3 / 18
本編
3.猫との生活一日目
しおりを挟む
村瀬がこんな早い時間に自宅に帰ってくるなんて何年ぶりだかわからないくらいだった。とりあえず、朝適当に片付けた床ではあったが、猫をケージから出す前にもう少し綺麗に掃除をする。
荷物にはなったが、猫のトイレや砂なんかも病院で借りることができたので、村瀬は部屋中をぐるっと見回した後でダイニングキッチンの端っこに設置してみた。
「まあ、広い部屋じゃないからこの辺しかないもんな。猫とはいえ、トイレが丸見えは嫌だろうし」
村瀬が納得いくようにセッティングを終えると、ケージのドアを開ける。無理やり引きずり出すよりは、猫が警戒心を解いて自分から好奇心で出てきてくれるほうがいいだろう。
村瀬は村瀬で、こんなに早い時間に自宅にいることがないので手持ち無沙汰で困ってはいたのだが、猫に関してのサイトをスマホで検索を始めると夢中になって読んでいた。
「あれ? いない?」
ふとケージを見れば、奥に丸まっていた猫がいないことに気がつく。どこだとぐるりと部屋を見回すと、自分の真後ろ、ベッドの上で丸くなって寝ている猫に気がついた。
「ぶっ。ベッドのど真ん中か。初日から図々しいなぁ」
そんな遠慮のない猫に村瀬は嬉しくなってそっと猫の背中を撫でた。猫の耳がピクピクと揺れて、尻尾がパタンと叩きつけられる。
昨夜、寝落ちる前に子供の頃に猫を世話していたことを思い出していたな……と猫を撫でながら村瀬は考えていた。
……世話をしていたと言っても飼っていたのとは違う。小学校の裏の林でこっそりと子猫の世話をしていただけなのだ。捨てられたのか親とはぐれたのか……生まれたてではないが小さな子猫が震えているのを見て、小学校から持ち出したダンボールで雨除けの猫ハウスを作ってあげた。そしてほぼ毎日給食の牛乳やコッペパンをこっそり持ち帰ってその子猫にやっていただけの小さな自己満足。
その当時、村瀬の父親は事業で失敗して酒に逃げては暴力を振るい、母親はただやられる人ではなかったが生傷は絶えない状態。暴言も飛び交う殺伐とした家は居心地が悪くて、幼い村瀬は薄暗くなるまで子猫と過ごしていた。もちろんそんな険悪な雰囲気の家族に「猫が飼いたい」などと言えないことは幼い村瀬にもわかりきっていて……。だから、林で子猫と遊んだり話しかけたりすることが唯一の楽しみでもあった。
幼い村瀬は子猫に自分を重ねていた。
あの日、雨に濡れて小さくなって震えている姿は、自宅の端っこで父親を恐れて縮こまっている自分と同じように思えたからだ。そんな子猫に優しくしてあげることで「良いことをしている」と思うと同時に、自分自身を助けているようなそんな気分になっていた。「一緒に暮らせたらずっとずっと大事にするのにな……」そう幼い村瀬が言うと、子猫がミャアと鳴いたのをぼんやり思い出す。
そのうち両親の離婚が決まり、村瀬は母親に連れられて引っ越すことになる。「ごめん……僕、フジサワってところに引っ越さなくちゃいけないんだって。もう会えないんだ……」とボロボロと涙を流しながら子猫を抱きしめると、子猫は幼い村瀬の頬の涙をペロペロと舐めていた。
「ああ、今まで忘れていたことを思い出しちゃったな……こんな私でも動物のことで泣いたことがあったんだ」
今や感情が薄くなって、いつでも「面倒くさい……」としか感じなくなってしまった。そんな村瀬でも、ちょっとしたことで泣いたり笑ったり怒ったり悔しかったりしたことがあったのだ。
それと同時に人間らしい感情を持つということはエネルギーを使うんだな……とどこか他人事のようにも感じる。
そうやってちょっと思考が飛びそうになると猫が尻尾で叩いてきて、まるで「構え」と言っているようだった。
「ははっ。お前は大人の野良なのに、人に慣れているんだなぁ。いや、もしかしてどこかで飼われていたのか? だったら飼い主を探してあげないといけないな」
村瀬は自分の住む近辺で猫がいなくなったと探している人がいないか、スマホで検索を始めた。しかし、そういった書き込みは見つからず、村瀬は次に猫を動物病院に連れて行くときに、あの人の良さそうな先生に聞いてみようと思った。
