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第一章 サムライ、異世界へ
第7話:恩人への歓待
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「――というわけなの。私がトレントに襲われそうになったところを、千代女お姉ちゃんが助けてくれたの!」
集落の入り口で両手を広げたミアの必死の訴えに、父親である族長の男は、呆然と大剣を取り落とした。
カラン、と重い金属音が響く。
「なんだと……? 忌まわしき奴隷商の魔の手から、この人間が、いや、御仁が救ってくれたというのか。しかも、あのトレントの群れを一人で……?」
父親は信じられないといった様子で、千代女とミアを交互に見つめた。
普通の人間の剣士が、あの凶悪な魔物を、しかも無傷で倒せるはずがない。
しかし、無事に帰ってきた娘の姿と、先ほど千代女から放たれた「本物の死線」を潜り抜けた者特有の凄まじいプレッシャーが、それが事実であることを物語っていた。
父親はふと我に返ると、ゆっくりと片膝をつき、深く、深く頭を下げた。
「……私の早とちりであった。あわや、娘の命を救っていただいた大恩人に刃を向けるところであった。族長として、そして一人の父親として、非礼を詫びよう」
「む……なんだ、立ち合いはせぬのか。あの気迫、久々に血が沸き立つ思いであったのに」
心底残念そうに肩を落とす千代女。
その反応に周囲の戦士たちは一様に頬を引きつらせたが、族長の男は苦笑いを浮かべ、娘を救ってくれた大切な「恩人」として、集落の奥へと丁重に迎え入れた。
通されたのは、集落の中央にある族長の家だった。
獣人たちは人間への警戒心を完全には解いていなかったが、族長の娘の恩人とあっては無碍にもできない。
出された素朴な果実酒と肉料理を前に、千代女は胡座をかいてくつろいでいた。
「改めて礼を言う、千代女殿。私はこの集落を束ねる族長で、ガロンという」
「うむ。気に病むな、ガロン殿。某はたまたま通りかかり、目の前のトレントを斬ったまでのこと」
果実酒を美味そうに煽る千代女を見て、ガロンは不思議そうに目を細めた。
「しかし、見慣れぬ身なりだ。その片刃の剣に、動きやすさを重視した独特の衣服……。千代女殿は、一体どこの生まれなのだ?」
「某か? 某は『日ノ本』の生まれだ。ここからどのくらい離れておるのかは見当もつかんがな」
「日ノ本……知らぬ国名だな」
ガロンの言葉に、千代女は酒の入った杯を見つめ、静かに息を吐いた。
「そうか……」
やはり、ここは自分の知る世界ではない。
薄々感づいてはいたが、こうしてはっきりと告げられると、腹の底に落ちるものがある。
未練があるわけではないが、少しばかりの郷愁が胸を掠めた。
しかし、ガロンは顎に手を当て、何かを思い出すように続けた。
「だが、千代女殿の様な格好をした人間が、遥か東の大陸に住んでいるというのを商人に聞いた覚えがあるぐらいだ」
「ほう。東の大陸、とな」
「ああ。その商人というのは私の実の弟でな。獣人には珍しく、異常なほど好奇心旺盛な性格をしていて、世界中を渡り歩いて商いをしている変わり者なのだ。数年前に集落に顔を出した際、『東の果てに、奇妙な片刃の剣を振るう強者たちの国がある』と、目を輝かせて語っていた」
その言葉を聞いた瞬間、千代女の瞳に、再び剣神としての鋭い光が宿った。
「……強者たちの国」
その響きは、死に場所と骨のある相手を求める彼女にとって、何よりも甘美な誘惑であった。
日ノ本と同じような剣術を使う者たちがいるというのなら、自分を満足させてくれる、あるいは自分を殺し得る「真の強者」がそこにいるかもしれない。
「ガロン殿。その東の大陸とやらには、どう行けばよいのだ?」
身を乗り出す千代女のただならぬ気迫に、ガロンは思わずたじろいだ。
「ま、待て。東の大陸に行くには、険しい山脈を越え、さらに海を渡らねばならん。それに、弟の話によれば、そこは魔物の強さもこの辺りとは比較にならんほどの『魔境』だぞ?」
「なんと! それは重畳!」
千代女はパンッと膝を叩き、満面の笑みを浮かべた。
危険だと止められたはずなのに、なぜか喜んでいる恩人の姿に、ガロンはただただ困惑するしかなかった。
ここからさらに彼女の勘違いと無双が加速していきます!
