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覆水盆に返らず

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 ギルバート.レイク side


「うぅ、頭が痛い」
 目が覚めて起き上がろうとして、頭に激しい痛みが走る そして、肩や背中にも痛みがある

 なんだ、ここは何処だ?

「目が覚めたのね、良かった!」
 そう言って近づいてきた女は腹が大きく妊娠しているようだ

「誰だ?それにこの痛みはいったい・・」

「覚えていないのね、貴方馬から落ちて頭をぶつけてケガをしているのよ 体にも怪我があるわ医師に見てもらったけど意識は戻らないかもって言われてたのよ?よかったわ」

「俺は・・?だれだ?」

「えっ?あなた自分が誰か覚えていないの?」

「ああ、わからない・・」

「・・・貴方は私の恋人よ、このお腹の子の父親よ!」

「・・・それは、本当なのか?全く覚えていないんだ ・・・」



 それから記憶は戻らないまま、数日が経ち、

レイク子爵の子息を探している者が訪れて
良かったと言って 子爵家に連れて行かれた

 どうやら、俺はギルバート.レイクという名前らしい、しかも結婚式間近で婚約者を置いて失踪して 一年前から婚約者を裏切り平民の彼女クリスタを妊娠させていたらしい 覚えてはいないが・・・

 一度婚約者だと言う女には会ったが何も思い出さなかった
 どちらも覚えていない相手なら、看病をしてくれていた彼女の方が安心できた

 どうも、子爵家の三男だった俺は結婚と共に妻の実家の事業を手伝うことになっていたらしいがそれもなくなり ただの平民となって畑を耕し生活をしている
記憶の無い俺を気の毒に思った子爵に当面の金と畑や家屋は用意してもらった、だかもうこれ以上は何もしてやれないといわれた。

俺の婚約者だった女の男爵家と関係が無くなったことで、急に今まで取引していた相手が手を引いて相手にされなくなったといっていた、
事故による怪我での婚約解消ならそこまでの仕打ちは受けなかっただろうが、平民の女と浮気していて、相手は妊娠、それが原因の婚約破棄では心象が全然違う 
男爵家の商会の拠点も今回の事で隣国に移ってしまった、支店は残しているが販売の窓口があるだけで、商会から仕事を貰っていたり取引していた貴族家はかなりのダメージを受けている
国益に影響が出るとは思っていなかった国王は移転を簡単に許可してしまったらしい、このままでは子爵家は無くなるだろうと言っていた、


あの時クリスタのお腹の中にいた子ローラも7歳になった、金髪にヘーゼルの瞳の女の子だ
俺は金髪碧眼でクリスタは黒髪に碧眼だ、クリスタは母がヘーゼル色の瞳をしていたと言っていた 先祖帰りだとも、大きくなるにつれ全く俺とは似ていないし、クリスタにそっくりでもない、それは先祖帰りだと信じていたが、

ある日、畑の仕事が早く終わり家に帰ると
玄関のドアが開いたまま、中からクリスタと男の声が聞こえて来た、

「少しでいいんだ,用立ててくれよ」

「ふざけないで!誰があんたなんかに」

「あの男にバラしてもいいんだな?娘はオレの子だって事だよ!」

「何よ!元々はアンタが身重の私を捨てたのがいけないんじゃない あんたに私の今の生活を壊す権利なんてないよ!こっちが金を貰いたいぐらいだ!」

「なんだと!」

話しのやり取りを聞いて、ギルバートは納得がいった 自分に全然似ていない娘に、記憶の無い自分に話すクリスタの思い出話しが何ひとつとして、心に響かなかったこと、騙されたと今になって気がついた 助けてもらったと恩義を感じていたが、もう、怪我の手当分はとっくに返しただろう、ギルバートは後ろから男の首に腕を回し締め上げ気絶させた、

「ギルバート!あ、まさか今の話し・・」

気絶した男をそのままに 先にクリスタをロープで縛り、さるぐつわをして寝室に押し込んだ
気絶した男の顔をみると娘だと思っていたローラにそっくりな特徴的な鷲鼻をしていた

男も縛りあげると、子爵家に行き全てを話した

子爵家は名ばかりの貴族となっても、まだ爵位は手放してはいなかった

あの時クリスタが嘘をつかなければ、子爵家はこんなに落ちぶれる事はなく むしろ繁栄していたはずだった、国の衰退にも繋がったこの出来事を記憶喪失の男が女に騙されたと、それだけでは終わらない程の損害を貴族たちに与えた元凶だ、子爵は憲兵に引き渡すまえに王家に繋がりのある伯爵に相談の先ぶれをだした
これで相手にされなければ、子爵家の力だけで2人を始末して、子は孤児院に入れてしまおうと思っていた

結果 王家が動く事になり調査後 2人は公開処刑となった「貴族を騙し貶めた罪は即刻死刑 」と張り出され執行された。
子に罪は無しと、ローラは孤児院で保護された


一人になった家でギルバートは荷物を片付けていた、全て処分して土地と家を売りにだした

記憶を失った時に持っていた荷物 馬に取り付けていたカバンをみると、一枚の預かり書がはいっていた
落馬事故をした町の金属加工の店で、支払い済みで受け取り日が事故にあった日と同じだった
家と土地を現金に変え、必要分だけ持ち 残りは銀行に預けた

乗り合い馬車にのり預かり書の店に向かった

着いた頃には薄暗くなり店主が店を閉める準備をしていた
「失礼、7年前の預かり書なんだが、まだ品は残っているか教えてほしい」

店主に預かり書をみせると、
「あー、お客さんやっと来たね、待っていたよ ずーと、気になっていたんだよ」

店主は奥から大事そうに小さな赤い箱を持って来た
「お客さん、取りに来ないから、心配していたんだよ,はい、出来栄えは最高にいいよ」
手渡されたのは2つのロケットペンダントで
開くと寄り添う2人の男女の写真が綺麗に焼き付けてあり 蓋のうらには 永遠に と彫られていた

店主にお礼を言って フラフラと外に出る

暗くなり月明かりの中 人のいない広場のベンチに腰掛け 握っていたペンダントを開き
写真の女性を眺める 



「ギル」



どこかから呼ばれた様な気がして、

涙がとめどなく流れた



「マーリン・・・」



かすれた小さな声は風が吹き消した





           fin 

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