囚われの姫君と新米魔王

干潟

文字の大きさ
5 / 21
1:囚われの姫君と悪魔の姫君

005 御影石の湯屋3 【side:Judith】

しおりを挟む
 アンネリーゼを抱きしめた。
 彼女はわたしの腕の中でほんの少しだけ抵抗したが、わたしを振りほどけないことを悟るとすぐに大人しくなった。

 抱きしめればすっぽりと腕の中に収まる、小さな体。
 長いこと湯もかぶらずに裸でいたので、彼女の肌はひんやりとしていた。
 胸の奥が少し苦しくなる。
 わたしの体温でよければいくらでも分けてあげたい。温かくなるまで、ずっと抱きしめていたい。
 そんな気持ちになる。

「……っ」

 石鹸の泡でつるりと体がこすれ、アンネリーゼがかすかに息をついた。
 生理的反応を極力抑えた、小さな吐息。
 可愛い。
 我慢しているのは、くすぐったさ? それとも──

 恨みがましい目が、わたしを見上げた。
 わたしの背筋を、ぞくぞくするむず痒さが上っていく。

 わたしは、一目見たときから、アンネリーゼの目が好きだった。
 月の光の下で、松明の炎の下で、変幻自在に色を変える、万華鏡のような榛色ヘイゼルの瞳。
 そして、どれだけ色が変わっても、その瞳に変わらず宿り続けるいくつかの感情。
 ──侮蔑。
 ──倦怠。
 ──諦念。
 わたしは彼女の瞳に灯った冷たく燃える黒い炎に、どうしょうもなく惹かれてしまった。

 今、彼女の瞳の中の憎悪という色が、わたしを見つめている。

 胸が高鳴った。
 父親を殺されたときよりも強い憎悪を、胸を触れられて声をあげてしまった八つ当たり程度のことによって生み出してしまう彼女の心が。
 そんな、ねじくれたアンネリーゼの心が、たまらなく愛しい。

 わたしは石鹸を泡立て、彼女の背中をこすっていく。
 敏感な箇所に触れるたび、アンネリーゼは時折ぴくりぴくりと筋肉を緊張させた。
 彼女は声を殺し、顔を背けて表情を悟られまいとしている。
 しかし、彼女の体はなんとも正直に、わたしに彼女がどうなっているのかを教えてくれる。

「くすぐったい?」
「……別に」
「我慢しなくていいんだよ。ほら……」
「……ッ! ……べ、別に、我慢なんて!」

 アンネリーゼは強情だ。
 また一つ彼女のことを知って、わたしは彼女が更に好きになってしまう。

 まさか、わたしがこんなにも他者に心動かされるなんて、思いもしなかった。

 首筋と、肩甲骨の周りと、背骨の辺り、脇腹……アンネリーゼの弱点は多い。
 わたしは彼女の弱点を一つ一つ確かめるように、執拗にくすぐっていく。
 アンネリーゼの小さな体が緊張と弛緩を繰り返す。その様がたまらなく可愛い。

 彼女の脚が震えているのに気づく。
 息を殺して、それでも押さえきれない、苦しそうな吐息。
 可哀想になって、そろそろ解放してあげようかと思っていたところだった。

 アンネリーゼがわたしの首に手を回す。

 心臓がどきりと跳ねた。

 アンネリーゼの細い体が、あまりにも無防備にわたしに寄りかかる。
 アンネリーゼの手が、震えながらもわたしを抱きしめる。
 アンネリーゼの目が、憎々しげにわたしを見つめる。

 わたしはアンネリーゼを支えながら、冷たい浴場の床に腰を下ろした。
 アンネリーゼをわたしの腰の上に横抱きにした形になる。

 わたしに見つめられて、アンネリーゼは恥ずかしそうに身をよじる。

 彼女の肌はほんのりと薄紅色に染まっていた。
 それは羞恥のためか、それともさっきまでの行為のためか。
 どちらにしても心が弾んだ。

 わたしは再び石鹸を泡立てて、彼女の体に塗りこんでいく。
 細い小さな肩から、腋下へ。
 くすぐったさに耐えきれず、アンネリーゼは暴れる。
 心地よい抵抗。
 手応えを楽しみながら、わたしはアンネリーゼを蹂躙していく。

「あっ!」

 胸を撫で回していると、彼女は鋭く声をあげた。
 指の間で、小さな突起がほのかに存在を主張している。
 そこを指の腹でこね回すと、腕の中でアンネリーゼが跳ねた。

「や、やめ……」
「綺麗好きなんでしょ? すみずみまで綺麗にしなきゃ」
「そこは、もういいから……」
「本当に?」
「……ッ!!!」

 片方が硬くなってきたのを感じ、もう片方も同じようにするために弄る。
 アンネリーゼの細腕がわたしを叩く。
 彼女は泣きそうな顔になっていた。

 わたしは生唾を呑んだ。

 アンネリーゼを再び抱きしめる。
 自分の突起で彼女の突起を探り出すように、体をこすりつける。
 こらえきれずに、アンネリーゼは鳴いた。

 わたしもまた、彼女と同じように、自分の胸の小さな器官が、彼女を感じるために変わっていくのを感じる。
 わたしが彼女を弾き、彼女がわたしを弾くと、同様に甘い声がもれた。
 自分の体が熱くなって、開いていくのを感じる。
 わたしがわたしでなくなっていくことに、小さな恐怖と大きな興奮を感じた。

 彼女の背中の敏感な部分を探りながら、わたしは彼女を求めた。
 アンネリーゼはもう声を堪えるのを忘れていて、わたしは我慢しようとすらしなかった。
 二人の声が混ざりあって、狭い室内に響く。
 アンネリーゼの甘い喘ぎがわたしの耳を犯し、今まで感じたことのない恍惚を生み出す。

「いや! も、もうやめて……だめ……!」

 アンネリーゼがわたしから逃れようと、力なくもがく。
 わたしは彼女を壊れないように、しかし力の限りに抱きしめた。

 堪えきれなくなっていた。
 わたしは顔を背けたアンネリーゼの、真っ赤に火照った首筋を吸う。

 わたしの上で。
 わたしから逃れようとするように、わたしに体を押し付けようとするように。
 二律背反の動きを孕んで、アンネリーゼは震え、背を折れそうなほどに仰け反らせた。

 蜜のような彼女の声に、わたしの意識が蕩けていく。

 彼女の長い叫びが終わる。
 アンネリーゼはぐったりとした様子でわたしにもたれかかった。
 わたしは腕の力を緩め、優しく抱いて背中を撫でてやる。
 安心したような吐息が彼女の口から漏れた。

 早鐘のように心臓が脈打っていたことに、今更ながらに気づく。
 アンネリーゼも体温が高くなっていて、手を触れた部分から早い脈拍を感じる。
 荒い呼吸。
 まるで全力で走り回った後のような疲労。そして走った後とは違う心地よい倦怠感。

 わたしの太ももと、彼女の太ももの間に、何だかぬめぬめとした、石鹸水とは違う液体を感じた。

 時間をかけてようやく呼吸を整えて、アンネリーゼは呟いた。

「ユーディット……ひどいわ……」

 彼女はわたしから顔を反らす。
 行為の最中と同じくらいに、彼女の首筋は赤く染まっていた。

 胸が締め付けられるような甘い痛み。

 わたしは堪えきれなくなって、彼女の首筋に──
 たった一箇所、虫に刺されたかのように赤くなったその部分に、わたしはもう一度唇を近づけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...