転職に失敗したおっさん、異世界転生し事務職無双する

ほぼ全裸体のハシラジマ

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おじさん、異世界に転生する

事務屋、営繕作業をする

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 巨大な影は、洞窟の最奥――
 油に満ちた窪地で、まるで土山のようにうずくまっていた。

 デコトラも真っ青な体高、赤錆に覆われた装甲、ゴツゴツした鱗板。
 「竜」というより、どこかアンキロサウルスめいた古代の獣の威圧感。
 胴の途中からはみ出す、鉄骨のような肋骨。
 尻尾の付け根には亀裂が走り、黒い液体がゆっくりとぽたぽた垂れている。

 口は半開き――その奥から巨大なポンプが地面の割れ目に突き刺さり、
 ゴボゴボゴボ……と不穏な空回り音を鳴らし続けていた。

 

 「で、でけえ……!」

 

 タクが腰を抜かしかける。

 

 「お尻から……なんか漏れてるぅ……」

 

 マカは半泣き、ジョジョとペロも油溜まりの向こうでぶるぶる震えている。

 幸いにも漏れ出しているものをちょっと味見しようなどという発想に至らないだけマシだった。

 リンネは前に出ようとしたファルコの服の裾を思わずつかんだ。

 

 「師匠、あれ……本当に、生きてる地竜なんでしょうか……」
 「いや、薄暗いから何とも言えないが……。どう見てもアレは」
 

 ファルコは一歩、二歩とゆっくり進み出る。

 その目は恐怖ではなく、どこか冷静だった。
 かつて、あの狭い事務所の薄暗い機械室で、故障した複合機や換気扇を分解した時の感覚が、手先に蘇る。
 そして、機械室にあった用途不明な機械群。
 

 (あの首回り、関節……素材の擦れ。脚のジョイント、明らかにヒトが作った構造だな……)

 

 ファルコは鋭く観察しながら、心の中で呟く。
 異世界の地竜なるものが鉄板の装甲に覆われていて、関節部がジョイントっぽい造りなら話は変わってくるが。
 

 (それに、このゴボゴボ音……完全に空転したポンプだ。口の中も肉じゃなくて金属とチューブ。装甲の合わせ目から、錆びたボルトが見える)

 

 洞窟の湿気に混じって、金属と油と古い埃の臭い。
 そして、妙な既視感。

 

 「……あー、これ、完全にどっか壊れてるな」

 

 ぽつりとつぶやくと、リンネが目を丸くした。

 

 「壊れて……る?」

 

 「たぶん、昔の誰かが作った機械……で、経年劣化であちこちガタが来てる。たぶんだけど、あのポンプ……ずっと空回りして、燃料か何か吸い上げるつもりが空回ってるだけだ」

 

 ハンナおばちゃんが、ちょっと面白そうにファルコの横に並ぶ。

 

 「なるほど。あんた、そういうのも分かるのかい」

 

 「前の職場でな、こういうもの(機械)の調子直すのだけはしょっちゅうやってたんだよ……まさかこっちで役立つとは思わなかったけどな」

 

 ファルコは膝をつき、慎重に油溜まりを観察しながら言う。


 「これ、地竜のうんこ……?」


 ペロが純粋すぎる目でファルコに訊く。

 見つめる先には、地竜の尻の下に垂れ流された黒いナニか。

 「いや石油を吸った泥、か……? うんこじゃないな。見た目はアレだけど、引火したら誘爆するかもしれんぞ」

 
 「バ、バクハツぅ!?」


 「お、おれ、やっぱ無理かも……!」

 

 タクが青ざめると慌てて岩陰へ隠れた。

 
 ゴブリン三兄弟もビビりまくり、もう完全に戦力外。

 

 リンネだけが、じっとファルコの手元を見ていた。

 

 「師匠……どうするんですか?」

 

 「まずは、動くかどうか確かめる。……もし完全に止まってるなら、ポンプを物理的に外せば……最悪、流出だけは止まるかも」

 

 ハンナおばちゃんが腕を組みながらニヤリとする。

 

 「頼もしいねぇ。まさか事務屋にこんな仕事もできるとは思わなかったよ」

 

 「どっちかっていうと、昔から現場のメンテばっかりでな……パソコンもプリンタもトイレも直した経験あるぞ」

 そう言いながら、ファルコは恐る恐る竜の腹の下へ近づく。

 「パソ……なんだって?」
 おばちゃんが訝しげな表情をする。

 床下から響くポンプの共鳴音、油の気配。
 大きなボルトの緩みや、パイプのひび割れ――
 そのどれもが、過去のおっさん事務屋人生と、驚くほど地続きだった。

 「はあ、なんでも役に立つもんだな」

 「すごい……全部見て分かるんですね」

 

 リンネが小さく呟く。

 

 「本当だよ、さすが師匠って呼ばれるだけあるね……。ここまで来たら、あたしもサポートするよ」

  おばちゃんも膝をついて、油の臭いをものともせず隣に並ぶ。

 「事務屋っていったい何?!?」

 タクとゴブリン三匹は、もう完全に理解不能という顔で固まっている。

 

 「まさか、伝説の地竜対応が事務屋の機械メンテで始まるとはな……」

 

 ファルコは自嘲気味に笑い、油でべとついた手をズボンでぬぐう。

 
 ゴボッ……ゴボゴボゴボ……

 その時、ポンプがひときわ大きく唸り揺れ動く。

 全員、息を呑む。

 「問題ない。空回ってるだけだよ」

 ファルコは目の前の地竜を前に、ゆっくりと工具箱(ゴーレム残骸から引き抜いた部品)を広げていく。

 

 「――よし、みんな。絶対に火気厳禁だからな。黒いうんこじゃない……可燃物下手すりゃ村ごと吹っ飛ぶからな!」

 

 「りょ、了解……!」

 

 タクが全力でうなずき、ゴブリン三匹も何故か敬礼しながら壁際に下がっていった。

 

 伝説の地竜?を前に、まさかの事務屋の現場対応が始まろうとしていた――。
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