神亡き世界の破壊論 ~全盛期の力を失った男が、再び世界を蹂躙するまで~

戯言の遊び

文字の大きさ
12 / 13
第二章 水上都市アクア

第2話『下僕の重荷と、破壊神のスパルタ教育』

しおりを挟む
 宿場町ガルドを出発した一行は、灼熱の砂漠地帯を抜け、街道を東へと進んでいた。

 空は青く、風は穏やかだ。
 だが、その隊列の様子は、端から見れば奇妙極まりないものだった。

 先頭を歩くのは、黒衣の男マーク。手ぶらで、鼻歌交じりに優雅に歩いている。
 その隣には、銀髪の聖女リシア。彼女もまた、杖を持っているだけで身軽な格好だ。

 ……そして、最後尾。

「ひぃ……ひぃ……っ! お、重いですぅ……!」

 そこには、自分の体重の倍はある巨大なリュックを背負い、生まれたての子鹿のように足をプルプルさせている少年――ザッシュがいた。
 中身は三人分の水、食料、野営道具、そしてマークが「念のため」と言って詰め込んだ謎の石材重りだ。

「だ、大丈夫? ザッシュ君。やっぱり私が少し持つよ?」

 見かねたリシアが手を差し伸べる。
 ザッシュは涙目で頷きかけたが

「おい、手を出すなリシア」

 マークが振り返りもせずに制した。

「これは小僧の基礎トレーニングだ。
 俺の荷物持ちが貧弱だと、俺様が恥をかくからな」

「でも、流石にこれは虐待ですよ!」

「甘やかすな。今のうちに足腰を鍛えておけば、いざという時の囮として長く走れる」

「囮にする気満々じゃないですか!」

 リシアの抗議も、マークには馬の耳に念仏だ。
 ザッシュは呼吸を荒げながら、必死に前を向いた。

「だ、大丈夫です……リシアさん……。
 僕、頑張りますから……!」

 ザッシュは健気だった。
 理不尽な重荷だが、それでも前のパーティで雑用扱いされていた時よりはマシだと思っていた。少なくとも、この破壊神マーク・フェルトノートは(態度は最悪だが)自分を「下僕仲間」として認識してくれているのだから。

 その時だった。
 ズズズッ……!!
 街道の砂地が盛り上がり、行く手を遮るように巨大な影が現れた。
 硬い甲殻に覆われた、馬車ほどの大きさがある『砂サソリ』の群れだ。その数、五体。

「ひっ!?」

 ザッシュが悲鳴を上げ、尻餅をつく。
 ハサミを打ち鳴らす音。毒を含んだ尻尾が不気味に揺れている。

「ま、マーク様! 魔物です!」

「あぁ、ちょうどいいな」

 マークはあくびを噛み殺しながら、尻餅をついているザッシュの背中をポンと蹴った。

「行け、小僧。晩飯はお前が狩ってこい」

「……は?」

 ザッシュは耳を疑った。

「え、えええ!? 無理です! 僕、戦ったことなんて……!」

「死ぬ気でやれ。死んだらそこまでの器だ」

「そんな無茶苦茶な!」
 マークは取り合わない。

 サソリの一体が、無防備な少年を獲物と定め、襲いかかってくる。

「くっ……! うわああああっ!」

 ザッシュは泣き叫びながら、腰に差していた錆びた短剣を抜いた。
 遺跡でマークが適当に拾って渡してきたものだ。
 ザッシュは震える手で剣を振り回すが、サソリの堅牢な甲殻には傷一つつかない。

 カキンッ!
 剣が弾かれる。
 体勢を崩したザッシュの目の前に、サソリの巨大なハサミが迫った。

 死ぬ。

 ザッシュが目を瞑った、その瞬間。
 ドォォンッ!!
 衝撃音が響き、顔に生暖かい液体が降り注いだ。

 ……、痛みはない。
 恐る恐る目を開けると、目の前のサソリの頭部が消し飛んでいた。
 そして、そのすぐ横に、右拳を突き出した姿勢のマークが立っていた。

「……え?」

「グルル……」

 残りの四体のサソリが、一斉にマークを警戒して距離を取る。
 マークは拳についた体液を払い、冷徹な瞳でサソリたちを見回した。

「餌の時間だと思って寄ってきたか? 残念だったな」

 マークが一歩、前に出る。

「そいつは餌じゃねぇ。俺の下僕だ」

 その言葉は、所有権の主張。
 俺のモノに勝手に手を出そうとした害虫への、死刑宣告だった。

「キシャァァァッ!」

 サソリたちが一斉に襲いかかる。
 だが、右手に『破壊の指輪デストロイリング』を嵌めた今のマークにとって、こんなものはただの動き回る食材でしかない。

「遅ぇ」

 マークの姿がブレた。
 次の瞬間には、一体目の懐に潜り込み、アッパーカットで空高く打ち上げていた。
 続けて二体目の尻尾を素手で掴み、ハンマー投げのように振り回して三体目にぶつける。

 グシャァッ!!

 甲殻が砕け散る音。
 最後の一体が逃げようと砂に潜ろうとするが、マークは逃がさない。

「逃げるなよ。貴重な食糧だ」

 マークは地面を強く踏み抜いた。
 衝撃波が地中を走り、潜りかけたサソリが内側から圧壊して弾け飛ぶ。
 ものの数秒・・・
 そこには、サソリの残骸の山と、呆然とするザッシュだけが残された。

「あぁ……ザッシュ君の教育に悪い……」

 リシアが顔を覆う中、マークは満足げに頷いた。

「よし。今夜はサソリ鍋だ。小僧、解体しておけ!」

「……は、はいっ!」

その日の夜。

 焚き火を囲みながら、三人は焼いたサソリの肉を食べていた。
 意外にも味は悪くなく、海老のような食感だ。
 ザッシュは恐怖と疲れでボロボロだったが、マークに渡された肉を必死に頬張っていた。食べなければ、明日も生き残れないと悟ったからだ。

「……さて。腹も満ちたところで、今後の予定だ」

 マークは焚き火の炎を見つめながら、自分の両手を開いて見せた。
 右手の人差し指には、遺跡で取り戻した『破壊の指輪デストロイリング』が嵌まっている。
 だが、残りの九本の指は、まだ空席のままだ。

「俺が全盛期の力を取り戻すには、全部で10個の指輪を集める必要がある」

「10個……ですか」

 リシアがゴクリと息を飲む。
 一つであれほどの威力を持つ指輪が、あと9個もあるというのか。

「あぁ。俺は封印される前、自分の力を10分割して世界各地にばら撒いた。
 今の『破壊の指輪デストロイリング』で腕力は完全に戻ったわけじゃねーが、まだ足りねぇ。
 特に、あの鳥人間天使どもの動きを見切るには、アレが必要だ」

 マークは地図を広げ、東の方角を指差した。

「次は『水上都市アクア』だ。そこに俺の第二の指輪を隠してある」

「アクア……。水の都ですね。そこにある指輪って、どんな能力なんですか?」

 ザッシュがおずおずと尋ねると、マークは不敵に笑った。

「『魔眼の指輪ビジョンアイリング』だ」

魔眼ビジョン……?」

「そうだ。性能はシンプルだが強力だ。
 相手の行動を『5秒先』まで完璧に見通すことができる」

 5秒先の未来予知。

 戦闘において、それは無敵に近い能力だ。相手がどう動くか分かっていれば、どんな攻撃も回避でき、どんな防御も崩せる。

「そいつがあれば、俺の戦闘はより『効率的』になる」

 マークは立ち上がり、残った肉をザッシュに放り投げた。

「食ったらすぐ寝ろ、小僧。明日は荷物を倍にするからな」

「ひぃぃぃ……!」

 ザッシュの悲鳴が夜の荒野に吸い込まれていく。
 水上都市アクアへ向けて。
 破壊神マーク一行の、騒がしい旅は続いていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.
ファンタジー
平凡な高校生・篠原蓮は、クラスメイトと共に突如異世界へ召喚される。 女神から与えられた使命は「魔王討伐」。 しかし、蓮に与えられたスキルは――《リサイクル》。 戦闘にも回復にも使えない「ゴミスキル」と嘲笑され、勇者候補であるクラスメイトから追放されてしまう。 だが《リサイクル》には、誰も知らない世界の理を覆す秘密が隠されていた……。 獣人、エルフ、精霊など異種族の仲間を集め、蓮は虐げられた者たちと共に逆襲を開始する。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!

処理中です...