荷物にはなったが、猫のトイレや砂なんかも病院で借りることができたので、村瀬は部屋中をぐるっと見回した後でダイニングキッチンの端っこに設置してみた。
「まあ、広い部屋じゃないからこの辺しかないもんな。猫とはいえ、トイレが丸見えは嫌だろうし」
村瀬が納得いくようにセッティングを終えると、ケージのドアを開ける。無理やり引きずり出すよりは、猫が警戒心を解いて自分から好奇心で出てきてくれるほうがいいだろう。
村瀬は村瀬で、こんなに早い時間に自宅にいることがないので手持ち無沙汰で困ってはいたのだが、猫に関してのサイトをスマホで検索を始めると夢中になって読んでいた。
「あれ? いない?」
ふとケージを見れば、奥に丸まっていた猫がいないことに気がつく。どこだとぐるりと部屋を見回すと、自分の真後ろ、ベッドの上で丸くなって寝ている猫に気がついた。
「ぶっ。ベッドのど真ん中か。初日から図々しいなぁ」
そんな遠慮のない猫に村瀬は嬉しくなってそっと猫の背中を撫でた。猫の耳がピクピクと揺れて、尻尾がパタンと叩きつけられる。
昨夜、寝落ちる前に子供の頃に猫を世話していたことを思い出していたな……と猫を撫でながら村瀬は考えていた。
……世話をしていたと言っても飼っていたのとは違う。小学校の裏の林でこっそりと子猫の世話をしていただけなのだ。捨てられたのか親とはぐれたのか……生まれたてではないが小さな子猫が震えているのを見て、小学校から持ち出したダンボールで雨除けの猫ハウスを作ってあげた。そしてほぼ毎日給食の牛乳やコッペパンをこっそり持ち帰ってその子猫にやっていただけの小さな自己満足。
その当時、村瀬の父親は事業で失敗して酒に逃げては暴力を振るい、母親はただやられる人ではなかったが生傷は絶えない状態。暴言も飛び交う殺伐とした家は居心地が悪くて、幼い村瀬は薄暗くなるまで子猫と過ごしていた。もちろんそんな険悪な雰囲気の家族に「猫が飼いたい」などと言えないことは幼い村瀬にもわかりきっていて……。だから、林で子猫と遊んだり話しかけたりすることが唯一の楽しみでもあった。
幼い村瀬は子猫に自分を重ねていた。
あの日、雨に濡れて小さくなって震えている姿は、自宅の端っこで父親を恐れて縮こまっている自分と同じように思えたからだ。そんな子猫に優しくしてあげることで「良いことをしている」と思うと同時に、自分自身を助けているようなそんな気分になっていた。「一緒に暮らせたらずっとずっと大事にするのにな……」そう幼い村瀬が言うと、子猫がミャアと鳴いたのをぼんやり思い出す。
そのうち両親の離婚が決まり、村瀬は母親に連れられて引っ越すことになる。「ごめん……僕、フジサワってところに引っ越さなくちゃいけないんだって。もう会えないんだ……」とボロボロと涙を流しながら子猫を抱きしめると、子猫は幼い村瀬の頬の涙をペロペロと舐めていた。
「ああ、今まで忘れていたことを思い出しちゃったな……こんな私でも動物のことで泣いたことがあったんだ」
今や感情が薄くなって、いつでも「面倒くさい……」としか感じなくなってしまった。そんな村瀬でも、ちょっとしたことで泣いたり笑ったり怒ったり悔しかったりしたことがあったのだ。
それと同時に人間らしい感情を持つということはエネルギーを使うんだな……とどこか他人事のようにも感じる。
そうやってちょっと思考が飛びそうになると猫が尻尾で叩いてきて、まるで「構え」と言っているようだった。
「ははっ。お前は大人の野良なのに、人に慣れているんだなぁ。いや、もしかしてどこかで飼われていたのか? だったら飼い主を探してあげないといけないな」
村瀬は自分の住む近辺で猫がいなくなったと探している人がいないか、スマホで検索を始めた。しかし、そういった書き込みは見つからず、村瀬は次に猫を動物病院に連れて行くときに、あの人の良さそうな先生に聞いてみようと思った。
10
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる