Over the Life ~異世界変身冒険奇譚~

鳥羽

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第2章 司のあわただしい二週間

第39話 未知との遭遇

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 ▽

 お話合いが終わった時には朝ごはんと言うには遅く、昼ご飯と言うには早い時間になっていた。疲労を魔術とエリクサーで吹き飛ばし、気分を変えるためにシャワーを浴びたら必要でもないのに眉間に皺を寄せながらキスされた。ブランチは勝手に気まずい。アルフリートさんには和食を提供しつつ、自分だけは深型ボウル一杯のシーザーサラダをむしゃむしゃ。自分だけの食事だと大体僕は手抜きが多い。まぁ皆に提供する食事も、一部を除きあまり手が込んではいない。

 二匹は既に朝からの一狩りと食事を外で済ませてきたらしい。コロナがボウルを横から覗き込みながら怪訝そうに尋ねてきた。
『つかさ、どうしたの? アルフリートとけんか?』
「あはは・・・大丈夫、今後の事でちょっと話し合いしただけだよ」
『ふーん? よくわかんないや』

 鼻をふんふんと鳴らし僕の匂いを嗅いで、白柴は青いのラグの上に戻りごろりと寝そべった。

 僕も良く分からない。混迷の渦をどうにか抜け、岸にたどり着いたと思ったらそこは地図すらないジャングルだった。
 見知らぬ狼が僕の喉笛に噛みつき、ゲームだったら一機ロストの扱いだっただろう。

 何をしたいか分からず立ち往生。そこで暮らすのか、元の場所を探すのか不明である。夜が明け朝が来る以上、当面の生活を確保せねばならぬと無理やりお話合いで自己の都合を押し通し、三か月の猶予を得た。

「司、ギルドから呼び出しが来ていた。検査に提出した薬品を取りに来てほしいそうだ。今日の帰りでいいか?」
「帰りにわざわざ行くのも面倒なので、最初に済ませません?」
「分かった。その後はどうするつもりだ?」
「ソックス連れて一番浅い所からアンデッド狩りですかねー。アンデッドを嫌がるみたいだったら別の所行きましょう」

 アンデッドや虫系は好き嫌いがある。僕も大型の虫系は生命力も強くしぶとくて面倒なので、焼くかラクリマに氷漬けにしてもらう事が多い。

 こういったダンジョンの話なら、隣に座っていても大丈夫。どんどん強敵が立ちふさがってくれれば、余計なことも考えなくて済むのにと願った。

 ▽

 4階層のギルドで用件を伝えると聞き取りの時と同じ部屋に通され、そこでしばらく待っているとディオナさんが現れた。

「お待たせいたしました。おや、今日は従魔をお連れなんですね」
「はい、コロナ、ソックス」

『こんにちはー!』

 コロナが尻尾を振っている。ソックスはぺこりと頭を下げた。

「司さんの従魔さんだったんですね」
「え、コロナをご存じだったんですか?」
「ええ、先日見かけただけですが」

 どうやら僕と別行動した時間に見かけたようだった。

「レディがあんなに無警戒だと、誰かに攫われちゃいますよ?」
「あはは・・・コロナ見た目より強いので大丈夫だと思います」
『レディ! いいひびきだね!』

 レディよりガールが近い気が。数日前に泉の聖地の街を騒がせたドラゴンはその子です。大変申し訳ございません。

 向かいに座ったディオナさんから昨日渡した薬品を受け取る。

「アルフリートさん、司さん、確認なのですが本当に評価は最低で宜しいのですか? 先日の検査結果が正式に認められましたら報奨金は倍以上支払われるでしょう」
「構わん。司もそれでいいだろう?」
「それは、ちょっと惜しいかも・・・」
「あのPTに過剰な金額を請求する気か?」
「あ、そっか。それはダメですよね」
「それに免許も許可も持っていないモグリの作った薬をどう金銭的に正当な評価をするというのだ」
「うぐ」

