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体育、あるいは未来への投資
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「ワイ、大学行ったらテニサー入るわ。」
佐藤がそう宣言すると同時に、グラウンドで虫あみ持ってカナブン追いかけてた僕の身体に衝撃が走った。時は体育。レクリエーションという名の自由時間である。
「え…嘘やろ…」
懇願に近い眼差しを佐藤に向ける。佐藤。下の名前は2人の関係のもとに消滅した。入学式の日、スポーツ推薦で入学したサッカー部やバレー部の連中は既にコミュニティを形成しており、淘汰されたインキャ同士身を寄せ合った我らは思いのほか気が合ったため、入学して1年ちょっと経った今でもつるみにつるんでいる。
「嘘やない。これを見てくれよ。」
佐藤の右手にはガットがビョンなってるラケットが固く握り締められていた。見るからに薄汚れていて錆びている。
「お前…それどこで手に入れたんや」
「象さん公園に落ちてたんや。」
象さん公園とは、最寄駅まで行く道中にある小さい公園で、放課後はそこでポイフルを食べながら缶蹴りしたり、砂場で遊んだりする。こんなしょーもない、と思われてしまうかもしれんが、これが内輪でやると死ぬほど楽しい。しかしそんなことはどうでもよくて、いわゆる"同レベ"やった僕らに差が生じたらそれは大問題なわけで、なんとなく焦燥。
「なんでや!なんで抜け駆けすんねや!僕も置いてかんでや!!」
「じゃかあしい!!」
喚く僕を嗜めるかの如く、佐藤はラケットを強く地面に叩きつけた。
「これは錦織圭や。」
佐藤がニチャアと笑いながら、跳ねて遠くまでとんでいったラケットを拾う。プルプル震える僕に、追い討ちをかけるように罵声を浴びせる。
「太郎!いつまでも淘汰される側におる気か!ワイは先に進むで!君は大学ワンチャンとか言ってシコシコ勉強しとるけどな!そんなんじゃあかんねん!その後が肝心やねん!いかにパリピサークルに入るかや!ワイは全て何Jで学んどるんや!悪いが君のことは置いていかせてもらうで!」
言い終わると同時にカー、ペッ、と僕の近くに痰を吐き捨て、回れ右してテニスコートへと歩いていった。164cmの佐藤の背中は大きさこそ小されど、迷いなきその背中その歩みからは巌流島に向かう宮本武蔵を連想させられた。身震い。その後何分経っただろうか。正気を取り戻した僕は虫あみ、2匹カナブンが入った虫かごを手に取り、親友の誇り高き勇姿を見届けるためにテニスコートへと駆けた。
佐藤はコート外のベンチに座っていた。
「佐藤…」
全てを察した僕は、佐藤の横に座り、カナブンの入った虫かごを見せてあげた。
2面しかないコートは、どちらも1学年上のサッカー部パリピに占領されていた。普段脚しか使ってない者とは思えない、レベルの高い試合を爽やかにこなす彼らは僕から見てもかっこよかった。
対比的に佐藤はいつもより小さく見えた。ラケットは地面に転がっている。虫かごの中のカナブンを覗き込む佐藤は極度に猫背で、小物感が強調されるようだった。
「太郎。ウィンブルドンって、着てる服全部白じゃないとあかんらしいで。パンツも。シャラポワも、真っ白なパンツ履いてるらしいわ。」
「なんかえろいなぁ。」
佐藤が扉を解放し、カナブンは再び自然界へと帰っていった。
佐藤がそう宣言すると同時に、グラウンドで虫あみ持ってカナブン追いかけてた僕の身体に衝撃が走った。時は体育。レクリエーションという名の自由時間である。
「え…嘘やろ…」
懇願に近い眼差しを佐藤に向ける。佐藤。下の名前は2人の関係のもとに消滅した。入学式の日、スポーツ推薦で入学したサッカー部やバレー部の連中は既にコミュニティを形成しており、淘汰されたインキャ同士身を寄せ合った我らは思いのほか気が合ったため、入学して1年ちょっと経った今でもつるみにつるんでいる。
「嘘やない。これを見てくれよ。」
佐藤の右手にはガットがビョンなってるラケットが固く握り締められていた。見るからに薄汚れていて錆びている。
「お前…それどこで手に入れたんや」
「象さん公園に落ちてたんや。」
象さん公園とは、最寄駅まで行く道中にある小さい公園で、放課後はそこでポイフルを食べながら缶蹴りしたり、砂場で遊んだりする。こんなしょーもない、と思われてしまうかもしれんが、これが内輪でやると死ぬほど楽しい。しかしそんなことはどうでもよくて、いわゆる"同レベ"やった僕らに差が生じたらそれは大問題なわけで、なんとなく焦燥。
「なんでや!なんで抜け駆けすんねや!僕も置いてかんでや!!」
「じゃかあしい!!」
喚く僕を嗜めるかの如く、佐藤はラケットを強く地面に叩きつけた。
「これは錦織圭や。」
佐藤がニチャアと笑いながら、跳ねて遠くまでとんでいったラケットを拾う。プルプル震える僕に、追い討ちをかけるように罵声を浴びせる。
「太郎!いつまでも淘汰される側におる気か!ワイは先に進むで!君は大学ワンチャンとか言ってシコシコ勉強しとるけどな!そんなんじゃあかんねん!その後が肝心やねん!いかにパリピサークルに入るかや!ワイは全て何Jで学んどるんや!悪いが君のことは置いていかせてもらうで!」
言い終わると同時にカー、ペッ、と僕の近くに痰を吐き捨て、回れ右してテニスコートへと歩いていった。164cmの佐藤の背中は大きさこそ小されど、迷いなきその背中その歩みからは巌流島に向かう宮本武蔵を連想させられた。身震い。その後何分経っただろうか。正気を取り戻した僕は虫あみ、2匹カナブンが入った虫かごを手に取り、親友の誇り高き勇姿を見届けるためにテニスコートへと駆けた。
佐藤はコート外のベンチに座っていた。
「佐藤…」
全てを察した僕は、佐藤の横に座り、カナブンの入った虫かごを見せてあげた。
2面しかないコートは、どちらも1学年上のサッカー部パリピに占領されていた。普段脚しか使ってない者とは思えない、レベルの高い試合を爽やかにこなす彼らは僕から見てもかっこよかった。
対比的に佐藤はいつもより小さく見えた。ラケットは地面に転がっている。虫かごの中のカナブンを覗き込む佐藤は極度に猫背で、小物感が強調されるようだった。
「太郎。ウィンブルドンって、着てる服全部白じゃないとあかんらしいで。パンツも。シャラポワも、真っ白なパンツ履いてるらしいわ。」
「なんかえろいなぁ。」
佐藤が扉を解放し、カナブンは再び自然界へと帰っていった。
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