転職に失敗したおっさん、異世界転生し事務職無双する

ほぼ全裸体のハシラジマ

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おじさん、異世界に転生する

揺れる馬車と揺れる夢

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 トーヴ村へと向かう道は、思ったよりのどかだった。
 乾いた風が吹き抜け、馬車の車輪が砂利を踏みしめていく音が心地よいリズムを刻む。

 

 青空には雲ひとつない。
 牧草地がどこまでも広がり、ときおり木立から小鳥の声が届く。

 

 馬車の中では、荷物と人とが揺れながら、ささやかに揺れていた。

 

 ファルコは窓の外を見ながら、細く息を吐いた。

 

 「……静かだな」

 

 誰に向けるでもなく漏らした言葉に、向かいに座っていたハンナおばちゃんが肩をすくめる。

 

 「静かな時に、気難しい顔してたって、問題が勝手に解決するわけじゃないよ」

 

 「……確かにな」

 

 ファルコは少しだけ苦笑した。

 

 気を張り詰めることに慣れすぎていたのかもしれない。
 けれど、こういう穏やかな時間があると、知らずに肩の力が抜ける。

 

 ハンナがポーチから何かを取り出す。
 それは手編みの小さな布袋だった。色糸で飾られた素朴な模様が、どこかあたたかい。

 

 「最近ね、こういうのをちまちま縫うのが、ささやかな楽しみでさ。お茶淹れて、縫い物して、昼寝して……そういう生活が、今の夢かな」

 

 「夢というか、もう半分隠居してる感じしません?」

 

 ファルコの軽口に、ハンナはケラケラと笑った。

 

 「ま、あんたたちのようにガチャガチャしてないってだけよ。昔は、それなりに腕っぷしでも働いてたけどね。今じゃ想像つかないでしょ?」

 

 「……へぇ」

 

 短い返事をしながらも、ファルコの視線が一瞬だけ鋭くなった。
 その『昔』というのが、ただの冗談ではないと、どこかで察していた。

 

 リンネも静かにその様子を見ていたが、特に口は挟まなかった。

 

---

 やがて、話題は自然とファルコに向けられる。

 

 「で、あんたは? どんな夢を持って、今ここにいるのさ」

 

 ハンナが問いかけると、ファルコは少し考えてから、空を見上げた。

 

 「昔はな……小さくてもいい、自分の家が欲しいと思ってた」

 

 その声は、どこか懐かしさを含んでいた。

 

 「家に帰って、灯りがあって、誰かと飯を食って……。そういう普通の暮らしが一番の幸せだって思ってたんだ」

 

 仲間たちは黙って耳を傾けていた。
 ファルコは言葉を選びながら、ゆっくりと続ける。

 

 「でも、今はちょっと違う。この世界には、まだまだ俺の知らないものがたくさんある。
 見たことない景色、聞いたこともない音、嗅いだことのないニオイも……まあ、良いものに限らないが」

 

 「トーヴ村の件とか?」

 

 ハンナが笑いながら突っ込んだ。

 

 「そういうのも含めて、だな」

 

 ファルコが苦笑を返すと、向かいに座るリンネが小さく頷いた。

 

 「……見たことないもの、ですか」

 

 「ん、どうした?」

 

 「私も、星雲の盾に入るまでは何も知らなかったです。街の外に出るのも、知らない人と関わるのも、全部が初めてで――」

 

 少し言葉を止め、視線を落とす。

 

 「……でも、師匠と出会ってからは、いろんなことを知って……いまは、私も『誰かを支えられる人』になりたい、と思っています」

 

 師匠――と自然に呼んだその声音には、いつもよりわずかに柔らかさがあった。

 彼女は目を合わせようとしなかったが、その表情はどこかあたたかく、ファルコの靴の先を見つめながら、ほんの少しだけ頬を赤らめていた。

 


 「オレも夢ある!」


 突然、マカが手を挙げて元気に言った。


 「おっきなお風呂に入りたい!」

 
 「理由は?」


 リンネが尋ねると、マカは真顔で答えた。


 「たぶん、気持ちいい!」

 
 「たぶんって何!?」

 
 間髪入れずに、ペロが続いた。


 「王様になりたいー!」

 
 「お前の夢、デカすぎない!?」


 「でも、理由あるよ! ごはん食べ放題だから!!」


 ファルコは両手で顔を覆いながら、苦笑するしかなかった。

 
 「もうちょっと中身のある理由を用意しろ……!」

 


 その横で、ジョジョが口を開くかに見えたが――

 ハンナがスッと手を上げて遮った。

 
 「今は夢の話だけにしときなさい」

 
 「はーい」

 
 ジョジョは何故かニッコニコの笑顔で頷き、胸を張って座り直した。

 
 (なんか嫌な予感するな……)

 
 ファルコは一瞬だけ思ったが、口には出さなかった。

 

---

 車内に笑い声が満ちたところで、ふとタクの存在が目に入る。

 

 彼は少しだけ距離を置いて、みんなの様子を見ていた。

 
 「おい、タク。お前は?」

 

 呼ばれて、一瞬びくっとする。
 タクは戸惑いながらも、言葉を選んで口を開いた。

 

 「……夢、ですか。うーん……俺、正直あんまり考えたことなかったです。でも、最近、『自分って、何ができるんだろうな』って思うようになってきて……」

 

 語尾ははっきりしなかったが、
 その目には、ほんの少しだけ、火が灯っていた。

 
 ファルコは頷いて言う。

 

 「それで十分さ。自分を知るところから、夢って始まるもんだ」

 

 タクは、小さく、けれど確かに笑った。

 

---

 馬車は、ゆるやかに揺れながら、クサくて沈んだ村へと進んでいく。

 けれどその道中にあったのは、臭気でも泥水でもない。
 仲間たちの、声と笑顔と、夢の話だった。

 

 そう――旅というのは、
 目的地に着くまでの間にも、大事なものを見つける時間なのだ。


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