転職に失敗したおっさん、異世界転生し事務職無双する

ほぼ全裸体のハシラジマ

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おじさん、異世界に住み着く

新居整備編~予算と家具と~

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 翌日。
 ファルコはリンネと並んで街路を歩いていた。
 高台の家を手に入れたはいいが、中身はほとんど空っぽ。家具を揃える必要がある。
 しかし歩きながら、ファルコは内心でため息をついた。
(……いや、これ、普通に考えて大丈夫か?)
 年の差のある男女が、一つ屋根の下で暮らす。
 事情を知らない誰かに見られたら、どう思われるだろう。


「師匠! 今日は鍋と布団と棚、全部見ましょうね!」
「……本棚と机は?」
「後回しです!」
 リンネが元気に宣言した瞬間、ファルコの不安は別の意味で吹き飛んだ。
(……まあ、いいか。気にしてるのは俺だけだな)

 市場を抜け、家具職人が軒を連ねる通りに入った。
 木材の香りが漂い、椅子や棚が軒先に並べられている。


 その時、不意に声が飛んできた。


「おお、ファルコ殿!」
 振り返ると、緑色の外套をまとった男、星雲の盾のシリウスが立っていた。
「シリウスさん!」
 リンネがぱっと顔を明るくする。

 シリウスは近寄るなり、ファルコの肩をばんと叩いた。
「聞いたぞ! 家を買ったそうじゃないか!」
「ええ、まあ……」
「いやあ、めでたい! おまけにリンネ嬢と同居だと? 立派になったなあ!」
「……は?」
 ファルコは一瞬、耳を疑った。


 だがシリウスは感慨深げに続ける。
「人見知りで口もきけなかったあの子が、今じゃ堂々と買い物まで! 感動だ!」
「……そっちの成長を褒めるんですか」
 ファルコがずっこける横で、リンネは照れ笑いを浮かべた。
「昔のことですってば」
「いやいや、よくぞここまで……胸が熱くなる」
 シリウスの感涙に、周囲の職人まで「いい話だな」と頷いていた。
 ファルコは心の中で「もう気にするだけ無駄だな」と悟った。

 その後も店を見て回り、椅子や机を見比べていると――


「やあ、二人とも」
 今度は背後からのんびりした声がした。
 振り返れば、値札が付いたままの箒を担いだハンナおばちゃんが立っている。
「……おばちゃん、なんでここに」
「掃除の道具を買いに来たついでさ。それより、同居だってね?」
 にやりと笑われ、ファルコは肩をすくめた。


「……効率がいいから、らしいです」
「そりゃそうだ! 効率的でいいじゃないか。何かあった時もすぐ相談できるし」
「ん、うん……?」
 正論に言い返せず、ファルコは観念した。

(……常識というか認識が違うんだな、みんな)
 横でリンネは満足げにうなずいていた。
 転生前なら、やれ事案だ、やれ犯罪だと言われる状況が、ここではさも当たり前のような認識だった。

「まあ、確かに。な」
 スマホだのメールだのは無い世界だ。
 相談連絡がすぐ取れるのは良いことなんだろう。


 その後も家具選びは続いた。


 ベッド売り場で、ファルコは一番安い簡素なものを指差した。
「これで十分だろう。どれも同じで――」
「師匠、寝具は毎日使うんです! 安物だと腰を壊しますよ」
「お、おう……」
 結局、リンネの選んだ少し高めのベッドに決まった。
 正直、ファルコには何の違いがあるのか分からない。

 棚を選ぶときも、ファルコは「書類を置く広いやつ」と即答した。
「師匠、食器や調味料も収納が要るんです」
「……そうか」
 追加でもうひとつ棚を買うことになった。

 さらにカーテン売り場では、リンネが真剣な顔で言った。
「これは必須です。貰い物の薄いカーテンでは役不足です! 紙も布も日差しで傷みますから」
「せめて明るい色にしてくれ……黒いのとか紺色とかはイヤだ」
「当然です! オレンジ色のキレイなのにしましょう!」
 ファルコはついに頭を抱えた。
 見積もった予算を軽くぶっちぎり、完全に予算オーバーだ。

 最終的に、ベッド二台、棚二つ、椅子と机、鍋や調理器具、そしてカーテンを購入。
 荷馬車いっぱいの家具が家へと運ばれていった。
 夕方、搬入を見届けながら、ファルコは深く息をついた。
「……これで、まだ家具が足りてないなんてな」
「師匠、生活の基盤があってこそ仕事ですよ。良いものにしないと長持ちもしませんし」
「う……なるほど」
 リンネの言葉に、反論はできなかった。

 同時に胸の奥にあった不安が消えていることに気づいた。


 年の差も、男女が同居することも。


 シリウスやハンナおばちゃんに笑って受け入れられ、リンネは自然体で横に立っている。


(……まあ、いいか。これも悪くない)
 新しい家に、夕陽が差し込む。
 家具が揃い、生活の形が少しずつ見えてきた。
 ファルコは小さく笑みを浮かべ、積まれた段ボール……いや木箱の山を見上げた。
「さて、片付けるか」
「はい! 今日の夕飯は私に任せてください!」
「……何が出てくるか不安だな」
「失礼ですね!」
 笑い声が家に広がり、新しい生活が始まろうとしていた。

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