霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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情報収集の旅へ

294.過去に何があったんだろうね

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「ところで……また話を戻しますけど、捕まえたヒトってどこにいるんですか?」
「どこ、とは」
「えっと……そのどうにもならなさそうな一部は、牢とかに入れられてるんだろうなって想像つくんですけど、洞窟が町の規模だったってことは大勢いたんですよね? 牢は足りなさそうだなと思って。神殿送りとかってさっき言ってましたけど、やっぱりそういう?」
「いい着眼点だね。最下層扱いされていた者はすぐに保護目的・・・・で大神殿へ送られたよ。彼らはあまり事情も知らなかったからね。稀人・・のことを知ってそうな者だけを取り調べをした感じなんだ」

 マスターが言うには、創世神やこの世界の正しい知識を学んでもらうために、大神殿に預けることにしたらしい。あそこは広さもあるし、教育中に人と会わないようにもできるからなんだってさ。神官さんたちと生活することで矯正されることを目的としてるってことだ。

 どこまで上手くいくかはわからないとは言ってたけどね。でも、捌け口って言い方をマスターはしたけど、その最下層のヒトたちって性的に……とか八つ当たりの暴力とか、いろんなつらい思いをしてきてるんだって。本当に何から何まで腐ってんなって思う。

「大神殿に行ったヒトたちが、安心して暮らせるようになると、いいです……」
「またイクミは……人が良すぎるんだって」
「だって! ある意味被害者じゃん」
「最初に捕まえた女も希望なく生きてる感じだったな。いつまで続くのかと思ったとか言って。だから、すぐ俺たちに従った」
「……ひどい」
「彼らがこの先安心して暮らせるかは、彼ら自身にもかかっているからね。変わろうと思わなかったら変われない」

 マスターの言うとおりだ。でも、とにかく環境を作ってくれてるのは良かったなって思うよ。何か楽しみとか特技とか活かしていってくれるといいけど。

 でも、最下層じゃないヒトはどんな感じなんだろ。中間くらいの……いやまあ、そいつらも最下層をいじめてたんだろうから、少し歪んでるんだろうけどさ。それでも幹部みたいなやつらとは違うだろうし……。

「イクミさん。我々もね、長い歴史の中でだめなことをしたこともあった。でも、それじゃいけないって、大神殿を中心により良い未来を作る努力をしてきたんだよ。だから、できる限りのことはする。それでだめなら、そのときは……」
「はい」

 俺はマスターたちや神官さん、守護者様を信じてるよ。有無を言わさずひどいことはしないってね。今まで旅してきて、俺はこの世界の良いところをたくさん見てきたからさ。

「ただ、俺が不思議なのは、昔ってもっとヒトと守護者様の距離が近かったんですよね? なのに、なんでそんな差別が生まれちゃったんですか?」
「そこはね……なかなか難しい問題でね。水の守護者が姿を消したのは大昔で、風の守護者はいるにはいるけど積極的に関わるタイプじゃなかったんだよ。他の2つの大陸にいる火と土の守護者たちは今も住人と密な関係を保っているんだけどね……」
「そこら辺はなんとなく聞いてますけど」
「どうして大神殿があるこの大陸の守護者はそうなっちゃったの? オレも意味わかんない」
「基本的には種族の祖でもあるから、性質が似てると言われている。風の守護者はエルフに近いんだよ」

 俺たち3人は「あー」って小さく口を揃えた。多分みんなしてカザハリ神官様を思い浮かべてたんじゃないかな。トゥーイさんみたいなエルフだったら良かったけど、きっとトゥーイさんが珍しい部類だってのはわかる。

「大神殿でも水の守護者が姿を消した理由とかわからなかったし、マスターもわからないんですよね」
「そりゃ……私が知ってたら大神殿に記録が残る」
「ですよね」

 でもさぁ、こういう事態になってるんだから、風の守護者様ももう少し協力とかできないもんなのかなぁ。創世神様の意思を一番わかってるのが守護者様たちなんだろ?
 ていうか、「守護者」なのに姿を消して責務から逃げるってなんなんだよ。水の守護者様に何があったのかなんて誰もわからないけど、ちょっとイラッとするんだけど。

「オレたち、水の神殿がある近くの出身なんだよ。神殿は本当に……そりゃあ朽ちててさ。天井なんてないし」
「えっ!? あそこの近く?」
「行ったことある?」
「自分ではないんだけど、冒険者に頼んで話を聞いたことはある」
「ああ。うん、強い冒険者はたまに来るね。どっちかというと魔物狩りに。神殿には何も残ってないから荒らすことすらできないもん」

 渓谷の周りはムシャーフやミュードなんかもいるし、絶好の狩場とも言える……。ああ、またあの肉が食べたいな。思い出したら口の中によだれが湧いてきちゃったよ。
 じゃなくて、神殿、神殿ね。
 地下の転移陣も上からじゃ動作しないし、転移陣への出入り口も瓦礫で隠してあるから、あれはわからないよな。荒らされようはないと思う。

「もちろん、大神殿の神官にはもう話してあるよ。すごい勢いだった! あはは」
「え、あそこらへんの出身って……。あの辺で暮らせるものなのかい?」
「そりゃ冬は雪が深いけど、もともと神殿があった、人間の町があったところじゃん」
「と、いうか……今は寒地方って魔物も強大なものばかりになっていると聞くし。って、イクミさん、そんなところに迷い込んじゃったってこと? よく生きてたねぇ」

 マスターがしみじみと言って、孫を見るおじいちゃんみたいな目で俺を見た。やっぱ、そんな感じなんだ。すぐルイに出会えたから生きてるんだよな。

 ムル村のことは大神殿も把握してなかったから、マスターが知らないのもしょうがないよね。本当に隠された村なんだな……。
 人間の祖と関係してるなら、本来はもっと大神殿とも関わっていたんだろうにね。守護者様がいたら、だけど。

 俺たちは脱線しつつもいろんな話をした。俺はまだ元気って思ってたんだけど、ルイが「もう休め」って言って、続きは後日になっちゃったんだよね。いや、口をあまり挟んでこない代わりに、めっちゃ観察されてるなとは思ってたんだ。

 聞きたい気持ちもわかるけど、筋肉がピクピクしだしてるからこれ以上はだめだって。ピクピクなんてしてるかなぁ? なんで俺にもわからないことをルイがわかるんだよ。

「まあまあ。次は異世界の物の目録ができてるはずだから、少し間を置いて来てくれればいいよ。私がいないときもあるから予定は確認してほしいかな」
「そういえば、オレ、ここの酒場でご飯したことないんだけど、美味しい?」
「え、ヴァン……店の人にそういうの聞く?」
「味の好みは人それぞれ。一応繁盛はしてるけどね」

 謙虚だなぁ。確かに、お店は明るくて雰囲気良かったし、お客さんも多かったよな。美味しいって感じる人が多いって証拠なんじゃないの?

 そこまで考えて、食べ物やブレンド香辛料をあいつらに使われまくったことをまた思い出しちゃった。ルイとヴァンに教えられたときも、散々八つ当たりしたのにまだ気がおさまらない。
 香辛料は全部なくなったわけじゃないけど、すごく減っててさ。大事に使おうって思ってたのに……お兄さんに申し訳ないよ。

「持ち帰りはできるか?」
「食べてかないの!?」
「イクミを休ませるから買って帰る」

 こういうときのルイは本当に頑固だ。ヴァンは不満気だけどね。
 
 
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