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集落の入り口で両手を広げたミアの必死の訴えに、父親である族長の男は、呆然と大剣を取り落とした。
カラン、と重い金属音が響く。
「なんだと……? 忌まわしき奴隷商の魔の手から、この人間が、いや、御仁が救ってくれたというのか。しかも、あのトレントの群れを一人で……?」
父親は信じられないといった様子で、千代女とミアを交互に見つめた。
普通の人間の剣士が、あの凶悪な魔物を、しかも無傷で倒せるはずがない。
しかし、無事に帰ってきた娘の姿と、先ほど千代女から放たれた「本物の死線」を潜り抜けた者特有の凄まじいプレッシャーが、それが事実であることを物語っていた。
父親はふと我に返ると、ゆっくりと片膝をつき、深く、深く頭を下げた。
「……私の早とちりであった。あわや、娘の命を救っていただいた大恩人に刃を向けるところであった。族長として、そして一人の父親として、非礼を詫びよう」
「む……なんだ、立ち合いはせぬのか。あの気迫、久々に血が沸き立つ思いであったのに」
心底残念そうに肩を落とす千代女。
その反応に周囲の戦士たちは一様に頬を引きつらせたが、族長の男は苦笑いを浮かべ、娘を救ってくれた大切な「恩人」として、集落の奥へと丁重に迎え入れた。
通されたのは、集落の中央にある族長の家だった。
獣人たちは人間への警戒心を完全には解いていなかったが、族長の娘の恩人とあっては無碍にもできない。
出された素朴な果実酒と肉料理を前に、千代女は胡座をかいてくつろいでいた。
「改めて礼を言う、千代女殿。私はこの集落を束ねる族長で、ガロンという」
「うむ。気に病むな、ガロン殿。某はたまたま通りかかり、目の前のトレントを斬ったまでのこと」
果実酒を美味そうに煽る千代女を見て、ガロンは不思議そうに目を細めた。
「しかし、見慣れぬ身なりだ。その片刃の剣に、動きやすさを重視した独特の衣服……。千代女殿は、一体どこの生まれなのだ?」
「某か? 某は『日ノ本』の生まれだ。ここからどのくらい離れておるのかは見当もつかんがな」
「日ノ本……知らぬ国名だな」
ガロンの言葉に、千代女は酒の入った杯を見つめ、静かに息を吐いた。
「そうか……」
やはり、ここは自分の知る世界ではない。
薄々感づいてはいたが、こうしてはっきりと告げられると、腹の底に落ちるものがある。
未練があるわけではないが、少しばかりの郷愁が胸を掠めた。
しかし、ガロンは顎に手を当て、何かを思い出すように続けた。
「だが、千代女殿の様な格好をした人間が、遥か東の大陸に住んでいるというのを商人に聞いた覚えがあるぐらいだ」
「ほう。東の大陸、とな」
「ああ。その商人というのは私の実の弟でな。獣人には珍しく、異常なほど好奇心旺盛な性格をしていて、世界中を渡り歩いて商いをしている変わり者なのだ。数年前に集落に顔を出した際、『東の果てに、奇妙な片刃の剣を振るう強者たちの国がある』と、目を輝かせて語っていた」
その言葉を聞いた瞬間、千代女の瞳に、再び剣神としての鋭い光が宿った。
「……強者たちの国」
その響きは、死に場所と骨のある相手を求める彼女にとって、何よりも甘美な誘惑であった。
日ノ本と同じような剣術を使う者たちがいるというのなら、自分を満足させてくれる、あるいは自分を殺し得る「真の強者」がそこにいるかもしれない。
「ガロン殿。その東の大陸とやらには、どう行けばよいのだ?」
身を乗り出す千代女のただならぬ気迫に、ガロンは思わずたじろいだ。
「ま、待て。東の大陸に行くには、険しい山脈を越え、さらに海を渡らねばならん。それに、弟の話によれば、そこは魔物の強さもこの辺りとは比較にならんほどの『魔境』だぞ?」
「なんと! それは重畳!」
千代女はパンッと膝を叩き、満面の笑みを浮かべた。
危険だと止められたはずなのに、なぜか喜んでいる恩人の姿に、ガロンはただただ困惑するしかなかった。
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