しは落ち着いたとはいえ医術師不足が酷い。封鎖された転移港の前では市民が座り込み。慰問団と言っても私は裏方でいいように使われてるよ』
『サールーン公国って奴隷制あったんですか?』
『うん、今は職業選択の自由と移転の自由が無い農奴だけになってるけどね』
汚染地域にも農奴はもちろん居て、契約によって土地に縛られた農奴の住む集落の中には逃げる事も出来ず全滅した村もあったそうだ。
『誓約魔法ですよね? 契約者の死亡で解除されなかったんですか?』
『どうやら皇帝が国の所有物扱いにしていたらしくてね。クローナシュテルツの悲劇だなんて笑えないよ』
クローナシュテルツは魂の生まれる光という意味だと自動翻訳さんが脳裏に囁く。
まるで新しき魂がそこに誕生したかの様な光が爆発で迸った事から誰ともなくそういわれる様になったそうだ。
吐き気がするほどの悲劇はどこまで続いて行くのだろう。僕はどうしたいのだろうか。
サールーンは今出入国が厳しく制限されている。ダンジョンで狩った魔獣の売却優先をサールーン公国にするのも今の話を聞くと違うだろう。
『神殿は治療はしないんですか?』
『してはいるけど、蘇生が専門。神性魔法は異能者じゃないと使えないってわけでも無いし、他の属性の治癒師や医術師もいるからね』
その他にも様々な事をトトさんは教えてくれた。肉体的に死んだとしても生き返る事ができるという安心感からか、些細なトラブルが暴力事件に発展する事がよくあり、幸い食料は十分にある為略奪は少ないが、緊張状態が続いているそうだ。
『トトさん。僕が出来る事ってあります?』
『・・・司さん。今あなたが無理に動こうとしても状況は良くはなりません。近々ダンジョンで出会いがあるでしょう。それがきっとあなたに道を示してくれる筈です』
意味深な予言を残し思念通話は終了した。出会いと向こうは気づいていない再会なら今日あったんだけどな。
▽
時間的には夕方にラクリマからそろそろ帰ると連絡があった。朝から探索に出て洞窟でドラゴンゾンビを狩り、PTを救助し、ギルドで聞き取りを受け、お家に帰ったら持ち物検査とお説教と盛りだくさんの一日だった。
アルフリートさんに提供してもらった冒険者の一般的なご飯はとってもレーションでした。そこそこ美味しかった。
お風呂から上がったらソックスがリビングのラグの上で胴体を尻尾でくるむようにして一人寝転んでいた。来た当初は誰かが一緒に居ないと不安そうで、騒動もあって緊張しっぱなしだったのに、ようやくここまで慣れてくれた事がとても嬉しくて、うきうきと収納からブラシを取り出してソックスに近づく。
「ソックス。ブラッシングしよっか!」
横にぺたんと座って問答無用にブラッシングする。最初は目を丸くしていたが今は落ち着いている。
寒冷地仕様なのか尻尾は胴体くらいの太さのある立派なふわふわ。毛に包まれた肉球はホッキョクギツネみたいに血の巡りがいいのかな?
白い四本の脚は影で活動するには不利で、しかしその黒い体は雪に覆われた冬はどれだけ生きにくかった事だろう。
嫌がられそうなポイントは避けつつ毛並みを褒めてブラシをかける。まだ春だし毛は抜けないみたい。
トトトと階段を下りる音が聞こえ、コロナが引き戸の下に付けてある犬用扉から勢い良く入って来た。
『つかさきいて! 今日ね・・・』
コロナがこちらを見て牙をむき、はっとした顔を一瞬した後悲しそうに細く細く鳴いた。
「どうしたのコロナ?」
異常な様子に思わず手が止まる。
『ねぇ、つかさはソックスの方がだいじなの? ぼくはもういらないの?』
「え、何を言って」
『かえったときあしをぬぐうなんていままでぼくにしてくれたことなかった。おちこんでたから、しかたないって思った』
今まで聞いたことのない悲痛な声が堰を切った様に流れる。
『ソックスはぼくよりあたまがいいのによわむしで、ザーカのだからきをつかうのはわかるけど』
『でもそれとこれとはべつだよね!』
『ラクリマもああしろこれはするなってうるさいし』
『なんでもソックスが先なんておかしい』
『つかさのばか』
身を翻してけたたましい音をたてコロナが外に飛び出し、ソックスがそれを追った。
呆気にとられ身動きが取れなかったが正気に戻り、急いで玄関に向かう。
「待て」
「ラクリマ! コロナを追わないと!」
急いでスニーカーを履いて外に出ようとした僕をラクリマが立ちふさがって止める。
「私の責任もある。私に行かせろ」
「え、でも、僕がソックスを優先したからで・・」
「お前は今日あの二匹が何をしたか知らないだろう? 説得は私がするのが適切だ。残れ」
「・・・・」
その通りだ。僕は今日二匹が何をしたのか全く知らない。僕が行っても拗れるだけだと判断したから止めたのだろう。
「ラクリマ・・お願い・・・」
無力さが歯がゆい。踏みつぶすように靴を脱いでリビングに戻った。
リビングのソックスをブラッシングしていた同じ位置に座り込んでぼんやりとブラシを見つめる。
僕は間違えてばかりだ。ソックスが上下関係を大事にしているのはラクリマとのやり取りを見ればわかる事じゃないか。
ぼとぼと感情の溢れるままに涙が落ちる。
「司、入るぞ」
滲む視界にアルフリートさんの足が映る。さっさと部屋に引き篭っておくべきだった。
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