神亡き世界の破壊論 ~全盛期の力を失った男が、再び世界を蹂躙するまで~

戯言の遊び

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第一章 破壊神復活

第2話『眠れる獅子と、騒がしい凡人ども』

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「――久しぶりに、喧嘩の時間だ」

 破壊神マーク・フェルトノートは、不敵な笑みを浮かべてそう宣言した。

 その姿は、まさに魔王。

 圧倒的なカリスマと暴力の化身。

 リシアは恐怖と敬畏の念で身を震わせ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 ……が。

「……あ?」

 不意に、マークの体がぐらりと揺れた。

 先ほどまでの覇気が嘘のように霧散し、深紅の瞳がとろんと虚ろになる。

「……くそ。やっぱ寝起きでアレは、燃費が悪すぎたか……」
「え? あの、マーク様?」
「おい、小娘……飯だ。あと、ふかふかのベッド……」

 ドサッ!

 マークは糸が切れた操り人形のように、その場へ盛大に倒れ込んだ。

 ピクリとも動かない。聞こえてくるのは、スヤスヤという寝息だけだ。

「ええええええっ!?」

 リシアの悲鳴が、誰もいなくなった荒野に虚しく響き渡った。
 
 ———王都、中央大聖堂。

 ステンドグラスから差し込む光の下、リシアは石畳に頭を擦り付けていた。

「も、申し開きもございません……!」

 その目前で、豪奢な法衣を纏った司教が、顔を真っ赤にして唾を飛ばしていた。

「正気か、リシア! 巡礼先で封印を解いただと!?
 しかも、あろうことか『破壊神』を……教会の教義において、もっとも忌むべき最悪の悪魔を蘇らせるとは、何事だ!」

 司教の怒号が聖堂に反響する。

 周囲の神官や騎士たちも、軽蔑と恐怖の入り混じった目でリシアを見ていた。そして、その視線の先には――

 リシアの横で、大の字になって爆睡している男、マーク・フェルトノートの姿があった。

 リシアが必死に荷車に乗せて運び込み、ここまで引きずってきたのだ。

「し、しかし司教様! あの地は魔物の大群に襲われ、私たちは全滅寸前でした!
 神に祈っても奇跡は起きず……彼が、マーク様が魔物を消し飛ばしてくれなければ、私は今頃……!」

「黙れ! 神の沈黙は試練である! 悪魔の手を借りて生き延びるなど、聖女にあるまじき恥辱!」

 司教は杖を振り上げ、眠るマークを指差した。

「見ろ、この不敬な寝顔を!
 伝説の破壊神だか何だか知らんが、今は魔力を使い果たしてただの木偶(でく)の坊ではないか。
 衛兵! 今のうちにこの男を拘束し、再び封印の措置を――」

「……あぁ? 誰が木偶の坊だって?」

 空気が、凍りついた。

 低く、地を這うような声。

 マークはまだ床に寝転がったまま、片目だけを開けて司教を睨め上げていた。

「ヒッ……!」

 司教が短い悲鳴を上げ、後ずさる。

 マークは億劫そうに上半身を起こすと、首をボキボキと鳴らしながら、あくび混じりに言った。

「誰かと思えば、随分と安っぽい格好をしたジジイだな。
 おい、今の教会ってのは、命の恩人に対して礼の一つも言えねぇのか? 6000年前より民度が下がったな」

「き、貴様……! ここを神聖なる大聖堂と知っての狼藉か!」

「神聖? 笑わせるな」

 マークは立ち上がり、周囲を見回した。

 その視線は値踏みするようで、極めて冷ややかだった。

「豪華な装飾に、太った神官ども。
 外じゃ民が飢えて死にかけてるってのに、ここは随分と居心地が良さそうじゃねぇか。
 テメェらが崇めてるのは『神』か? それとも『寄付金』か?」

「き、貴様ァッ!!」

 図星を突かれたのか、司教の顔が怒りで歪んだ。

「衛兵! 構わん、この無礼者を切り捨てろ! 神敵とみなして処断する!」

 ガチャリ、と周囲の騎士たちが一斉に剣を抜き、マークを取り囲む。

 だが、マークは動じない。むしろ、面白そうに口元を歪めた。

 魔力は空っぽのはずだ。なのに、彼から放たれる威圧感だけで、騎士たちの足が震えている。

「へぇ……。俺に刃を向けるか。
 魔力切れの俺なら殺せると思ったか? 雑魚ども」

 マークが一歩踏み出す。

 それだけで、騎士たちが三歩下がる。

「いいぜ。かかって来いよ。
 魔法が使えなくとも、テメェらごときの首をへし折るくらい、あくびしながらでも出来んだよ」

 一触即発。

 聖堂内が殺気で満たされる。

 マークの瞳には、かつて数多の天使を屠った暴虐の光が宿っていた。

 本当にやる気だ。

 このままでは、大聖堂が血の海になる――!

「お、おやめくださいマーク様!」

 たまらず、リシアが叫んでマークの腕にしがみついた。

「これ以上の争いは無意味です! お願いですから、どうか……!」

 リシアの必死の懇願。

 すると、奇妙なことが起きた。

 殺意の塊のようだったマークの気配が、ふっ、と霧散したのだ。

「……チッ」

 マークは舌打ちを一つ落とし、掴みかかろうとしていた手を下ろした。

「ま、目覚めの運動にしちゃ相手が不足か。
 おい小娘。司教の相手はテメェがしろ。俺は腹が減って死にそうだ」

 そう言って、呆気にとられる騎士たちの間を堂々と歩き抜け、勝手に長椅子にドカッと腰を下ろしてしまった。

(え……? 止まった……?)

 リシアは呆然と自分の手を見つめた。

 あの傲慢不遜な破壊神が、自分の言葉一つで矛を収めたことが信じられなかったのだ。
 
 一方、面目を潰された司教は、プルプルと震えながら再び声を張り上げた。

「り、リシアよ! このような狂犬を野放しにするなど言語道断!
 責任を取れ! 今すぐこいつを――」

「――おい」

 長椅子から、マークの低い声が飛んだ。

 先ほどまでの気だるげな雰囲気とは違う、凍てつくような殺気。

「うるせぇぞ、ジジイ。
 これ以上、俺の……『所有物モノ』に傷をつけるなら、次は加減しねぇぞ」

 その言葉に、その場にいた全員が耳を疑った。

「しょ、所有物……?」

「あぁそうだ。こいつは俺の封印を解くために血を使った。
 つまり、その時点でこいつの身柄は俺が『拾った』ってことだ」

 マークは凶悪な笑みを浮かべ、震えるリシアの肩を抱き寄せた。

「……勘違いするなよ?
 こいつを壊していいのも、こき使っていいのも、持ち主(オーナー)である俺だけだ。
 雑魚どもが、俺の許可なく俺のモノに触れるんじゃねぇ」

 絶対的な独占欲と、理不尽な理論。

 だが、その圧倒的な威圧感の前に、司教はパクパクと口を開閉させることしかできなかった。

「な……な……っ」

(わ、私……モノ扱い!?)

 リシアは顔を真っ赤にしてマークを見上げたが、マークは「何か文句あるか?」と言わんばかりの涼しい顔をしている。

 聖女リシアと、破壊神マーク。

 二人の奇妙な「主従関係」が、ここに成立した瞬間だった。
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