空想獄中記

荒邦

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面会日

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 面会日の朝。しかし、ある囚人は昨日看守を殴った罰としてベルトがついた手錠で拘束されていた。殺風景な懲罰房に入れられ退屈な時間を過ごしていた。普通なら懲罰中は面会できないが、今回は遠方かつ急であることを考慮されたのか面会が許可された。「お前、もう二度とこんな処遇はないと思えよ。面会を許可するなんてちっとも罰になってないじゃないか。」と面会の許可を告げに来た看守は言った。「はい。」とだけ囚人は答えた。「わかったら、おとなしく座って時間になるまで過ごせ。問題を起こすんじゃないぞ。」と看守は言ってその場を離れた。
 面会時間になった。囚人はこの時は拘束が解かれると思っていたが、そのまま連れていかれそうになりった。「面会の時もこのままですか?」と囚人は尋ねた。「そうだ。解除命令が出ていないんだ。」と看守は答えた。「お願いします。今日だけはやめてください。子供も来るんです。」「子供が来ても来なくても関係ない。おとなしくついてこい。」「子供にこんな姿見せられないです!」囚人は立ち止まって命令に従わなかった。「お前俺らの情けを棒に振るのか?じゃあこうするしかないな。もうお前の家族は糞遠い家から来てるんだ。」と看守たちは囚人を面会室に引っ張っていった。今更面会を拒否することもできず、囚人は看守たちにされるがままに引っ張られていった。
 看守が囚人が全員座ったことを確認してから面会者を部屋に入れた。面会室はカフェテリア形式だが殺風景だ。囚人の妻が息子を連れて席に座った。「ああ、会いたかったわ。」と妻は嬉しそうに言って二人は抱き合ったが囚人はほとんど受け身で抱擁を返せなかった。妻はすぐに異変に気付いた。「何であなただけ拘束されているの?」「看守につかみかかったんだ。」「まあ、なんてことを!」「まあ、いろいろと溜まるだろ?どこかで発散しないと気が狂いそうだ。」それを聞いて妻は呆れた顔をしていた。
 囚人の妻は飲み物を持ってくると言って席を立った。囚人は息子と二人きりになった。すると、息子は囚人の膝の上に乗ってこようとしたが、拘束具のせいで息子を持ち上げることができなかった。看守が気付き「膝に乗りたいのか?」と言って囚人の膝に乗せてくれた。息子は父親の膝の上に乗ると、拘束具に気付き、はずそうとしたが、鍵がかかって取れない。そもそも無理やり引っ張ってくるから食い込んで痛い。
 「ねえ、何でいつも同じ格好をしているの?それに何でここのおじさんたちみんな同じ色の服を着ているの?」と息子が尋ねてきたが囚人は返事に困った。囚人は「悪いことをしたから牢屋に入れられたんだよ。」といったが、息子は’黒い服を着た人‘たちにつかまって悪い仲間にさせられたと思っているようだった。息子は囚人の膝を降りて、看守に僕のお父さんを返してと言いに行った。すると、看守は顔をほころばせて「あと2年は返せないな」といった。「ヤクソクだよ!」と息子はずっと言っていたが、どうやら納得がいったようだった。「さあ、お父さんのところにおかえり」と看守は囚人の膝に息子を返した。
 囚人の妻が飲み物を持って席に戻ってきた。「ありがとう。」と言って囚人は飲み物を受け取った。「最近みんなはどうなんだ?」「それがお義父さんの具合があまりよくないのよ。」と囚人の妻は深刻そうに言った。「え?俺には何の便りもなかったぞ。」と囚人は不機嫌そうに言った。「それがここ何日かのことだから伝えられなかったのよ。でも、よくなるだろうってお医者さんが言ってたわ…」と言いながら妻は曇った笑顔をして見せた。「ところであなた、その手錠の訳をきかせてよ。」彼の妻は話題を変えた。「ああ、ほんとうにしょうもないぞ。作業で全然問題のないことを一ミリ足りないとか何度もやり直しさせられてな、腹が立ったんだ。」と囚人はその時のことを思い出しながら言った。「たしかに腹は立つけれど素直にしとけばよかったのよ。変な問題起こさないで素直に早く出てきてほしいわ。大体暴力で刑務所に入れられたじゃない。ちっとも反省してないって思われちゃうわよ。」と妻は言った。「ああ、お前たちのためにも頑張って早く出るよ。もう二度とここに入りたくないよ。それだけは思ってる。」囚人は遠い目をして言った。「この子には本当のことは言ってないのよ。いずれわかるでしょうけどね。まだ理解できない年だからいいけれど。もし聞かれたら本当のことをあなたから話すのよ。」と囚人の妻は言った。「ああ、こいつに聞かれたら話すよ…」
 やがて面会時間が終了し、面会者は帰っていった。看守は囚人を監房に戻す前に身体検査をした。「お前縄抜けしようとしたのか?ずいぶん手錠がきつくなってるが。」「いいえ。自分の息子がいじくりまわして」と囚人は答えた。「ずいぶん荒く扱われたな。手の色がおかしくなってるぞ」と看守は笑いながら手錠を緩めた。血がじわりと通う感じがした。おまけに輪の型がついている。「お前息子にとんでもない醜態をさらしたな。手錠姿なんて。本当のことを知ったらどんなに悲しむことか…」と看守がつぶやきながら囚人を監房に戻した。「わかっていますよ!」と囚人が答えるか答えないかのうちに背後の鉄扉が大きな音を立てながら閉じた。
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