妹と、ちょっとお話しましょうか?

夏夜やもり

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朝焼けメダリオン

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「............」
「............」

 妹がけらけらと笑ったあと、話に空白が出来てしまった。少しの間ぼんやり机をながめていた妹は、思い出したように大きな声を出す。

「そうだ、メダリオンよ! メダリオン!」
「うん?」
「全くと言って良いほど、触れてないんじゃない?」
「あ......」

 そうだった。言われて気付いたぞ!? この経緯に関して触れていない。現在は私の手元にあるので、結論としてはそういう事なのだが......。

 私はメダリオンを取り上げて軽く眺める。重ねた銅板やらかどやらが工夫されていて、指を切らないような丁寧な作り込みである。
 こういった小さい所まで気を配っている逸品は、送った人の大切な想いが込められている物だったと思う。

「ねえ、これ手作りなんでしょ? 思い入れ強そうだけど、良かったのかな?」

 妹って実はさとい子なのだ。私からメダリオンを受け取って、持ち上げてながめたりらしたりして観察している。思い入れ......うん。かなり特別なものと、聞いている。
 これをどう伝えれば良いだろうかな?

「そうだねぇ、これは......」
「あ、ここ青っぽくなってる。錆びかしら?」
「え!? うっそ!? ちょっと、まっずい。こすってみよ」

 焦った言い方に促され、妹が慌てて擦ってみるとあっさり取れてくれたみたいだ。私は胸をなでおろす。

「あらー? なにこれ、青のりみたいねぇ......何でこんなん付いてるの?」
「さあ?」

 何でと言われても、誰かがこぼしたんじゃないですかね? と答えるしかないだろう。

 ただしその言葉を放ってしまえば、相手は妹である。鬼の首を取ったかのごとく犯人認定されてしまい、それはとても不本意である。
 だから私は、曖昧あいまいな態度をもってお茶を濁した。まあ、飲んでいるのはコーヒーだけどね。

「でも、やっぱり丁寧な仕事だねえ」

 メダリオンを観察している様子を見ながら、私も、つい何でくれたんだろうなぁ? と思ってしまう。妹は銅製のギザギザに軽く触れ、ちょっと驚きの声を上げた。

「あらあら!? 実は角が丸まってるのね」

 今気づいたのかね妹くん? 私はもっと以前に気付いていたよ。そんなあおりは飲み込んで、茶化さずに話を続ける。

「まあ子供のお守りだったみたいだからね。指も切りにくくなってるよ」
「ほう、お守りだったの?」
「そう。たしか、あやつが教えてくれたんだよ」
「ふぅん」
「ああ、そうだ。その時にって......ああっそうだ!」

 私の後悔エピソードを思い出してしまった。

「なによ急に!? 何やらかしたの?」
「そう。思いだしちゃった......」
「なによ、もういい加減、縁切られるんじゃないの?」

 あきれ顔の妹に、私は妹の先にいる、あやつに対して頭を下げた。

「はい......すみませんでした」
「えぇ......あたしにあやまられても困るわよ?」
「どうしたら良いの?」
懺悔ざんげなさい」

 うう、悪魔いもうとに懺悔しても、良い事にはならんのだけどなぁ......。

「言いたい事は顔を見て言ったら?」
「ひとを怒らせることは、言わない方が良いのです」
「あ、うん、察したわ。こんど、何かするわ。ひどい感じのやつ」
「あ、うん、勘弁してね」
「思い出話によるわね」
「むう、わかった。まあ、これを初めて見せてもらった時の事だよ」



**―――――
「これな、うちのおとんが作ってくれたんや」

 あれは屋上だったと思う。フェンスのへりでお日様見ながらあそんでいた時、あやつがニコニコと見せてくれた。

「おおっ!? これをあのびやだるさんが!?」

 見せてくれたそのメダリオンを観察する。満月さんなのか? 太陽さんなのか? 何か丸っこいレリーフが中心にある。

「ええやろ。お守りやねん」
「ふーん」

 私はメダリオンをまじまじと見つめている。

「なんや気のない様子やなぁ?」

 少し唇を尖らす姿を目の端に写しながら、少し憮然ぶぜんとした。私は結構いろいろ観察していたからの返事であり、誤解を産んでしまったようだ。

「いやいや、作り込んだものだと思う。あとさ、おまもりなら私も持ってるよ」

 そういって、私はガラケーを取り出す。
 その片側に揺らして見せたストラップに、あやつは目を丸くして受け取る。ストラップとしてはちょっと変わった形であり、モチーフとなっている古めかしい花は、金と銀とで細工がしてあるのだ。朝の光を小さく反射している。