 アルフリートさんの視線は向こうだが、言葉はぐっさりこっちに刺さってます。

「お二人にご相談があります」

 ディオナさんの眼鏡がキランと光った気がした。そうして予期しない所から僕の薬の最初の販売実績が積まれる事となる。


「・・・本当に売る気か」
「お金欲しいんですもん」

 正確には借金を返したい。階層主とその他で黒字には終わりそうだが、返済分は稼げていない。高品質な回復薬は今いくらあっても足りないと説得され、アルフリートさんは折れた。

「もう、大丈夫ですから。コロナとソックスの面倒はお願いしますね」
「その二匹ならもういないぞ」
「わお・・・」

 待てのできない二匹である。危険も無いし、時間がかかる事を察知してどっかに行っているのだろう。

「はぁ、私も街に用があったから丁度良かったが。終わったら呼べ、すぐにだぞ。サインをする前に呼べ」

「心配性ですね。分かりました、適正額とか分からないのでちゃんと呼びます」

 抜け道なのか王道なのか、免許と資格を持つ監督者の立ち合いの元に研修生が作ったという薬品であれば、薬品の製造責任者を監督者とする事で売り買いができるそうだ。

 この場合の研修生資格はギルドに登録しているという事だけ。今回の研修実績は錬金術師組合の実技試験の一部免除要件に該当するそうなのでちょっとお得な気がする。

 無論、今回はエリクサーを作る事は作るが、あそこまでのクオリティの物は作れない。自分の手持ちを売る為に形式的に作成する必要があり、準備された素材と器具で手順通りに一般的だと言われる物を作る、はずだった。

「なんで、光ってるんですか?」
「あはは・・・おっかしいなぁ・・・」

 ギルドの薬臭い一室で怪しげに青い液体がビーカーの中で光る。ディオナさんが呼んできてくれた監督者さんは、耳に髪をかけながら僕に問うた。

「ラクリマ! 何かした?」
「ああ、私もしたな」
「何したの?」
「調子がいいと前々から言っていただろう」
「いや、薬効が上がるのは知ってるけど、こうなるのは予想外すぎるよ」

 ラクリマ特製精製水の効果まで上がるとは聞いていない。

 精霊の水ですか! 面白そうですね! と楽し気に使用に同意してくれた人がぷるぷる震える。

「売ってください!」
「はい? エリクサーなら売りますよ」
「ではなく、水ですよ!」
「いい? ラクリマ?」
「お前がいいなら構わん」

 といった風にエリクサーと水の売買が成立した。

 完成前に呼んでいたアルフリートさんがこちらの世界でのt(トン)単位で売り買いされた水とエリクサーの売買契約書を手に取って、読み終わったのかこちらをじっと見つめてきた。

「何か問題ありますか?」
「いや、これからもこういった事があるのだろうと諦めている所だ」
「今回のエリクサー作成でラクリマの水の効果が上がっているのが確認できました。使用素材の厳選と改良をすればもっといい物が出来たはずなのでちょっと不満です」

 素材をもぐもぐして厳選したり、改良したらもっといい物ができるはずだ。

「はぁ、こんな水を生活用水にも使っているのか・・・」
「用途によってちゃんと変えてくれてますよ? 世界で一番のインフラって言ったでしょう?」
「少しは私の素晴らしさが理解できたか?」

 ものすごく自慢気にアルフリートさんを見下す水球。

 アルフリートさんは契約書に追記を求め、内容としては僕とラクリマの存在を広めない事などだった。

 契約書にサインをして監督者さんに渡し部屋を出ると、ラクリマさんをお借りしますと二人どこかに消えて行った。

 念話でラクリマから後から涙を寄越せと請求が来た。僕の涙がラクリマを通せばお金になった事実に涙が流れそう。どうにか一人の時間を確保して纏めて泣いておくべきだろうか・・・。

 ▽

 アレルヤ! エリクサーの代金が入れば借金も綺麗になる。もう神殿を飛び出しても暫く生活する分には大丈夫だろう。
 ランクアップして、免許取って、千波達が僕みたいに無一文になっても援助できる。

 お金って素晴らしい。あるだけで生存と権利をある程度保証してくれる。ありがとう資本主義。世界が違うが天津祝詞を創造神(ベネル)様に捧げよう。ちゃんとした祈りの言葉はアルフリートさんにでも今度聞いておこうか、それとも直接聞くべきか。

 アンデッド階層の打ち捨てられた教会に到着。どんより空気の淀んだ場所でも気分は軽快。

 ソックスは最初はスケルトンにすら怯えていたが、コロナがブレスで遊ぶように倒していく姿に目を輝かせ、次第に足取りも軽やかになっていった。自分のPTの戦力が十分なら怯えるに値しない。

 しかし単純な戦闘能力が低い事と、このフィールドではソックスの持ち味は生かせない事は確実だったので、僕は違う方策を取る事にしていた。

「ラクリマ、ソックス魔術使えそう?」
「影なら十分に素質はあるだろう。光も聖も怖がっていないだけで十分可能性がある」

 魔術でも何でも相性が有る。イメージする事すら嫌な物は使いこなしようが無い。
 ソックスを抱き上げてホーリーやフラッシュを使用する。

「ソックス、魔力は感知できるよね? 僕やコロナが使う時、魔力がどんな風に変わって動いてるか探ってみて」

 くるくると小さなフラッシュを回す。束ねて一つに、弾けさせてほろほろと落ちて消える。
 ヒールを打ち上げて霧状に拡散。リジェネを波の様に広げる。ヒールの白い雨。範囲指定のホーリーの魔術陣から光の蔦が生えて花が咲く。

 ラクリマと出会った2生。僕は精霊魔術士になってラクリマから魔術を学んだ。
 精霊魔術士は魔力を渡して精霊に魔術を行使してもらうパターンがほとんど。精霊が自分の言う事に従ってくれる分、支払いもきっちりしないといけない。魔力量の少ない2生では大分しんどかった。涙は契約金として最初に支払った。

 その後3生で千波に出会って、オラクルを選ぶようになってからは契約内容を変更し、困った時には助けてくれる、水を出してくれる、約束したら守る、支払いは涙と魔力のゆるい契約に変更した。だから主戦力としてはカウントしていない。

 ラクリマは水とか氷、ときどき植物系の魔術が大半で、その魔術を見て学んだから僕の魔法術はそのイメージがベースになっている。

『きれいだねー』
「惜しむらくは人間形態だと魔術火力がさっぱりな事かな・・・」

 回復力と効率は一番だが、魔術攻撃には向かない。やっぱり多少回復量が落ちても魔術全般に補正が乗る鳥が使い勝手が良い。

「ソックス、コロナを自分に置き換えて見てみよう。出来るとかできないとか置いておいて。僕の魔力と同調しながらきらきらの中に自分がいるってイメージしてごらん」

 戦闘はコロナとアルフリートさんにお任せ。僕とラクリマはソックスの指導。

 そして帰り間際、ソックスはフラッシュを一瞬輝かせた。白いその輝きよりも、ソックスの薄灰色の瞳の方がよっぽどキラキラしていた。

 ▽

「最後までしなければいいんだろう?」

 満ち足りた気分で拠点地に帰り、すっかり色々な事を頭から飛ばしていた僕は、その一言でお風呂場に担いで持っていかれ強制的にお風呂イベントを再び味わう事になった。

 とてもイイ笑顔で言われると抵抗する気を削がれる。またこの人に塗り替えられてしまうのかと諦めの気持ちに包まれ、軽々しく扱われる事に安心感を覚える。しかし、最後までしないなら大丈夫だよねという希望的観測はあっさりと裏切られることになる。
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