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第2章 司のあわただしい二週間
第51話 はっぴーひとりー
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街を後にし、ダンジョンを一人散策するも心は晴れない。すぐ解決するようならそもそも悩んでなどいない。だからまずは気晴らしがしたい。
今日泊まる場所を先に確保しようか考えたが、そうなるとそれだけで僕のことだ、あれこれ考えて時間を使ってしまうだろうから、徹夜か野宿でいいやと軽く考える。今僕はダンジョンの中階層と深階層の間にある第50階層、通称月夜の廃墟にいる。
▽
月も無い夜は夜目の利かない生き物には厳しい場所だが、適応した生き物にはとってはとても有利な環境だ。ここのテーマは星と森と廃墟ってとこだろう。文明が滅び、樹海にのまれた町はきっとこんな風なのだろうなと思わせる。
全部が夜目の利く魔獣ばかりではないのが可哀相だ。ダンジョンは転移トラップで侵入者を何処かしこに飛ばすだけではなく、まるで転勤か人員移動のように魔獣を違う階層に移動させる。ダンジョンなりの運営方針や効率があるのだろう。だからか転移トラップは割と唐突で防ぎ様が無かったりする。地雷(てんい)を踏んだらさようならってまんまか。
ズイーグもいないし、夜中に飛行する魔獣は蝙蝠系が少しいた位で、夜間飛行はとても快適。ひんやりとした空気。薄い夜霧に不自然な柱の形の隆起した大地が視界に何本か。そのひとつの崖の上に着陸。ここら辺で一番高く、そこは森林に覆われてもいないから見晴らしがいい。
明かりさえ点けなければ目立たない。こんな夜が支配するフィールドで、目眩ましになる強烈な光や炎ならまだしも視界確保の為の光を点すなんて自殺行為。自分は夜目が利きません、ここにいますからどうぞ狙ってくださいと言っているような物だ。
この階層まで進める初生はいない。早くとも初生を冒険者として鍛え、ダンジョンを攻略することを当然として訓練した2生からだろう。そこらへんの小型魔獣でさえ一般人の命なら奪える。そんな危険地帯に適応できれば寿命が延びてより強い個体へ変化する。出来なかったら死ぬだけの単純な野生の原理。
軽い魔獣の忌避剤を置き、聖属性を追加した結界を張って周囲からの侵入を阻む。少し離れた場所から、川に滝が打ちつける音が聞こえる。眼下には鬱蒼とした森と、劣化し崩れ落ちた建物としての用途を果たしていない物体の混成。上では見られないレアな光景。
星は自分達が天空の主役だと誇らしく輝きを競い、地では真夜中を幸いとする魔獣が命を懸けたミッドナイトパーティー。太陽が支配し、昼と夜の巡る普通の場所ではちょっと想像できない騒がしい夜。視覚の刺激が少ない夜だからこそ、その無秩序な騒がしさが心地好い。
そんな光景の隅っこでぼっちお茶会がゆるりと開催。お客様は丁重にお断り。一人用の低いテーブルとただの大きなクッションを地面に配置。クッションに座って背中を預ける。お茶請けはオランジェット2枚。紅茶はディンブラ、に似た味の種類。
OTLにも紅茶やコーヒーはあったが、かなり現実とは製法や特徴が違う。茶葉は茶葉なのだが、この世界の植物は成長が早く、地上ですら茶摘みは年4回以上しないとあっという間に茂る。しかも土地の魔力や養分の影響を受け味が大きく変わるため、作った場所と時期によっては飲料ではなくスパイスとして使われていた程だ。
だから現実によく似たふつーの茶葉は逆に少なかったりする。
コーヒーに至っては・・出来方はカカオと似てはいるのだ。ラグビーボールサイズの実の中に種が入っている。ただそいつがただの植物じゃなくてトレント系の魔獣ってだけで・・・
冴えた空気の中で紅茶の水面が光を弾く。白い湯気がまるで煙のようで、燻るのは僕の心の中の何なのか。約二杯半、ティーポット一杯分の時間を自分に許す。
考えなしの考えすぎ。過負荷でオーバーヒートの発熱ダウン。トライ&エラー未満、判断材料不足で思考の迷子。風も無いのにくるくる回る風見鶏。ポンコツアタマの無遠慮な囀りは止まず。試練は誰が仕組んだのか。とりあえず女神はいつか一発殴る。これ以上トラップを踏みたくないと言いつつトラップを順に踏んでいる気がする。何故そこでそれが爆発するのか。そもそもそれが爆発物なんて知らないよ? トラップと分からなければ回避しようもない。
誰かに相談したいと思う。でもトトさんは忙しいだろうし、レイムさんに恋愛相談ってなんか上手く行く気がしない。掲示板とかもあることはあるけど、この世界の常識を教えてください。僕は異世界から来ましたってオカルト案件か。
世界が違う。摂理が違う。人の営みが違う。違うものに囲まれ、消化不良が体調不良になって、情報処理が追い付かない。そして自分も変わっていってしまう。今味わっている紅茶も同じ物はこの世界では手に入らない。
朝の味噌汁だって、品種改良したワイルドベリーだって、好みの純米酒だって。
いつかは持ち込んだ食糧も尽きる。可能かは分からないが女神にわざわざ食料品や消耗品を無くなる度にこちらに送ってもらい、いつでもOTLの世界と繋がっていたいんですってそれは余りにも怯懦だ。少なくとも創造神様から与えられた難題に向き合ってこの世界で生きていこうとする人間の姿勢では無い。
ほろほろとした砂糖の甘さと、滑らかなのに舌を僅かに脅かすビターなチョコレート。それをオレンジが軽やかに束ねて口の中からも芳しさが広がる。慣れ親しんだオランジェットと温かな紅茶はいつまで僕を甘やかしてくれるのだろう。
そうして自分の考えを通し、この世界の物しか口にできなくなっている時、僕は一体どうなっているのだろうか。
茶器を片付けてしばし輝きを仰ぐ。瞬きを見詰めぼんやりと。落ちる砂を眺めるように、薄まって溶けてしまいたい。
▽
少しは精神状態も凪いだ。焦る必要は無い、まだ時間は十分にある。人を拒むような空間にこそレアな物がある!
豹に変身して影に潜る。先客のネズミはスルー。向こうも能力の差は分かるから突っかかっては来ない。影移動は繋がっている限り高さはほぼ無視できる。飛行でも同じだろうって? 外から見えない分こっちが安全度は高い。やばいのが居たら速攻で地上に逃げるが。
崖をするすると下る。影移動の専門家なら影が薄かったり、多少途切れてても移動できるけど、半端スペックの僕には無理。フラッシュ一発で炙り出されて影から強制的に排除される空しさよ。
影移動はなんだかとっても慣れないと気持ち悪い。エレベーターが上下に運動してるようなあの不安定な感覚が全方面、上下左右関係なくずっとあると言えばいいか。
影の中は特殊な瞳を持つ者以外にはただの真っ暗闇で、感覚も、下手したら自分の境界も失い浮上できなくなる。危険な環境だからこそ、適応できればある程度の安全が確保できる。
僕は慣れた物なので浅い所は大丈夫。深い所まで行ったらより遠くまで速く行けるが、すぐにぎゅうぎゅうと窒息してしまいそうになるから行かない。速く移動するだけなら空を飛ぶ。
影の中から地上や周囲を探知。シャドーウルフさんの群れは面倒なので遠回り。どっかに気の緩んでて奇襲できそうな魔獣はいないかと探す。できれば影に追って来れないのが良い。装備品ちゃんと装着してないから、火力も耐久も不安はある。
あ、メタリックスライムが! こちらに気づいていない。ラッキー! 我が糧となるが良い!