「おー、何なんこれ?」

 直ぐに興味を示し、じっと見つめてくる。

「ひいお爺ちゃんの形見なんだって。なんか、目貫めぬきってものらしいよ?」
「めぬき? ちょっとみせてー」
「あいあい、交換ね」

 お互いにその変わったお守り達を観察していた。
 あやつはなんていうか、その目貫の花の部分を穴が開くように見つめている。一方私の方はこういうものに対して、さほど造詣ぞうけいもない。だから見方も感覚であった。
 
 確か、『あー、ギザギザ握ったら痛そうかな? あれ、丸まってる!?』 とか、『意匠がコミカルで可愛いなー』といったところを確かめる。
 その後は、『あれ? ここなんか青っぽくなっている?』とか、『黒っぽい何かが付いてるんじゃない?』などと、変なところに目をやっていた。

「ん、ありがとう!」

 観察に集中している私が、ぼんやりしているように見えたのか、あやつが私のガラケーを返してきた。

「っあ、うん」

 眼前にあって少しぎょっとした私は、慌ててメダリオンを差し出してガラケーを受け取る。しかし......。

「あっ!?」

 その受け渡しが雑だったのか、メダリオンはあやつの手から滑り落ち、からんと床でまた跳ねて、ここ屋上フェンスの下から、運悪く中庭の方へと落ちてしまった! ガラス天井の場所は一部であり、メダリオンはそのまま下へと消えていく。

「うっわああああっ! ごめん! すぐ探しに行こう!」

 この時は血の気が引いている。大切なものを壊されるって、とっても悲しい事なのだ! それを私はこの時期にも何度か経験している。自分からはそれをしたくないと思っていた。

「う......うん! いくでっ!」

 私の慌ぶりにあやつは少し冷静になったようで、静かに答える。二人そろって手つなぎで駆け出し、エレベーターの待機時間を待つ。

「もっと、ちゃんと渡してれば......ごめん。本当にごめんなさい」
「ええって! だいじょぶなんよ」

 小さなやり取りして、気まずいエレベータの時間を過ごし、その後中庭へ向かうのだったが、この病院が迷路のような作りの為、あやつは中庭につながっていない道へと向かう。

「どこいくの? こっちだよ」
「え、でもそっちちゃうやん?」
「いやいや、こっちからじゃないと抜けれないんだよ?」
「へ!? なんでそんなん解るん?」
「そりゃ、探検してるもの」
「探検? あ、そかそか、道案内任せるで」
「あいあい」

 などと言いながら、本当にぐるりと回って中庭へと抜ける。
 ああ、私、時々迷いますがね、何度も言ったことのある所では、流石に一発で行けるんですよ? 信じてくださいね!! この時もちゃんと、直行できましたからね!!!

「あやや? ほんまに、こっからやないと、いけないんやなぁ......」
「私、初めは迷ったよ」
「あ、ここって、あんな変な木まで植えてるんやな?」

 中庭は、一部天井がガラス張りである。温室に近いのか、少し変わった海外の木が適当に植えられていた。
 またガラス屋根の下にある暖かい場所には、ひなたぼっこさんがよく座っているベンチがあるのだが、その近くはよくよく見ると芝生と石畳の両方がみえる。
 内心、私は誰かに当たっていないか? また、メダリオンが壊れていないかの二つの意味でドキドキしていた。

「どの辺に落ちたかな?」
「えっと、あっちが落ちた場所や」
「あれ、そうだっけ?」

 私はどうやら明後日のほうを探そうとしていたらしい。

「また、あんた......しゃあないわ。方向音痴やもんな」
「なぬっ? 失敬な」

 むう、確かに初め来たときは迷ったけれども、この病院の構造が迷わすためにあるだけなんです!! ちゃんとした道を覚えるのに4回しか掛かってません! 平均です!!

「えぇ、失敬なんか?」
「方向音痴じゃないやい」
「いや、この前も大概たいがいやったやん」

 ああ、そうだ。お隣さんが家族で喫茶店へ行ったと聞いた会話で、『ああ、あっちにあったね!』と勢いよく反対の方へ指さして、『逆や』と冷静な感じで突っ込まれたのだ! え、じゃあそれ以来私、方向音痴認定されてるんですかね?

