転職に失敗したおっさん、異世界転生し事務職無双する

ほぼ全裸体のハシラジマ

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おじさん、異世界に住み着く

新居整備編~家具とリンネ~

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 高台に建つ家の扉を押し開けると、ひんやりとした空気が流れ出した。
 白い壁の二階建て、広いベランダつき。元は商人が店兼住まいにしていた家だが、いまはファルコ・フライハイルのものだ。
 とはいえ、中はまだがらんどうだった。

 ベッドと棚、それから机がひとつ。どれも宅地会のラディンが「おまけ」として置いていってくれたものだ。
 ありがたいにはありがたいが、これだけでは生活の匂いがしない。
 ファルコは腕を組んで、広すぎる室内を見渡した。

「……とりあえず書類を並べる机は置きたいな」


「またそれですか」
 後ろから呆れ声が飛んできた。
 振り返れば、リンネが両手に荷物を抱えて立っている。

「え、なんで来てる……?」
「手伝いに決まってるじゃないですか。師匠一人でこの家を整えるなんて無理です」
「いや、無理とは言わないが……」
「絶対に無理です」
 即答された。ファルコは口をつぐむ。

 リンネは荷物を土間に置き、きょろきょろと室内を歩き回った。
「うわー……やっぱり広いですねえ。掃除も大変そう」
「だからこそ机と書庫を置いて、片付けやすくする」
「事務屋の発想ですね。せめて私生活では忘れましょうよ……」
「……家具は順番に揃えればいいだろう」
「順番って、師匠が決めると全部事務仕事優先になりません?」
「いや、そんなことは……む……」
 図星を刺されて、ファルコはわずかに眉を寄せる。

 窓際に立ったリンネが、ふっとラディンおまけの薄いカーテンをめくった。
「日差しがすごいです。紙を置いたら色あせますよ」
「……それは困る」
「でしょ? だから、まずしっかりしたカーテンを買いましょう。机より」
「……なるほど」
 納得してしまう自分に、ファルコは内心で苦笑した。

 家の中を一通り見て回ると、足りないものが次々と浮かんできた。
 椅子もなければ、食器もない。収納棚も欲しい。
 なんだったらクローゼットも無いし、無いない尽くしだった。
 寝室はあるが布団は無いし、台所には鍋ひとつ置かれていない。

「これ、本当に住めるのか……?」
 顎を撫でながら神妙な面持ちで呟く。
 最初から家具がついてくる宿とは違うのだ。

「だから言ったじゃないですか、師匠一人じゃ無理だって」
 リンネは腰に手を当てて胸を張る。
「私がいれば安心ですよ!」
「……何がどう安心なんだ」
「料理とか掃除とか、生活全般です。師匠、外食ばっかりでしょ? 栄養偏りますよ」
「ぐ……まあ、否定はできん」
 リンネはにこっと笑い、台所へと足を向けた。

 小さな窓から差し込む光に照らされた調理場。水場の位置は悪くない。
「うん、ここなら料理しやすいですね。鍋と包丁、あと調味料があれば十分。買い物は私がやります」
「……なんで当然のように言うんだ」

「だって、ここに住むんですから」

「……え?」
 さらりと言われて、ファルコは固まった。

「いや、待て。聞いてないぞ」
「言ってませんから」
「おい」
「でも師匠だって分かってるでしょ? 私が宿で過ごすの、もう無駄でしかないんです。朝から晩まで師匠の机の横に座ってるんですから」
「……確かにって、それとこれとは違うでしょ」
 星雲の盾以降、ずっと付いてきていて、今や頼れる相棒だが、なんか違う気がする。

「それに、各自にギルド協会と家を行ったり来たりするより、一緒にここから通った方が効率的です」
「効率的とは一体……」
「師匠、事務職のくせに効率を無視するんですか?」
 ファルコは言葉を失った。
 論理の網で絡め取られた気分だった。
「いやいや。なんかおかしいだろ」

 リンネは廊下を歩きながら、ぱちんと指を鳴らした。
「まずは掃除しましょう。住むとなったらまずは掃除です! ほら床を磨かないと粉塵が……」
「……清掃済みでは……?」
「いいですか。清掃済みと言っても細かなホコリは落ちてます。ほら! そこの床!」
「えぇ……?」
 言い返せず、ファルコはため息をついた。
 そういえば、この子、もともとスカウトだったななどと思い出される。


 二階に上がると、リンネは部屋のひとつを指さした。
「よし! ここ、私の部屋にしますね」
「おい」
「掃除と料理の担当は任せてください! 動線上、台所までの最短ルートです!」
「お、おう……そうか。そうか?」
 完全に既成事実が積み上げられていた。

 ベランダに出ると、秋の風が吹き抜けた。
 街並みと遠くの港が一望できる景色に、リンネは深呼吸をした。
「いいですねえ。洗濯物も干せるし、日当たりもいい。最高です」
「ああ、書類がよく飛びそうだ」
「布を干せって言ってるんです!」
 笑い合いながら、二人はベランダに立った。

 結局のところ、リンネが住み込むことは決定事項になりつつあった。

 ファルコは頭を抱えながらも、妙な安心感を覚えていた。
 机と紙の山のために手に入れた家が、思わぬ形でにぎやかになっていく。
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