急浮上、背後から強襲。鳥の姿でレーザー乱発。即殺して回収し、また影に潜ってエスケープ。金属系スライムは用途が多いから何匹いてもいい。あ、スラ・・違った密林アメーバだ。残念、無視しよう。スライムは鳴き声以外全部使える。伸ばして良し、乾燥させて良し、混ぜて良し。鳴き声というか喘ぎ声・・・この話は止めておこう。
プラチナスライム出ておいでー。ジュエルスライムでも可。探索中月光サボテンの群れを発見。コロナは丸ごと食べるくらい好物だから狩っていこう。僕もあれを煮詰めて作ったシロップが好きだから根こそぎ行きたい。頭頂に咲く花も美味。地上では乱獲はダメだけど、ダンジョンなら問題ない。
群生は大小合わせて20匹未満。これくらいなら追い込み漁するまでもないか。外からは壁に阻まれて見えづらいだろう廃墟の一室にちらほらと身を寄せ合っている。土壁は無理か。結界でもいいが・・・ここは吹っ飛ばして気晴らししよう。かーやーく、火炎岩を砕いた物を火種と一緒に周囲にそっと設置。こそっと数か所に火炎瓶と爆弾配置。壁の無い所からの逃走を防ぎ、数秒躊躇わせて足止めできればいいから炎はほどほどに。レッツ点火。
ドドドンッ! と爆発音が響く。跳び起きたサボテンのその中央の床に羊がどしんと降下。一番の大物は落下でぐしゃっと始末。羊でもレーザーくらい打てるから暴れながら自分を中心に乱打。頭部だけは結界で防御。針が飛んで来ても皮膚までは届きはしない。
大物は砕けて終わった、撃ち漏れ小物と逃げ惑ってるのは鳥になって一匹一匹さくっと仕留め収納。木っ端になったのも回収。ちゃんと消火して逃走。いいお土産ができた。この花いつ食べようかなー。
ソロだし大物を狙ったり、無茶な狩りはしない。安全マージン確実に。死なないのが一番。
廃墟の庭に咲く月光草を人の姿で刈り取る。悪臭を漂わせる裏庭の宵闇ラフレシアも花弁を2枚と蜜と葉を毟ってテイクアウト。きちんとした名前はあるが、通称蝋の木と呼ばれる木から白い果実を収穫。こっちは食用じゃなくて蝋目的。
甘い匂いに誘われてふらふらと公園跡地に寄ったら、それは水の匂いだったらしい。おお、水桃が池の中に生ってる。水中の肉食魔獣を蹴散らしつつ、サンゴの形をした白い鉱物に生る実と枝を数本回収。桃の形だが色は青いし、ぶにぶにしてる。一か所破くとぷちんと弾けるから扱いには注意。ゼーベル草とあと数種類の植物と混ぜると回復促進も付いた滋養強壮剤になるが、飲みすぎると覿面に酔う。
泉はおそらく川に続いているのだろう。鳥の形態になって川を見に行こう。
▽
すいーっと合流した川沿いに空を滑っていると川辺の木の陰に宝箱を発見! サイズは大きいが茶箱か。中身はあんまり期待できないが、あるなら回収しないとね! この世界初めての宝箱にわくわくと胸が躍る。
罠が無いか簡単に魔力探知。む、反応有り。木製の茶箱の癖に生意気な。蓋爆破して開けよう、そうしよう。
遠慮なく蓋を攻撃して吹っ飛ばす。中身は暗くてまだよく見えないが、爆発も毒の噴射も無い、何の罠だったんだろう? さっさと回収して逃げよう。
パタパタと降下し・・・ん、血の匂い? 少し離れた所に着地し、そこで人間形態になって宝箱に近寄る。嫌な予感がひしひしとする。木っ端の散った蓋を両手で握って思い切って、ええい、ままよ! と一息に開ける。
そこには女性物の装備を着た、フレミッシュジャイアントより大きなサイズの緑色の巨大ウサギが横たわっていた。血に塗れた姿で。
トトさーん・・・宝箱から獣人がドロップしましたよ。新しい出会いってもしかしてコレですか・・・?
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