「えっと、その......誤解を解く時間をですな......」
「ええから、行くで」

 弁解もさせてもらえず、けらけらと笑うあやつは、あまり急がず植え込みへ入って行く。

「......そっちは溝があるから気を付けてね」

 この溝には内緒なのだが、始めてきた時にハマってしまったのだ。
 ここさ、なんで水が流れているんだろうね? 片方の靴下が何か黒っぽく臭ったあの時は、暫く頭を抱てたんですよ?

 まあ入っちゃダメよの所に入ってあのざまだったから、文句は言っていないし沈黙ちんもくを決め込んでいるのだ。

「そういや、この前靴下真っ黒にしとったもんなあ。気いつけるわ」
「お主の観察力が憎い」
「うふふー、よう見とるやろ?」

 そんな感じで初めの大慌ても気にならなくなり、メダリオンの捜索も和やかに進んでいった。

  ・
  ・
  ・

「あった! あったで!」
「おー......よかった......」

 ようやっと見つけて、拾ったあやつが掲げるメダリオンは、お昼前の日の光を反射して輝いた。何度か調べた溝の近くに落ちていて、小さな凹みが出来ている。

「本当に......ごめん。ちゃんと渡せばよかったのに......」
「いやいや、こんなんだいじょぶやで! おとんに直してもらうもん!」
「そ、そう?」
「あんな、これ落として凹ましたん、7度目なんよ」

 え!? マジですか!? ちょっと落としすぎじゃない?

「んで、そのたびにおとんがげんこつ落とすマネしてから、にこにこしながら直してくれるんや。だから気にせんでええよー」
「そう? でも、うーん、ごめんね」
「ええって。というか、めぬき? とかの方を落さんで良かった思てるわ」
「え......」
「大事、なんやろ?」
「いっつも、もってるもんな」
「......うん」
「電話、まっとるの?」
「......まぁ、そう、かな?」

 確かにこれは私にとって大切な物だ。しかし、何というか、見抜かれてるって結構ムズムズ来る感じがあって、れない感覚である。

「一緒に探してくれて、ありがとな!」
「......うん! 今度は私の方が落とすから、一緒に探してね!」
「落とすん前提なんか? まあ、そん時はまかせとき!」

 あやつは飛び切りの笑顔を見せてくれた。


**―――――
 机に置いたメダリオンを見ながら、私は息を吐く。

「見直してさ、ここ、直ってよかったと思ってるよ......」
「そうねぇ。でも、びやだるさんってすごいのねぇ?」

 少し感心した様に妹が言った。

「え、そう?」
「だって、凹みなんか見当たらないわよ」
「あれ、そうかな?」

 持ち上げてみていた妹から渡され、まじまじと観察する。確かに、このメダリオンには凹みを修正した跡が見当たらない。

「んー、確かぺこんってなってたんだけどなぁ......」
「もしかしたら、凹みが小っちゃかったんじゃない?」

 少し首をひねって、私はもう一度そのメダリオンを裏返したりで観察する。

「ああ、ここかな? ギザギザ模様が付いてる」
「どれどれ......ああ、模様みたいにしてるんだ!?」
「後から付け足したのかもね」

 私は少し息を吐いて言った。

「あの、野太い指でなぁ......」
「よほど印象的だったのね」
「うん」

 コーヒーの香りを楽しんでから、私はもう一度言う。

「本当、直って良かった」
「そうね」

 何が楽しいのやら、妹がにやにやしながら同意した。

「むぅ、失敬ね? にこにことほほえましく聞いてるのよ?」
「心読むの、やめてくれません?」
「だって顔に書いてあるもの」
「解った。次から英語で書くようにするよ」
「あたし、英語がんばってる途中よ?」
「さよけ、じゃあ次からフランス語にするね」
挨拶あいさつも出来ないじゃない」
「ボンジュール」
「口に出してるじゃない」
「やっぱり読めないんじゃない」
「でも聞こえたわよ」

 本当、口の減らない奴だ。

「また、顔に出てる。お互い様よ」
「ああもう、これ以上は不毛だからおしまい」
「はーい」

 今度こそ、妹がにやにやしながら同意した。
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